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旅立ち・出会い
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「えーっと、ライラさんだっけ?」
「――っあ、はい!」
ルーディは空の皿を積み上げてホールを軽やかに歩きながら声をかけてきた。
ライラは驚いておもわず声が裏返ってしまいながらも、反射的に返事をした。
「そこの奥の扉を入ってすぐ階段があるからさ。その階段を上がってまっすぐ進んだ突き当りの部屋を自由に使っていいからね」
「……えっと、あのー……。それは私が部屋を自由に使っていいってどういうことですか?」
「あなた宿を探していたのでしょ。兄さんが空き部屋を貸してくれって言っていたけど違うのかい?」
ライラはルーディの話していることに困惑してしまう。
ルーディは忙しそうに厨房の水洗い場に重ねた皿を置きながら、横目でライラを見つめてくる。
さきほどの料理の注文もそうであるが、トゥールはいつの間にルーディにそんな話をしていたのだろう。
ライラはどうしたものかと判断に迷いながら会話を続ける。
「……え、ええ。たしかに宿を探してはいましたけれど……」
「じゃあ、いいじゃない。うちの部屋を使いなさいよ。あなたは見た目が訳あり奥さまっぽいから、きっとろくな宿に泊まれないわよ」
ルーディの言葉にライラは面食らった。兄と妹に揃って同じことを言われるとは思わなかった。
「そのトランクケース重いでしょ。さっさと置いてきちゃいなさいな。……あ、部屋の鍵はちゃんとかかるからねえ!」
ライラが何も言い返せずにいると、ルーディは自分の提案を承知したと判断したのだろう。
こちらに背中を向けると、残り少ない客の元へと軽やかに歩き出してしまう。
「あ、そうそう! 自分で部屋の掃除をしてくれるなら、食事つきの格安で泊めてあげるから安心して」
ルーディはそう言いながら、他の客からは見えないように、しっしっと手を払う仕草をする。
ライラは彼女の提案に乗ってよいものかと、おろおろすることしかできなくなっていた。
しかし、他の客のこちらをうかがうような視線を感じて次第に居た堪れなくなってしまう。トランクケースを手に取ってすっと立ちあがると、逃げるように奥の扉に向かって進んでいった。
「ああそうだ! 二時ごろには客が落ち着くからさ。それくらいになったらきちんとお話をしましょ」
ライラが扉に手をかけたとき、ルーディが思いだしたようにライラに向かって声をかけてきた。
「……え、ええ、わかりましたわ。では、のちほどきちんとお話をいたしましょう」
ライラはルーディの背にむかって声をかけてから扉を開けた。
扉の先には言われた通り、すぐに二階へと上がる階段があった。
ライラはそっと扉を閉じてその階段を上がっていく。二階の廊下に出るとそのまま真っすぐ進み、戸惑いながら突き当りの部屋の中に入った。
「……そりゃね、馬車に乗っている間はトゥールさんにはとてもお世話になったし。彼は悪い人ではないと思うけれどね……」
誰もいない部屋の中でひとりごとを言いながら、ライラは床にトランクケースを置いた。
「流されるまま、ついついここまで来ちゃったわ……。本当にここでお世話になってもいいのかしら?」
先ほどトゥールに頼ったことを後悔したばかりなので、ライラは頭を抱える。
「そりゃ冒険者証も発行されていないし、宿を取るのには苦労するだろうけど……」
ライラは頭を悩ませながら、ゆっくりと部屋の中を見て歩く。
部屋の中は下手な宿よりも、よほど綺麗で広々としている。
格安の食事つきというならば、これほど恵まれた宿は他に探しても見つからないだろう。
ライラは信じられない気持ちで窓際に置かれたベッドに腰掛けた。
普段からきちんと手入れされているのだろう布団からは、太陽の香りがした。
すると、ライラはそれまで悩んでいたことなど吹き飛んでしまうほどの強烈な眠気に襲われる。
ライラ自身に自覚がなくとも、一か月に渡る馬車の旅は身体に支障をきたしていたらしい。
気がつくと、ライラはそのまま眠ってしまっていた。
「――っあ、はい!」
ルーディは空の皿を積み上げてホールを軽やかに歩きながら声をかけてきた。
ライラは驚いておもわず声が裏返ってしまいながらも、反射的に返事をした。
「そこの奥の扉を入ってすぐ階段があるからさ。その階段を上がってまっすぐ進んだ突き当りの部屋を自由に使っていいからね」
「……えっと、あのー……。それは私が部屋を自由に使っていいってどういうことですか?」
「あなた宿を探していたのでしょ。兄さんが空き部屋を貸してくれって言っていたけど違うのかい?」
ライラはルーディの話していることに困惑してしまう。
ルーディは忙しそうに厨房の水洗い場に重ねた皿を置きながら、横目でライラを見つめてくる。
さきほどの料理の注文もそうであるが、トゥールはいつの間にルーディにそんな話をしていたのだろう。
ライラはどうしたものかと判断に迷いながら会話を続ける。
「……え、ええ。たしかに宿を探してはいましたけれど……」
「じゃあ、いいじゃない。うちの部屋を使いなさいよ。あなたは見た目が訳あり奥さまっぽいから、きっとろくな宿に泊まれないわよ」
ルーディの言葉にライラは面食らった。兄と妹に揃って同じことを言われるとは思わなかった。
「そのトランクケース重いでしょ。さっさと置いてきちゃいなさいな。……あ、部屋の鍵はちゃんとかかるからねえ!」
ライラが何も言い返せずにいると、ルーディは自分の提案を承知したと判断したのだろう。
こちらに背中を向けると、残り少ない客の元へと軽やかに歩き出してしまう。
「あ、そうそう! 自分で部屋の掃除をしてくれるなら、食事つきの格安で泊めてあげるから安心して」
ルーディはそう言いながら、他の客からは見えないように、しっしっと手を払う仕草をする。
ライラは彼女の提案に乗ってよいものかと、おろおろすることしかできなくなっていた。
しかし、他の客のこちらをうかがうような視線を感じて次第に居た堪れなくなってしまう。トランクケースを手に取ってすっと立ちあがると、逃げるように奥の扉に向かって進んでいった。
「ああそうだ! 二時ごろには客が落ち着くからさ。それくらいになったらきちんとお話をしましょ」
ライラが扉に手をかけたとき、ルーディが思いだしたようにライラに向かって声をかけてきた。
「……え、ええ、わかりましたわ。では、のちほどきちんとお話をいたしましょう」
ライラはルーディの背にむかって声をかけてから扉を開けた。
扉の先には言われた通り、すぐに二階へと上がる階段があった。
ライラはそっと扉を閉じてその階段を上がっていく。二階の廊下に出るとそのまま真っすぐ進み、戸惑いながら突き当りの部屋の中に入った。
「……そりゃね、馬車に乗っている間はトゥールさんにはとてもお世話になったし。彼は悪い人ではないと思うけれどね……」
誰もいない部屋の中でひとりごとを言いながら、ライラは床にトランクケースを置いた。
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気がつくと、ライラはそのまま眠ってしまっていた。
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