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第二章 帝国編
第89話 軍事区域②
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「殺し合う……?」
ルーレはカーナ中将の遺した言葉に首を捻っていたが、ロイン大将は眉間に皺を寄せていた。
そのとき、ビーッという危機感を煽る警報が鳴った。ロイン大将のデスクに備えつけてある箱型の装置から音が鳴っている。
ロイン大将は目を伏せ、小さな溜息を漏らした。
「これは皇室からの緊急連絡回線だ」
ロイン大将が短く説明し、その箱から皇帝陛下の声が聞こえてくる。
『リッヒ家が皇帝家を裏切った。帝国内を捜索し、リーン・リッヒ以外のリッヒ家の者を全員処刑せよ』
ルーレは耳を疑った。リッヒ家が皇帝家を裏切っていないことは分かる。
もしリッヒ家が皇帝家を裏切れば、皇帝家の指輪に込められた古の盟約が発動し、リッヒ家の者全員が自我を失う。
かつて皇帝家とリッヒ家が絶対的な信頼関係にあったころに交わした盟約だ。
この盟約に関して、ルーレは日頃から思案していたことがある。
絶対的な信頼関係があったのなら、盟約など交わす必要はなかったのではないか。絶対的な信頼関係があったのなら、皇帝家がリッヒ家に一方的に課す制約だけでなく、リッヒ家から皇帝家に対して何らかの制約を課しているか、あるいは皇帝家からリッヒ家に対して制約と等価な見返りとなる誓約もあるはずだ。
皇帝家の指輪に関してすべての真実を知るのは、皇帝以外には、皇帝に最も近いリッヒ家の人間一人だけ、つまりリーン・リッヒのみと言われている。
なんにせよ、緊急連絡回線から飛び出した皇帝の言葉が、大臣にたぶらかされたことによる戯言なのは間違いない。
「ロイン大将、これは大臣の……」
「分かっている」
ロイン大将は、さっき見せたのと同様に手を前に出してルーレを制止した。
「では……」
「いいや、残念ながら、緊急連絡回線による指令は絶対だ。それがどんな世迷言であってもだ。緊急連絡回線というのは皇帝以外には絶対に使えないものなのだ。すなわち、これは皇帝のご意思である」
皇帝の意思と言われるとリッヒ家たるルーレには痛い。
しかし、帝国のことを想うからこそ退くわけにはいかない。
「ロイン大将、マジックイーターは帝国を乗っ取ろうとしているのです。邪魔なリッヒ家を抹消し、皇室と縁をつなぎ、権力を得て仲間を皇帝家内にどんどん引き入れ、多勢となり、最後には皇帝をも暗殺して帝国の支配権を得ようとしているのです。世界最大の軍事力を有する帝国を支配してしまえば、念願の魔導師狩りも容易に完遂できるでしょう。魔導師がいなくなれば世界はイーターであふれ返り、世界が破滅の道を辿るだけです。いくら皇帝からの命令とはいえ、そのような……」
ロイン大将の視線は鉄のように冷徹だった。そして、鉄のようにかたい意志を宿していた。
「ルーレ殿、我々は帝国軍だ。己の意思で動いてはならぬ。我々が己の意思を持つことは、人間が発癌するに等しいのだ。ただ、私とて一人の人間。何も考えず生きているわけではない。貴殿の言い分が絶対的に正しい証拠を見せられれば話が変わってくるが、いかがかな? 証拠を提示できるかね?」
ロイン大将とて帝国の現状は分かっているのだ。しかし、彼は望むままには動けない。それはいまのリッヒ家の境遇と似ているかもしれない。
「リッヒ家は皇帝家に背けば古の盟約により全員が自我を失ってしまいます」
「それは聞き及んでいるが、かつてその盟約が発動したことはない。つまり、それが真実かどうかは分からないということだ。それ以外に証拠となるものは提示できるかね?」
「それ以外? ……提示、できません」
ロイン大将は深い溜息をついた。
帽子のツバをつまみ、向きを整えてから言う。
「ならばいたしかたない。私は命令に従うほかない。覚悟せよ、反逆の一族の一人、ルーレ・リッヒ!」
ルーレ・リッヒは喉を鳴らした。戦闘は避けられない。
ロイン大将の能力は知っている。彼は鉄の操作型魔導師だ。氷の発生型魔導師であるルーレにとってかなり相性の悪い相手だ。
先ほどカーナ中将を突き刺していた宙空の剣が、縦にひと回転してビシュッと血を払った。鍛えられた鋼の美しい光沢はそれ自身が殺意を放っているかのようだ。
剣は忠犬のごとく自らロイン大将の手へと飛び込むように納まった。
ルーレも先ほど創造した氷の剣を構えなおした。
ルーレ・リッヒは剣の腕には自信があった。おそらく、技ではロイン大将を上回っている。力はロイン大将のほうが上だろう。
だが、得物に圧倒的な差がある。つまり、魔法の相性が一方的に悪いのだ。鉄の操作に対して、氷の発生。この両者がぶつかってまともな勝負になるはずがない。
ルーレはロイン大将のことを殺す気はないが、彼女がその心配をする意味はない。なぜならルーレ・リッヒがロイン大将に殺されるか、どうにか生き延びられるか、それを決するギリギリの戦いになるはずなのだから。
ルーレはカーナ中将の遺した言葉に首を捻っていたが、ロイン大将は眉間に皺を寄せていた。
そのとき、ビーッという危機感を煽る警報が鳴った。ロイン大将のデスクに備えつけてある箱型の装置から音が鳴っている。
ロイン大将は目を伏せ、小さな溜息を漏らした。
「これは皇室からの緊急連絡回線だ」
ロイン大将が短く説明し、その箱から皇帝陛下の声が聞こえてくる。
『リッヒ家が皇帝家を裏切った。帝国内を捜索し、リーン・リッヒ以外のリッヒ家の者を全員処刑せよ』
ルーレは耳を疑った。リッヒ家が皇帝家を裏切っていないことは分かる。
もしリッヒ家が皇帝家を裏切れば、皇帝家の指輪に込められた古の盟約が発動し、リッヒ家の者全員が自我を失う。
かつて皇帝家とリッヒ家が絶対的な信頼関係にあったころに交わした盟約だ。
この盟約に関して、ルーレは日頃から思案していたことがある。
絶対的な信頼関係があったのなら、盟約など交わす必要はなかったのではないか。絶対的な信頼関係があったのなら、皇帝家がリッヒ家に一方的に課す制約だけでなく、リッヒ家から皇帝家に対して何らかの制約を課しているか、あるいは皇帝家からリッヒ家に対して制約と等価な見返りとなる誓約もあるはずだ。
皇帝家の指輪に関してすべての真実を知るのは、皇帝以外には、皇帝に最も近いリッヒ家の人間一人だけ、つまりリーン・リッヒのみと言われている。
なんにせよ、緊急連絡回線から飛び出した皇帝の言葉が、大臣にたぶらかされたことによる戯言なのは間違いない。
「ロイン大将、これは大臣の……」
「分かっている」
ロイン大将は、さっき見せたのと同様に手を前に出してルーレを制止した。
「では……」
「いいや、残念ながら、緊急連絡回線による指令は絶対だ。それがどんな世迷言であってもだ。緊急連絡回線というのは皇帝以外には絶対に使えないものなのだ。すなわち、これは皇帝のご意思である」
皇帝の意思と言われるとリッヒ家たるルーレには痛い。
しかし、帝国のことを想うからこそ退くわけにはいかない。
「ロイン大将、マジックイーターは帝国を乗っ取ろうとしているのです。邪魔なリッヒ家を抹消し、皇室と縁をつなぎ、権力を得て仲間を皇帝家内にどんどん引き入れ、多勢となり、最後には皇帝をも暗殺して帝国の支配権を得ようとしているのです。世界最大の軍事力を有する帝国を支配してしまえば、念願の魔導師狩りも容易に完遂できるでしょう。魔導師がいなくなれば世界はイーターであふれ返り、世界が破滅の道を辿るだけです。いくら皇帝からの命令とはいえ、そのような……」
ロイン大将の視線は鉄のように冷徹だった。そして、鉄のようにかたい意志を宿していた。
「ルーレ殿、我々は帝国軍だ。己の意思で動いてはならぬ。我々が己の意思を持つことは、人間が発癌するに等しいのだ。ただ、私とて一人の人間。何も考えず生きているわけではない。貴殿の言い分が絶対的に正しい証拠を見せられれば話が変わってくるが、いかがかな? 証拠を提示できるかね?」
ロイン大将とて帝国の現状は分かっているのだ。しかし、彼は望むままには動けない。それはいまのリッヒ家の境遇と似ているかもしれない。
「リッヒ家は皇帝家に背けば古の盟約により全員が自我を失ってしまいます」
「それは聞き及んでいるが、かつてその盟約が発動したことはない。つまり、それが真実かどうかは分からないということだ。それ以外に証拠となるものは提示できるかね?」
「それ以外? ……提示、できません」
ロイン大将は深い溜息をついた。
帽子のツバをつまみ、向きを整えてから言う。
「ならばいたしかたない。私は命令に従うほかない。覚悟せよ、反逆の一族の一人、ルーレ・リッヒ!」
ルーレ・リッヒは喉を鳴らした。戦闘は避けられない。
ロイン大将の能力は知っている。彼は鉄の操作型魔導師だ。氷の発生型魔導師であるルーレにとってかなり相性の悪い相手だ。
先ほどカーナ中将を突き刺していた宙空の剣が、縦にひと回転してビシュッと血を払った。鍛えられた鋼の美しい光沢はそれ自身が殺意を放っているかのようだ。
剣は忠犬のごとく自らロイン大将の手へと飛び込むように納まった。
ルーレも先ほど創造した氷の剣を構えなおした。
ルーレ・リッヒは剣の腕には自信があった。おそらく、技ではロイン大将を上回っている。力はロイン大将のほうが上だろう。
だが、得物に圧倒的な差がある。つまり、魔法の相性が一方的に悪いのだ。鉄の操作に対して、氷の発生。この両者がぶつかってまともな勝負になるはずがない。
ルーレはロイン大将のことを殺す気はないが、彼女がその心配をする意味はない。なぜならルーレ・リッヒがロイン大将に殺されるか、どうにか生き延びられるか、それを決するギリギリの戦いになるはずなのだから。
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