24 / 151
鍛冶屋
3
しおりを挟む
ライラは様子のおかしいファルを気にしないようにしながら、彼女の目を見つめてはっきりと言った。
ファルはライラの言葉を聞いて、それまでの様子が嘘のようにしゃきっと背筋を伸ばして落ち着いた雰囲気を醸し出す。彼女は一瞬だけ何かを考えている顔をしてからカッと目を見開くと、ぐいっと顔を突き出してライラの顔を覗き込んできた。そして、ライラの目をしっかりと見つめながら、驚愕の声を上げた。
「――っい、一式ですか! そ、そそそ、それって防具も武器も全部ってことですかあ⁉︎」
「おいおい、まさかとは思うが三日後の試験を新しい装備で受けるつもりなのか? 慣れない物は危険だぞ」
ファルの声にかぶせるように、イルシアも声を上げる。
「ええ、その通りよ。持ち合わせがないから、揃えないと試験に挑めないのよ」
ライラはにっこりと微笑みを浮かべながら、若い二人の問いに答えた。ファルとイルシアは互いを見つめ合って黙りこんでしまう。
すると、それまでやり取りを見ていただけのマディスが口を開いた。
「……えーっと、なんだ。どうやらお前さんはうちの娘とは顔見知りらしいな。んで、今度の冒険者登録試験に挑むために、得物から防具まで全て揃えて欲しいっていうのかい?」
マディスはカウンターに肘をついたまま、じろじろとライラを眺めて問いかけてくる。ライラは彼が何を考えているのか想像がついたが、気が付かないふりをした。
「ええ、おっしゃる通りですわ」
にこにこと笑っているライラを、マディスは胡散臭そうな顔をして見つめてくる。ライラはお小言でも言われてしまう前に、さっさと用件を伝えてしまおうと切り出した。
「そこで、ご店主のマディスさんにご相談があるのですわ。支払いは現金ではなく、これでお願いしたいのですが……」
いかがでしょうか、とライラはさきほどルーディに突き付けた短剣を取り出してカウンターに置いた。
「はあ? アンタ支払いを現金じゃなくて物々交換しようってのかよ」
「あ、え、えーっと。あのう……」
イルシアとファルが、短剣とライラを交互に見ながら困惑した顔をしている。
マディスはライラに疑わしい視線を向けながら、カウンターの上の短剣を手に取った。しかし、彼が短剣を持ち上げた途端、その表情が驚愕に染まった。
「なんじゃこりゃ。軽っ!」
マディスはおもわず立ちあがって短剣を鞘から抜くと、刀身をまじまじと眺める。
「それなりに値が張る品よ。できれば引き取って欲しいのよね」
「いやいやいや、それなりって。今うちにある一番良い品物だってこれの足元にも及ばないぜ」
「あらよかった。だったら物々交換でも問題ないわよね?」
「問題あるだろう! これの素材はミスリルだろうが!」
マディスはそっと短剣を鞘にしまって丁重にカウンターの上に置くと、ライラに力強い視線を向けてきた。
「この短剣じゃ取り引きできない。今のうちには見合うだけの物がねえ。支払う金がねえってんなら帰ってくれ」
「…………あら、そうですか。でしたら仕方ありませんわね。現金でお支払いいたしますわ」
「おい、金があるなら最初からそう言え! なんだ、自慢か? ミスリルの短剣に釣り合う商品がなくて悪かったな!」
「そんなつもりはないわ。これは私にとっては不要なものなの。できることならばさっさと手放したいのですわ。…………ただ、それだけです」
ライラは少しばかり気落ちしてしまい、顔を伏せながら言った。ファルはそんなライラの様子をうかがいながら、マディスにそっと声をかける。
「……ねえねえ、お父さんってばどうしてそう口が悪いの。その剣じゃ絶対に駄目なの?」
「お前は馬鹿か! さっきも言ったがこれの素材はミスリルだぞ。しかも、柄にはめ込まれた宝石には魔法が付与してあるんだ。魔術をかじっているならそれくらい気が付け!」
父親にそう怒鳴られたファルは、カウンターに置かれた短剣に近付いてまじまじと見つめる。
「ええ、そうかなあ? そんな気配なんて全然感じないけどなあ……」
「この馬鹿娘が! よくそんなので冒険者が務まっているな」
そうして、再びマディスとファルの言い争いが始まる。そんな二人を呆れた顔をして横目で眺めながら、イルシアが短剣を手に取った。
ファルはライラの言葉を聞いて、それまでの様子が嘘のようにしゃきっと背筋を伸ばして落ち着いた雰囲気を醸し出す。彼女は一瞬だけ何かを考えている顔をしてからカッと目を見開くと、ぐいっと顔を突き出してライラの顔を覗き込んできた。そして、ライラの目をしっかりと見つめながら、驚愕の声を上げた。
「――っい、一式ですか! そ、そそそ、それって防具も武器も全部ってことですかあ⁉︎」
「おいおい、まさかとは思うが三日後の試験を新しい装備で受けるつもりなのか? 慣れない物は危険だぞ」
ファルの声にかぶせるように、イルシアも声を上げる。
「ええ、その通りよ。持ち合わせがないから、揃えないと試験に挑めないのよ」
ライラはにっこりと微笑みを浮かべながら、若い二人の問いに答えた。ファルとイルシアは互いを見つめ合って黙りこんでしまう。
すると、それまでやり取りを見ていただけのマディスが口を開いた。
「……えーっと、なんだ。どうやらお前さんはうちの娘とは顔見知りらしいな。んで、今度の冒険者登録試験に挑むために、得物から防具まで全て揃えて欲しいっていうのかい?」
マディスはカウンターに肘をついたまま、じろじろとライラを眺めて問いかけてくる。ライラは彼が何を考えているのか想像がついたが、気が付かないふりをした。
「ええ、おっしゃる通りですわ」
にこにこと笑っているライラを、マディスは胡散臭そうな顔をして見つめてくる。ライラはお小言でも言われてしまう前に、さっさと用件を伝えてしまおうと切り出した。
「そこで、ご店主のマディスさんにご相談があるのですわ。支払いは現金ではなく、これでお願いしたいのですが……」
いかがでしょうか、とライラはさきほどルーディに突き付けた短剣を取り出してカウンターに置いた。
「はあ? アンタ支払いを現金じゃなくて物々交換しようってのかよ」
「あ、え、えーっと。あのう……」
イルシアとファルが、短剣とライラを交互に見ながら困惑した顔をしている。
マディスはライラに疑わしい視線を向けながら、カウンターの上の短剣を手に取った。しかし、彼が短剣を持ち上げた途端、その表情が驚愕に染まった。
「なんじゃこりゃ。軽っ!」
マディスはおもわず立ちあがって短剣を鞘から抜くと、刀身をまじまじと眺める。
「それなりに値が張る品よ。できれば引き取って欲しいのよね」
「いやいやいや、それなりって。今うちにある一番良い品物だってこれの足元にも及ばないぜ」
「あらよかった。だったら物々交換でも問題ないわよね?」
「問題あるだろう! これの素材はミスリルだろうが!」
マディスはそっと短剣を鞘にしまって丁重にカウンターの上に置くと、ライラに力強い視線を向けてきた。
「この短剣じゃ取り引きできない。今のうちには見合うだけの物がねえ。支払う金がねえってんなら帰ってくれ」
「…………あら、そうですか。でしたら仕方ありませんわね。現金でお支払いいたしますわ」
「おい、金があるなら最初からそう言え! なんだ、自慢か? ミスリルの短剣に釣り合う商品がなくて悪かったな!」
「そんなつもりはないわ。これは私にとっては不要なものなの。できることならばさっさと手放したいのですわ。…………ただ、それだけです」
ライラは少しばかり気落ちしてしまい、顔を伏せながら言った。ファルはそんなライラの様子をうかがいながら、マディスにそっと声をかける。
「……ねえねえ、お父さんってばどうしてそう口が悪いの。その剣じゃ絶対に駄目なの?」
「お前は馬鹿か! さっきも言ったがこれの素材はミスリルだぞ。しかも、柄にはめ込まれた宝石には魔法が付与してあるんだ。魔術をかじっているならそれくらい気が付け!」
父親にそう怒鳴られたファルは、カウンターに置かれた短剣に近付いてまじまじと見つめる。
「ええ、そうかなあ? そんな気配なんて全然感じないけどなあ……」
「この馬鹿娘が! よくそんなので冒険者が務まっているな」
そうして、再びマディスとファルの言い争いが始まる。そんな二人を呆れた顔をして横目で眺めながら、イルシアが短剣を手に取った。
65
あなたにおすすめの小説
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活
アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。
妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。
貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。
しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。
小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。
木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。
その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。
本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。
リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。
しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。
なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。
竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる