残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

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第二章 帝国編

第62話 成果

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 リーズを特訓した後、独自の修練にはげんでいたキーラを呼び戻した。
 二人とも自信に満ちあふれた頼もしい目つきに変わっている。
 わずかな修行時間で劇的に強くなったとは思えないが、伸び代しかなかったことを考えると、余計な忠告をして自信をへし折ることもないだろうと思えた。

「それじゃあおまえらがどれくらい強くなったか確かめる。二人で模擬戦闘をしてもらうぞ」

 俺の提示した内容が唐突だったようで、二人ともキョトンとしている。
 しかし、二人ともすぐに攻撃的な笑みを浮かべた。

「それは名案ね。模擬戦でいけ好かない奴が敵役をやってくれるのなら、これほど忠実なシミュレーションもないわ。天狗みたいになっがいその鼻っ柱をへし折ってやるわ」

「言いたい放題ですわね。いいですわ。このわたくしがあなたみたいな悪辣者あくらつものらしめて差し上げますわ」

 どれだけ仲が悪いんだ。こいつらからあふれ出る殺気は冗談の域を超えている。次の瞬間には二人から黒いオーラがき出しそうだ。
 状況が違えば面白いと思ったかもしれないが、マーリン救出のことを考えると、ちょっと張り合っているだけであってほしいと思う。
 それに、いまの二人の実力は未知数であり、もし片方が突出していたら、最悪の場合、相手を殺しかねない。

「やっぱりやめだ。二人がかりで俺に挑んでこい」

 肩透かしを食らって一瞬脱力した二人だったが、さっき隠れた熱量はすぐに戻ってきた。

「それも名案ね。あたしがあんたに勝てば、あたしが学院の頂点を取ったに等しいわけよね。どこぞの風紀委員が足をひっぱりさえしなければイケるわ!」

「あなたを倒せばお姉様も認めてくださるわ。どこかのじゃじゃ馬がとち狂って邪魔をしてこなければいいのですけれど」

 この二人は正反対の気質をしているようだが、案外、性根は似ているのかもしれない。
 二人の会話を聞いてそんなことを冷静に考える一方で、その思考をどんどんすみへ追いやり、込み上げてくる感情があった。
 これは何だ? 怒りだ!
 こいつら、俺を倒せる気でいるのか? 度し難い! 愚かだ!
 二人で力を合わせたって無理だろうに、こいつらは自分だけで俺を倒す気でいる。ひどい慢心まんしんだ。

「どうやら力量の差を思い知らせてやる必要があるようだな。加減はしてやるが、容赦ようしゃはしない。覚悟しろよ」

 瞬間、キーラとリーズが視線をぶつける。共闘する気はないと目が宣言していた。

「あたしから行く!」

 キーラが数歩前に飛び出し、スターレが追いかける。
 キーラが右手を足元のスターレへとかかげると、スターレはそこに立ち止まり、次の合図を待った。

「スターレ、帯電!」

 瞬間、スターレがキーラの右手へ飛びついた。猫をした精霊はその形を崩し、電気の塊となった。
 スターレの電気がまずキーラの右手を覆い、それが腕、肩、と広がっていき、最終的には全身をおおった。
 帯電といっても、キーラの体を電気が走っているわけではなく、体には触れずに表面を覆っている状態のようだ。

「ほう、独自に編み出したか」

 もし俺が格闘タイプだったら、バチバチとほとばしる鎧を着たキーラに手も足も出なかっただろう。
 だが俺は空気を操る魔導師だ。そしてキーラはそれを知っている。電気をまとって何を仕掛けてくるのか、お手並み拝見といこうではないか。

 キーラが俺へと向かって走ってくる。速い。
 俺が教えたように自分の体に微弱な電気を流して運動能力を強化しているようだ。まさか本当にやってのけるとは。しかもこの短時間で。

「もらった!」

 キーラの掌底突しょうていづきが飛び出した。
 繰り出された右手は少女とは思えない速さだったため反応が遅れたが、俺はギリギリのところで空気のバリアを張った。

「ちっ!」

 胸部に針で刺されたような痛みが走った。
 キーラの手がまとう電気が、空気のバリアを通り抜けて俺の体に達したのだ。

「届いた!」

 キーラ自身が驚いていた。
 俺は即座に空気の壁でキーラを遠くへと押しやった。
 たしかにキーラの電気は俺に届いた。しかし、俺のダメージは小さい。

「キーラ、教えておいてやる」

「時間稼ぎね?」

 攻撃的な目で俺を見据えているが、キーラの周囲は空気という俺のエレメントで埋め尽くされていることを忘れているようだ。
 俺はいつでもキーラをひねることができる。

「チッ、いいから聞けよ。おまえは電気が空気に対して相性がいいと勘違いしているようだが、実際はその逆だ。空気ってのは極めて絶縁性の高い物質なんだ。空気の絶縁耐性は一センチメートルあたり一万ボルト。その空気の中を移動できるってことは、おまえの操る電気の電圧はかなり高いといえる。だがな、人体の感電に影響する因子は、電圧よりも電流のほうが大きい。俺が少し痛みを感じた程度でしかなかったということは、電圧は高くても電流は大したことはないということだ」

 もしかしたらスターレが俺を殺さないように電流を調節したのかもしれないが、おそらくそうではない。
 スターレが出力できる電気の力の最大値が電力で決まっているのだとしたら、空気の絶縁性を突破するために電流を犠牲にして電圧を高めているのだ。電力というのは電圧と電流の積で表されるものであり、電力が一定の場合、電圧か電流のどちらかを高めればもう一方が低くなってしまう。

 ところで、なぜ俺がスターレの出力は電力によると考えたかというと、キーラがスターレに飛びついたとき、スターレの電気がキーラを伝って地面へ流れ出てスターレは消失してしまったが、その消失までの時間が一瞬ではなかったことにある。
 もし出力の限界がないのであれば、スターレの電気は一瞬で全部持っていかれていただろう。だが多少なりとも時間がかかったため、スターレのスタミナたる電力量は一度にすべて放出できるものではないということだ。

「うーん、エストの言っていることはよく分かんないよ。やっぱり難しい言葉であたしを悩ませて時間稼ぎしているんじゃないの?」

 あごに手を当てて首をひねっていたキーラが俺にいぶかしみの視線を送ってくる。
 俺は静かに首を振ってから答えた。

「俺はスターレを帯電したおまえを見て、おまえが天才なんじゃないかと思ったよ。だが、天才はスターレのほうのようだな」

「スターレが天才だとして、その力を引き出せたんなら、あたしだって天才じゃないの?」

「おまえが天才かどうかはどうでもいいんだよ。だがあえて言おう。おまえは天才じゃない。だから学べ。電気についてもっと学べ。いいか、空気は基本的に電気を通さない。雷のような超高電圧の電気であれば、空気も含めどんな絶縁体でも絶縁破壊させるだろうが、そんなものは並の魔導師に操れる代物ではない」

「だから、分かんないってば」

「つまり、電気を敵に通すための工夫をしろってことだ。これは最初に言ったとおりだ。帯電まではよかったが、結局、愚直に電気をぶつけに来ただけだっただろ」

「その考えるっていうの、あたしの性には合わないわ。いろいろ試してみて体で覚えたほうが早い。それとね、エスト。あたしもひとつ言っておくわ。あたしの攻撃はさっきので終わりじゃない」

 キーラがニヤリと笑った。
 そして右手をピンと空へ掲げる。

「電気星!」

 キーラが技名らしきものを叫んだ。キーラらしい。
 彼女の上空に電気の塊が浮いた。閃光花火のようにパチパチと光の破片を巻き散らしている。

 俺は息を呑んだ。俺は恐れを抱いていることを自覚した。
 しかし距離は遠い。さっきも言ったように、空気というのは極めて電気を通しにくい物質なのだ。距離が開けば開くほど、標的に向かって走るのに大きな電力を必要とする。

「なにっ!?」

 電気星と呼ばれた球体から一筋の電気がほとばしった。目にも留まらぬ速さ。思わず腕を上げてガードするが、ワンテンポ遅れている上に意味のない行為だ。

「ん?」

 電気は俺に到達した。しかし何も感じない。やはり俺の考察は間違っていなかった。
 空気の中を長距離移動するために電流を極限まで絞る代わりに電圧を極限まで高めたのだ。攻撃力はない。

「ふふっ」

 そう。それは陽動。攻撃力ゼロだが警戒心だけは盛大に煽る魔法。陽動でしかありえない。
 キーラは俺が電気星に気を取られている隙に、強化肉体より繰り出す高速移動で俺に肉薄していた。
 キーラの腕が俺の背へと回される。
 まるで走馬灯でも見るかのように俺の思考は高速化され、キーラが殺意の笑みをもって俺に抱きつく様が目に焼きつく。
 かろうじてキーラと自分の体の間に空気のバリアを張るが、厚みが薄い。さっきはキーラの掌底と俺の体で数センチの開きがあったが、いまは一センチを切っている。おそらく五ミリ程度しかない。
 さっきの数十倍の電流が流れてくることになる。

 瞬間、俺は実際に走馬灯を見た気がした。

「ホールド・ショック!」

 キーラのまとう電気が、俺の全身へといっせいに放たれる。

 パァンッ! という強烈な音が天空へと昇っていった。

 俺とキーラの間から白煙がゆらりと昇る。

「なん……で……」

 俺の背から手がずり落ち、そしてキーラが背中から倒れた。

 俺は走馬灯の中からとあるイメージを抽出して魔法に反映させていた。
 そのイメージとは、物理の教科書で図解されていた原子の構造。
 原子は原子核と電子からなる。空気の九十九%が窒素と酸素からなることをふまえ、空気を構成する原子の電子までを固定させた。
 電子が動かないのであれば電気は通らない。熱も伝えないし、いかなる化学反応も起こらない。零世界、とでも名づけようか。
 弱点があるとすれば、光や概念種の魔法だろう。あと、消耗が激しすぎるので気軽には使えない。

 閑話休題、絶縁物質に弾かれた電気は、当然ながら伝導性のいいものへと飛び移る。それがキーラの体だったのだ。
 電気が弾かれると思っていなかったために制御から外れてしまい、電気が本来の性質に従って動いてしまったというわけだ。

「おい、大丈夫か?」

 そう声をかけながら、俺自身もゆらりと上体が傾く。
 どうにか踏みとどまった。
 走馬灯を見るほどの精神力を使ったというのもあるが、電子のレベルまで操作の魔法を及ぼすというのはとんでもない集中力を要する。二度やろうと思ってもできるか分からないレベルだ。

「負けたーっ」

 スターレが電流値を調整していたのだろう。キーラは大丈夫そうだ。大の字で寝ている。ワンサイドアップがあるから大の字というより犬の字だ。
 もしキーラとスターレが俺を殺す気だったのなら、逆にキーラが死んでいただろう。

「エストさん。わたくしのことをお忘れにならないでくださる?」

 忘れていた。
 俺は即座に警戒心を取り戻し、リーズの方に向き直る。

 リーズの周囲を透明度の高い静謐せいひつな風が回っている。研ぎ澄まされた高速の風だ。俺が教えたとおり、自分の周囲を周回させてどんどん加速させたのだ。

「ずっと加速させていたのか。ちゃっかりしている。だがそれでいい。環境や状況、使えるものは何でも使え。で、それをまっすぐ飛ばせるのか?」

「ええ、だいたいは。でも、多少の誤差が問題にならないよう、工夫いたしますわ」

 噴水の水のようにんでいた風が、滝の水のように荒々しく変質した。
 その風が塊となって飛んでくる。まるで大型トラックが突っ込んでくるかのように猛々たけだけしく、かわせないほどに大きい。わざと風の軌道を暴れさせて進行を広範囲にしたのだ。密度は小さくなるが、さんざん加速させていたため威力は申し分ない。

「おらぁっ!」

 俺は空気を固め、水平から垂直へとカーブするレールを作った。
 大威力の風に大きな衝撃を受けたが、うまく天空へと逸らすことができた。
 はるか上空で雲の塊が弾け飛んで消滅した。

「受け流しましたの? 空気の壁で受けとめられても吹き飛ばす自信がありましたのに」

「まあ、疲れているしな。だが、あれを決められなかった時点でおまえの負けだ。おまえさっき、なんで俺に声をかけたんだよ。黙っていまのを撃てば俺を倒せていたかもしれないのに」

 リーズがそうしていたら、もしかしたら俺は大ダメージを負っていたかもしれない。

「不意打ちはわたくしの精神に反しますわ。これでも騎士の家系ですの。それに、キーラさんが作った隙を突いても、キーラさんの手柄になってしまいますわ」

「そうか。だがこれだけは言っておく。容赦する相手は選べよ」

 それにしても、キーラもリーズも見違えるほど強くなった。訓練はほんの短期間だったのに、俺に死を予感させるほどに魔法にキレが出た。
 もちろん、実践においては二人が万全の状態で魔法を使うのは難しいだろう。だが力さえ合わせれば五護臣ごごしんとも渡り合えそうだ。

「おまえら、帝国ではちゃんと力を合わせろよ。マーリンを救うためなんだ。意地を張ってそのチャンスを潰したら、俺がおまえらを許さないからな」

「分かっていますわ、そんなこと」

「あたしだってマーリンを助けたいんだから。バカにしないでよね」

 リーズは腰に手を当てている。
 犬の字で寝ていたキーラは上体を起こした。

「おまえらの特訓はこれで終了だ。だが最後に一つアドバイスをやる。操作型の魔導師っていうのは操作可能なエレメントの位置をある程度だが把握できる。例えばキーラ、おまえは建物内のどこに電気が通っているかを察知できるはずで、それによって部屋数や部屋の構造なんかも透視したかのように知ることができるはずだ。おまえは建物で有利だ。電気も建物内からひっぱりだして使え。スターレのスタミナを消費せずに電気を使える」

「なるほど、分かったわ」

「リーズの場合は……そうだな、真っ暗な洞窟で迷ったときに出口を見つけることができるだろう」

「ちょっと、わたくしのは限定的すぎませんこと?」

「仕方ないだろう。そもそも、そういった魔法の応用法は自分で考え出すべきものだ。精進しろ」

「わ、分かりましたわ……」

「それじゃあ、今日は解散だ」

 訓練が終わり、二人とも肩の力が抜けたようだ。
 スターレとウィンドはスゥッと空気に溶け込むように消えた。

「はーあ、帰ってシャワー浴びようっと」

 立ち上がったキーラが両手を大きく開いた犬の字で伸びをしている。

「ああ、そうだ。キーラ、おまえは明日、俺とともに先行して帝国入りする。準備をしておけ。それから……、シャイルの様子を見ておいてくれるか?」
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