離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

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冒険者登録試験

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「てめえ、笑ってんじゃねえよ!」

 イルシアは苛立たしそうに叫びながら、先ほどよりも激しい炎を槍にまとわせる。
 ライラはそれを見て、再びこちらに向かって炎が飛んでくる前に素早く矢を番えた。

 次に放った矢には、精霊の力を込めた。
 空気を引き裂いてイルシアに向かっていく矢は、全体に薄く水をまとっている。
 その水が音を立ててバリバリと凍りついていき、あっという間に氷の刃となった。

「――っこんなもの!」

 イルシアは目の前まで飛んできた氷の刃を、炎をまとった槍で正面から受け止めた。
 彼が受け止めた氷の刃は、すぐさま溶けてなくなってしまう。

「あらまあ、凄い熱量ね」

 得意げな顔をしているイルシアを見ながら、ライラは感心した声を上げた。
 ライラは間髪入れずに弓を構えて次の矢を用意する。そうして、次から次へと氷の刃をイルシアに向かって放っていった。
 イルシアは一瞬の隙を与えずに飛んでくる氷の刃を、いともたやすく打ち払っていく。

「……んー、これじゃキリがないわねえ」

「――っあはは! 矢がなくなったからって、もうおしまいかよ?」

 ライラは手持ちの矢がなくなると、攻撃の手をとめた。
 それを見たイルシアが、余裕たっぷりに笑ってみせる。

「まさか。そんなわけないでしょう?」

 ライラはイルシアに笑顔を返しながら、矢を番えていない状態で弓を構えた。
 限界いっぱいのぎりぎりまで弦を引く。そこへ音も立てずに氷の刃が姿を現した。
 ライラが弦から手を離すと、氷の刃は勢いよく真っすぐにイルシアに向かっていく。
 イルシアはそれを正面から堂々と受け止めた。
 ガチンと大きな音がして、彼は雄叫びを上げながら氷の刃を払い落とした。

「なんだよ。最初からそうすれば手持ちの矢を無駄にせずに済んだじゃねえか!」

「……まあ、力の節約というところよ」

「――ッチ、なんだよそれ。俺の相手は手加減しながらでちょうどいいって言いたいのか⁉」

 イルシアは舌打ちをしながら吐き捨てた。
 避けてしまえば楽だろうに、わざわざ全ての攻撃を真正面から受け止めてみせるイルシアにライラは唖然としていた。

「…………若さゆえの無鉄砲か。独学でもここまでできるという自信があるのかしらねえ……?」

 ライラはイルシアの様子を眺めながら、彼がたった今払い落とした氷の刃をちらりと横目で見た。

 攻撃は止められてしまったが、地面に落ちた氷の刃は溶けてはいない。
 だいたいどの程度の力を使えばイルシアの炎の熱量を上回ることができるのか把握できた。

 久しぶりに他人とまともに戦うことになったライラは、自分の一つ一つの動きを確認していた。
 けしてイルシアに対して加減をしていたわけではない。

「……少し力を入れ過ぎてしまったかしらね」

 ライラは自分の右手に視線を落とす。

「……早く感覚を取り戻せるようにしないと……」

「おい、何をぶつぶつ言ってんだ? そっちがいつまでも動かないなら、もう一度こっちから行くぜ!」

 ライラは一人でぼんやりと考え込んでいた。
 そんなライラにしびれを切らしたイルシアが、槍を構えて力を入れた。
 イルシアは槍だけでなく、身体全体を炎に包み込んでしまった。

「……ふーん、そんなこともできるのね」

 ライラはイルシアをじっと見つめていた。
 すると、彼が一瞬にしてその場から姿を消してしまう。
 イルシアがいた場所の地面が音を立てて崩れてぽっかりと穴が空いた。
 
 気が付いたときには、イルシアはライラの目の前に迫ってきていた。
 次の瞬間、イルシアの炎をまとった槍がライラの身体に突き刺さる。

「――っきゃあああああ!」

 その光景を見たファルがおもわず悲鳴を上げる。
 ライラの胸にイルシアの槍が真っすぐに突き刺さっている。
 
 イルシアはまさか自分の攻撃がライラに当たるとは思わなかったらしい。
 彼は衝撃で目を見開いて身体を硬直させた。
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