残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

文字の大きさ
152 / 302
第四章 最強編

第151話 人成①(※挿絵あり)

しおりを挟む
 リオン帝国から黄昏たそがれ寮に戻ったときには昼を過ぎていた。
 いまさら授業を受けに学院におもむくほど俺は真面目な人間ではない。授業は休んだのではなくサボったのだ。
 急激な眠気が押し寄せてきて、俺は床にいた。

 俺が目を覚ましたのは、空をだいだい色に染める黄昏時であった。
 俺の部屋は天井と壁が一部壊れていて、時間帯によっては日光がもろに室内を刺してくる。この時期のこの時間帯はまさにそれで、俺が目を覚ましたのも目蓋まぶた越しに強烈な光を感じたからだった。

 しかし、俺が起きて最初に見たのは外の景色ではない。逆光に照らされた人影だった。
 俺は寝るときは部屋を空気の壁で覆うため、誰かが室内に侵入することはできない。だから、その人影の正体として必然的に一人の少女が導き出される。

「珍しいな、エア。俺が呼んだわけでもないのに顕現けんげんしているなんて」

 俺が上体を起こしてエアにそう話しかけると、エアが俺に近づいてきて、さらに顔を近づけた。

「うん。これで、契約完了だから」

 エアの顔がさらに接近し、その唇が俺の唇に触れる。

 柔らかい。柔らかいが、それは空気の柔らかさだ。
 エアはいまとなっては完全に人間の少女の容姿となっていて、本物の人間と区別がつかない。ただ、実際に彼女に触れると、彼女が空気であることを実感する。

 二つの唇が離れ、エアは身を引いた。俺がエアの顔をボーっと眺めていると、エアはニコッと微笑んだ。
 そして、彼女の身体はうっすらと発光しはじめる。
 純白の長髪がキラキラと輝いてとても綺麗だ。白い光が陽光の黄色を押さえつけようとしているかのように、だんだんと強く、鋭く、光量を増していく。
 そしてピークを迎え、ひときわ眩しいと感じて腕で光をさえぎった。
 その発光は一瞬だった。
 光はみるみる退いていく。
 腕を下ろすと、雰囲気がさっきと変わっているエアの姿があった。

 少し大人びた。
 脇まで伸びる長い黒髪、大きな黒い瞳、小さく尖った鼻、瑞々みずみずしい桃色の唇。透き通るように白いほおもまた桃のようであった。

 精霊のときは十代前半相当の少女だったが、いまは十代後半相当となっている。
 身長は俺と同じか少し低いくらいだろうか。華奢きゃしゃそうな体だが、凛としたたたずまいは帝国の騎士を想起させる。
 服は相変わらず白いワンピースのみだが、彼女のかもし出す空気からすると別人に見えた。

 精霊のときは空気で作ったワンピースを着ていたが、人成してもそのワンピースが消えないということは、人成の準備として本物のワンピースを着ていたのだろう。用意周到だ。

「人成、したのか……。おめでとう」

「ありがとう」

 俺はベッドの枕元にあるチェストの引き出しを開け、そこから小箱を取り出した。
 その箱を開け、中から取り出したものをエアの髪につけ、鏡を見せてやった。

「これは……?」

 髪飾りだ。
 弓なりな羽の形をしたダイヤモンドの枠の中に、星型のブルーダイヤとピンクダイヤがはめ込んであり、星の形をした小さな金がアクセントとして表面に載っている。

 この世界では転移前の世界とは違いダイヤモンドが安い。加工も炭素か石かを操作できる魔導師がやっているのだろう。だが、金が載っている分、この星羽の髪飾りは少し値が張った。

「人成祝いだ。そろそろだろうと思って用意しておいたんだ。買った後にまだかまだかとだいぶ待つ羽目になったがな」

 エアは鏡を覗き込みながら、しきりに髪飾りを触っていた。

「……ありがとう」

 エアはそう言ってから、俺の方に向き直った。
 そして、ニコリと微笑んだ。

 そのとき、俺は空気の異変を感じ取ってとっさに飛び退いた。
 ベッドがスッパリと切断され、骨格をなす金属と床石が衝突音を立てて、ベッドは「く」の字になった。

「おい、なにしやがる!」

 そう驚いたようなことを言いつつも、実は警戒していた。エアという魔術師を。
 それはエース大統領の預言があったからだ。
 俺を打ち負かすほどの魔術師が現われるという預言。そんな奴が現われるとしたら、それはきっとエアだろうと踏んでいた。
 だから俺は、エアが人成するときには空間把握モードを展開して最大限の警戒をしておこうと決めていたのだ。

「私は人成した。あなたは用済みよ。消えて」

「…………」

 聞き捨てならない暴言が聞こえたが、俺はその事態を受け入れるより先に自分の耳を疑った。
 エアの真意が分からない。
 俺を襲う動機が分からない。
 俺とずっと一緒だったくせに、そんなリスキーな行動に及ぶほど愚かに育つはずがない。
 彼女の言葉を曲解せずに間に受ければいいのだろうか。彼女はいつも愚直に素直だった。
 それが魔術師となったいまも同じかは分からない。

 理由がどうあれ、俺は契約を完遂させて彼女を立派に魔術師にしたというのに、その俺に対して致死レベルの攻撃をしかけてくるなど許されることではない。
 俺は殺意に敏感だ。

「まるでメスのカマキリだな。カマキリのメスは交尾した後にオスを食うらしいからな」

「一丁前なことを言っているけれど、あなた、童貞じゃないの」

「…………」

 煽り耐性は高いつもりだったが、いまの言い回しはさすがに頭に来た。特に「一丁前なことを言っているけれど」という枕詞まくらことばが妙に刺さったのだ。

「分かった。いいだろう。エア、おまえを極刑に処す! 覚悟しろよ。いや、覚悟なんてしなくていい。おまえが覚悟しようがしまいが関係なく極刑に処す」

 もっとも、処す前に理由だけは確認してやる。理由しだいでは獄刑もあり得るし、逆に情状酌量じょうじょうしゃくりょうもあり得る。

「あなたでは私に勝てない。そんなに頭に血が昇っていたら、なおさらね」

 即座に空気の刃を二回放ったが、エアはそれを水中の魚のように軽くかわした。
 俺は空間把握モードのためにリンクを張っていた空気を手元に集めはじめた。しかし空気の動きが鈍い。
 その原因には察しがついた。エアもまた空間把握のために空気へリンクを張っているのだ。
 エアのリンクを奪うことはできないし、エアが俺のリンクを奪うことはできないようだ。
 つまり、先にリンクを張った者勝ちということになる。

 俺は即座に空を見上げ、見渡す限りの空気にリンクを張った。
 しかし、リンクを張れたのは半分程度だった。残りはおそらくエアがリンクを張ったのだ。
 魔法を使う技術は五分ごぶといったところだろう。

「執行モード!」

 俺は空気を集めて身を固めた。柔と剛を兼ね備える空気の鎧。このモードの俺に近接戦闘で勝てる人間などいない。
 この大きく開いたアドバンテージを、エアのひと言が帳消しにした。

「執行モード」

 俺と同じ技をエアが使ったのだ。
 執行モードは俺がオリジナルのアイディアで編み出した技で、しかも難易度の高い技なのだが、それをいともたやすく模倣もほうしてしまった。
 試しに殴りかかってみるが、エアは俺の拳をきっちり受けとめた。口先だけの模倣ではない。実際に執行モードを発動している。

「それにしても……」

 俺にはさっきから気になっていることがあった。
 そして、俺の中でくすぶっていた小さなボヤは明確な大火たいかとなった。
 その何より重要で大きな疑問を、俺は口にする。

「おまえ、なんで魔術師になってもまだ魔法が使えるんだよ」

 さっきベッドを二つに割ったのは、たしかに空気の刃だった。それも金属を切断するほどの、極めて質の高い魔法だ。空気の操作型魔導師である俺には分かる。それに執行モードも空気を操作できなければ成立しない。
 一般常識として、精霊が人成して魔術師になったら、その者は新しく魔術を得る代わりに、精霊だったころの魔法は使えなくなるはずだ。
 魔法が使える魔術、そんなものが存在するのだろうか。

「教えない。あなたに情報を与えない」

 俺のことをよく分かっていやがる。ということは、エアが精霊だったころの記憶も引き継いでいるということ。
 精霊時のエアには俺への感謝はなく、恨みがつのっていたということなのか。
 俺が使ったことのある魔法はすべてエアも使えるだろう。魔法の技術とパワーはほぼ互角。だったらいかに新技を編み出すか、または既存の技の使い方をひねるか、おそらくはそういったアイディア勝負になる。
 幸いなことに、新技はいくつか考えてあった。一度使えば模倣される可能性が高いので、出し時が重要だ。

 まずはどんな技でも出せる状況を作らなければならない。
 その最低限の条件は空に位置取ること。どんな技でも繰り出せるように、見渡す限りの大量の空気に即座にリンクが張れる必要がある。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

処理中です...