残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

文字の大きさ
291 / 302
最終章 狂酔編

第290話 ゲス・エスト

しおりを挟む
 俺は人間が嫌いだった。

 理不尽な人間が嫌いだった。

 父は法の番人なのに、父も法も俺を守ってはくれなかった。それどころか、俺を苦しめる要因でしかなかった。
 法は平等と言うけれど、いくらでも抜け穴があるし、たいていの理不尽は法の届かない範囲で発生するのだ。

 父が裁判官だったせいで、父にも周りにも俺が厳格に秩序を守ることを求められた。
 俺が周りにも同じように求めたら、俺のことを煙たがって避け、あまつさえ危害を加えてくることさえあった。
 しかしそんなことが起こっても些事さじということで、法でそれを裁くことすらできない。俺ばかりが窮屈きゅうくつな思いをさせられた。
 時には父が恨みを買って俺が個人的制裁の対象に選ばれたこともあった。
 俺が何をしたというのだ。
 理不尽だ。
 憎い。世界のすべてが憎い。
 居場所がないなんて甘いものじゃない。世界が俺の首を絞めてくる。

 こんな理不尽があっていいのか。
 世界ってなんだ。世界は何のためにある?
 人は、動物は、何のために生きている? 生きていることに意味はあるのか?
 俺の中で哲学が成長し、小学生から中学生にかけての数年がかりの自分への問答の末、そこに意味はないという結論が出た。
 すべてのことに意味はない。善も悪もあくまで人間の生み出した概念であり、一つの価値観でしかなく、真にそういった真理は存在しない。

 世界なんて滅びてしまえばいいと思った。
 高校生になってからもずっとそう思っていた。わりと本気で……、いや、大真面目に本気でそう思っていた。
 滅びないのなら自分が滅ぼすしかない。しかしそんな力はない。どうにかしたらそんな力が身につくのだろうか。真面目にその方法について考えるべきか。
 そんなことばかりを考えていた。

 そんなときのこと。
 突然、俺は偶然という名の殺意から逃げ惑い、しまいには強制的に異世界へと飛ばされた。
 ラノベでよくある展開だったから、この事態自体はすんなりと受け入れられた。
 なんなら見下しつつも憧れさえあったのだ。

 異世界で精霊のエアと出会い、契約とやらを交わして空気の操作型魔導師になった。
 もしもこの力を元の世界へ持ち帰ることができたら、世界を滅ぼすなんて簡単なのではないか。

 俺には元の世界への恨みがある。だから、俺は魔法を使える状態のまま元の世界へ帰る方法を探した。
 そう、魔法を使えるというのが必須条件だ。それを満たせないなら、帰っても意味がないし、むしろ帰りたくもない。

 俺は元の世界で強く勉強をいられる家庭に育ったので、それなりに勉強はしてきたつもりだ。
 知識が身につく以上に考える力というのが身についた。
 得意科目は数学。覚えるのは嫌いだったから、文系には苦手意識があった。
 そういうわけで、俺は空気の操作型魔法という能力を手に入れたとき、空気に関する少しの知識と、それをどう応用するかの発想力で、自分が最強の魔導師になれる自信があった。
 この世界が魔法の世界だとすれば、元の世界は科学の世界といえる。この世界で一番になれなければ、もとの世界を滅ぼすことは難しいかもしれない。
 だからこの世界で必ず一番になると決めた。

 ここは異世界。仮想世界なのか、宇宙における別の世界なのか、パラレルワールドなのか、未来の地球なのか、架空の幻想世界なのか、何なのかは分からない。
 しかし俺は俺が倫理感を持つことの無意味さを知っている。それは数年におよぶ哲学によって得た結論だ。
 例えば宇宙から圧倒的な力を持った侵略者が来たとしたら、全力で抗戦し、それでも対抗しきれなかったのなら、もはや侵略に甘んじるしかない。
 それが歴史となり過去の事実となり、そこにはこうあるべきだとか、こうあることが正しいとか、そんなものは存在しない。
 そんなものがあるとしたら、それは人類の願望の中にあるだけだ。
 だから俺が目標を達成するに当たって、この世界に与える被害についてはなんの懸念もなかった。好き放題暴れてやろうとすぐに決めた。
 元の世界のような恨みはなかったが、間違いなく元の世界よりも軽視していた。

 こちらの世界に来て最初に出会った人間はキーラだった。
 彼女は巨大なムカデの怪物に襲われているところだった。
 俺には彼女を助ける義理も人情も持ち合わせていなかったが、助けたのはムカデのほうに嫌悪感を抱いたからだ。
 その嫌悪感は元の世界の人間に対するものと同じ。弱者を一方的に力でじ伏せ好き放題するという理不尽な暴力をそこに見たのだ。
 だからキーラを助けたいというより、巨大ムカデが許せなかった。
 首チョンパなんて生ぬるいから、空気を体内に送り込んで全身に痛みが走るよう内側から破裂させてやった。

 そのとき、初めて人に感謝された。
 いや、生きてきた中で小さいお礼を言われたことは何度もあるが、プライドが高そうな奴から照れながらお礼を言われたのは初めてで、これが本気でお礼を言われたときの気持ちなのだと知ったのだ。

 俺はこの世界で生きる中で、一緒にいて楽しいと思える仲間ができた。
 仲間も敵も増えていって、そんな中で過ごすうちに、いつの間にかこの世界が楽しいと感じるようになっていた。
 失いたくない、まもりたいと思った。
 なんなら元の世界への復讐なんてどうでもいいから、もうずっとこの世界で暮らしたいと思うようになった。

 そして、俺の人生もそう悪くはないと思うようになった。

 好きな人もできた。
 エアだ。
 彼女は完璧だった。俺を初めて負かすほど強いし、他人を想うがゆえに自分が悪者になり手を汚そうとするほど優しい。
 俺の人生で見た中で誰よりも可愛い顔をしているし、スタイルも美しい。精霊時には俺の期待にずっと応えつづけてくれたという信頼もある。
 俺は表には出さないが、彼女にゾッコンだった。
 神の代理からは元の世界は実在しないという衝撃的な事実を告げられたことだし、いよいよ俺はこの世界でまっとうに生きていこうと決めたのだった。

 それなのに、理不尽なことに理不尽の権化ごんげたる紅い狂気が出現した。
 こんな仕打ちってあるか?
 しかし、今度ばかりは俺だけの理不尽ではない。世界すべてが同じ理不尽に甘んじなければならない危機にある。
 なんとしても俺はこの世界と仲間との生活を護りたい。

 そう思っていた。

 俺は圧倒的な狂気には勝てなかった。
 三つの試練を乗り越え、でき得る限り自分の力を高め、万全に備えて挑んだ紅い狂気・カケラに手も足も出なかった。
 そして無限の悪夢に捉えられた。
 あまりにも苦しい。あまりにも辛い。ひどすぎる。とても耐えられない。
 耐えられないからといって終わらないから、限界を超えて苦しみつづける。
 地獄という言葉が生ぬるいほどの地獄。
 いまの俺の思考は、ひたすら「消えたい」、「解放されたい」しかなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

処理中です...