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最終章 狂酔編
第292話 復活
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ふと気がつくと、俺は膝を抱えてうずくまっていた。
そっと顔を上げると、みんなボロボロの様相で、フェンスに背をもたせかけて座っている者や床に横たわっている者ばかりだった。
上空ではカケラとドクター・シータらしきものが戦っている。いや、戦っているというか、カケラに蹂躙されている。
「あら、起きちゃったのね」
カケラは溜息をつき、赤い球体に爪を突き刺した。
いびつな形の球体には乱雑な白い網目が張り巡らされており、その内側が脈打っている。
カケラが爪を引き抜くと、赤い液体を撒き散らしながらボトリと俺の目下に落下した。
俺は天使のミトンで素早く球体を五回さすった。すると球体の白い部分が一気に膨張し、色がついて形を人型に整え、白衣を着たドクター・シータの姿へと変わった。
「大丈夫か?」
「大丈夫に見えるのかね?」
ドクター・シータは顔を青くして震えていた。核をあらわにされ殺せる状況で殺さずいたぶられたのだろう。
それが彼にとってどれほどの苦痛になるのか俺には分からない。
「ああ。相変わらずの物言いが聞けて安心したよ」
キューカにドクター・シータを感覚共鳴でつながせると、彼の震えは止まった。
彼の恐怖は俺が奪ってやった。
「概念化魔法・新鮮空気」
俺の空気の概念化魔法により、この場にいる全員の体力と精神的疲労を少しだけ回復させた。
残念ながら俺の魔法では少しが限界だ。
天使のミトンも後から合流したメンバーには使ってしまっている。
だが、エアにはまだ使っていない。天使のミトンはエアには使えるのだ。
俺は天使のミトンをはめたままエアの隣まで歩いていき、ひざまずいた。そして空気の手で心臓マッサージを始めた。
空気の枕をエアの首の下に敷き、新鮮な空気を口から送り込む。
「あっはははは! ゲス・エストともあろう者が無駄なことをしているわ。滑稽だわぁ。頭を撃ち抜かれているのに、心肺蘇生なんて意味があるわけないじゃない。それに、天使のミトンでは死者は生き返らないわよ」
「黙って見ていろ」
と言って、おとなしくしているような奴ではないか。
カケラは俺の背後に降り立ち、鋭く伸ばした五本の爪を振りかぶった。
しかし、それを振り下ろさずに再び空へ飛び上がり、俺から距離をとった。
「あのカケラが退いただと!?」
ドクター・シータの言葉は俺以外の全員を代表した言葉だった。
その光景には誰もが目を疑った。
俺だけはその状況を予測していたが、思考ではなく直感的なものなので、感覚共鳴でつながっていても仲間は理解していないようだ。
「俺は悪夢の中でずっと考えていたよ。死って何だろうってな。何度も何度も何度も何度も死んで、死んでも死んでも死んでも死んでも死ねない。死の定義とか、生の意味とか。そんな中で思いついたことがある。死の定義って何だろうな。心臓が止まっている状態か? かつ息をしていない状態か? そう定義したとして、心臓が動いていて空気が体内を巡っていたら死んでいないということになるのか? それを言うのは屁理屈だろう。だが、天使のミトンはどんな傷も癒すという奇跡を起こす神器だ。理屈の外の代物だ。やってみる価値はあるだろう?」
俺は空気の魔法操作によりエアに心臓マッサージを施し、体内に酸素を供給しながら、彼女の体を天使のミトンで五回撫でた。
「…………」
「…………」
まだ反応はない。
しかし、俺は確信していた。エアは治ると。
生き返るのではない。死んでいない状態を作っているので、この状態からなら回復できる。
「……ケホッ、ケホッ」
「エア!」
この場にいる全員が驚き、そのうち数人が歓声をあげた。
エアが目を開いたのだ。
天使のミトンは奇跡を起こす神器だ。
生存と死亡の定義は概念種の魔法みたいに解釈しだいだと俺は考えた。
天使のミトンが死んでいる状態の人間には効果がないのだとしたら、死んでいないと見なせる状態にすればいい。
そもそも死亡の定義は文化や時代でさまざまで、実際的にその絶対的な定義は存在しない。
医療で用いられる「死の三兆候」というものがあり、それは自発呼吸の停止、心拍の停止、瞳孔が開くの三つなのだが、この世界における死亡の定義をそこから引用して「心拍と呼吸の停止」としてしまえば、無理やりにでも心臓を動かし酸素を供給することで、その間だけ死亡していない状態を作り出せるのだ。
「ごめん、エスト。足をひっぱったみたい」
「いや、俺はおまえにひっぱり上げられたんだ。狂気の地獄からな」
俺はそっとエアを抱きしめた。
エアはキョトンとした顔で、なんとなく俺を抱きしめ返した。
「眩しいですな。盲目のわしですら眩しいですぞ、その白いオーラ」
そう、カケラがとっさに退いたのは、俺から白いオーラがあふれていたからだ。
「カケラ、ようやく分かったよ。おまえの弱点が」
俺はエアと離れ、立ち上がった。
エアも立って俺の隣に並ぶ。
メンバー全員、俺の近くに集合し、俺を中心として並びカケラを見上げた。
そこに絶望の色はない。皆が白いオーラをまとっている。
そのオーラが赤かった空を白く染め上げている。
カケララたちとの戦いの結果も相まって、いま、世界すべての空が白いオーラで覆われている。
「おまえの弱点は白いオーラだ。前に通じなかったのは、白いオーラには二種類あったからだ。愛を源にするものと、勇気を源にするもの。最初に俺が自己暗示で出したオーラは愛を源にするものだった。だが、おまえの弱点は勇気だったんだな」
その証拠に、エアが復活する未来すら見通せなかった。
それは俺の勇気の白いオーラがカケラの未来視の妨げになったからだ。
勇気のオーラは自己暗示で簡単に出せるものではない。出せたとしても質は落ちてしまう。
だからこそネアはあえてカケラの弱点を教えなかったのだ。
純然たる本物の勇気でカケラと戦うために。
そっと顔を上げると、みんなボロボロの様相で、フェンスに背をもたせかけて座っている者や床に横たわっている者ばかりだった。
上空ではカケラとドクター・シータらしきものが戦っている。いや、戦っているというか、カケラに蹂躙されている。
「あら、起きちゃったのね」
カケラは溜息をつき、赤い球体に爪を突き刺した。
いびつな形の球体には乱雑な白い網目が張り巡らされており、その内側が脈打っている。
カケラが爪を引き抜くと、赤い液体を撒き散らしながらボトリと俺の目下に落下した。
俺は天使のミトンで素早く球体を五回さすった。すると球体の白い部分が一気に膨張し、色がついて形を人型に整え、白衣を着たドクター・シータの姿へと変わった。
「大丈夫か?」
「大丈夫に見えるのかね?」
ドクター・シータは顔を青くして震えていた。核をあらわにされ殺せる状況で殺さずいたぶられたのだろう。
それが彼にとってどれほどの苦痛になるのか俺には分からない。
「ああ。相変わらずの物言いが聞けて安心したよ」
キューカにドクター・シータを感覚共鳴でつながせると、彼の震えは止まった。
彼の恐怖は俺が奪ってやった。
「概念化魔法・新鮮空気」
俺の空気の概念化魔法により、この場にいる全員の体力と精神的疲労を少しだけ回復させた。
残念ながら俺の魔法では少しが限界だ。
天使のミトンも後から合流したメンバーには使ってしまっている。
だが、エアにはまだ使っていない。天使のミトンはエアには使えるのだ。
俺は天使のミトンをはめたままエアの隣まで歩いていき、ひざまずいた。そして空気の手で心臓マッサージを始めた。
空気の枕をエアの首の下に敷き、新鮮な空気を口から送り込む。
「あっはははは! ゲス・エストともあろう者が無駄なことをしているわ。滑稽だわぁ。頭を撃ち抜かれているのに、心肺蘇生なんて意味があるわけないじゃない。それに、天使のミトンでは死者は生き返らないわよ」
「黙って見ていろ」
と言って、おとなしくしているような奴ではないか。
カケラは俺の背後に降り立ち、鋭く伸ばした五本の爪を振りかぶった。
しかし、それを振り下ろさずに再び空へ飛び上がり、俺から距離をとった。
「あのカケラが退いただと!?」
ドクター・シータの言葉は俺以外の全員を代表した言葉だった。
その光景には誰もが目を疑った。
俺だけはその状況を予測していたが、思考ではなく直感的なものなので、感覚共鳴でつながっていても仲間は理解していないようだ。
「俺は悪夢の中でずっと考えていたよ。死って何だろうってな。何度も何度も何度も何度も死んで、死んでも死んでも死んでも死んでも死ねない。死の定義とか、生の意味とか。そんな中で思いついたことがある。死の定義って何だろうな。心臓が止まっている状態か? かつ息をしていない状態か? そう定義したとして、心臓が動いていて空気が体内を巡っていたら死んでいないということになるのか? それを言うのは屁理屈だろう。だが、天使のミトンはどんな傷も癒すという奇跡を起こす神器だ。理屈の外の代物だ。やってみる価値はあるだろう?」
俺は空気の魔法操作によりエアに心臓マッサージを施し、体内に酸素を供給しながら、彼女の体を天使のミトンで五回撫でた。
「…………」
「…………」
まだ反応はない。
しかし、俺は確信していた。エアは治ると。
生き返るのではない。死んでいない状態を作っているので、この状態からなら回復できる。
「……ケホッ、ケホッ」
「エア!」
この場にいる全員が驚き、そのうち数人が歓声をあげた。
エアが目を開いたのだ。
天使のミトンは奇跡を起こす神器だ。
生存と死亡の定義は概念種の魔法みたいに解釈しだいだと俺は考えた。
天使のミトンが死んでいる状態の人間には効果がないのだとしたら、死んでいないと見なせる状態にすればいい。
そもそも死亡の定義は文化や時代でさまざまで、実際的にその絶対的な定義は存在しない。
医療で用いられる「死の三兆候」というものがあり、それは自発呼吸の停止、心拍の停止、瞳孔が開くの三つなのだが、この世界における死亡の定義をそこから引用して「心拍と呼吸の停止」としてしまえば、無理やりにでも心臓を動かし酸素を供給することで、その間だけ死亡していない状態を作り出せるのだ。
「ごめん、エスト。足をひっぱったみたい」
「いや、俺はおまえにひっぱり上げられたんだ。狂気の地獄からな」
俺はそっとエアを抱きしめた。
エアはキョトンとした顔で、なんとなく俺を抱きしめ返した。
「眩しいですな。盲目のわしですら眩しいですぞ、その白いオーラ」
そう、カケラがとっさに退いたのは、俺から白いオーラがあふれていたからだ。
「カケラ、ようやく分かったよ。おまえの弱点が」
俺はエアと離れ、立ち上がった。
エアも立って俺の隣に並ぶ。
メンバー全員、俺の近くに集合し、俺を中心として並びカケラを見上げた。
そこに絶望の色はない。皆が白いオーラをまとっている。
そのオーラが赤かった空を白く染め上げている。
カケララたちとの戦いの結果も相まって、いま、世界すべての空が白いオーラで覆われている。
「おまえの弱点は白いオーラだ。前に通じなかったのは、白いオーラには二種類あったからだ。愛を源にするものと、勇気を源にするもの。最初に俺が自己暗示で出したオーラは愛を源にするものだった。だが、おまえの弱点は勇気だったんだな」
その証拠に、エアが復活する未来すら見通せなかった。
それは俺の勇気の白いオーラがカケラの未来視の妨げになったからだ。
勇気のオーラは自己暗示で簡単に出せるものではない。出せたとしても質は落ちてしまう。
だからこそネアはあえてカケラの弱点を教えなかったのだ。
純然たる本物の勇気でカケラと戦うために。
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