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第五章 王国編
第184話 大罪
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「ご苦労様」
ミューイは衛兵に言葉をかけ、シミアン王城の門の前に立った。
しかし、門の入り口を塞ぐ格子状の扉は開かない。それどころか、二人の衛兵に槍を突きつけられてしまった。
「早急に立ち去れ。ここは下民が近づいていい場所ではない」
ミューイは衛兵に思いもよらぬ言葉を浴びせられ、カッとなった。
しかし気持ちは抑えた。たしかにいまのミューイの格好は汚らしいものだった。洞窟でトラップから逃げまわり、ハリグマと戦ったのだから、ブラウスもワンピースも、何箇所も破れて泥だらけになっている。品格の高さは完全に失われている。
「私はミューイ・シミアンです。第三王女ですよ。ここを通しなさい」
「貴様、このシミアン王国において王家の名を騙ることが極めて重罪であることは知っているな? しかも第三王女はイーターに襲われて亡くなったばかりだ。だというのに、不謹慎、不敬、不埒極まりない! ただちにひっ捕らえてやる!」
なんと、ミューイはイーターに襲われて亡くなったことにされていた。挙句の果てに王女の名前を語ったとして罪人にされてしまった。
王国において王家の名を語ることは最も罪が重い犯罪行為である。なんとしても自分が生きていることを知らしめねば、今後は自分の名前を名乗ることもできなくなってしまう。
ミューイは門から見える場所に人影を見つけた。
姿勢のいい黒いスーツをまとう白髪の老人。庭師のガーディーだった。彼はミューイが最も信頼を寄せている使用人である。
使用人の中には王家の人間にとってのお気に入りが存在し、彼らには特権が与えられる。
庭師ガーディーもその一人で、ミューイによって第二級特権が与えられていた。門を守護する衛兵なんかとは別格の上位の地位にある。
ミューイは衛兵に乱暴に掴まれながらもガーディーを呼んだ。
ガーディーが声に気がつき振り向く。その瞬間、ミューイは衛兵に突き飛ばされ、槍の切っ先を突きつけられた。
「これ以上の狼藉はさせん!」
槍がミューイの喉元に突きつけられる。
だが、ここで殺されはしないはず。王家の名を騙る不届き者は拷問にかけられ、理由を問い詰められる。国家転覆を企てていないかと、みっちりと調べあげられる。
だがミューイは本物の第三王女なのだ。調べれば本物だとすぐに分かる。ガーディーが来てくれたら、そうなるまでもなく本物だと証明してくれる。
この頭の固い衛兵たちにはあとで説教をしてやろう。
「王家からお達しが出ている。第三王女が亡くなり王国が喪に服す中で、よりにもよって第三王女を騙るような不敬極まる輩が万一にも現われた場合には、即刻処刑せよとのことだ。貴様はこの場で処刑する!」
「そんな! ガーディー! 助けて、ガーディー!」
王家の? お達し? ミューイの脳裏を黒い稲妻が走った。
まるで先回りだ。こうなることを予想していたかのようではないか。
きっと第一王女か第二王女だ。少しでも王位継承権を有する者を排除しようと、私を謀殺する気なのだ。馬車がイーターに襲われたのも、すべて仕組まれたものだったに違いない。
「待ちなさい!」
衛兵の後方、鉄格子の門の向こう側から体格のいい老人が駆け寄ってくる。
槍を振り上げた衛兵も特権持ちのガーディーに止められたら強行はかなわない。少なくとも、王家のお達しとどちらを優先すべきか吟味せざるを得ない。
そして、次の瞬間……。
「あれ?」
それは瞬きをしたわずかな間のうちに起こった。
ミューイの眼前に広がる景色がまるで変わっていた。遠く離れた所に王城が見えるではないか。
「大丈夫かい、お嬢さん?」
見慣れない格好の少年が隣に立っていた。
異国人だとしても、帝国でもなければ共和国でもなさそうだ。服装以外にはこれといって特徴がないが、服装がまるで見たこともないもので悪目立ちしている。
「何が起こったの?」
「僕が魔法で助けたんだ。兵士に槍で殺されそうになっていただろう?」
「なんてことを……」
それはあまりにも余計なことだった。もう少しでガーディーが身分を証明してくれて王城に入れたところだったというのに。
もはやミューイは完全に第三王女の名前を騙って逃亡した大罪人と成り下がってしまった。
ミューイは少年に対して殺意が沸いたが、頭を振って邪念を振り払った。
彼は善意で助けてくれたのだ。善行に対しては礼を尽くすのが正しきおこないだ。
「ありがとう……」
ミューイはつぶやくように、無理矢理押し出すように、その綺麗な言葉を捻り出した。
しかし、涙が止まらなかった。それは悔し涙だ。
王位継承争いなんかに興味はないのに、兄姉たちは勝手に自分を巻き込んで陥れた。ハリグマに襲われた自分をかばって、側近や護衛騎士たちはことごとく命を失った。
命からがらどうにか王城内に帰れそうになったところを迷惑な善意によって邪魔され、そのおかげで大罪人となってしまった。
負のイメージがぐるぐると頭の中を回る中で、さらに嫌な予感、いや、その可能性に気がついた。
「……ガーディーが心配だわ!」
自分のせいでガーディーが危機に陥っていないだろうか。
自分がいなくなったことで特権を剥奪されていないだろうか。
罪人を逃がした責任を追及されていないだろうか。
ミューイは苦しくなって、胸を押さえてうずくまった。
「おいおい、大丈夫かい?」
少年がミューイの肩を掴んだが、ミューイは即座にそれを打ち払った。
「お願いだから一人にして!」
「お、おう、ごめんな」
少年は気まずそうに去っていった。
ミューイは衛兵に言葉をかけ、シミアン王城の門の前に立った。
しかし、門の入り口を塞ぐ格子状の扉は開かない。それどころか、二人の衛兵に槍を突きつけられてしまった。
「早急に立ち去れ。ここは下民が近づいていい場所ではない」
ミューイは衛兵に思いもよらぬ言葉を浴びせられ、カッとなった。
しかし気持ちは抑えた。たしかにいまのミューイの格好は汚らしいものだった。洞窟でトラップから逃げまわり、ハリグマと戦ったのだから、ブラウスもワンピースも、何箇所も破れて泥だらけになっている。品格の高さは完全に失われている。
「私はミューイ・シミアンです。第三王女ですよ。ここを通しなさい」
「貴様、このシミアン王国において王家の名を騙ることが極めて重罪であることは知っているな? しかも第三王女はイーターに襲われて亡くなったばかりだ。だというのに、不謹慎、不敬、不埒極まりない! ただちにひっ捕らえてやる!」
なんと、ミューイはイーターに襲われて亡くなったことにされていた。挙句の果てに王女の名前を語ったとして罪人にされてしまった。
王国において王家の名を語ることは最も罪が重い犯罪行為である。なんとしても自分が生きていることを知らしめねば、今後は自分の名前を名乗ることもできなくなってしまう。
ミューイは門から見える場所に人影を見つけた。
姿勢のいい黒いスーツをまとう白髪の老人。庭師のガーディーだった。彼はミューイが最も信頼を寄せている使用人である。
使用人の中には王家の人間にとってのお気に入りが存在し、彼らには特権が与えられる。
庭師ガーディーもその一人で、ミューイによって第二級特権が与えられていた。門を守護する衛兵なんかとは別格の上位の地位にある。
ミューイは衛兵に乱暴に掴まれながらもガーディーを呼んだ。
ガーディーが声に気がつき振り向く。その瞬間、ミューイは衛兵に突き飛ばされ、槍の切っ先を突きつけられた。
「これ以上の狼藉はさせん!」
槍がミューイの喉元に突きつけられる。
だが、ここで殺されはしないはず。王家の名を騙る不届き者は拷問にかけられ、理由を問い詰められる。国家転覆を企てていないかと、みっちりと調べあげられる。
だがミューイは本物の第三王女なのだ。調べれば本物だとすぐに分かる。ガーディーが来てくれたら、そうなるまでもなく本物だと証明してくれる。
この頭の固い衛兵たちにはあとで説教をしてやろう。
「王家からお達しが出ている。第三王女が亡くなり王国が喪に服す中で、よりにもよって第三王女を騙るような不敬極まる輩が万一にも現われた場合には、即刻処刑せよとのことだ。貴様はこの場で処刑する!」
「そんな! ガーディー! 助けて、ガーディー!」
王家の? お達し? ミューイの脳裏を黒い稲妻が走った。
まるで先回りだ。こうなることを予想していたかのようではないか。
きっと第一王女か第二王女だ。少しでも王位継承権を有する者を排除しようと、私を謀殺する気なのだ。馬車がイーターに襲われたのも、すべて仕組まれたものだったに違いない。
「待ちなさい!」
衛兵の後方、鉄格子の門の向こう側から体格のいい老人が駆け寄ってくる。
槍を振り上げた衛兵も特権持ちのガーディーに止められたら強行はかなわない。少なくとも、王家のお達しとどちらを優先すべきか吟味せざるを得ない。
そして、次の瞬間……。
「あれ?」
それは瞬きをしたわずかな間のうちに起こった。
ミューイの眼前に広がる景色がまるで変わっていた。遠く離れた所に王城が見えるではないか。
「大丈夫かい、お嬢さん?」
見慣れない格好の少年が隣に立っていた。
異国人だとしても、帝国でもなければ共和国でもなさそうだ。服装以外にはこれといって特徴がないが、服装がまるで見たこともないもので悪目立ちしている。
「何が起こったの?」
「僕が魔法で助けたんだ。兵士に槍で殺されそうになっていただろう?」
「なんてことを……」
それはあまりにも余計なことだった。もう少しでガーディーが身分を証明してくれて王城に入れたところだったというのに。
もはやミューイは完全に第三王女の名前を騙って逃亡した大罪人と成り下がってしまった。
ミューイは少年に対して殺意が沸いたが、頭を振って邪念を振り払った。
彼は善意で助けてくれたのだ。善行に対しては礼を尽くすのが正しきおこないだ。
「ありがとう……」
ミューイはつぶやくように、無理矢理押し出すように、その綺麗な言葉を捻り出した。
しかし、涙が止まらなかった。それは悔し涙だ。
王位継承争いなんかに興味はないのに、兄姉たちは勝手に自分を巻き込んで陥れた。ハリグマに襲われた自分をかばって、側近や護衛騎士たちはことごとく命を失った。
命からがらどうにか王城内に帰れそうになったところを迷惑な善意によって邪魔され、そのおかげで大罪人となってしまった。
負のイメージがぐるぐると頭の中を回る中で、さらに嫌な予感、いや、その可能性に気がついた。
「……ガーディーが心配だわ!」
自分のせいでガーディーが危機に陥っていないだろうか。
自分がいなくなったことで特権を剥奪されていないだろうか。
罪人を逃がした責任を追及されていないだろうか。
ミューイは苦しくなって、胸を押さえてうずくまった。
「おいおい、大丈夫かい?」
少年がミューイの肩を掴んだが、ミューイは即座にそれを打ち払った。
「お願いだから一人にして!」
「お、おう、ごめんな」
少年は気まずそうに去っていった。
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