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第五章 王国編
第201話 たまご・にわとり戦争
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さて、《きのこ・たけのこ戦争》は治まったが、戦争はもう一つ残っている。その戦争というのが《たまご・にわとり戦争》である。
こちらの発生原因はさらにしょうもない。鶏の起源は卵の突然変異によるものか、進化により鶏になったのか、この主張が二国のトップで分かれてしまったのだ。それぞれ国のトップとしての面目があるので引き下がれない。
「まったく、度し難い!」
何人もの国民の命を失いながら守る面目にどれほどの価値があるというのか。これが互いの島に乗り込んで人を殺すほど重要なことだとはとうてい思えない。
こんな戦争、とっとと終わらせてやる。
「エア、また頼む」
「分かった」
再び戦争をする両国に光のモニターが出現した。そこには俺の姿がでかでかと映し出されている。
「即刻戦争を中止せよ。これは世界王の命令である。知識も持たぬ者が乏しい根拠で自分が正しいと決めつけ、あまつさえその考えを他人に押しつけて感情的に争うなど言語道断。おまえたちには議論する資格はない。資格があるとすれば、進化や遺伝について学術的な議論ができる学者くらいのものだ」
俺の宣言はたしかに二国全土に届いていたはずだ。だが争いは収まらなかった。引き下がれない段階まできてしまったのかもしれない。きっかけは本当にしょうもないことなのに、争いですでに多くの血が流れてしまっている。
争いの原因はもはや《たまご・にわとり》ではなくなっている。殺された数をどれだけ殺した数で取り戻すか、その報復合戦と化していた。
「聞け! これは世界王としての命令だ。争いをやめよ。これは法である。これ以後、手を出した者、手を出させた者は単なる殺人者と見なし、即死刑とする」
一瞬、武器を振りまわす手はやんだ。彼らとてシミアン王国最強と謳われる騎士をあっさり倒した人物を恐れないはずがないのだ。
ただ、彼らにはどうしようもなく致命的な弱点があった。
それは、扇動されやすいことだ。
「そうだそうだ! ここで止まれるか! 引き下がったら負けだ!」
誰かが叫び、天に向けて剣を突き上げた。何者をも恐れぬその気概に感化された者たちが次々に武器を振りかざし、歓声をあげる。
そして、再び殺し合いが始まった。
俺は空気の操作で強制的に全員の動きを止めた。俺が空気を固めたので、みんな岩の中に埋め込まれたみたいに身動きが取れなくなっている。
俺は再び声を張り上げた。
「議論するだけなら好きにするがいい。だがおまえたちの議論は、文明や文化の発展につながりはしない。それどころか戦争に発展してむやみに血を流すだけだ。おまえたちは俺の命令に逆らった罪人だ。いずれ裁きを与える。震えて待て」
これほど倫理感や道徳観の欠如した民族は、世の平和のためにも滅び消え去ったほうがいい。
だが俺はそれをまだしない。単に民族性の違いとして切り捨てる前に、教育によって改善できないかを模索すべきだ。
本当はこんなことに頭を悩ませるために世界王になったのではない。単に世界の人間と俺を関連づけることだけが目的だった。俺は赤の他人を助けるために戦えるほどお人好しではない。むしろ正反対の人でなしなのだ。
かといって、彼らを切り捨てたら紅い狂気の餌となって俺は絶対に紅い狂気に勝てない。
「ねえ、エスト。この戦争はどう決着をつけるの?」
モニターを消したエアが俺の横にフワリと飛んできた。
ワンピースが風にはためいている。自分の周囲の空気を完全には固めていないようだ。たしかにそのほうが入ってくる情報もあるというもの。
「さっきの奴、『そうだそうだ』と言っていたな。つまり、こいつが周りを扇動したのではなく、こいつのことを扇動した奴がいる」
「私、捕捉しているわよ」
「でかした! よし、そいつをここへ連れてきてくれ」
「分かった」
エアは闇の魔法でその者を俺たちの正面へとワープさせた。
そいつは紺のフード付きケープで顔を隠していたが、俺が引ん剥くと、そこにあったのはシミアン王国第一王子の姿だった。
「おまえ、世界王の命令に背き、あまつさえ連合国民を扇動した罪、それがどれほど重いか分かっているな?」
「勝手なことを言うな! 俺はあんたを世界王だなんて認めていない」
「おまえもまだ理解していないようだな。俺は人民の代表者ではない。支配者なのだ。おまえたちが俺の命令に背きたいのならば、俺を力ずくで引きずり落とすしかない。できないならおとなしく従え。拒む者は処刑する」
俺は固めた空気を動かして、第一王子の四肢を万力で動かすようにゆっくりと捻っていった。
「痛い痛い痛い痛い! やめてくれっ!」
「なぜ戦争を起こした? 《たまご・にわとり》論争ごときが戦争に発展するわけがない。おまえが暗躍していたんだろ?」
「あいつらは蛮族だ。野蛮すぎて国家の体すら維持できない。より野蛮な奴をフルイにかけてマシな人間を選別し、その後に俺が統治してやるつもりだったんだ」
「おまえ、俺なんかよりよっぽど残虐非道だな。実質、おまえは大量虐殺犯だ。俺はおまえを裁く。公開処刑だ」
再びエアにモニターを出してもらい、戦争の黒幕として、斬首にて第一王子の公開処刑を執行した。
そしてその後、戦争をしていた両国のトップに戦争の終結を宣言させるところまでを公開し、俺の目的は達成した。
俺たちは見納めに上空へと飛び、連合の諸島を見渡す。
「はあ、疲れた。罪人とはいえ、人の命を奪うのは気が滅入る。帰ろう、エア」
俺はひどく喉が渇いていたが、エアの美しい顔に癒され、心は潤いに満たされる。
俺は彼女にとっていちばん近い存在ではあるが、人成した彼女はもう俺のものではない。今度は恋人として彼女を手に入れたいという気持ちは日ごとに少しずつ増していく。
しかし、一方でそうなることへの不安もあった。俺の最愛の存在が、紅い狂気に目をつけられないはずがないからだ。
「エスト、後ろ!」
恐怖に歪んだエアの顔に思わずギョッとした。
後ろを振り返った俺は、さらにギョッとして、おそらくエアと同じ顔をしていただろう。
こちらの発生原因はさらにしょうもない。鶏の起源は卵の突然変異によるものか、進化により鶏になったのか、この主張が二国のトップで分かれてしまったのだ。それぞれ国のトップとしての面目があるので引き下がれない。
「まったく、度し難い!」
何人もの国民の命を失いながら守る面目にどれほどの価値があるというのか。これが互いの島に乗り込んで人を殺すほど重要なことだとはとうてい思えない。
こんな戦争、とっとと終わらせてやる。
「エア、また頼む」
「分かった」
再び戦争をする両国に光のモニターが出現した。そこには俺の姿がでかでかと映し出されている。
「即刻戦争を中止せよ。これは世界王の命令である。知識も持たぬ者が乏しい根拠で自分が正しいと決めつけ、あまつさえその考えを他人に押しつけて感情的に争うなど言語道断。おまえたちには議論する資格はない。資格があるとすれば、進化や遺伝について学術的な議論ができる学者くらいのものだ」
俺の宣言はたしかに二国全土に届いていたはずだ。だが争いは収まらなかった。引き下がれない段階まできてしまったのかもしれない。きっかけは本当にしょうもないことなのに、争いですでに多くの血が流れてしまっている。
争いの原因はもはや《たまご・にわとり》ではなくなっている。殺された数をどれだけ殺した数で取り戻すか、その報復合戦と化していた。
「聞け! これは世界王としての命令だ。争いをやめよ。これは法である。これ以後、手を出した者、手を出させた者は単なる殺人者と見なし、即死刑とする」
一瞬、武器を振りまわす手はやんだ。彼らとてシミアン王国最強と謳われる騎士をあっさり倒した人物を恐れないはずがないのだ。
ただ、彼らにはどうしようもなく致命的な弱点があった。
それは、扇動されやすいことだ。
「そうだそうだ! ここで止まれるか! 引き下がったら負けだ!」
誰かが叫び、天に向けて剣を突き上げた。何者をも恐れぬその気概に感化された者たちが次々に武器を振りかざし、歓声をあげる。
そして、再び殺し合いが始まった。
俺は空気の操作で強制的に全員の動きを止めた。俺が空気を固めたので、みんな岩の中に埋め込まれたみたいに身動きが取れなくなっている。
俺は再び声を張り上げた。
「議論するだけなら好きにするがいい。だがおまえたちの議論は、文明や文化の発展につながりはしない。それどころか戦争に発展してむやみに血を流すだけだ。おまえたちは俺の命令に逆らった罪人だ。いずれ裁きを与える。震えて待て」
これほど倫理感や道徳観の欠如した民族は、世の平和のためにも滅び消え去ったほうがいい。
だが俺はそれをまだしない。単に民族性の違いとして切り捨てる前に、教育によって改善できないかを模索すべきだ。
本当はこんなことに頭を悩ませるために世界王になったのではない。単に世界の人間と俺を関連づけることだけが目的だった。俺は赤の他人を助けるために戦えるほどお人好しではない。むしろ正反対の人でなしなのだ。
かといって、彼らを切り捨てたら紅い狂気の餌となって俺は絶対に紅い狂気に勝てない。
「ねえ、エスト。この戦争はどう決着をつけるの?」
モニターを消したエアが俺の横にフワリと飛んできた。
ワンピースが風にはためいている。自分の周囲の空気を完全には固めていないようだ。たしかにそのほうが入ってくる情報もあるというもの。
「さっきの奴、『そうだそうだ』と言っていたな。つまり、こいつが周りを扇動したのではなく、こいつのことを扇動した奴がいる」
「私、捕捉しているわよ」
「でかした! よし、そいつをここへ連れてきてくれ」
「分かった」
エアは闇の魔法でその者を俺たちの正面へとワープさせた。
そいつは紺のフード付きケープで顔を隠していたが、俺が引ん剥くと、そこにあったのはシミアン王国第一王子の姿だった。
「おまえ、世界王の命令に背き、あまつさえ連合国民を扇動した罪、それがどれほど重いか分かっているな?」
「勝手なことを言うな! 俺はあんたを世界王だなんて認めていない」
「おまえもまだ理解していないようだな。俺は人民の代表者ではない。支配者なのだ。おまえたちが俺の命令に背きたいのならば、俺を力ずくで引きずり落とすしかない。できないならおとなしく従え。拒む者は処刑する」
俺は固めた空気を動かして、第一王子の四肢を万力で動かすようにゆっくりと捻っていった。
「痛い痛い痛い痛い! やめてくれっ!」
「なぜ戦争を起こした? 《たまご・にわとり》論争ごときが戦争に発展するわけがない。おまえが暗躍していたんだろ?」
「あいつらは蛮族だ。野蛮すぎて国家の体すら維持できない。より野蛮な奴をフルイにかけてマシな人間を選別し、その後に俺が統治してやるつもりだったんだ」
「おまえ、俺なんかよりよっぽど残虐非道だな。実質、おまえは大量虐殺犯だ。俺はおまえを裁く。公開処刑だ」
再びエアにモニターを出してもらい、戦争の黒幕として、斬首にて第一王子の公開処刑を執行した。
そしてその後、戦争をしていた両国のトップに戦争の終結を宣言させるところまでを公開し、俺の目的は達成した。
俺たちは見納めに上空へと飛び、連合の諸島を見渡す。
「はあ、疲れた。罪人とはいえ、人の命を奪うのは気が滅入る。帰ろう、エア」
俺はひどく喉が渇いていたが、エアの美しい顔に癒され、心は潤いに満たされる。
俺は彼女にとっていちばん近い存在ではあるが、人成した彼女はもう俺のものではない。今度は恋人として彼女を手に入れたいという気持ちは日ごとに少しずつ増していく。
しかし、一方でそうなることへの不安もあった。俺の最愛の存在が、紅い狂気に目をつけられないはずがないからだ。
「エスト、後ろ!」
恐怖に歪んだエアの顔に思わずギョッとした。
後ろを振り返った俺は、さらにギョッとして、おそらくエアと同じ顔をしていただろう。
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