日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ

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25.新世界の鼓動

二つの視線

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1943年4月下旬、東京。

特命全権代表・蒼月レイは、政府高官・経済官僚たちを引き連れて、帝国議事堂南棟の一室にいた。対面するのは、アメリカからの正式な経済代表団。ホワイトハウス経済諮問委員会の一員でもあるロバート・ヘンダーソンを筆頭に、通商、財務、安全保障の担当者が揃っている。

「まず第一に、日本政府が提示した“E.R.S.P.”構想についてですが――」

代表団のひとりが口火を切り、レイは黙って耳を傾けていた。相手は慎重に言葉を選びつつも、こう続けた。

「……この規模、この展望、その意志。すべてが驚異的です。しかし我が国としては、これが“戦後の主導権”を日本が握るという意図を孕むものだと解釈せざるを得ません」

レイは一瞬だけ微笑んだ。

「解釈は自由です。ですが、これは“支配”ではなく“再建”の話です。我々は過去を裁くためにこれを提示したのではなく、未来を築くために必要だと考えている」

ホイットニーが身を乗り出した。

「ならば、なぜ日本がそれを主導する?アメリカが大戦中に投入してきた資源、犠牲、国際影響力を無視していいというのか?」

「もちろん、それは否定しません。ただ、私たちは“過去の力”ではなく、“未来の信頼”を基盤にした秩序を望んでいるのです。軍靴の音ではなく、経済と理念で世界をつなぐ秩序を」

数秒の沈黙が落ちた。

やがて、ヘンダーソンが口を開く。

「日本は戦争から手を引いたことで、米国の多くの戦力を欧州に振り向けることを可能にしました。それは事実です。しかし、それだけで“新秩序の設計者”たる資格が得られるとは思いません」

「ならば、何がその資格を与えるのです?」

レイの声は静かだったが、部屋の温度が下がったような感覚が走った。

「――“勝者の論理”ではなく、“理想を具体化する力”。それがある国が、未来を築く資格を持つのです」

アメリカ側は答えなかった。だが、その表情には複雑な思いが浮かんでいた。



協議が終わったのは、午後9時を回った頃だった。

レイは議事堂から出て、官邸のバルコニーに立っていた。夜風が心地よく、東京の夜景が霞んで見える。

その隣に現れたのは、結城桜。

「疲れてるね」

「わかる?」

「うん。ああいう場面で“優しい言葉”を交わす余裕があった時は、たぶんもっと緊張してる」

レイは苦笑した。

「今日の協議で分かったことがある。日米は“友好国”ではあるけれど、それぞれに“理想の世界像”がある。それが似ているようで、まったく違う」

「レイの理想は?」

「“支配しない秩序”。経済も政治も、どこかが突出して力を持つのではなく、信頼を通じて回る構造」

桜はしばらく黙っていたが、ぽつりと呟いた。

「……信頼、ね」

「うん?」

「“信頼される国”って、何なんだろう」

その言葉に、レイは思わず立ち止まった。

「私は、信頼されるって、誰かが“信じたい”って思ってくれることだと思う。でも国って、“誰か”じゃない。いろんな思惑と不信と、利害のかたまり。……信頼って、そんな国同士で成立するのかな」

「難しい問題だね」

レイは夜空を見上げた。そこには、雲間から覗く月があった。

「でも、僕は思う。“信頼”って、最初は“試されるもの”だと。日本がどれだけ透明に、誠実に、責任を果たせるか。それが積み重なって、初めて“信頼”になる」

桜は頷いた。

「じゃあ、私たちは“試されてる”んだね。未来から」

レイは笑った。

「試されてるなら、応えればいい。僕は、応えるつもりだよ」



その夜、レイはひとり机に向かった。

書類の束に囲まれながら、彼の手元に一枚の白紙があった。

そこに、レイはペンを取り、一行だけ書き記した。

『信頼される国家の条件 ――透明性、責任、未来への一貫性』

これが、彼の新たな戦いの始まりだった。

日米は、表では笑顔を交わしながら――
水面下では、誰が“未来を導く旗”を掲げるのかを静かに競っていた。
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