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けじめ
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クロードが大きく息をはいた。彼は涙を拭うような仕草をしてから、そっと手を下ろす。
ライラはクロードが落ち着くまで、黙りこんでじっと待っていた。
しばらくすると、クロードはゆっくりと深呼吸をしてから真っすぐに背筋を伸ばした。それから、彼は勢いよくライラを振り返ると腕を組んだ。
「いちおう言っておくが、私があの子のことを忘れたことはこれまでに一度もないからな」
「それくらいわかっているわよ。そんな薄情な人だったら、一度だって結婚しようとなんて思わないから」
クロードの目が赤く充血している。
ライラがそのことに気が付いて驚きながらクロードの顔をまじまじと見つめていると、彼は気恥ずかしそうに視線を逸らしてしまった。
クロードはライラに泣き顔を見られることが、よっほど嫌なようだ。
何を今さらと、ライラは少しムッとした。今までに互いのみっともない姿など嫌というほど見ているはずだ。この期に及んで泣き顔がなんだというのだろう。
ライラはクロードの頬に手を伸ばして強引に掴むと、無理やり顔をこちらに向けさせてしっかりと視線を合わせた。彼の赤く充血した目を至近距離から見つめながら、ライラはゆっくりと口を開いた。
「――私ね、今度のあの子の命日には、お墓参りをしようと思っているのよ」
ライラがそう言うと、クロードの目がまた潤んだ。しかし、どうにも涙を見せるのは嫌なようで、必死に耐えているのか頬がひくひくと動いている。
ライラはくすりと笑ってから、クロードの頬を掴んでいた手を離した。途端に彼はまたライラに背中を向けて、目元に手を当てている。
クロードが涙ぐんだ理由はわかる。
ライラは埋葬のとき以外に墓へ行っていないからだ。
あの子に合わせる顔がないと思っていた。犯人を見つけて罰してからでないと、会いに行ってはいけないのだと思い込んでいたのだ。
「…………そ、そうだな。君が会いに行ったら、きっとあの子は喜ぶだろう。君がいつでも来られるように、話は通しておくよ」
「うん、ありがとう。お願いね」
あの子の墓は侯爵家の領地にある。ここからは遠く離れているが、必ず行こうと心に決めた。
「君とはもう同じときを過ごすことはできなくても、せめてあの子にとっての良き父でいたいと思う。これからはもっと気を引き締めて過ごすよ」
「そうしてちょうだいな。私は私で、ここからもういちど冒険者として一から始めてみるから!」
ライラがそう言って笑うと、クロードがこちらを振り返った。彼は真っ赤な目をしたまま穏やかに微笑んだ。
「今度はちゃんと弟子だって立派に育てあげてみせるんだから。いつか本当にあの子に会えたときに、お母さまは立派な冒険者だったって言えるようにね!」
ライラが胸に手を当ててそう宣言すると、クロードがこちらに向かって手を伸ばしてきた。
王都を出たあと、クロードと再会してから、ライラは何度もこの手を振り払ってしまった。
「……道中気をつけてね。あなたに精霊のご加護がありますように」
ライラはクロードの手を取ると、しっかりと握手を交わす。
「君も気をつけろよ。殿下があの街にいらっしゃる限り、これから起こるさまざまな出来事に巻き込まれるだろうからな」
「ほんとそれよね。覚悟はしているわ」
ライラが困ったように笑っていると、手を強く握り返された。
「君にも、精霊のご加護がありますように」
クロードはそう言うと、握っていたライラの手を離した。
彼はそのままライラに背を向けると、その場から歩き出して颯爽と馬に跨った。彼は待たせていた供回りたちに声をかけて、再び王都に向かって出発してしまう。
遠ざかるクロードの背中に、ライラは声をかけた。
「あ、そうだわ! 王都に戻ったら侯爵家のみんなに、ライラがありがとうって言っていたって伝えてほしいな。ちゃんと挨拶しなくてごめんなさいともね。絶対に伝えてよね!」
「わかった、ちゃんと伝えておく。それじゃあ、君も元気でな!」
「――うん。それじゃあね!」
ライラは王都へ向かう旅路に戻ったクロードを見送った。姿が見えなくなるまで、その場で佇んでいた。
ライラはクロードが落ち着くまで、黙りこんでじっと待っていた。
しばらくすると、クロードはゆっくりと深呼吸をしてから真っすぐに背筋を伸ばした。それから、彼は勢いよくライラを振り返ると腕を組んだ。
「いちおう言っておくが、私があの子のことを忘れたことはこれまでに一度もないからな」
「それくらいわかっているわよ。そんな薄情な人だったら、一度だって結婚しようとなんて思わないから」
クロードの目が赤く充血している。
ライラがそのことに気が付いて驚きながらクロードの顔をまじまじと見つめていると、彼は気恥ずかしそうに視線を逸らしてしまった。
クロードはライラに泣き顔を見られることが、よっほど嫌なようだ。
何を今さらと、ライラは少しムッとした。今までに互いのみっともない姿など嫌というほど見ているはずだ。この期に及んで泣き顔がなんだというのだろう。
ライラはクロードの頬に手を伸ばして強引に掴むと、無理やり顔をこちらに向けさせてしっかりと視線を合わせた。彼の赤く充血した目を至近距離から見つめながら、ライラはゆっくりと口を開いた。
「――私ね、今度のあの子の命日には、お墓参りをしようと思っているのよ」
ライラがそう言うと、クロードの目がまた潤んだ。しかし、どうにも涙を見せるのは嫌なようで、必死に耐えているのか頬がひくひくと動いている。
ライラはくすりと笑ってから、クロードの頬を掴んでいた手を離した。途端に彼はまたライラに背中を向けて、目元に手を当てている。
クロードが涙ぐんだ理由はわかる。
ライラは埋葬のとき以外に墓へ行っていないからだ。
あの子に合わせる顔がないと思っていた。犯人を見つけて罰してからでないと、会いに行ってはいけないのだと思い込んでいたのだ。
「…………そ、そうだな。君が会いに行ったら、きっとあの子は喜ぶだろう。君がいつでも来られるように、話は通しておくよ」
「うん、ありがとう。お願いね」
あの子の墓は侯爵家の領地にある。ここからは遠く離れているが、必ず行こうと心に決めた。
「君とはもう同じときを過ごすことはできなくても、せめてあの子にとっての良き父でいたいと思う。これからはもっと気を引き締めて過ごすよ」
「そうしてちょうだいな。私は私で、ここからもういちど冒険者として一から始めてみるから!」
ライラがそう言って笑うと、クロードがこちらを振り返った。彼は真っ赤な目をしたまま穏やかに微笑んだ。
「今度はちゃんと弟子だって立派に育てあげてみせるんだから。いつか本当にあの子に会えたときに、お母さまは立派な冒険者だったって言えるようにね!」
ライラが胸に手を当ててそう宣言すると、クロードがこちらに向かって手を伸ばしてきた。
王都を出たあと、クロードと再会してから、ライラは何度もこの手を振り払ってしまった。
「……道中気をつけてね。あなたに精霊のご加護がありますように」
ライラはクロードの手を取ると、しっかりと握手を交わす。
「君も気をつけろよ。殿下があの街にいらっしゃる限り、これから起こるさまざまな出来事に巻き込まれるだろうからな」
「ほんとそれよね。覚悟はしているわ」
ライラが困ったように笑っていると、手を強く握り返された。
「君にも、精霊のご加護がありますように」
クロードはそう言うと、握っていたライラの手を離した。
彼はそのままライラに背を向けると、その場から歩き出して颯爽と馬に跨った。彼は待たせていた供回りたちに声をかけて、再び王都に向かって出発してしまう。
遠ざかるクロードの背中に、ライラは声をかけた。
「あ、そうだわ! 王都に戻ったら侯爵家のみんなに、ライラがありがとうって言っていたって伝えてほしいな。ちゃんと挨拶しなくてごめんなさいともね。絶対に伝えてよね!」
「わかった、ちゃんと伝えておく。それじゃあ、君も元気でな!」
「――うん。それじゃあね!」
ライラは王都へ向かう旅路に戻ったクロードを見送った。姿が見えなくなるまで、その場で佇んでいた。
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