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8.東方の約束
希望の聖堂
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1942年(昭和17年)5月12日
新京・興安通り──
朝の新京は静かだった。昨日の大演説の熱狂は、まるで春の嵐のように駆け抜け、街の隅々にまで余韻を残している。
蒼月レイは、国民政府代表団が宿泊する迎賓館の一室で、重々しい空気に包まれていた。満州国側から出された「共栄憲章・奉天草案」に対し、中国側がついに返答を出す――その場に、彼は自ら臨むことを決めた。
「中華民国は、協議制に参加する意思がある。ただし――」
中華民国・外交部の副長官・魏道明が、慎重な口調で口を開く。
「満州国を“国家”としては認めない。我が国は今も、それを“傀儡”とみなしている」
会場がざわつく。軍人たちの間に緊張が走った。
だが、レイは静かに微笑んだ。
「いいんです。国境線を認め合わなくても、人の命を守る仕組みさえ作れれば、国家という概念など後でどうにでもなります」
一瞬、魏の眉がぴくりと動いた。
「我々の優先順位は、“顔を立てること”ではなく、“子どもを飢えさせないこと”です」
⸻
その日の午後、新京・大学講堂にて。
学生・記者・市民が詰めかけた中、レイは再び登壇した。
「皆さん、僕は今日、“希望の聖堂”を建てに来ました」
彼はそう口火を切ると、一枚の設計図を掲げた。それは新京の都市再開発プランだった。
「病院と学校を新しく建てます。食堂も。誰でも、無料で食べられる場所をつくる。
ただし、条件があります。“共栄憲章”への賛同。それだけです」
聴衆がざわめく中、彼は続けた。
「国家の再建は、思想からではありません。“空腹を満たすこと”から始まるんです」
講堂の外で、子どもたちが手を振っていた。
レイはゆっくりと、その方向に頭を下げた。
「あなたたちの未来のために、僕は嘘をつきません。僕が敵にするのは、“戦争という構造”そのものです」
⸻
その夜、新京では奇妙な光景が見られた。
街中の壁に、誰かが貼り出した紙。
そこには、手書きでこう書かれていた。
『この街には、嘘をつかない少年がいる。
彼の名は、蒼月レイ』
そしてその下には、こう続いていた。
『彼が創る未来に、賭けてみようと思う』
それは、満州国でも、中国でも、日本でもない。
“新しい国家”の誕生の予感だった。
新京・興安通り──
朝の新京は静かだった。昨日の大演説の熱狂は、まるで春の嵐のように駆け抜け、街の隅々にまで余韻を残している。
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「中華民国は、協議制に参加する意思がある。ただし――」
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⸻
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“新しい国家”の誕生の予感だった。
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