異世界の物流は俺に任せろ

北きつね

文字の大きさ
194 / 293
第九章 神殿の価値

第一話 ラナからの依頼

しおりを挟む

 神殿だけは落ち着きを取り戻しつつある。王国や帝国は、神殿を巻き込んだ騒動の後始末が終わっていない。
 特に王国は子爵家の暴走から始まる騒動が予想以上に大きな火になって王国中を巻き込んでいる。

 最大派閥の貴族派の重鎮である侯爵家の当主が病死した。同じく後ろ盾になっている、公爵家の当主が同じ日に事故死した。これらの葬儀に列席するために、貴族家の当主は王都に集まっている。

 侯爵家は、当主の病死の後で王家から指名された者が継いだ。もともと居た息子や娘たちは、事故死したり病死したり、連続で”不審”な死を遂げた。生き残った者たちも教会に預けられた。

 市井には、病死や事故死と伝えられていたが、貴族の間では王家が裏で糸を引いているのが、公然の秘密になっている。しかし、方法が不明なために表立って糾弾できる者は居なかった。
 公爵家も王家の振る舞いを糾弾出来るだけの体力が残されていなかった。求心力の低下は確実に、貴族派閥に地殻変動を起こしていた。貴族派閥を離れて、レッチュ辺境伯にすり寄る貴族家が増えてきた。

 そもそもの体力がなくなってしまったのは、侯爵や公爵の財政を支えていた、塩の独占が崩れたのだ。
 それだけではなく、質がよく値段が同程度の塩が出回ったのだ。神殿で採掘される塩が基になっているらしいという噂は流れたが、辺境伯領から出てくる以上の情報は一部の者にだけ伝えられて、探ろうとした貴族領には塩が回らなくなってしまうのだ。

 貴族派に属する者たちが、神殿の権利を奪い取ろうと動いたが、すでに独立した国と同等の扱いになっているために何も出来なかった。それだけではなく、子爵家と二つの男爵家の軍をほぼ無傷で撃破して、2万の帝国軍を打ち破った実績から、王国内では神殿に歯向かおうという声は出てこなくなった。
 また、ユーラットが王家直轄領から神殿の領土になり、神殿の村が王国にも承認された。これによって、利権を狙っていた貴族たちが手を出せなくなった。

 同じ時期に、帝国も荒れていた。
 王国が作った関所の奪還をめぐる話し合いが行われていた。それだけではなく、楔の村ウェッジヴァイクが帝国領と言いながら実質は王国の領土ではないかと言われている。関所に攻めて捕らえられた貴族の子息たちの身代金の支払先が、楔の村ウェッジヴァイクだったからだ。

 ドッペル男爵は、帝国や皇国に送った賄賂質の劣る塩を使って、周りの貴族たちを黙らせた。使える権力をフルに使ったのだ。
 それだけではなく、塩を定期的に入手するために、王国のローンロットと手を結ぶ許可まで得たのだ。

 ヤスは、アフネスに相談して、魔通信機を帝国でも流行らせた。まずは、貴族家への貸し出しを行った。王家が選んで貸し出す契約にしたのだ。契約は、楔の村ウェッジヴァイクが担当する。村を作った後で見つかった、”迷宮”の最下層の宝箱に入っていたという設定だ。
 王国の魔通信機と違って、もっとシンプルな物だ。交換機マルスに繋いでから、繋げる相手を選ぶ仕組みになっている。王国と方法が異なる為に旧来の方式の魔通信機とは違う設定にした。そして、もっともらしい話として、魔通信機を開発した”エルフリーゼの父親”は帝国の迷宮で見つかった魔通信機を真似て作ったと嘘の話を流布したのだ。アフネスが言い出した話なのが、リーゼの父親が人非人だという疑いを晴らす伏線に使おうと考えているようだ。

 帝国にもヤスマルスの情報収集網が構築され始めた。

 酒精が苦手なドワーフも楔の村ウェッジヴァイクの工房に入っている。素材は、神殿には劣るが常に冒険者から頼られる環境を気に入っている。
 楔の村ウェッジヴァイクは、犯罪者でも受け入れた。ドッペル村長の意向だ。迷宮があるために、人が消えても迷宮でのたれ死んだと思われるのだ。貴族の意を受けた者たちも迷宮に潜った。目的は、最下層にある”魔通信機”が目的だが、最下層までの道のりが、思った以上に大変なのだ。最初に、攻略した者だけで、それから攻略者が出ていない。貴族に雇われた者たちは、適度な所で探索を諦める事が無いために、全滅する確率が高い。犯罪者たちは、楔の村ウェッジヴァイクを裏から仕切ろうとするが、ことごとく潰されている。神殿の支配領域では隠し通すのは難しいのだ。

 周りが忙しく動いている状況だったが、ヤスが必要になるほどの荷物を運ぶ依頼がなく、カート場ですべてのコースレコードを塗り替える日々を過ごしていた。
 定期的な会議には出席しているが、マルスとセバスが対応するために、ヤスがなにかを行う必要はなくなっている。

 カート場でリーゼを、ワンラップダウンした所で、マルスから連絡が入った。

”マスター。個体名ラナが、マスターとの面会を希望しています”

「ラナ?」

”はい。個体名セバス・セバスチャンに依頼してきました”

「そうか、工房の執務室に来るように伝えてくれ、セバスに案内させろ」

”かしこまりました”

 ヤスは、ラナに頼みたい内容があると言われていたのを思い出した。

 ラナはすぐに会えるとは思っていなかった。そのために、宿が落ち着く2時間後に執務室に向かう手はずとなった。

 ヤスも、2時間あればシャワーを浴びる時間が出来る。
 カート場から自室に移動して、風呂に入った。汗を流すだけのつもりだったが、しっかりと風呂を堪能した。

 30分前に風呂から出て、支度をして執務室に向かった。
 待っていたセバスがラナを迎えに行った。

 10分後に、セバスがラナを連れて戻ってきた。

「ヤス殿。お時間を頂いて申し訳ない」

「いいよ。それで?」

 セバスが、ラナをソファーに誘導する。
 ヤスも、ラナの正面に座った。セバスがすぐに、飲み物の用意を始める。

「ヤス殿に仕事の依頼を出したい」

「仕事?」

「今すぐではなく、リーゼ様が次の誕生の日を迎えてから、手紙をエルフの里まで届けて欲しい」

「次の誕生の日?いつだ?」

「10ヶ月後だったと思う」

「わかった。でも、手紙を届けるだけなら、ギルドに依頼を出してもいいと思うのだが?」

「私も、最初はそうしようと思ったのだが、エルフの里がある場所が少し問題になってくる」

「ん?」

「場所?エルフの里のか?」

「はい。ヤス殿にわかりやすく言えば、帝国の先にある共和国の端です」

「遠いけど、問題は無いのではないか?」

「問題は、距離では・・・。いや、距離も問題ですが、帝国の領内を王国所属の冒険者が通過し難い状況になっています。10通出しても里まで届くかわからないのです。あと、昨今、共和国も荒れていて、野盗がアチラコチラに出ていてゴブリンやオークのコロニーが大量にあるようなのです」

「そうか、距離よりも、襲われたときの対処が難しいのだな」

「そうです。ヤス殿なら、アーティファクトで逃げられると思います」

「わかった。一つ、聞きたいのだが、なぜ、リーゼが絡んでくる?」

「手紙の内容の半分以上がリーゼ様に関係しているのです」

「ふーん」

「ヤス殿。エルフの里への道は?」

「知っていると思うか?」

「思いません。道案内は、リーゼ様がします」

「話の流れから予想は出来ていた。持っていくのは、手紙だけなのか?」

「あと、できれば、塩を多めに持っていって頂きたい」

「わかった。まだ先の話だけど、予定をあけておけばいいな」

「お願いします」

 ラナがソファーから立ち上がって、部屋から出ていく。

 手紙は、旅立つ前にラナの宿屋に行けば受け取れるようだ。
 10ヶ月も先の話なのにと思ったが、手紙が届けられる可能性を考えれば、10ヶ月くらい前から動き始めるのは当然の話なのだ。ギルド経由で手紙が届けられるのだが、王国内でも平均で1-2ヶ月は配達に時間がかかると見ている。
 ローンロットが出来て、神殿への手紙は早くなったが、それでも1-2週間は必要になってしまう。

 ヤスは、先の話なので、セバスやマルスに1ヶ月前になったら知らせるように伝えて、ラナからの依頼は忘れる事にした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...