日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ

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22.帝国の目覚め

帝国の実感

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三月上旬、東京。

春の兆しが街に満ち、街路樹には淡い緑の芽がのぞいていた。皇居前の広場では、子どもたちが走り回り、年配の夫婦が連れ立って散歩する姿も見られた。新聞の経済面には、「農村部の電化率、九割突破」「全世帯の八割が冷暖房完備」といった見出しが踊っている。

電車は定時に走り、舗装された道路には整備されたバスが行き交う。農村部でも、かつては高級品だった白米や味噌が安価で手に入るようになり、夜になっても灯りが絶えない村が増えていた。

帝国全体――本土はもちろん、満州・台湾・朝鮮半島に至るまでの地域に、経済的な恩恵が波及していた。

その中心にいるのが、十五歳となったばかりの少年、蒼月レイである。



「……この数字を見て、驚かない国はないでしょうね」

桜がそう言って、レイの机の上にある資料を覗き込んだ。そこには、帝国内全域のGDP、雇用率、インフラ進捗率が細かく記されていた。

「驚くだけならいいけど、警戒する国も出てくる」

レイは穏やかな表情で応じたが、その瞳には冷静な鋭さが宿っていた。

彼の執務室には一時的な静けさが漂っていた。重臣たちが退室したあと、束の間の休息の時間だった。桜はその合間を縫って、彼を訪ねていた。

「でも、実際に暮らしている人たちは……本当に豊かになってるのを感じてると思う。今日も地下鉄で通ってきたけど、子どもたちが安心して乗ってた。お年寄りが笑ってた。あれって、昔は当たり前じゃなかったよね?」

「……ああ。僕たちが変えたんだ」

レイはそう呟くと、書類を閉じ、窓の外へ視線を向けた。夕暮れの光が街を赤く染めていた。どこか懐かしく、そして、未来の気配を孕んだ景色だった。

「桜。君がいてくれて、本当に良かった」

「え……?」

「君は、僕にとって……誰よりも、対等に話してくれる存在だ。政治家も軍人も、僕に意見を言うときは、どうしても遠慮や忖度が入る。でも君は違う。僕の理想にも、疑問があればちゃんと聞いてくる」

桜は、やや照れたように笑った。

「だって、レイが完璧すぎるから。……私は、少しでも支えになりたいの。あなたの“人間らしさ”を保つために」

「……人間らしさ、か」

レイは小さく笑った。

「僕は、自分がどこかで“道具”になってしまいそうで、怖くなる時があるんだ。使命に飲み込まれて、心を置いていくんじゃないかって。でも、君と話していると、それを取り戻せる気がする」

桜はその手を、そっとレイの手に重ねた。

「じゃあ、忘れそうになったら……何度でも私が言う。あなたは人間よ。世界を変えた、美しい、優しい“ひとりの男の子”なんだって」

レイの表情が、ふっと和らぐ。

「ありがとう。……僕が守りたい未来に、君がいてくれて嬉しい」

静かな時間が流れる。執務室の窓の外では、街に灯がともり始めていた。



その夜、レイはひとつの通達書を署名した。

それは――東京を中心とした経済圏の正式な名称を「帝都圏」とし、そこに属する満州・朝鮮半島南部・台湾の主要都市群を、“経済特区”として段階的に統合するというものだった。

すなわち、レイがかねてから構想していた“帝国経済連携圏”が、名実ともに動き出す瞬間である。

「……これで、次の二十年が変わる」

レイは桜にそう告げた。

「君と、この国と、この世界を、もっと温かくしていくために。僕は止まらない。……でも、ひとつだけ。もし、どこかで僕が自分を見失ったら――そのときは、君が止めてくれ」

桜は一度、真剣なまなざしで彼を見つめ――そして頷いた。

「約束する。私は、あなたの“最後の歯止め”になる。だから、安心して進んで」

レイは、安心したように目を閉じた。

その夜、東京の空は雲ひとつなく澄み渡っていた。
“帝国の実感”は、確かに人々の生活と心の中に、静かに根を下ろし始めていた。
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