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鍛冶屋
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「おはようございます」
ライラが中庭に出て声をかけると、マディスとイルシアはそれぞれの手を止めた。
イルシアは軽く会釈をしてきたが、マディスはライラを睨みつけて顎をしゃくる。
さっさとこっちにきて調整の確認をしろという意味だろう。ライラがマディスの元へ行くと、彼はぶっきらぼうに弓を手渡してきた。
「言われた通りに軽くしておいたぞ」
マディスは弓を手にしたライラをじっと見つめながら腕を組む。
さっさと試せと言われているのだと思ったライラは、的に視線を向けると即座に矢を番えて弦を引いた。
ライラが放った矢は真っすぐ的に向かって飛び、真ん中に突き刺さった。
「わあ、すごい! ど真ん中だ」
「……へえ、軽すぎてちゃんと矢が飛ぶのかと思っていたけど、大丈夫なものなんだな」
ライラのそばで見ていたファルが、両手を握り合わせて明るい声を上げた。
鍛練の手を止めてこちらの様子をうかがっていたイルシアも、感心したようにつぶやきながら矢の刺さった的を見つめている。
「もちろん重い方が早く遠くに飛ぶわ。……だけど、そこまでの筋力が私にはないから。んー、こんなものかしら?」
「なんでだよ、ちゃんと飛んでるじゃん。今ので駄目なのかよ?」
「……うん。えっと、すぐに感覚が取り戻せるとは思っていないけどね……」
ライラは淡々とイルシアに答えながら、弓に視線を落とす。弓束を握っている手を開いたり閉じたりしながら、握りの確認を念入りに行う。
イルシアはそんなライラを不思議そうに眺めている。そこへ、マディスが渋い顔をしながらイルシアに向かって声をかけた。
「おいイル。これだけ引きの軽い弓で、今の矢勢と的のど真ん中を射抜く正確性がある奴はそうはいねえからな。勘違いすんなよ」
「ああ、やっぱそうなのか! それってこいつの腕が良いってことだよな?」
イルシアは目を見開いてぱちくりさせながら、マディスを振り返って嬉々とした声を上げる。マディスはイルシアの問いに黙ったまま頷いた。
「へえ、元冒険者ってのは本当だったんだな!」
ライラの耳に届くイルシアの声が、昨日から聞いていたものとはあきらかに調子が違う。
ライラはイルシアのまとう空気に違和感を覚えて、彼の様子を確認しようと弓から顔を上げた。彼の声の調子は明るく弾んでいるのだが、なぜかとても嫌な予感がする。
「昨日は妙に小奇麗な格好をしていたし、今にも倒れそうなくらい青白い顔をしているしさ。試験を受けるなんて絶対に冷やかしだと思っていたのに!」
ライラの視界に入ってきたイルシアは、年相応の少年らしい好奇心に満ちた顔をしている。
そんなイルシアにライラは困惑する。あまりに邪気のない純粋な笑顔に、なぜか言葉では言い表せないほどの不安がこみあげてくる。
ライラが中庭に出て声をかけると、マディスとイルシアはそれぞれの手を止めた。
イルシアは軽く会釈をしてきたが、マディスはライラを睨みつけて顎をしゃくる。
さっさとこっちにきて調整の確認をしろという意味だろう。ライラがマディスの元へ行くと、彼はぶっきらぼうに弓を手渡してきた。
「言われた通りに軽くしておいたぞ」
マディスは弓を手にしたライラをじっと見つめながら腕を組む。
さっさと試せと言われているのだと思ったライラは、的に視線を向けると即座に矢を番えて弦を引いた。
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「わあ、すごい! ど真ん中だ」
「……へえ、軽すぎてちゃんと矢が飛ぶのかと思っていたけど、大丈夫なものなんだな」
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「もちろん重い方が早く遠くに飛ぶわ。……だけど、そこまでの筋力が私にはないから。んー、こんなものかしら?」
「なんでだよ、ちゃんと飛んでるじゃん。今ので駄目なのかよ?」
「……うん。えっと、すぐに感覚が取り戻せるとは思っていないけどね……」
ライラは淡々とイルシアに答えながら、弓に視線を落とす。弓束を握っている手を開いたり閉じたりしながら、握りの確認を念入りに行う。
イルシアはそんなライラを不思議そうに眺めている。そこへ、マディスが渋い顔をしながらイルシアに向かって声をかけた。
「おいイル。これだけ引きの軽い弓で、今の矢勢と的のど真ん中を射抜く正確性がある奴はそうはいねえからな。勘違いすんなよ」
「ああ、やっぱそうなのか! それってこいつの腕が良いってことだよな?」
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「へえ、元冒険者ってのは本当だったんだな!」
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「昨日は妙に小奇麗な格好をしていたし、今にも倒れそうなくらい青白い顔をしているしさ。試験を受けるなんて絶対に冷やかしだと思っていたのに!」
ライラの視界に入ってきたイルシアは、年相応の少年らしい好奇心に満ちた顔をしている。
そんなイルシアにライラは困惑する。あまりに邪気のない純粋な笑顔に、なぜか言葉では言い表せないほどの不安がこみあげてくる。
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