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第二章 帝国編
第90話 工業区域⑥
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リーズ、キーラ、シャイルの三人は工場の事務所で茶をすすっていた。
先ほど工場長は副工場長の暴挙について、深々と頭を下げて謝罪してくれた。
もちろん、工場長は何も悪くない。むしろ三人にとって命の恩人だ。
工場長は満身創痍の三人を気遣い、事務所で休んでいくことを促してくれた。
三人はすっかりくつろいでいた。工場長と談笑する余裕さえ取り戻していた。
そんな折、それは鳴り響いた。
――ヂリリリィン、ヂリリリィン、ヂリリリィン!
警報のようなけたたましい音だ。三人が捕まったときの音とは異なる。
三人の顔は緊張で強張るが、工場長の顔は三人以上に蒼白していた。
「これは、何ですか?」
シャイルが尋ねたとき、リーズはある可能性が脳裏をよぎった。
「まさか、これって……」
「ああ、そのまさかですよ」
工場長は神妙な面持ちでリーズを見つめた。
「そのまさかって、どのまさかよ!」
キーラがもどかしそうにリーズの肩を揺さぶる。
シャイルにも何の音なのかまだ分からないので、キーラの肩越しにリーズを見つめて答えが出てくるのを待った。
しかし、その答えが言葉として出てくるより先に、機械からかすれた音声が漏れ出てきた。
『リッヒ家が皇帝家を裏切った。帝国内を捜索し、リーン・リッヒ以外のリッヒ家の者を全員処刑せよ』
音声はそれだけだった。四人はしばし固まっていたが、工場長が一度深呼吸をしてから説明した。
「これは皇室からの緊急連絡回線です。これを使えるのは皇帝陛下のみであり、さっきの指令は皇帝陛下からの勅命ということです」
三人は息を呑んだ。そして工場長を見つめた。彼はどうするのか。
先ほどは副工場長から三人を守ってくれたし、お達しとやらも無視してくれた。そのお達しというのはおそらく大臣からのものだが、今度の命令は皇帝からの勅命だ。
「言っておきますけど、リーズに手出しはさせませんからね!」
キーラが銅の筒を握っていた。ちゃっかり持ち出していたのだ。
しかしキーラの手は震えていた。シャイルがそれを両手で包み込み、宣言する。
「私も戦います。友達を守るためなら」
リーズはというと、彼女はうつむいていた。彼女だけは迷っていた。
彼女にとって、キーラとシャイルはそれほど仲のいい友達ではなかった。しかし、いまは彼女にとって二人は特に大事な存在となっていた。
だからこそ、この二人を守るために自分の身を差し出す覚悟をしなければならない。そう考えていた。
「リーズ? 大丈夫だからね!」
リーズは泣いていた。死ぬのが怖いからではない。二人が命がけで自分を守ろうとしてくれていることが嬉しかった。
これが友達なのか。いや、違う。これは親友というのだろう。
自分が死んだら二人は悲しむだろうか。二人のために自分も戦うべきだろうか。戦って、勝てるだろうか。
三人がかりで副工場長に敵わなかったが、工場長はその副工場長を簡単にやっつけてしまった。そんな工場長に勝てるはずがない。
だが、魔法戦には相性がある。風、電気、火、このどれかが工場長の塵の操作に勝てればいいのだ。
ただし、工場長が魔法の使い方に抜群のセンスを持っていれば、相性すらも覆されるかもしれない。
リーズは決断した。立ち上がって声を張った。
「モック工場長、わたくし、抵抗はいたしませんわ。殺すというのなら、それを受け入れます。ただ、この二人には手を出さないでください」
「リーズ……駄目! そんなの駄目だよ!」
キーラがリーズの肩を激しく揺すった。あまりにも激しかったので、リーズはバランスを崩し、ソファーに腰を落としてしまった。
「はーっはっはっは」
突然、工場長が大きな声で笑った。似合わない笑い方だ。自分を鼓舞するかのようにも見えた。
「モック工場長?」
不安げに見つめる三人に対し、工場長はなだめるように両手を前に出してソファーに座るよう促した。
「心配御無用。お三方のことはこの私がお守りしますよ。前にも言ったとおり、私は自分の信念を貫き通す。妥協はしない。それは物作りの世界に身を置いている私のポリシーですから。ただし、工業区域、いや、私だけでしょうが、帝国と戦争することになるでしょうな。勝ち目のない戦です。戦闘が始まったら、どさくさに紛れて逃げてください。それまではここにいてください。私の塵で工業区全域を覆い、監視し、侵入者は排除します」
三人にとって、この糸目のオールバックの男は、いままで見てきた中で一、二を争うくらい頼もしい存在だった。
「分かりました。でも、もしマジックイーターとの全面戦争になるのなら、わたくしたちも一緒に戦います」
「うん。それに。戦争ならもう始まっていると思うよ。自称最強の男がたぶん全部やっつけちゃうと思う」
「そうね。マジックイーターだけにとどまらず皇帝陛下を手にかけないか心配ですらあるわね」
三人が頷き合う様子を見て、工場長は肩の力を抜いた。
「ほほう、それは頼もしい。あなた方がそんなに信頼を置く男というのに一度会ってみたいものですな」
「信頼、なのかな? 会ったら後悔するかもしれませんよ」
四人はソファーに腰を落ち着け、茶をすすり、談笑を再開した。
工業区域は全域が夜の樹海のように暗闇に閉ざされた。
先ほど工場長は副工場長の暴挙について、深々と頭を下げて謝罪してくれた。
もちろん、工場長は何も悪くない。むしろ三人にとって命の恩人だ。
工場長は満身創痍の三人を気遣い、事務所で休んでいくことを促してくれた。
三人はすっかりくつろいでいた。工場長と談笑する余裕さえ取り戻していた。
そんな折、それは鳴り響いた。
――ヂリリリィン、ヂリリリィン、ヂリリリィン!
警報のようなけたたましい音だ。三人が捕まったときの音とは異なる。
三人の顔は緊張で強張るが、工場長の顔は三人以上に蒼白していた。
「これは、何ですか?」
シャイルが尋ねたとき、リーズはある可能性が脳裏をよぎった。
「まさか、これって……」
「ああ、そのまさかですよ」
工場長は神妙な面持ちでリーズを見つめた。
「そのまさかって、どのまさかよ!」
キーラがもどかしそうにリーズの肩を揺さぶる。
シャイルにも何の音なのかまだ分からないので、キーラの肩越しにリーズを見つめて答えが出てくるのを待った。
しかし、その答えが言葉として出てくるより先に、機械からかすれた音声が漏れ出てきた。
『リッヒ家が皇帝家を裏切った。帝国内を捜索し、リーン・リッヒ以外のリッヒ家の者を全員処刑せよ』
音声はそれだけだった。四人はしばし固まっていたが、工場長が一度深呼吸をしてから説明した。
「これは皇室からの緊急連絡回線です。これを使えるのは皇帝陛下のみであり、さっきの指令は皇帝陛下からの勅命ということです」
三人は息を呑んだ。そして工場長を見つめた。彼はどうするのか。
先ほどは副工場長から三人を守ってくれたし、お達しとやらも無視してくれた。そのお達しというのはおそらく大臣からのものだが、今度の命令は皇帝からの勅命だ。
「言っておきますけど、リーズに手出しはさせませんからね!」
キーラが銅の筒を握っていた。ちゃっかり持ち出していたのだ。
しかしキーラの手は震えていた。シャイルがそれを両手で包み込み、宣言する。
「私も戦います。友達を守るためなら」
リーズはというと、彼女はうつむいていた。彼女だけは迷っていた。
彼女にとって、キーラとシャイルはそれほど仲のいい友達ではなかった。しかし、いまは彼女にとって二人は特に大事な存在となっていた。
だからこそ、この二人を守るために自分の身を差し出す覚悟をしなければならない。そう考えていた。
「リーズ? 大丈夫だからね!」
リーズは泣いていた。死ぬのが怖いからではない。二人が命がけで自分を守ろうとしてくれていることが嬉しかった。
これが友達なのか。いや、違う。これは親友というのだろう。
自分が死んだら二人は悲しむだろうか。二人のために自分も戦うべきだろうか。戦って、勝てるだろうか。
三人がかりで副工場長に敵わなかったが、工場長はその副工場長を簡単にやっつけてしまった。そんな工場長に勝てるはずがない。
だが、魔法戦には相性がある。風、電気、火、このどれかが工場長の塵の操作に勝てればいいのだ。
ただし、工場長が魔法の使い方に抜群のセンスを持っていれば、相性すらも覆されるかもしれない。
リーズは決断した。立ち上がって声を張った。
「モック工場長、わたくし、抵抗はいたしませんわ。殺すというのなら、それを受け入れます。ただ、この二人には手を出さないでください」
「リーズ……駄目! そんなの駄目だよ!」
キーラがリーズの肩を激しく揺すった。あまりにも激しかったので、リーズはバランスを崩し、ソファーに腰を落としてしまった。
「はーっはっはっは」
突然、工場長が大きな声で笑った。似合わない笑い方だ。自分を鼓舞するかのようにも見えた。
「モック工場長?」
不安げに見つめる三人に対し、工場長はなだめるように両手を前に出してソファーに座るよう促した。
「心配御無用。お三方のことはこの私がお守りしますよ。前にも言ったとおり、私は自分の信念を貫き通す。妥協はしない。それは物作りの世界に身を置いている私のポリシーですから。ただし、工業区域、いや、私だけでしょうが、帝国と戦争することになるでしょうな。勝ち目のない戦です。戦闘が始まったら、どさくさに紛れて逃げてください。それまではここにいてください。私の塵で工業区全域を覆い、監視し、侵入者は排除します」
三人にとって、この糸目のオールバックの男は、いままで見てきた中で一、二を争うくらい頼もしい存在だった。
「分かりました。でも、もしマジックイーターとの全面戦争になるのなら、わたくしたちも一緒に戦います」
「うん。それに。戦争ならもう始まっていると思うよ。自称最強の男がたぶん全部やっつけちゃうと思う」
「そうね。マジックイーターだけにとどまらず皇帝陛下を手にかけないか心配ですらあるわね」
三人が頷き合う様子を見て、工場長は肩の力を抜いた。
「ほほう、それは頼もしい。あなた方がそんなに信頼を置く男というのに一度会ってみたいものですな」
「信頼、なのかな? 会ったら後悔するかもしれませんよ」
四人はソファーに腰を落ち着け、茶をすすり、談笑を再開した。
工業区域は全域が夜の樹海のように暗闇に閉ざされた。
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