召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳

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第25話

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 「どうじゃ、おぬし、元の世界に帰るかの?」

 あのとき、天界で。
 大神さまは、オレにそう尋ねた。
 もちろん、魔法も魔力も、日本に持ち帰ることができるという。

 アニメなどでは、異世界に召還された主人公が、地球に戻る方法を探して、冒険の旅を延々と続ける話が定番だ。
 それを思えば、あまりにも拍子抜けの好条件だった。

 「…いや。やっぱり、異世界へ行かせてくれ」

 オレに、迷いはなかった。

 もう、一年くらい前になるだろうか。
 オレの『家族』が、突然いなくなった。
 もちろん、贅沢に暮らせるだけのものは残してあったので、暮しに困ることはなかった。
 むしろ、『姉ちゃん』たちが、いなくなってから、オレは、初めておだやかな毎日を送れたような気がする。

 今にしておもえば、あの『庭付き一戸建て住宅』をオレにくくりつけたのは、『姉ちゃん』だろう。
 まさか、『魔道具』とは思わなかったが…。

 『姉ちゃん』が、どんな人間なのか。
 説明できる気がしない。

 たとえば、姉ちゃんは、ときどき、妙な薬を、オレに飲ませた。
 それを飲むと、ものすごく元気になった。
 いつもは、ほとんど寝たきりだったのに。

 元気になったオレを、姉ちゃんは、死ぬほど鍛えた。
 ていうか。何度か死んでるような気もするけど、たぶん、気のせいだと思う。

 ただ、『幽体離脱』なんかは、けっこう、慣れっこになっていた。
 オレは、すこし高いところにいて、下には、血まみれになって倒れている自分がいた。
 たまに、自分の頭が、すこし離れたところに転がっていた気もするけど、それもたぶん、気のせいだろう。

 姉ちゃん自身が、鍛えてくれたけど、ある日、とつぜん、オレに師匠をつけた。

 武術にけた爺さんだったが、こいつが、ひどい狂人だった。
 いや。オレを、殺すことしか考えていなかったから、殺人鬼か。
 
 たしかに、オレは、こいつに鍛えられた。
 それなりに、強くなったとは思う。

 だから、今は、感謝の気持ちでいっぱいだ。
 もし、もう一度、会えたなら、必ず殺してやると、心に誓うくらい。
 
 オレは、どっちかと云えば、平和主義者だ。
 なんであれ、命を奪うのはよくないと思っている。

 だが、あの爺だけは別だ。
 あいつだけは、ぜったいに殺す。ぜったいに…だ。

 
 話が、それてしまった。


 実は、姉ちゃんたちは、こっちの世界にいる気がしている。
 あの家が、『魔道具』だったのだから、その可能性は高いだろう。

 もしかすると、『召喚』されたのも、姉ちゃんが、絡んでいるかもしれない。
 いや、むしろ、姉ちゃんが仕組んだ気さえする。
 
 そんなことが可能なのか、とも思うが、姉ちゃんなら、なぜか、できそうな気がする。
 とにかく、得体のしれないやつだから。

 思えば、おかしな話だった。

 姉ちゃんたちがいなくなって、のんびり暮らしていたら、とつぜん、召喚されるなんて。
 
 きっと、自分を探そうとしないオレに、腹を立てて、聖女に召喚させたんだろう。
 そんな気さえする。

 こうなると、もう、日本に帰っても無駄だ。
 また、別の手段を使って、こっちに連れてこられるだけだ。
 それなら、異世界観光もかねて、のんびり探したほうがいい。

 どうせ。姉ちゃんが、その気にならないかぎり、見つかりっこないんだから。

 __いったい

 姉ちゃんは、異世界で、オレに何をさせようとしているんだろう?

 ふと、そんなことを思うと、めちゃくちゃ、気が重くなった。


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