離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

文字の大きさ
3 / 151
離婚

しおりを挟む
 ライラが天井を眺めはじめて、どれほどの時間が過ぎたのだろう。

 なんとも気まずい空気の流れる食堂の中に、もう一人誰かが飛びこんできた。やってきたのは、息を切らして顔を真っ赤にした執事だった。
 白髪交じりの初老の執事は、食堂へやってくるなり呼吸を整えることすらせずに、ライラの元へとわき目もふらずに慌ただしく駆け寄ってくる。彼はライラの足元に散らばった陶器の破片を見て、驚愕の表情を浮かべた。

「――た、大変申し訳ございません奥さま! お食事中にお騒がせいたしました」
 
 執事は駆けつけてきた勢いのまま、物凄い速度で頭を下げた。
 ライラは、執事がこのまま床に倒れ込んでしまうのではないかと心配になってしまった。

「……もう食べ終えるところだったから構わないわよ。これくらい気にすることじゃないわ」

 ライラは慌てふためいた様子の執事に呆れながら、ため息まじりに口を開いた。優しく声をかけたつもりだったが、執事はさらに深く頭を下げるので、ライラは困惑してしまう。

「し、しかし奥さま……。お、お怪我はございませんでしょうか?」

「ないわよ。こんなことで大げさに騒ぎ立てないでちょうだいな。……ねえ?」

 額から流れ落ちる汗を拭いながら頭を下げ続ける執事を落ち着かせるように、ライラは先ほどよりも優しく声をかける。
 すると、恐縮しきりで頭を下げていた執事がようやく顔を上げた。しかし、彼はライラの機嫌をうかがうように、怯えた様子で見つめてくる。

 ライラは、そんな執事としっかりと視線を合わせてから、穏やかに微笑んだ。すると、ようやく執事が心から安心したような表情を見せる。
 ライラは念のためにもう一度しっかりと口角を上げて執事に微笑みかけると、大きく頷いてみせた。
 執事がすっかり安堵した様子をみせてくれたことを確認すると、すぐに顔を引き締める。それから、若く美しい女に視線を向けて冷静に声をかけた。

「おはようございます。朝からいったい何事ですか?」

 この若く美しい女は、ライラの夫が屋敷の敷地内にある離れに住まわせている、いわゆる愛人である。

 ライラの夫であるクロードは、これまで数々の浮名を流してきた社交界では名の知れた色男だ。
 そのため、妻以外の女を自宅の離れに連れ込んだことも一度や二度の話ではない。浮気をした回数など両手の指の数では到底足りない。
 愛人の一人や二人が妻であるライラの元へ怒鳴り込んでこようと、こんなことはすでに日常の一部となっていた。
 ライラにとって食事中に愛人が怒鳴りこんでくる程度のことは、取り立てて騒ぐほどでもないのだ。
しおりを挟む
感想 248

あなたにおすすめの小説

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
 名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。  妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。  貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。  しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。  小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。

処理中です...