日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ

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23.世界を結ぶ声

戦火の果てに

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1943年3月初旬、ヨーロッパ大陸の空は、まだ黒煙と炎に包まれていた。

ドイツ第三帝国は、西からアメリカ・イギリス連合軍に、東からソビエトの赤軍に、鋭く挟撃されていた。かつて“千年帝国”を謳ったベルリンは、その千年のわずか十年足らずで崩壊の足音を聴いていた。

だが、まだ陥落には至っていない。

枢軸の最後の砦は、なおも抗戦を続けていた。
無残な空襲の傷跡と、焦土に化した街並。
それでも彼らは戦う――名誉のために、狂信のために、あるいは生き延びるために。



東京。首相官邸に設けられた特別執務室で、蒼月レイは黙然と世界地図を見つめていた。

「……愚かだ」

彼は吐き捨てるように呟いた。

「無垢な民を盾にし、街を要塞に変え、終わると分かっている戦争を続ける……。それが“戦い”と呼べるのか」

報道官の白石は静かに頷いた。

「ドイツは、完全な包囲状態です。イタリアが降伏した今、陸続きの仲間もない。あと半年と持たぬでしょう」

「ソ連も同じだよ」

レイは声を落とす。

「彼らは勝利に酔い、秩序を破壊しながら進軍している。
勝ったその日から、新たな混乱が始まるだろう。
……“暴力の勝者”に未来を委ねるわけにはいかない」

彼の言葉には、怒りではなく、冷たい決意が滲んでいた。



「では、我々は――?」

そう問うたのは、内閣書記官の加納だった。

レイは地図から視線を外し、机に広げた新たな草案に目を落とす。

「“新秩序”を描くんだ。武力で築かれた秩序ではなく、“信頼”と“繁栄”を中核にした枠組みを。
ヨーロッパが焼け野原になるその日までに、我々は“理想”を形にしておく」



日本は、戦場から最も遠い場所にいた。

三国同盟を離脱し、国内の軍政を一掃し、科学と経済を礎に再生した国家。
いまやアジアの諸国は、こぞって日本と手を組もうとしている。

「我々は世界を導ける立場にある。そして、その責任も負わねばならない」

レイは静かに言った。

「帝国とは、武で民を縛るものではない。“先に目覚め、未来を見せる者”こそが、真の帝国だ」

その瞳には、炎も血もなかった。ただ、透き通るような冷静と、遠くを見据えた光があった。



その夜。首相官邸のバルコニーで、レイは一人、夜風に吹かれていた。

後ろからそっと近づいた足音。
振り向くと、桜がいた。白いコートの裾が風に揺れている。

「……どうかした?」

彼女は静かに言った。

「レイ、今日のあなた……少し、疲れて見えた」

「……少しね。でも、大丈夫。やっと“未来”に進める。そう思ったら、肩の力が抜けた」

桜は微笑んだ。

「じゃあ、ちゃんと眠って」

レイも静かに笑い返す。

「……君がそう言うなら、従うよ。だって、僕は今――この国のためだけに、生きてるわけじゃないから」



そしてその夜、レイはついに草案のタイトルを記す。

「国際調和秩序構想 ― 蒼月案 第一稿」

物語は、戦火の中にあってなお、確かに“始まり”へと歩みを進めていた。
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