244 / 302
最終章 狂酔編
第243話 カケララ戦‐護神中立国①
しおりを挟む
レイジー・デントが護神中立国の中央を飛行するカケララを見つけたとき、狂気に染まる人々たちを助けに向かわせたのは、まだアンジュとエンジュの二人だけだった。
レイジーはサンディア・グレインとセクレ・ターリを合わせた三人でならカケララに対抗できると考えていた。
しかし、レイジーはものの数秒で自分ではカケララに勝てないと悟ってしまった。
彼女たちが戦うカケララの能力は物体を自在に動かす力、いわゆるサイコキネシスだった。それに加えてカケララの体はとんでもない耐久力を備えている。
レイジーが指先から鉄をも溶かすレーザービームを放っても、カケララはそれを手のひらで受けとめるし、レイジーの指を操ってレーザービームをレイジー自身へと向けようとする。
このカケララに対しては、すべての攻撃が諸刃の剣だった。
「サンディア、セクレ。あなたたちはアンジュとエンジュのほうを助けに行ってあげて」
どうやっても勝てないのなら、人々を救うほうに人員リソースを割いたほうがいい。
自分が負けた後は結局カケララが襲うだろうから、それがほんの少しの時間稼ぎでしかないのは分かっている。
レイジーという少女は常に最善を選ぶ人間だ。しかし、今回ほど虚しい選択はない。いくつかある未来への分かれ道すべてに跨るように最悪の結末が寝転がっているのだから。
「一人で戦う気ですか? それは無茶無謀というものです」
セクレがレイジーをたしなめる。
レイジーの選択はいつも最善だから、これまでセクレがレイジーに意見したことは一度もなかった。だから、意見するのはこれが初めてのことだった。
「三人で戦っても同じだよ。アレには勝てない。それよりも救える人がいるなら、できるだけ多くを救うべきだよ」
レイジーが勝てないと確信した最大の理由は、彼女たち三人にはカケララにトドメをさせる者がいないということだ。
攻撃力でいえばレイジーは世界中の魔導師の中でもトップクラスなのだが、そのレイジーの攻撃がまるで歯が立たない。
勝ちようがない。
サンディアの砂で生き埋めにしようともしてみたが、拳一つで軽々と砂の魔法リンクを破壊してしまうし、本人談ではあるが、そもそも呼吸を必要としないのだという。
概念種の魔法でもない限り太刀打ちできない。
完全にお手上げだった。
そしておそらく、というよりまず間違いなく、カケララは攻撃もすさまじいはず。攻撃してくる前から圧倒的気配で精神的にダメージを受けているくらいだ。
そんな状況から、レイジーは一つの決断をした。
「狂気の濃度が高すぎる。アンジュとエンジュが心配だよ。二人を助けに行ってちょうだい」
レイジーのその言葉に、サンディアとセクレの二人は返事をしなかった。二人の目が明らかにレイジーの頼みを拒否している。
アレと一人で戦うだなんて馬鹿げている。目がそう言っている。
「サンディア、お願い!」
悠長に配置換えの相談をしている暇はない。
レイジーの切迫した表情と声音が、答えあぐねていたサンディアに口を開かせた。
「……分かりました」
サンディアは忠実だった。
もちろん、生徒会長の指示だからといって何も考えずに従うデクの棒ではない。彼女自身もアンジュとエンジュのことを心配していた。
ただ、圧倒的強者の敵に相対している人数を減らすということは、生徒会長を見殺しにするようなものではないか。
返事はしたものの、激しい葛藤が彼女を襲い、すぐには足が動かなかった。
「セクレ、君もだよ!」
「私は行きませんですよ、会長。あっちはサンディア一人いれば十分でしょう。それに、私と会長のコンビネーション技が通用しなかったわけでもないのに、絶望的な雰囲気を出さないでくださいです」
レイジーは面食らった。セクレが自分に対して強気な物言いをするのは初めてのことだ。
セクレ・ターリは魔導学院でいちばんの頑固者だろう。今日までレイジーとの衝突は一度もなかったのだが、ほかの生徒会メンバーと衝突したときは頑固すぎて驚いたほどだった。
レイジーが面食らったことで、このグループの主導権はほぼセクレが握ったような状況になった。
そして彼女は二の足を踏むサンディアの背中を押した。
「サンディア、早く後輩たちを助けに行くです。あなたがへたに手を出すと、私と会長の連携技の邪魔になるかもしれないです」
「そうですね、分かりました」
迷っている時間がもったいない。行くにしても残るにしても、早く動かなければ狂気の侵食がもっと進んでしまう。
サンディアは駆け出した。
カケララはサンディアにちょっかいを出さずに見送った。
そして、カケララが口を開いた。
「ねえ、もしかして、自分を追い込んだと思っている? 見当違いも甚だしいわ。あの娘がいたところで、あなたとお友達が苦しむ時間は一秒たりとも減ったりしないのだから」
そう言うと、カケララはレイジーの方に燃えるような紅い瞳を向けて口の端を吊り上げた。
護神中立国は領土全域が神社の敷地みたいな雰囲気になっていて、辺りは石畳で整地されている。
その石が地面から飛び出して、カケララの傍らで浮く。
体積にして人の頭の四倍くらいあろう大きさの石が、まっすぐとレイジーの方へ飛んだ。かなり速いが、軌道を見てギリギリかわせる程度だった。
ちょっと反応に遅れたレイジーが転げながら飛来石を避けたとき、カケララの周囲には無数の石が漂っていた。
「ちょっと待ってよ。一度に動かせるのは一個だけだと思っていたよ」
「あらかわいい。いっちょまえに私を分析していたのね。御褒美に教えてあげる。一個ではなく一種類よ。生き物は一固体ずつだけれど」
そういうカケララ自身は石に乗っているわけでもなく空に浮いているので、それはサイコキネシスで浮いているのではなく、別の能力として浮いているのだろう。
カケララには五人それぞれに一つずつの特殊能力が備わっているが、浮遊能力や超強力な身体能力は基本能力としてすべての固体に備わっているらしい。
レイジーはサンディア・グレインとセクレ・ターリを合わせた三人でならカケララに対抗できると考えていた。
しかし、レイジーはものの数秒で自分ではカケララに勝てないと悟ってしまった。
彼女たちが戦うカケララの能力は物体を自在に動かす力、いわゆるサイコキネシスだった。それに加えてカケララの体はとんでもない耐久力を備えている。
レイジーが指先から鉄をも溶かすレーザービームを放っても、カケララはそれを手のひらで受けとめるし、レイジーの指を操ってレーザービームをレイジー自身へと向けようとする。
このカケララに対しては、すべての攻撃が諸刃の剣だった。
「サンディア、セクレ。あなたたちはアンジュとエンジュのほうを助けに行ってあげて」
どうやっても勝てないのなら、人々を救うほうに人員リソースを割いたほうがいい。
自分が負けた後は結局カケララが襲うだろうから、それがほんの少しの時間稼ぎでしかないのは分かっている。
レイジーという少女は常に最善を選ぶ人間だ。しかし、今回ほど虚しい選択はない。いくつかある未来への分かれ道すべてに跨るように最悪の結末が寝転がっているのだから。
「一人で戦う気ですか? それは無茶無謀というものです」
セクレがレイジーをたしなめる。
レイジーの選択はいつも最善だから、これまでセクレがレイジーに意見したことは一度もなかった。だから、意見するのはこれが初めてのことだった。
「三人で戦っても同じだよ。アレには勝てない。それよりも救える人がいるなら、できるだけ多くを救うべきだよ」
レイジーが勝てないと確信した最大の理由は、彼女たち三人にはカケララにトドメをさせる者がいないということだ。
攻撃力でいえばレイジーは世界中の魔導師の中でもトップクラスなのだが、そのレイジーの攻撃がまるで歯が立たない。
勝ちようがない。
サンディアの砂で生き埋めにしようともしてみたが、拳一つで軽々と砂の魔法リンクを破壊してしまうし、本人談ではあるが、そもそも呼吸を必要としないのだという。
概念種の魔法でもない限り太刀打ちできない。
完全にお手上げだった。
そしておそらく、というよりまず間違いなく、カケララは攻撃もすさまじいはず。攻撃してくる前から圧倒的気配で精神的にダメージを受けているくらいだ。
そんな状況から、レイジーは一つの決断をした。
「狂気の濃度が高すぎる。アンジュとエンジュが心配だよ。二人を助けに行ってちょうだい」
レイジーのその言葉に、サンディアとセクレの二人は返事をしなかった。二人の目が明らかにレイジーの頼みを拒否している。
アレと一人で戦うだなんて馬鹿げている。目がそう言っている。
「サンディア、お願い!」
悠長に配置換えの相談をしている暇はない。
レイジーの切迫した表情と声音が、答えあぐねていたサンディアに口を開かせた。
「……分かりました」
サンディアは忠実だった。
もちろん、生徒会長の指示だからといって何も考えずに従うデクの棒ではない。彼女自身もアンジュとエンジュのことを心配していた。
ただ、圧倒的強者の敵に相対している人数を減らすということは、生徒会長を見殺しにするようなものではないか。
返事はしたものの、激しい葛藤が彼女を襲い、すぐには足が動かなかった。
「セクレ、君もだよ!」
「私は行きませんですよ、会長。あっちはサンディア一人いれば十分でしょう。それに、私と会長のコンビネーション技が通用しなかったわけでもないのに、絶望的な雰囲気を出さないでくださいです」
レイジーは面食らった。セクレが自分に対して強気な物言いをするのは初めてのことだ。
セクレ・ターリは魔導学院でいちばんの頑固者だろう。今日までレイジーとの衝突は一度もなかったのだが、ほかの生徒会メンバーと衝突したときは頑固すぎて驚いたほどだった。
レイジーが面食らったことで、このグループの主導権はほぼセクレが握ったような状況になった。
そして彼女は二の足を踏むサンディアの背中を押した。
「サンディア、早く後輩たちを助けに行くです。あなたがへたに手を出すと、私と会長の連携技の邪魔になるかもしれないです」
「そうですね、分かりました」
迷っている時間がもったいない。行くにしても残るにしても、早く動かなければ狂気の侵食がもっと進んでしまう。
サンディアは駆け出した。
カケララはサンディアにちょっかいを出さずに見送った。
そして、カケララが口を開いた。
「ねえ、もしかして、自分を追い込んだと思っている? 見当違いも甚だしいわ。あの娘がいたところで、あなたとお友達が苦しむ時間は一秒たりとも減ったりしないのだから」
そう言うと、カケララはレイジーの方に燃えるような紅い瞳を向けて口の端を吊り上げた。
護神中立国は領土全域が神社の敷地みたいな雰囲気になっていて、辺りは石畳で整地されている。
その石が地面から飛び出して、カケララの傍らで浮く。
体積にして人の頭の四倍くらいあろう大きさの石が、まっすぐとレイジーの方へ飛んだ。かなり速いが、軌道を見てギリギリかわせる程度だった。
ちょっと反応に遅れたレイジーが転げながら飛来石を避けたとき、カケララの周囲には無数の石が漂っていた。
「ちょっと待ってよ。一度に動かせるのは一個だけだと思っていたよ」
「あらかわいい。いっちょまえに私を分析していたのね。御褒美に教えてあげる。一個ではなく一種類よ。生き物は一固体ずつだけれど」
そういうカケララ自身は石に乗っているわけでもなく空に浮いているので、それはサイコキネシスで浮いているのではなく、別の能力として浮いているのだろう。
カケララには五人それぞれに一つずつの特殊能力が備わっているが、浮遊能力や超強力な身体能力は基本能力としてすべての固体に備わっているらしい。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる