125 / 302
第三章 共和国編
第124話 三匹のイーター
しおりを挟む
俺は自分を空気で包んで空へと移動した。
さっきまで自分がいた場所で空気を自分の姿に固めた。空気分身とでも言おうか。透明な影武者だ。技に名前をつけるならば、ゲスト・インバイト、といったところだろう。
この偽装でどれほどの時間が稼げるだろうか。攻撃を受けた際に相手の攻撃によって死んだと思わせられれば理想だが、まず間違いなく看破される。
攻撃についてだが、本命の攻撃とは別に、相手の逆探知への集中力を削ぐため、そして本命の攻撃に気づかれないために、コンスタントに攻撃を続けなければならない。発想力とセンスが問われるところだ。
俺はすでに行動を起こしている。ザハート周辺を広範囲にサーチして公地を徘徊するイーターを探し、それを誘導する。空気で作った疑似餌で釣り、ザハートへとおびき寄せる。
誘導できたイーターは三匹。
エアに光景を可視化してもらい、それぞれ確認する。
一匹目はサイのようなボディの前半身に十数個の口がついており、前足の肩の部分から先が鎌状の腕が生えている。
全身を褐色の硬皮に覆われているが、頭部だけは毛むくじゃらで目と鼻と耳がその小さな領域に密集している。
名前をつけるとすれば、安直にサイカマキリといったところだろうか。
二匹目は姿はほぼ馬だが、その頭部が特長的だった。馬の口の部分がタコの漏斗のように細長い出っ張りになっていて、そこから黒い弾丸を発射する。
おそらく弾丸の正体は糞だろう。しかしその弾丸は岩をも砕く強固な物質で、無尽蔵に発射される。ときには連射されることもある。
実際のタコの口は漏斗が口のように見えるが、漏斗は口ではない。口は八本の脚のつけ根の部分にある。
ではこのイーターの場合どこに口があるのかというと、後頭部だ。漏斗で得物を射抜いて動かなくなったところに、頭を垂れて後頭部の口にある硬い歯でバリバリと噛み砕く。
俺はこいつをガンホースと名づけた。
三匹目は虫型イーターだ。
一見するとただのトンボだが、油断して近づくと非常に危険。そいつが狩りモードになると、虹色の四枚の薄羽が硬質化し鋭くなる。非常に素早く縦横無尽に飛びまわり、その軌道上にあるあらゆる物をことごとくすっぱりと切り裂いてしまう。
ソードフライと名づけよう。
この三匹を同時に盲目のゲンへとぶつけられれば理想的だが、イーターというのは基本的に見境がなく、イーター同士で喰らい合うことも多い。
だからこの三匹を引き合わせることなく個別に盲目のゲンへとぶつける。
最初はサイカマキリだ。
空気で作った疑似餌でザハートへと誘う。
サイカマキリは獲物が間合いに入った瞬間、二本の鎌を目で捉えられないスピードで振りまわす。人間の反応速度でそれを避けるのはおそらく不可能だ。
前半身にたくさんの口が付いているのは、切り刻まれて宙に舞った得物をできるだけ多くすくい上げるように食らうためだろう。
俺の疑似餌は何度も切り刻まれるが、空気なのでサイカマキリの間合いに入っても前方を逃げつづけられる。
岩陰に隠れていた二人の巫女に対し、盲目のゲンが護神中立国の奥の方へ避難させつつ、人払いをするよう指示を出した。
リオン帝国、ジーヌ共和国の国境検問所も危機を察知して完全に閉じてしまっている。
もはやザハートに存在する人間は盲目のゲンのみ。それは俺にとっても都合がいい。
誘導されたサイカマキリは盲目のゲンを見つけるや、一直線にそちらへと走った。サイカマキリの間合いに入れば、おそらく盲目のゲンでも防御も回避もできない。
サイカマキリの前方で収束した水の玉から、強力な水のレーザーがサイカマキリの胴体をめがけて発射される。
それを俺は空気の盾で受けて軌道を反らせた。
サイカマキリはどんどん盲目のゲンに近づいていく。サイカマキリには期待していなかったが、この調子ならば案外こいつで盲目のゲンをやれるかもしれない。
盲目のゲンは収束した水の玉を破裂させ、無数の弾丸と化した水でサイカマキリを攻めた。
俺はサイカマキリの前方を開きかけの傘のように尖った空気で覆い、すべての水を弾いた。
角度が足りず弾けなかった水は空気を貫通してサイカマキリを刺したが、タフなイーターは多少の傷をものともしなかった。
だが盲目のゲンの攻撃は終わっていない。弾かれた水の弾は円弧を描いてサイカマキリの後方から攻め立てた。
俺は空気でサイカマキリの背中も尻も腹も守った。
あと三歩。一秒後には盲目のゲンがサイカマキリの射程圏内に入る。
俺は勝利の予感に胸を高鳴らせた。
そして柄にもなく激しい独り言を放つ。
「よし、行けっ!」
しかし、やはりE3の一人ともなればそう甘くはない。
あと一歩というところで、サイカマキリの全身から水が噴き出し、その水は緑色に変わった。空間把握モードでは色を知ることはできないが、エアの可視化映像で光景が見えている。
緑色の水、それは血だ。
どうやら盲目のゲンは、水を地中に走らせ、サイカマキリの接地した足へと打ち込んだようだ。そして体内から放射状に水を走らせ、イーターを内側から破壊した。
一匹目は失敗に終わったが惜しかった。
三匹のイーターを同時に盲目のゲンにぶつけるべきだったかもしれないと後悔するが、三匹を同時にぶつけると盲目のゲンだけでなく俺まで魔法の制御が追いつかなくなる。
ゆえに、それは無意味な後悔だったという結論に至る。
切り替えて二匹目のイーターを駆り立てる。
二匹目はガンホース。
今度は地中からの攻撃に備えてガンホースを包んで宙へと浮かせる。
つまり二匹目のイーターの移動を俺が受け持つということだ。
ガンホースは宙を縦横無尽に舞い、角度を連続で変えながら糞弾を連射する。
盲目のゲンは水の盾を広範囲に展開してそれを阻むが、弾丸が糞ゆえに盾の表面にベチャリと塗りつく。
空間把握モードで景色を見ている俺と盲目のゲンには視界が遮られるということは起こらないが、ガンホースだけが得物を見失ってしまった。
ガンホースは得物を探すように辺り構わず四方八方へと糞弾を連射した。糞なので臭う。遠方の俺にはその臭いが分からないが、おそらく臭い。
盲目のゲンもさすがにザハートをこれ以上汚されたくないと力が入ったようで、いつのまに集めていたのか、上空に一瞬で拳大の水の球を作ったかと思うと、それをガンホースの背中へと落とした。俺がとっさに空気の盾を張るが、それを難なく貫通してガンホースの胴体を貫き大穴を開けた。
体を破壊されたガンホースは最後にはいななくことも許されず、長い首を垂れた。
漏斗からは発射準備段階だった糞の塊がボトボトと落ち、胴体の風穴から赤い血がドロッと流れ出て事切れた。
「瞬殺されたな」
「エスト、罪悪感?」
エアが不安気に語りかけてくる。
姿は現していないため表情は見えないが、ずいぶんと人間らしい抑揚を得た声からは、短い発声からでもその感情が垣間見えるようになっていた。
「イーターに罪悪感なんぞ抱くものか。死のイメージがないところに死を与えられて少し驚いただけだ」
「エスト、感情がおいしくない」
「おいしい感情をよこせって? 要望か? 贅沢なやつめ、おまえもだいぶ感情が芽生えてきたようで何よりだ。エア、少し待っていろ。勝利の味を味わわせてやる」
「勝利の味がおいしいとは限らない」
そう言うと、エアの気配が消えた。意味深なもの言いだったが、返答を考える前に消えたので、俺は考えることをやめた。
俺にはもっとやるべきことがある。盲目のゲンの逆探知は予想以上の速度で迫ってきている。一定速度ではない。慣れによる加速が見られる。悠長にしていられない。
俺は三匹目、最後のイーターを盲目のゲンへとぶつけた。
ソードフライを運ぶ際は空気で胴体を掴んで無理矢理移動させ、盲目のゲンの前で解き放った。
こいつの場合はイーターの本能に任せたほうが回避率は上がるだろう。ソードフライは自在に飛びまわってこそ真価を発揮する。
ソードフライはトンボの姿をしているが、その動きはトンボのそれとは異なる。
トンボのように同じ場所に滞空しつづけることも可能だが、一度動きだすと、それはもはや戦闘機だった。
進路上にあるものを鋭い羽で切り裂きながら、ものすごいスピードで飛ぶ。急旋回も可能だし、上下反転や回転といったアクロバット飛行もする。
俺は魔法が空気だからこそ奴を簡単に捕まえられたが、水では苦戦するはずだ。
そして早く捕まえるか殺すかしなければ、気づいたときには細切れにされている。
盲目のゲンは無数の水滴を乱雑に飛ばして攻撃した。
だがソードフライはそれを巧みにかわす。まったく被弾しないわけではなく、羽に当たってもテニスボールのようにたやすく弾いてしまうのだ。
ソードフライの本体は細長い棒のような形状で、これに攻撃を当てるのは難しい。
ソードフライは水の攻撃を縦横無尽に避けながらも少しずつ獲物の盲目のゲンに近づいていた。
盲目のゲンは水の網で捕らえようとするが、ソードフライの羽がそれを切り裂くため、前進を妨げることができない。
「行ける! こいつなら……」
期待の高まりに胸を躍らせ、俺の口角が吊り上ったその瞬間、俺は緩んだばかりの頬を強張らせ、閉じていた目を見開く羽目になった。
空気で作った自分のダミーが水の槍で串刺しにされた。
「馬鹿な! こんなに早く!」
想定外のタイミング。
盲目のゲンの逆探知が加速していたことは知っていた。ただ、逆探知の間、加速は続いていた。加速途中の速度で探知の到着速度を再計算したところで、それは価値のない予測だった。
加速という概念の、計算する上での落とし穴に注意することを怠った俺のミスだ。
血が出ていないため、俺の姿をした空気が分身だったことはバレているだろう。
水の槍は空気中に水の粒子となって拡散し姿を消した。盲目のゲンもこの近辺で空間把握モードを広げて俺を探しはじめたようだ。
気がつくとソードフライの動きはさっきまでのアクロバット飛行が嘘のように鈍化していた。鳥がナマケモノになったかのようにゆっくり動く。
羽には水がまとわりついていた。粘度を高めた水を使ったのだろう。何度も切り裂いているうちに、それが少しずつ羽に付着し、積み重なって重みを増し、ソードフライからスピードを奪った。
最後にはソードフライはあっけなく水の弾丸によって貫かれ飛散した。
完全に形勢逆転。
今度は俺が盲目のゲンの猛攻を凌ぐ番だ。
さっきまで自分がいた場所で空気を自分の姿に固めた。空気分身とでも言おうか。透明な影武者だ。技に名前をつけるならば、ゲスト・インバイト、といったところだろう。
この偽装でどれほどの時間が稼げるだろうか。攻撃を受けた際に相手の攻撃によって死んだと思わせられれば理想だが、まず間違いなく看破される。
攻撃についてだが、本命の攻撃とは別に、相手の逆探知への集中力を削ぐため、そして本命の攻撃に気づかれないために、コンスタントに攻撃を続けなければならない。発想力とセンスが問われるところだ。
俺はすでに行動を起こしている。ザハート周辺を広範囲にサーチして公地を徘徊するイーターを探し、それを誘導する。空気で作った疑似餌で釣り、ザハートへとおびき寄せる。
誘導できたイーターは三匹。
エアに光景を可視化してもらい、それぞれ確認する。
一匹目はサイのようなボディの前半身に十数個の口がついており、前足の肩の部分から先が鎌状の腕が生えている。
全身を褐色の硬皮に覆われているが、頭部だけは毛むくじゃらで目と鼻と耳がその小さな領域に密集している。
名前をつけるとすれば、安直にサイカマキリといったところだろうか。
二匹目は姿はほぼ馬だが、その頭部が特長的だった。馬の口の部分がタコの漏斗のように細長い出っ張りになっていて、そこから黒い弾丸を発射する。
おそらく弾丸の正体は糞だろう。しかしその弾丸は岩をも砕く強固な物質で、無尽蔵に発射される。ときには連射されることもある。
実際のタコの口は漏斗が口のように見えるが、漏斗は口ではない。口は八本の脚のつけ根の部分にある。
ではこのイーターの場合どこに口があるのかというと、後頭部だ。漏斗で得物を射抜いて動かなくなったところに、頭を垂れて後頭部の口にある硬い歯でバリバリと噛み砕く。
俺はこいつをガンホースと名づけた。
三匹目は虫型イーターだ。
一見するとただのトンボだが、油断して近づくと非常に危険。そいつが狩りモードになると、虹色の四枚の薄羽が硬質化し鋭くなる。非常に素早く縦横無尽に飛びまわり、その軌道上にあるあらゆる物をことごとくすっぱりと切り裂いてしまう。
ソードフライと名づけよう。
この三匹を同時に盲目のゲンへとぶつけられれば理想的だが、イーターというのは基本的に見境がなく、イーター同士で喰らい合うことも多い。
だからこの三匹を引き合わせることなく個別に盲目のゲンへとぶつける。
最初はサイカマキリだ。
空気で作った疑似餌でザハートへと誘う。
サイカマキリは獲物が間合いに入った瞬間、二本の鎌を目で捉えられないスピードで振りまわす。人間の反応速度でそれを避けるのはおそらく不可能だ。
前半身にたくさんの口が付いているのは、切り刻まれて宙に舞った得物をできるだけ多くすくい上げるように食らうためだろう。
俺の疑似餌は何度も切り刻まれるが、空気なのでサイカマキリの間合いに入っても前方を逃げつづけられる。
岩陰に隠れていた二人の巫女に対し、盲目のゲンが護神中立国の奥の方へ避難させつつ、人払いをするよう指示を出した。
リオン帝国、ジーヌ共和国の国境検問所も危機を察知して完全に閉じてしまっている。
もはやザハートに存在する人間は盲目のゲンのみ。それは俺にとっても都合がいい。
誘導されたサイカマキリは盲目のゲンを見つけるや、一直線にそちらへと走った。サイカマキリの間合いに入れば、おそらく盲目のゲンでも防御も回避もできない。
サイカマキリの前方で収束した水の玉から、強力な水のレーザーがサイカマキリの胴体をめがけて発射される。
それを俺は空気の盾で受けて軌道を反らせた。
サイカマキリはどんどん盲目のゲンに近づいていく。サイカマキリには期待していなかったが、この調子ならば案外こいつで盲目のゲンをやれるかもしれない。
盲目のゲンは収束した水の玉を破裂させ、無数の弾丸と化した水でサイカマキリを攻めた。
俺はサイカマキリの前方を開きかけの傘のように尖った空気で覆い、すべての水を弾いた。
角度が足りず弾けなかった水は空気を貫通してサイカマキリを刺したが、タフなイーターは多少の傷をものともしなかった。
だが盲目のゲンの攻撃は終わっていない。弾かれた水の弾は円弧を描いてサイカマキリの後方から攻め立てた。
俺は空気でサイカマキリの背中も尻も腹も守った。
あと三歩。一秒後には盲目のゲンがサイカマキリの射程圏内に入る。
俺は勝利の予感に胸を高鳴らせた。
そして柄にもなく激しい独り言を放つ。
「よし、行けっ!」
しかし、やはりE3の一人ともなればそう甘くはない。
あと一歩というところで、サイカマキリの全身から水が噴き出し、その水は緑色に変わった。空間把握モードでは色を知ることはできないが、エアの可視化映像で光景が見えている。
緑色の水、それは血だ。
どうやら盲目のゲンは、水を地中に走らせ、サイカマキリの接地した足へと打ち込んだようだ。そして体内から放射状に水を走らせ、イーターを内側から破壊した。
一匹目は失敗に終わったが惜しかった。
三匹のイーターを同時に盲目のゲンにぶつけるべきだったかもしれないと後悔するが、三匹を同時にぶつけると盲目のゲンだけでなく俺まで魔法の制御が追いつかなくなる。
ゆえに、それは無意味な後悔だったという結論に至る。
切り替えて二匹目のイーターを駆り立てる。
二匹目はガンホース。
今度は地中からの攻撃に備えてガンホースを包んで宙へと浮かせる。
つまり二匹目のイーターの移動を俺が受け持つということだ。
ガンホースは宙を縦横無尽に舞い、角度を連続で変えながら糞弾を連射する。
盲目のゲンは水の盾を広範囲に展開してそれを阻むが、弾丸が糞ゆえに盾の表面にベチャリと塗りつく。
空間把握モードで景色を見ている俺と盲目のゲンには視界が遮られるということは起こらないが、ガンホースだけが得物を見失ってしまった。
ガンホースは得物を探すように辺り構わず四方八方へと糞弾を連射した。糞なので臭う。遠方の俺にはその臭いが分からないが、おそらく臭い。
盲目のゲンもさすがにザハートをこれ以上汚されたくないと力が入ったようで、いつのまに集めていたのか、上空に一瞬で拳大の水の球を作ったかと思うと、それをガンホースの背中へと落とした。俺がとっさに空気の盾を張るが、それを難なく貫通してガンホースの胴体を貫き大穴を開けた。
体を破壊されたガンホースは最後にはいななくことも許されず、長い首を垂れた。
漏斗からは発射準備段階だった糞の塊がボトボトと落ち、胴体の風穴から赤い血がドロッと流れ出て事切れた。
「瞬殺されたな」
「エスト、罪悪感?」
エアが不安気に語りかけてくる。
姿は現していないため表情は見えないが、ずいぶんと人間らしい抑揚を得た声からは、短い発声からでもその感情が垣間見えるようになっていた。
「イーターに罪悪感なんぞ抱くものか。死のイメージがないところに死を与えられて少し驚いただけだ」
「エスト、感情がおいしくない」
「おいしい感情をよこせって? 要望か? 贅沢なやつめ、おまえもだいぶ感情が芽生えてきたようで何よりだ。エア、少し待っていろ。勝利の味を味わわせてやる」
「勝利の味がおいしいとは限らない」
そう言うと、エアの気配が消えた。意味深なもの言いだったが、返答を考える前に消えたので、俺は考えることをやめた。
俺にはもっとやるべきことがある。盲目のゲンの逆探知は予想以上の速度で迫ってきている。一定速度ではない。慣れによる加速が見られる。悠長にしていられない。
俺は三匹目、最後のイーターを盲目のゲンへとぶつけた。
ソードフライを運ぶ際は空気で胴体を掴んで無理矢理移動させ、盲目のゲンの前で解き放った。
こいつの場合はイーターの本能に任せたほうが回避率は上がるだろう。ソードフライは自在に飛びまわってこそ真価を発揮する。
ソードフライはトンボの姿をしているが、その動きはトンボのそれとは異なる。
トンボのように同じ場所に滞空しつづけることも可能だが、一度動きだすと、それはもはや戦闘機だった。
進路上にあるものを鋭い羽で切り裂きながら、ものすごいスピードで飛ぶ。急旋回も可能だし、上下反転や回転といったアクロバット飛行もする。
俺は魔法が空気だからこそ奴を簡単に捕まえられたが、水では苦戦するはずだ。
そして早く捕まえるか殺すかしなければ、気づいたときには細切れにされている。
盲目のゲンは無数の水滴を乱雑に飛ばして攻撃した。
だがソードフライはそれを巧みにかわす。まったく被弾しないわけではなく、羽に当たってもテニスボールのようにたやすく弾いてしまうのだ。
ソードフライの本体は細長い棒のような形状で、これに攻撃を当てるのは難しい。
ソードフライは水の攻撃を縦横無尽に避けながらも少しずつ獲物の盲目のゲンに近づいていた。
盲目のゲンは水の網で捕らえようとするが、ソードフライの羽がそれを切り裂くため、前進を妨げることができない。
「行ける! こいつなら……」
期待の高まりに胸を躍らせ、俺の口角が吊り上ったその瞬間、俺は緩んだばかりの頬を強張らせ、閉じていた目を見開く羽目になった。
空気で作った自分のダミーが水の槍で串刺しにされた。
「馬鹿な! こんなに早く!」
想定外のタイミング。
盲目のゲンの逆探知が加速していたことは知っていた。ただ、逆探知の間、加速は続いていた。加速途中の速度で探知の到着速度を再計算したところで、それは価値のない予測だった。
加速という概念の、計算する上での落とし穴に注意することを怠った俺のミスだ。
血が出ていないため、俺の姿をした空気が分身だったことはバレているだろう。
水の槍は空気中に水の粒子となって拡散し姿を消した。盲目のゲンもこの近辺で空間把握モードを広げて俺を探しはじめたようだ。
気がつくとソードフライの動きはさっきまでのアクロバット飛行が嘘のように鈍化していた。鳥がナマケモノになったかのようにゆっくり動く。
羽には水がまとわりついていた。粘度を高めた水を使ったのだろう。何度も切り裂いているうちに、それが少しずつ羽に付着し、積み重なって重みを増し、ソードフライからスピードを奪った。
最後にはソードフライはあっけなく水の弾丸によって貫かれ飛散した。
完全に形勢逆転。
今度は俺が盲目のゲンの猛攻を凌ぐ番だ。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる