離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

文字の大きさ
66 / 151
その後

5

しおりを挟む
 ルーディに店を追い出されたライラは、冒険者組合に向かう道中でイルシアとファルの二人にひたすら謝罪をしていた。

「本当にごめんね! 嫌なことをさせちゃったわよね」

「もういいですってば!」

「いやいや、さすがにこのままってわけにはいかないわよ。何かお礼をさせてちょうだい」

「ですから、昨日は危険なモンスターを討伐してもらったのですから、こちらの方がお世話になったんですってば!」

 謝り続けるライラに、ファルはうんざりした顔をして受け答えをしている。
 ライラのあまりのしつこさに、イルシアは不機嫌そうにしたまま何も言わない。

「――っもう! この扉を開けたらそのことは二度と言わないでくださいね。これ以上言ったら怒りますからね!」

 同じやりとりを繰り返している間に冒険者組合に到着した。
 入り口の扉に手をかけながら、ファルはライラに向かってキッパリと言い切った。
 ファルは、これ以上言ったら怒ると宣言したが、すでに怒り心頭といった様子だ。
 そんなファルの姿を見て、イルシアが顔を引きつらせながらライラにこっそりと耳打ちをしてくる。

「……あのさ、ファルが怒るとすげえ面倒なんだよ。頼むからこれ以上この話はやめてくれ」

「了解です。もう言わない!」

 ライラはファルに向かって小さく両手を上げた。

「――ならよし! ほら、行きますよ。昨日からマスターがライラさんとお話がしたいと言ってお待ちかねなのですから」

 ファルがそう言って勢いよく扉を開けた。
 組合の中は昨日ライラが訪れた時よりも活気があふれている。

「あ、姉さーん!」

 三人が組合のロビーに入ってくるなり、一人の男がライラに声をかけてきた。
 男は両手を広げて勢いよくこちらに近づいてくる。
 そのまま抱きついてきそうな雰囲気があったので、ライラはそれ以上近づくなという意味を込めてギロリと男を睨みつける。

「こんにちは、八番さん」

 八番の男はライラの睨みに気がつくと、目の前で慌てて立ち止まった。
 そのせいで転びそうになっている男に、ライラは冷たい視線を向けながら挨拶をする。彼はしょんぼりとした顔をして、がっくりと肩を落とした。

「だから八番じゃないですってえ。ちゃんと自己紹介しましたよ?」

「あら、そうだったかしら。えっと、八番さんだから……ハチ君、だったかしらね」

「違いますってえ。受験番号から離れてくださいよー」

 八番の男が情けない声で話すので、ライラは適当に相槌を打ちながら聞き流す。
 ライラはなぜか受験番号八番の男にすっかり懐かれてしまった。
 彼は試験が終わると、ライラのことを姉さんと呼び、親しげに話しかけてくるようになっていた。

「こんにちはライラさん。よかったあ、もう体調は良くなられたのですね」

 ライラがまとわりついてくる八番の男を適当にあしらっていると、受付嬢がそばにやってきた。
 笑顔で声をかけてきた受付嬢に、ライラもつられて笑顔を返す。
 しかし、ライラの一歩手前で足を止めた受付嬢は、途端に怪訝そうな顔をする。

「あれれえ? やっぱり顔色があまりよくありませんねえ」

「顔色が悪いのはもともとだから気にしないでちょうだいな。それよりもマスターはどこかしら? 呼ばれていると聞いているのだけど……」

「そうさ。姉さんはここに初めて来たときからずーっと顔色が悪いぜ」

 ライラと受付嬢が話をしていると、八番の男が昔から親しい間柄のようにライラを指差してそんなことを言う。
 ライラは無言で彼の額を指ではじいた。

「いってえ! ええ、なんでえ⁉」

「はいはい。時間ができたら一緒に飲みにでも行くから。今はごめんなさいね」

 額を押さえて涙ぐむ八番の男を横目で眺めながらライラは呆れて言った。
 彼が恩人であることは認めているし、感謝をしている。
 しかし、狡猾な部分があることがわかっているので、すぐに甘い顔はできなかった。
 ライラは痛がる男から視線を外して受付嬢に向き直ると、満面の笑みを浮かべた。

「さ、マスターのところに案内してちょうだい」

「……あ、はい。どうぞこちらです」

 受付嬢は顔を引きつらせながら返事をする。
 彼女はライラたち三人を組合の一番奥の部屋に案内してくれた。
しおりを挟む
感想 248

あなたにおすすめの小説

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...