135 / 151
真実
14
しおりを挟む
「――それで、お前はどうする?」
ヴィリがコホンと咳払いをしてから、ライラに向かって問いかけてきた。
ライラは口元に人差し指を当てると、わざとらしくとぼけた顔をして首をかしげた。
「どうする、とは何でございましょうか?」
「とぼけるな。僕が言いたいことはわかっているだろうが」
「……さあ、どうでしょうかねえ。私には殿下のおっしゃりたいことがさっぱりわかりませんわ」
くすりと笑ってヴィリを見ると、彼は腰に手をあてて呆れた顔をする。大きくため息をつくと、ライラの目をじっと見つめてきた。
「――まったく。お前は弟にしてやられたままでいいのかと言うことだ」
「あらあら。私に協力して欲しいのなら、素直にそうおっしゃってくださいませ」
ヴィリはライラの返答を聞いて目を見開く。悔しそうに唇を噛んでから切り出した。
「………………僕に、力を貸せ。お前がこの地に流れてきたのも何かの縁だ」
「まあ、殿下にご縁を感じていただけて光栄でございますわ」
ライラはヴィリに向かって丁寧にお辞儀をした。
「正直に申し上げますと、我が子を奪った者には、命をもってその罪を償わせてやりたい、と考えております」
そこまで言って、ライラはすぐに身体を起こすと真っすぐに背筋を伸ばす。真面目な顔をしてヴィリを見つめ返した。
「ですが、復讐は何も生み出さないことくらいは、わかっているのです」
やってもむなしくなるだけだ。それに、そんなことをあの子が望むはずがない。そんな母の姿を見せたくはない。
「……ずっと、ずっと考えていましたわ。私はあの子を殺した者を見つけたら、いったい何をしたいのだろうかと……」
あの子が感じたものと同じ痛みを与えてやりたい。それ以上に苦しませてやりたいとも思う。
しかし、そう考えてしまう一方で、きちんと公的な裁きを受けさせたいとも思うのだ。
「そんな悩みは無駄だ。あいつは簒奪を企てているのだぞ。しかも、魔族という協力者がいるのだ。争いはどうしても避けられない。捕えて裁判に、などと悠長なことは言っていられないだろうさ」
「……そう、なのでしょうか。私は弟君がどうして王になることを望んだのか知りたいですわ。それを叶えるために行った全ての行動の意味を、弟君から直接説明していただきたいと思っております」
ライラの言葉を聞いたヴィリは鼻で笑った。
「そんなことは無理だろう。聞けたとしても、お前はそれで納得できるのか? きっとできないだろうさ。それならいっそ何も聞かない方が、心の平穏を保てるのではないか?」
「それは、どうなのでしょうか。きっとどんな説明をされても、納得できないことはわかりますわ。それでも知りたいと思ってしまうのは、間違いでしょうか?」
「間違ってはいない。そういう話ではない」
ヴィリは強い口調でそう言って真剣な顔をする。
「弟は玉座を得るためには他国を巻き込むような戦を起こすこともいとわないのだ。もし追い詰めたとして、あいつは破滅的な最後を望むだろう。そういう奴なのさ」
きっとろくな言葉は聞けないし、腹立たしくなるだけさ、とヴィリは吐き捨てた。そのヴィリの言い分を聞いて、ライラはすぐに返答ができなかった。
すると、ヴィリは一瞬だけ困惑した態度をみせた。しかし、すぐに自信ありげな調子に戻って話を続けた。
「実はな、僕は以前よりこの地を我が直轄領にするために動いていたのだ。弟と物理的に距離が近いと、いろいろと動きにくいこともあってな」
ヴィリがちらりとマスターに視線を向けた。
ライラもつられてマスターを見る。マスターはライラと視線が合うなり目を伏せて軽く頭を下げた。
「……まあ、この地を殿下のご領地になさるのですか。それはとんでもないご計画でございますわね。ずいぶんとご無理をなさっておられるのでは?」
逃げるように視線を逸らしたマスターに向かって、ライラは低い声で言った。
マスターは目を伏せたまま何も言わない。相変らず食えない人だと、ライラは心の中で舌打ちをした。
「計画通りであれば、僕の受け入れまではもう少し時間がかかるはずだったのだ。だが、弟にこちらの動きを気付かれてしまったので、こうして僕がここへ来て計画を早めるしかなくなった」
ヴィリの言葉が少し途切れたところで、マスターがさっと顔を上げる。
「仕上げの準備は整っております」
ニヤリと嫌な笑顔をみせたマスターに、ライラは顔をしかめる。
「ここから立て直しだ。もう弟に背中を見せるようなことは絶対にしない」
ヴィリはまた手を叩いた。乾いた音が周囲に響く。
「僕はしばらくこの地に留まる。もし協力してくれるなら、いつでも声をかけてくれ」
ヴィリがコホンと咳払いをしてから、ライラに向かって問いかけてきた。
ライラは口元に人差し指を当てると、わざとらしくとぼけた顔をして首をかしげた。
「どうする、とは何でございましょうか?」
「とぼけるな。僕が言いたいことはわかっているだろうが」
「……さあ、どうでしょうかねえ。私には殿下のおっしゃりたいことがさっぱりわかりませんわ」
くすりと笑ってヴィリを見ると、彼は腰に手をあてて呆れた顔をする。大きくため息をつくと、ライラの目をじっと見つめてきた。
「――まったく。お前は弟にしてやられたままでいいのかと言うことだ」
「あらあら。私に協力して欲しいのなら、素直にそうおっしゃってくださいませ」
ヴィリはライラの返答を聞いて目を見開く。悔しそうに唇を噛んでから切り出した。
「………………僕に、力を貸せ。お前がこの地に流れてきたのも何かの縁だ」
「まあ、殿下にご縁を感じていただけて光栄でございますわ」
ライラはヴィリに向かって丁寧にお辞儀をした。
「正直に申し上げますと、我が子を奪った者には、命をもってその罪を償わせてやりたい、と考えております」
そこまで言って、ライラはすぐに身体を起こすと真っすぐに背筋を伸ばす。真面目な顔をしてヴィリを見つめ返した。
「ですが、復讐は何も生み出さないことくらいは、わかっているのです」
やってもむなしくなるだけだ。それに、そんなことをあの子が望むはずがない。そんな母の姿を見せたくはない。
「……ずっと、ずっと考えていましたわ。私はあの子を殺した者を見つけたら、いったい何をしたいのだろうかと……」
あの子が感じたものと同じ痛みを与えてやりたい。それ以上に苦しませてやりたいとも思う。
しかし、そう考えてしまう一方で、きちんと公的な裁きを受けさせたいとも思うのだ。
「そんな悩みは無駄だ。あいつは簒奪を企てているのだぞ。しかも、魔族という協力者がいるのだ。争いはどうしても避けられない。捕えて裁判に、などと悠長なことは言っていられないだろうさ」
「……そう、なのでしょうか。私は弟君がどうして王になることを望んだのか知りたいですわ。それを叶えるために行った全ての行動の意味を、弟君から直接説明していただきたいと思っております」
ライラの言葉を聞いたヴィリは鼻で笑った。
「そんなことは無理だろう。聞けたとしても、お前はそれで納得できるのか? きっとできないだろうさ。それならいっそ何も聞かない方が、心の平穏を保てるのではないか?」
「それは、どうなのでしょうか。きっとどんな説明をされても、納得できないことはわかりますわ。それでも知りたいと思ってしまうのは、間違いでしょうか?」
「間違ってはいない。そういう話ではない」
ヴィリは強い口調でそう言って真剣な顔をする。
「弟は玉座を得るためには他国を巻き込むような戦を起こすこともいとわないのだ。もし追い詰めたとして、あいつは破滅的な最後を望むだろう。そういう奴なのさ」
きっとろくな言葉は聞けないし、腹立たしくなるだけさ、とヴィリは吐き捨てた。そのヴィリの言い分を聞いて、ライラはすぐに返答ができなかった。
すると、ヴィリは一瞬だけ困惑した態度をみせた。しかし、すぐに自信ありげな調子に戻って話を続けた。
「実はな、僕は以前よりこの地を我が直轄領にするために動いていたのだ。弟と物理的に距離が近いと、いろいろと動きにくいこともあってな」
ヴィリがちらりとマスターに視線を向けた。
ライラもつられてマスターを見る。マスターはライラと視線が合うなり目を伏せて軽く頭を下げた。
「……まあ、この地を殿下のご領地になさるのですか。それはとんでもないご計画でございますわね。ずいぶんとご無理をなさっておられるのでは?」
逃げるように視線を逸らしたマスターに向かって、ライラは低い声で言った。
マスターは目を伏せたまま何も言わない。相変らず食えない人だと、ライラは心の中で舌打ちをした。
「計画通りであれば、僕の受け入れまではもう少し時間がかかるはずだったのだ。だが、弟にこちらの動きを気付かれてしまったので、こうして僕がここへ来て計画を早めるしかなくなった」
ヴィリの言葉が少し途切れたところで、マスターがさっと顔を上げる。
「仕上げの準備は整っております」
ニヤリと嫌な笑顔をみせたマスターに、ライラは顔をしかめる。
「ここから立て直しだ。もう弟に背中を見せるようなことは絶対にしない」
ヴィリはまた手を叩いた。乾いた音が周囲に響く。
「僕はしばらくこの地に留まる。もし協力してくれるなら、いつでも声をかけてくれ」
29
あなたにおすすめの小説
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。
木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。
その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。
本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。
リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。
しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。
なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。
竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活
アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。
妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。
貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。
しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。
小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる