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7.運命の設計図
弾丸より速く
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1942年(昭和17年)2月20日、午後7時30分。
東京・日比谷公会堂――その大講堂に、大勢の聴衆が集まっていた。
講演の題は――
『戦わずして、勝つという道はあるか』
主催は和平戦略本部。
14歳の少年・蒼月レイが国家機関の名を冠し、初めて公に国民へ語る場だった。
だが、その場には、もうひとつの“予定”があった。
⸻
午後6時15分。会場の地下倉庫。
特高警察直属の特殊工作員2名が、照明制御盤の裏に潜伏していた。
任務はひとつ。講演中、2階席からの狙撃。
「騒ぎを起こすな。奴が“語っている最中”に沈黙させる。思想は言葉の中にある。だから、言い切られる前に撃て」
そう命じたのは、特高幹部・水野元次郎だった。
⸻
午後7時28分。開演2分前。
控室のレイに、1通の手紙が届けられた。
差出人は不明。ただ、宛名の筆跡だけは、彼がすぐに思い出せた。
――岸本信介。
「……“背中に気をつけろ”か」
その言葉の意味を問う間もなく、開演を告げるブザーが鳴った。
⸻
7時30分。演壇に立った蒼月レイは、わずかに震える声で語り出した。
「皆さん、こんばんは。蒼月レイです」
第一声と同時に、照明がやや強めに当てられた。
「本日、私はこの場で、ひとつの問いを立てます。
“敵を殺さずして勝つ”という道は、果たして存在するのか。
――いや、存在させなければならない、と私は信じています」
拍手。だが、静かに周囲をうかがう者も多かった。
「……今の日本は、刀を抜きました。
だがこの刀、どこに向かっているのか、誰も明確に答えられていません。
目的を持たぬままに抜かれた刀ほど、恐ろしいものはない」
そのとき――
パァン。
乾いた破裂音が、会場の静寂を切り裂いた。
誰かが悲鳴を上げる。レイの身体が一瞬、前に倒れかけた――
だが、弾は彼に届いていなかった。
その代わりに、彼の前に立ちはだかったひとりの男が、血を流していた。
「岸本さん……?」
倒れていたのは、内閣調査局参事官・岸本信介だった。
「おまえだけは……生きろ……」
苦しげにそう言った彼のまなざしに、レイは涙をにじませた。
⸻
岸本の脳裏には、ある冬の日の記憶がよぎった。
初めて蒼月レイの演説を聴いた、あの日。
昭和16年、霞が関の地下会議室。
レイが「武器ではなく言葉で勝つ」と説いた記録映像を、ただひとり席を立ち拍手した男がいた。
「この少年が、日本を変える」
その言葉を笑った上司に背を向け、岸本は動き始めた。
近衛首相の元に出入りし、和平戦略本部の創設を提案し、レイの青写真を現実にするべく奔走した。
官僚としての命を削りながら――それでも彼は、未来に懸けた。
そして今日、自らの身体を盾に、最後の任務を果たした。
⸻
岸本の血が、赤く演壇に滲んでいく。
特高の狙撃手たちはすぐに拘束され、会場は混乱の中で一時騒然となったが、レイは立ち上がった。
彼はマイクを握り直し、言った。
「……言わせてください。
命を懸けて、僕に“語る権利”を託した人がいるのです」
震えながら、それでも彼の声は力強かった。
「我々は今、岐路に立っています。
このまま戦い続けるか。
あるいは、言葉で未来を築くか――」
⸻
その夜、岸本信介は息を引き取った。
翌朝、全国紙の一面には彼の写真が載った。
見出しはこう記されていた。
「未来に命を託した官僚、蒼月レイを守って殉職」
そして蒼月レイは、再び問いを投げかけた。
血で染まった演壇の上から。
「僕は、あなたの命を無駄にはしません。
この国を、“世界で最も平和を愛する帝国”に――必ず」
東京・日比谷公会堂――その大講堂に、大勢の聴衆が集まっていた。
講演の題は――
『戦わずして、勝つという道はあるか』
主催は和平戦略本部。
14歳の少年・蒼月レイが国家機関の名を冠し、初めて公に国民へ語る場だった。
だが、その場には、もうひとつの“予定”があった。
⸻
午後6時15分。会場の地下倉庫。
特高警察直属の特殊工作員2名が、照明制御盤の裏に潜伏していた。
任務はひとつ。講演中、2階席からの狙撃。
「騒ぎを起こすな。奴が“語っている最中”に沈黙させる。思想は言葉の中にある。だから、言い切られる前に撃て」
そう命じたのは、特高幹部・水野元次郎だった。
⸻
午後7時28分。開演2分前。
控室のレイに、1通の手紙が届けられた。
差出人は不明。ただ、宛名の筆跡だけは、彼がすぐに思い出せた。
――岸本信介。
「……“背中に気をつけろ”か」
その言葉の意味を問う間もなく、開演を告げるブザーが鳴った。
⸻
7時30分。演壇に立った蒼月レイは、わずかに震える声で語り出した。
「皆さん、こんばんは。蒼月レイです」
第一声と同時に、照明がやや強めに当てられた。
「本日、私はこの場で、ひとつの問いを立てます。
“敵を殺さずして勝つ”という道は、果たして存在するのか。
――いや、存在させなければならない、と私は信じています」
拍手。だが、静かに周囲をうかがう者も多かった。
「……今の日本は、刀を抜きました。
だがこの刀、どこに向かっているのか、誰も明確に答えられていません。
目的を持たぬままに抜かれた刀ほど、恐ろしいものはない」
そのとき――
パァン。
乾いた破裂音が、会場の静寂を切り裂いた。
誰かが悲鳴を上げる。レイの身体が一瞬、前に倒れかけた――
だが、弾は彼に届いていなかった。
その代わりに、彼の前に立ちはだかったひとりの男が、血を流していた。
「岸本さん……?」
倒れていたのは、内閣調査局参事官・岸本信介だった。
「おまえだけは……生きろ……」
苦しげにそう言った彼のまなざしに、レイは涙をにじませた。
⸻
岸本の脳裏には、ある冬の日の記憶がよぎった。
初めて蒼月レイの演説を聴いた、あの日。
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レイが「武器ではなく言葉で勝つ」と説いた記録映像を、ただひとり席を立ち拍手した男がいた。
「この少年が、日本を変える」
その言葉を笑った上司に背を向け、岸本は動き始めた。
近衛首相の元に出入りし、和平戦略本部の創設を提案し、レイの青写真を現実にするべく奔走した。
官僚としての命を削りながら――それでも彼は、未来に懸けた。
そして今日、自らの身体を盾に、最後の任務を果たした。
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「……言わせてください。
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震えながら、それでも彼の声は力強かった。
「我々は今、岐路に立っています。
このまま戦い続けるか。
あるいは、言葉で未来を築くか――」
⸻
その夜、岸本信介は息を引き取った。
翌朝、全国紙の一面には彼の写真が載った。
見出しはこう記されていた。
「未来に命を託した官僚、蒼月レイを守って殉職」
そして蒼月レイは、再び問いを投げかけた。
血で染まった演壇の上から。
「僕は、あなたの命を無駄にはしません。
この国を、“世界で最も平和を愛する帝国”に――必ず」
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