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第六章 試練編
第228話 最後の報酬(エア)
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俺とネアは再び白い椅子に座った。
ネアは白いテーブルに肘を着き、両手の指を突き合わせている。俺は椅子の背もたれに体重をかけて腕を組んだ。
「じゃあ次はエアの報酬だ」
エアはチョコレートの包み紙を開いて中身を口に放り込み、そこで手を止めた。
エアの前には開かれた包み紙が山になっていたが、それらはテーブルに沈み込むように消滅した。
エアは口をモグモグさせながらネアに頷いた。
「君にも二種類の報酬があって、どちらか片方を選ぶことができる。一つ、全能力の解放。二つ、記憶再現魔術の拡張」
一つ目は俺とまったく同じだ。ただ、俺のときは魔導師としての全能力だった。
つまり、魔術師であるエアの場合は……。
「順に説明するよ。まず全能力の解放だけれど、魔術師の場合はすべての魔術を使えるようになる」
「へー、それはすごい」
抑揚はないが、エアは心からそう思っているのだろう。
俺のときが魔法だったから、エアのときは魔術なのだと予想はついていた。
ただ、すべての魔術を使えるというのはとてつもなく強い。例えばエース・フトゥーレの未来視、ローグ学園長の受けた傷を相手に移す魔術、マンマ・ママの相手の意図する方向や対象を変える魔術など、一つでもすごく強い魔術をすべて使えるというのだ。
しかもエア自身の魔術は実質的にすべての魔法を使えるものなので、報酬の破格具合は、俺が全能力の解放を選んだ場合の比ではない。まるで全能の神だ。
「エアの報酬でも俺から質問していいか?」
「もちろん」
ノータイムで肯定された。ネアは俺の言葉を予期していたようだ。
エアは俺が報酬の選択に口を出せば文句を言うかもしれないが、最善の選択をしてもらうためだから仕方ない。
「すべての魔術を使えるようになったとして、同時に使えるのはいくつだ?」
「制限はない。いくつでも使える。ただ、さっきと似たような話になるけれど、キャパシティーによる限界があるんだ。常人なら魔術は一種類で限界だ。能力の高いエアの場合、二つくらいまでならいけるだろうね。ただ、自身の記憶再現の魔術を使う場合はそれだけで精一杯になるはずだ」
基本的に魔術は同時には使えないと考えたほうがよさそうだ。
それでも、すべての種類の魔術を使えるというのは本当に強い。破格も破格。秩序崩壊レベルだ。
「それで、もう一方の報酬は?」
促したのはエアだ。先ほどの話は聞くまでもなくエアには分かっていたのかもしれない。
「記憶再現魔術の拡張のほうだけれど、従来であれば魔導師を見ている間だけその魔術師が見たことのある魔法を使えるという魔術だったが、拡張することによって自分の記憶にある魔導師の記憶から魔法を再現できるようになる」
表現が少しややこしいが、要するに魔法の記憶を再現する条件が、魔導師を見ている間だけしか再現できなかったのが、一度でも見たことがあればその魔導師から再現できる、というわけだ。
エアも自分の認識が間違っていないか慎重に確認する。
「記憶がタンスの引き出しだとするなら、いままでは目の前の魔導師たちから個別の引き出しを開けなければいけなかったのが、拡張した後では、私の引き出しの中に魔導師たちが入っていて、いつでもその魔導師の引き出しを開けることができる、ということでいい?」
「うん。それで合っているよ。記憶再現の対象が魔導師だけでなく自分自身も含むようになった、と置き換えても差し支えない」
本来は近くに魔導師がいなければ魔術というのは使うことができないが、この魔術の拡張によってエアは自分ひとりしかいなくてもいろんな魔法を使うことができるようになる。エアの唯一の弱点だったものがなくなるのだ。
しかし、それでも全能力の解放は別次元の魅力を放っている。俺がエアだったら、全能力の解放を選ぶだろう。
そんなことを考えていると、ネアが唐突に爆弾を放り込むような発言をした。
「ここで一つだけ注意してもらわないといけない。紅い狂気には魔術は効かないんだ」
「なにっ!?」
「えぇーっ……」
いや、たしかに紅い狂気ならば十分ありえることだとは思うが、もしそうなら、選択肢は一つしかないではないか。
期待させるだけさせておいて取り上げられてしまった。
もちろん、これはエアの話だが、紅い狂気への戦力として期待していた俺にもダメージは及んだ。
「全能力の解放をしたところで、新たに得た魔術は紅い狂気には効かないから、記憶再現魔術の拡張を選べということだな?」
「それだったら、最初から拡張のほうだけを提示して与えてくれればよかったじゃない」
俺とエアの冷ややかな視線を受けるも、ネアにはまったく悪びれる様子はない。自分はすべてにおいて正しいという態度だ。
逆に俺たちをなだめるか、たしなめるような雰囲気を出している。
「特にゲス・エスト、君にとっては情報は何よりも重要な資源だろう? だからすべての情報を提示した上で判断してもらおうという心遣いだよ。覚悟のいる選択をするというのは、それだけで一つの成長になる」
「そうかい。俺たちを成長させる機会が転がっていれば、どんなに小さくても拾い上げる感じか? クッソ意識高い系の教育者みたいだな。まあ、納得はしたけども……」
実はただの嫌がらせなんじゃないかとも思えるが、ネアは俺とは違う。
エアのほうは俺よりも消化が早いらしく、もう気持ちを切り替えていた。
「分かった。じゃあ私は記憶再現魔術の拡張のほうを選ぶわ」
ネアは俺のときと同じようにエアにも白い光を流し込んでエアの魔術を拡張した。
エアは俺に背を向け、視界に誰もいない状態にして魔法発動を試みる。
すると、光の発生も空気の操作も自在に行使することができた。
「なあ、ネア。これって、実質的に俺の全能力解放と同じような能力なんじゃないか?」
「さすがにそれはないよ。全種類の魔法がどれほどのバリエーションか、君たちには計り知れないだろう。でも君の心中は察するよ。元気を出して」
「励ましてんじゃねーよ!」
ネアは白いテーブルに肘を着き、両手の指を突き合わせている。俺は椅子の背もたれに体重をかけて腕を組んだ。
「じゃあ次はエアの報酬だ」
エアはチョコレートの包み紙を開いて中身を口に放り込み、そこで手を止めた。
エアの前には開かれた包み紙が山になっていたが、それらはテーブルに沈み込むように消滅した。
エアは口をモグモグさせながらネアに頷いた。
「君にも二種類の報酬があって、どちらか片方を選ぶことができる。一つ、全能力の解放。二つ、記憶再現魔術の拡張」
一つ目は俺とまったく同じだ。ただ、俺のときは魔導師としての全能力だった。
つまり、魔術師であるエアの場合は……。
「順に説明するよ。まず全能力の解放だけれど、魔術師の場合はすべての魔術を使えるようになる」
「へー、それはすごい」
抑揚はないが、エアは心からそう思っているのだろう。
俺のときが魔法だったから、エアのときは魔術なのだと予想はついていた。
ただ、すべての魔術を使えるというのはとてつもなく強い。例えばエース・フトゥーレの未来視、ローグ学園長の受けた傷を相手に移す魔術、マンマ・ママの相手の意図する方向や対象を変える魔術など、一つでもすごく強い魔術をすべて使えるというのだ。
しかもエア自身の魔術は実質的にすべての魔法を使えるものなので、報酬の破格具合は、俺が全能力の解放を選んだ場合の比ではない。まるで全能の神だ。
「エアの報酬でも俺から質問していいか?」
「もちろん」
ノータイムで肯定された。ネアは俺の言葉を予期していたようだ。
エアは俺が報酬の選択に口を出せば文句を言うかもしれないが、最善の選択をしてもらうためだから仕方ない。
「すべての魔術を使えるようになったとして、同時に使えるのはいくつだ?」
「制限はない。いくつでも使える。ただ、さっきと似たような話になるけれど、キャパシティーによる限界があるんだ。常人なら魔術は一種類で限界だ。能力の高いエアの場合、二つくらいまでならいけるだろうね。ただ、自身の記憶再現の魔術を使う場合はそれだけで精一杯になるはずだ」
基本的に魔術は同時には使えないと考えたほうがよさそうだ。
それでも、すべての種類の魔術を使えるというのは本当に強い。破格も破格。秩序崩壊レベルだ。
「それで、もう一方の報酬は?」
促したのはエアだ。先ほどの話は聞くまでもなくエアには分かっていたのかもしれない。
「記憶再現魔術の拡張のほうだけれど、従来であれば魔導師を見ている間だけその魔術師が見たことのある魔法を使えるという魔術だったが、拡張することによって自分の記憶にある魔導師の記憶から魔法を再現できるようになる」
表現が少しややこしいが、要するに魔法の記憶を再現する条件が、魔導師を見ている間だけしか再現できなかったのが、一度でも見たことがあればその魔導師から再現できる、というわけだ。
エアも自分の認識が間違っていないか慎重に確認する。
「記憶がタンスの引き出しだとするなら、いままでは目の前の魔導師たちから個別の引き出しを開けなければいけなかったのが、拡張した後では、私の引き出しの中に魔導師たちが入っていて、いつでもその魔導師の引き出しを開けることができる、ということでいい?」
「うん。それで合っているよ。記憶再現の対象が魔導師だけでなく自分自身も含むようになった、と置き換えても差し支えない」
本来は近くに魔導師がいなければ魔術というのは使うことができないが、この魔術の拡張によってエアは自分ひとりしかいなくてもいろんな魔法を使うことができるようになる。エアの唯一の弱点だったものがなくなるのだ。
しかし、それでも全能力の解放は別次元の魅力を放っている。俺がエアだったら、全能力の解放を選ぶだろう。
そんなことを考えていると、ネアが唐突に爆弾を放り込むような発言をした。
「ここで一つだけ注意してもらわないといけない。紅い狂気には魔術は効かないんだ」
「なにっ!?」
「えぇーっ……」
いや、たしかに紅い狂気ならば十分ありえることだとは思うが、もしそうなら、選択肢は一つしかないではないか。
期待させるだけさせておいて取り上げられてしまった。
もちろん、これはエアの話だが、紅い狂気への戦力として期待していた俺にもダメージは及んだ。
「全能力の解放をしたところで、新たに得た魔術は紅い狂気には効かないから、記憶再現魔術の拡張を選べということだな?」
「それだったら、最初から拡張のほうだけを提示して与えてくれればよかったじゃない」
俺とエアの冷ややかな視線を受けるも、ネアにはまったく悪びれる様子はない。自分はすべてにおいて正しいという態度だ。
逆に俺たちをなだめるか、たしなめるような雰囲気を出している。
「特にゲス・エスト、君にとっては情報は何よりも重要な資源だろう? だからすべての情報を提示した上で判断してもらおうという心遣いだよ。覚悟のいる選択をするというのは、それだけで一つの成長になる」
「そうかい。俺たちを成長させる機会が転がっていれば、どんなに小さくても拾い上げる感じか? クッソ意識高い系の教育者みたいだな。まあ、納得はしたけども……」
実はただの嫌がらせなんじゃないかとも思えるが、ネアは俺とは違う。
エアのほうは俺よりも消化が早いらしく、もう気持ちを切り替えていた。
「分かった。じゃあ私は記憶再現魔術の拡張のほうを選ぶわ」
ネアは俺のときと同じようにエアにも白い光を流し込んでエアの魔術を拡張した。
エアは俺に背を向け、視界に誰もいない状態にして魔法発動を試みる。
すると、光の発生も空気の操作も自在に行使することができた。
「なあ、ネア。これって、実質的に俺の全能力解放と同じような能力なんじゃないか?」
「さすがにそれはないよ。全種類の魔法がどれほどのバリエーションか、君たちには計り知れないだろう。でも君の心中は察するよ。元気を出して」
「励ましてんじゃねーよ!」
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