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その後
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ルーディに店を追い出されたライラは、冒険者組合に向かう道中でイルシアとファルの二人にひたすら謝罪をしていた。
「本当にごめんね! 嫌なことをさせちゃったわよね」
「もういいですってば!」
「いやいや、さすがにこのままってわけにはいかないわよ。何かお礼をさせてちょうだい」
「ですから、昨日は危険なモンスターを討伐してもらったのですから、こちらの方がお世話になったんですってば!」
謝り続けるライラに、ファルはうんざりした顔をして受け答えをしている。
ライラのあまりのしつこさに、イルシアは不機嫌そうにしたまま何も言わない。
「――っもう! この扉を開けたらそのことは二度と言わないでくださいね。これ以上言ったら怒りますからね!」
同じやりとりを繰り返している間に冒険者組合に到着した。
入り口の扉に手をかけながら、ファルはライラに向かってキッパリと言い切った。
ファルは、これ以上言ったら怒ると宣言したが、すでに怒り心頭といった様子だ。
そんなファルの姿を見て、イルシアが顔を引きつらせながらライラにこっそりと耳打ちをしてくる。
「……あのさ、ファルが怒るとすげえ面倒なんだよ。頼むからこれ以上この話はやめてくれ」
「了解です。もう言わない!」
ライラはファルに向かって小さく両手を上げた。
「――ならよし! ほら、行きますよ。昨日からマスターがライラさんとお話がしたいと言ってお待ちかねなのですから」
ファルがそう言って勢いよく扉を開けた。
組合の中は昨日ライラが訪れた時よりも活気があふれている。
「あ、姉さーん!」
三人が組合のロビーに入ってくるなり、一人の男がライラに声をかけてきた。
男は両手を広げて勢いよくこちらに近づいてくる。
そのまま抱きついてきそうな雰囲気があったので、ライラはそれ以上近づくなという意味を込めてギロリと男を睨みつける。
「こんにちは、八番さん」
八番の男はライラの睨みに気がつくと、目の前で慌てて立ち止まった。
そのせいで転びそうになっている男に、ライラは冷たい視線を向けながら挨拶をする。彼はしょんぼりとした顔をして、がっくりと肩を落とした。
「だから八番じゃないですってえ。ちゃんと自己紹介しましたよ?」
「あら、そうだったかしら。えっと、八番さんだから……ハチ君、だったかしらね」
「違いますってえ。受験番号から離れてくださいよー」
八番の男が情けない声で話すので、ライラは適当に相槌を打ちながら聞き流す。
ライラはなぜか受験番号八番の男にすっかり懐かれてしまった。
彼は試験が終わると、ライラのことを姉さんと呼び、親しげに話しかけてくるようになっていた。
「こんにちはライラさん。よかったあ、もう体調は良くなられたのですね」
ライラがまとわりついてくる八番の男を適当にあしらっていると、受付嬢がそばにやってきた。
笑顔で声をかけてきた受付嬢に、ライラもつられて笑顔を返す。
しかし、ライラの一歩手前で足を止めた受付嬢は、途端に怪訝そうな顔をする。
「あれれえ? やっぱり顔色があまりよくありませんねえ」
「顔色が悪いのはもともとだから気にしないでちょうだいな。それよりもマスターはどこかしら? 呼ばれていると聞いているのだけど……」
「そうさ。姉さんはここに初めて来たときからずーっと顔色が悪いぜ」
ライラと受付嬢が話をしていると、八番の男が昔から親しい間柄のようにライラを指差してそんなことを言う。
ライラは無言で彼の額を指ではじいた。
「いってえ! ええ、なんでえ⁉」
「はいはい。時間ができたら一緒に飲みにでも行くから。今はごめんなさいね」
額を押さえて涙ぐむ八番の男を横目で眺めながらライラは呆れて言った。
彼が恩人であることは認めているし、感謝をしている。
しかし、狡猾な部分があることがわかっているので、すぐに甘い顔はできなかった。
ライラは痛がる男から視線を外して受付嬢に向き直ると、満面の笑みを浮かべた。
「さ、マスターのところに案内してちょうだい」
「……あ、はい。どうぞこちらです」
受付嬢は顔を引きつらせながら返事をする。
彼女はライラたち三人を組合の一番奥の部屋に案内してくれた。
「本当にごめんね! 嫌なことをさせちゃったわよね」
「もういいですってば!」
「いやいや、さすがにこのままってわけにはいかないわよ。何かお礼をさせてちょうだい」
「ですから、昨日は危険なモンスターを討伐してもらったのですから、こちらの方がお世話になったんですってば!」
謝り続けるライラに、ファルはうんざりした顔をして受け答えをしている。
ライラのあまりのしつこさに、イルシアは不機嫌そうにしたまま何も言わない。
「――っもう! この扉を開けたらそのことは二度と言わないでくださいね。これ以上言ったら怒りますからね!」
同じやりとりを繰り返している間に冒険者組合に到着した。
入り口の扉に手をかけながら、ファルはライラに向かってキッパリと言い切った。
ファルは、これ以上言ったら怒ると宣言したが、すでに怒り心頭といった様子だ。
そんなファルの姿を見て、イルシアが顔を引きつらせながらライラにこっそりと耳打ちをしてくる。
「……あのさ、ファルが怒るとすげえ面倒なんだよ。頼むからこれ以上この話はやめてくれ」
「了解です。もう言わない!」
ライラはファルに向かって小さく両手を上げた。
「――ならよし! ほら、行きますよ。昨日からマスターがライラさんとお話がしたいと言ってお待ちかねなのですから」
ファルがそう言って勢いよく扉を開けた。
組合の中は昨日ライラが訪れた時よりも活気があふれている。
「あ、姉さーん!」
三人が組合のロビーに入ってくるなり、一人の男がライラに声をかけてきた。
男は両手を広げて勢いよくこちらに近づいてくる。
そのまま抱きついてきそうな雰囲気があったので、ライラはそれ以上近づくなという意味を込めてギロリと男を睨みつける。
「こんにちは、八番さん」
八番の男はライラの睨みに気がつくと、目の前で慌てて立ち止まった。
そのせいで転びそうになっている男に、ライラは冷たい視線を向けながら挨拶をする。彼はしょんぼりとした顔をして、がっくりと肩を落とした。
「だから八番じゃないですってえ。ちゃんと自己紹介しましたよ?」
「あら、そうだったかしら。えっと、八番さんだから……ハチ君、だったかしらね」
「違いますってえ。受験番号から離れてくださいよー」
八番の男が情けない声で話すので、ライラは適当に相槌を打ちながら聞き流す。
ライラはなぜか受験番号八番の男にすっかり懐かれてしまった。
彼は試験が終わると、ライラのことを姉さんと呼び、親しげに話しかけてくるようになっていた。
「こんにちはライラさん。よかったあ、もう体調は良くなられたのですね」
ライラがまとわりついてくる八番の男を適当にあしらっていると、受付嬢がそばにやってきた。
笑顔で声をかけてきた受付嬢に、ライラもつられて笑顔を返す。
しかし、ライラの一歩手前で足を止めた受付嬢は、途端に怪訝そうな顔をする。
「あれれえ? やっぱり顔色があまりよくありませんねえ」
「顔色が悪いのはもともとだから気にしないでちょうだいな。それよりもマスターはどこかしら? 呼ばれていると聞いているのだけど……」
「そうさ。姉さんはここに初めて来たときからずーっと顔色が悪いぜ」
ライラと受付嬢が話をしていると、八番の男が昔から親しい間柄のようにライラを指差してそんなことを言う。
ライラは無言で彼の額を指ではじいた。
「いってえ! ええ、なんでえ⁉」
「はいはい。時間ができたら一緒に飲みにでも行くから。今はごめんなさいね」
額を押さえて涙ぐむ八番の男を横目で眺めながらライラは呆れて言った。
彼が恩人であることは認めているし、感謝をしている。
しかし、狡猾な部分があることがわかっているので、すぐに甘い顔はできなかった。
ライラは痛がる男から視線を外して受付嬢に向き直ると、満面の笑みを浮かべた。
「さ、マスターのところに案内してちょうだい」
「……あ、はい。どうぞこちらです」
受付嬢は顔を引きつらせながら返事をする。
彼女はライラたち三人を組合の一番奥の部屋に案内してくれた。
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