離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

文字の大きさ
62 / 151
その後

しおりを挟む
 ライラは試験が終わると、宿にしている定食屋までまっすぐに帰ってきた。
 定食屋に着いたのは、まだ日の沈んでいない明るい時間だった。

 ルーディとジークは夜の営業の仕込みが終わり、つかの間の休憩をとっているところだった。
 そこへライラが帰ってきたものだから、ルーディが試験の話を聞かせろとせがんできた。
 ライラはすっかりカウンターでルーディと話しこんでしまっていた。
 
「へえ、大変だったんだね。でもさ、それで受験者の半分が合格したってことなら凄いんじゃないの?」

「うーん、どうなのかしらねえ。そこらへんはまだよくわからないわ」

 モンスター乱入というトラブルがあったというのに、今回の試験では約半数の受験者が合格をした。
 結界の中に逃げ込んだ受験生たちは、あの時点で互いに見つけていたコインを大人しく交換していた。
 ライラとマスターの会話をちゃっかり聞いていた八番の男が、コイン交換をあの場で皆に持ちかけたそうなのだ。

「……あの八番君、これから伸びると思うわ」

 運よく八の数字が刻まれたコインを見つけていた者がいた。
 彼はライラとイルシアがモンスターを討伐している中、試験を中断するという宣言はなかったと主張して自分の受験番号のコインを提出したそうだ。
 たしかにあの時は試験の制限時間内だったし、彼自身が試験を棄権すると宣言していたわけではなかった。
 だからといって、あの場でコインを提出できる度胸は大したものだと、その話を聞いて呆れてしまった。

「ふーん。私にはよくわからないけど、頭の切り替えが早い子なんじゃない?」

「そうかもね。試験終わりにみんなで飲みに行こうなんて機嫌よく声かけてたしね」

 あんな面倒な試験を終えたあとに、よく酒を飲む気分になれるものだ。
 
「アンタも飲みに行ってくればよかったのに。仲間と交流できて、いろいろ話がきける機会だったんじゃないの?」

「今日はさすがに疲れたの。早く帰って寝たかったのよね」

 ライラがそんな話をルーディとしていると、ジークが厨房の中から手を伸ばしてきた。
 ライラの目の前に温かいミルクの入ったカップが置かれる。

「早く寝るのはいいが、せめてこれくらいは口に入れてから休め」
 
 ジークはそれだけ言って厨房の奥に戻ってしまう。
 壁にかけられた時計を見ると、そろそろ夜の営業が始まる時間だった。

「そうだね、それくらいは飲みなよ。今日はいつもにまして青白い顔をしているもの」

 ルーディが豪快に笑い、ばしばしとライラの背中を叩く。

「……あ、ありがとう」

 ライラは苦笑いを浮かべながら、ごくりと息を呑んでカップを持ち上げる。
 モンスター討伐後にあれだけ盛大に腹は鳴ったが食欲はない。
 ライラは覚悟を決めてカップに口をつけた。
 いつものように、生温かく気持ち悪い感触が喉を通り抜けていく、そう思っていた。

「…………あ、あれ……?」

 口の中に甘くて優しい味が広がる。

「このミルク、はちみつが入っているの?」

「うん、そうだよ。アンタあまり食べないからさ。少しでも栄養が取れたほうがいいだろうと思って……」

 そこまで言って、ルーディがぎょっと目を見開いた。
しおりを挟む
感想 248

あなたにおすすめの小説

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
 名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。  妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。  貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。  しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。  小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

処理中です...