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ソフィアは、どうしてお前が上から物を言うのかと憤っているルイースを抑えつけながら、兵士の話に耳を傾ける。
「イーサン様はご自分に自信がないのです」
兵士はふうと息をはいて、頭に手を置いた。先ほどまでの笑い顔はどこへ行ったのか、心底困り果てた表情を浮かべている。
「お父上の足もとにも及ばないと焦っておられるのですよ。とにかく何か功績を挙げて先代に近付こうと躍起になっているのです」
「――っは、それが前線で指揮を取るという行動に繋がるのですか。ちょっと短絡にすぎるのではございませんこと?」
「ルイース、いい加減になさい。私のことを思っての発言なのはわかりますが、旦那さまを咎める言葉は許しませんよ」
我慢ならなくなったルイースが吐き捨てるように兵士に向かって言った。
人目もあるので主人としてルイースを叱ったが、ソフィアは彼女と同じことをイーサン本人に言ってやりたいとすら思っている。イーサンが仕事だと家を空けるのはそんなことが理由かと思うと、呆れかえってしまう。
「イーサン様の行動もきっと今だけだろうとは思うのですがね。もともとは冷静な方ですから、そのうちに馬鹿なことをしているとお気づきになるでしょう」
「今だけって、そんな曖昧なことでは困るのですが……。その間に旦那さまの身に何かあったらどうするのですか?」
呆れている気持ちを隠すこともせず、ソフィアは溜め息まじりに兵士に問いかけた。
すると、兵士は口の端をあげてにやりと笑う。
「そこをどうにかするのが奥さまの腕の見せどころではないですか?」
「まあ、そこは忠臣の腕の見せどころでもあると思いますが?」
いよいよソフィアも兵士の態度に我慢ならなくなってきた。ソフィアは彼をぎっと睨みつけて嫌味っぽく言い返した。
すると、このやり取りを今まで黙って見ていた周囲にいる兵士のひとりが笑い声をあげた。
焼き菓子を配ってまわったおかげで、ここにいる兵士とは随分と打ち解けた。しかし、気安く接しすぎたかもしれないとソフィアは反省する。
「ちょっとそこ! 笑い事ではないのですからね」
ソフィアは笑った兵士を叱りつけたあとに、大きく深呼吸をして真面目な顔をつくる。
「…………たしか先代さまが亡くなられたとき、次の領主に旦那さまの叔父さまを推す一族の方もいらしたとか?」
ソフィアの真面目な問いかけに、兵士もにやけた顔をしまって答える。
「その通りです。イーサン様はすでに成人しておりますから、先代の嫡男であるイーサン様が領主になるのは既定路線だったのですが……」
「おもわぬ横槍が入ったわけね」
――ただでさえ自分が領主になるのは早いと感じていたところへ一族の裏切りね。たしかにショックだったのでしょうけれど、だからって……。
「しかも、地盤固めの結婚にケチまでつきましたからねえ。誰も信じられない、自分の力だけで領主として認められたいという思いが強くなったようです」
「……っうう、そこは身内のやらかしだから申し訳なく思っているわ」
だからこそ、ソフィアは領主夫人としての務めを果たそうと努力を重ねてきたつもりだ。
姉が式直前で逃亡したことは、こちらの一族の恥である。妹の自分が立派に務めを果たせば汚名をそそげると信じてがむしゃらにやってきた。
ソフィアが頭を抱えて溜め息をついていると、兵士は真面目な顔をして敬礼をしてきた。
「どうかイーサン様に自信を持たせて差し上げてくださいませ」
「ちょっと待って。それもお願いなのかしら?」
「さあ、どうでしょうか。とにかくここでのイーサン様の安全は私が保障いたします。どうぞよろしくお願いいたしますね」
「……まったく、あなたたちが甘やかしすぎたから旦那さまがああなったとは思わないのかしら」
ソフィアはそう言い捨ててから、腕を組んで再び兵士を睨みつけた。
「あなたの言葉、今回は忠言として受け取ります。ですが、今後は私を試すような言動はお控えくださいませね」
ソフィアの言葉にルイースが大きく頷いている。兵士はきまりが悪そうに目を伏せた。
「大変失礼いたしました。どうも妻からお屋敷での奥さまのおふるまいを伺っていたものですから、つい気安くなってしまったようです」
「……妻? あら、誰のことかしら」
ソフィアが兵士の発言に首を傾げていると、ルイースが大きく口を開けて固まってしまった。
「――――っまさか⁉ ああ、だからソフィア様がここへ来ると言っても平気で送り出してくださったのねえええ」
ルイースは顔を青くして震え出した。
「いやああああ、私のここでの行動はエラさんには報告しないでください! お願いしますう」
ルイースはその場に崩れ落ちてしまった。彼女がエラと言ったので、ソフィアは手を叩いた。
「……そうか、エラは旦那さまの乳母だったわね。そう、だからあなたは先代さまや旦那さまへの思いが強いわけね」
「イーサン様はご自分に自信がないのです」
兵士はふうと息をはいて、頭に手を置いた。先ほどまでの笑い顔はどこへ行ったのか、心底困り果てた表情を浮かべている。
「お父上の足もとにも及ばないと焦っておられるのですよ。とにかく何か功績を挙げて先代に近付こうと躍起になっているのです」
「――っは、それが前線で指揮を取るという行動に繋がるのですか。ちょっと短絡にすぎるのではございませんこと?」
「ルイース、いい加減になさい。私のことを思っての発言なのはわかりますが、旦那さまを咎める言葉は許しませんよ」
我慢ならなくなったルイースが吐き捨てるように兵士に向かって言った。
人目もあるので主人としてルイースを叱ったが、ソフィアは彼女と同じことをイーサン本人に言ってやりたいとすら思っている。イーサンが仕事だと家を空けるのはそんなことが理由かと思うと、呆れかえってしまう。
「イーサン様の行動もきっと今だけだろうとは思うのですがね。もともとは冷静な方ですから、そのうちに馬鹿なことをしているとお気づきになるでしょう」
「今だけって、そんな曖昧なことでは困るのですが……。その間に旦那さまの身に何かあったらどうするのですか?」
呆れている気持ちを隠すこともせず、ソフィアは溜め息まじりに兵士に問いかけた。
すると、兵士は口の端をあげてにやりと笑う。
「そこをどうにかするのが奥さまの腕の見せどころではないですか?」
「まあ、そこは忠臣の腕の見せどころでもあると思いますが?」
いよいよソフィアも兵士の態度に我慢ならなくなってきた。ソフィアは彼をぎっと睨みつけて嫌味っぽく言い返した。
すると、このやり取りを今まで黙って見ていた周囲にいる兵士のひとりが笑い声をあげた。
焼き菓子を配ってまわったおかげで、ここにいる兵士とは随分と打ち解けた。しかし、気安く接しすぎたかもしれないとソフィアは反省する。
「ちょっとそこ! 笑い事ではないのですからね」
ソフィアは笑った兵士を叱りつけたあとに、大きく深呼吸をして真面目な顔をつくる。
「…………たしか先代さまが亡くなられたとき、次の領主に旦那さまの叔父さまを推す一族の方もいらしたとか?」
ソフィアの真面目な問いかけに、兵士もにやけた顔をしまって答える。
「その通りです。イーサン様はすでに成人しておりますから、先代の嫡男であるイーサン様が領主になるのは既定路線だったのですが……」
「おもわぬ横槍が入ったわけね」
――ただでさえ自分が領主になるのは早いと感じていたところへ一族の裏切りね。たしかにショックだったのでしょうけれど、だからって……。
「しかも、地盤固めの結婚にケチまでつきましたからねえ。誰も信じられない、自分の力だけで領主として認められたいという思いが強くなったようです」
「……っうう、そこは身内のやらかしだから申し訳なく思っているわ」
だからこそ、ソフィアは領主夫人としての務めを果たそうと努力を重ねてきたつもりだ。
姉が式直前で逃亡したことは、こちらの一族の恥である。妹の自分が立派に務めを果たせば汚名をそそげると信じてがむしゃらにやってきた。
ソフィアが頭を抱えて溜め息をついていると、兵士は真面目な顔をして敬礼をしてきた。
「どうかイーサン様に自信を持たせて差し上げてくださいませ」
「ちょっと待って。それもお願いなのかしら?」
「さあ、どうでしょうか。とにかくここでのイーサン様の安全は私が保障いたします。どうぞよろしくお願いいたしますね」
「……まったく、あなたたちが甘やかしすぎたから旦那さまがああなったとは思わないのかしら」
ソフィアはそう言い捨ててから、腕を組んで再び兵士を睨みつけた。
「あなたの言葉、今回は忠言として受け取ります。ですが、今後は私を試すような言動はお控えくださいませね」
ソフィアの言葉にルイースが大きく頷いている。兵士はきまりが悪そうに目を伏せた。
「大変失礼いたしました。どうも妻からお屋敷での奥さまのおふるまいを伺っていたものですから、つい気安くなってしまったようです」
「……妻? あら、誰のことかしら」
ソフィアが兵士の発言に首を傾げていると、ルイースが大きく口を開けて固まってしまった。
「――――っまさか⁉ ああ、だからソフィア様がここへ来ると言っても平気で送り出してくださったのねえええ」
ルイースは顔を青くして震え出した。
「いやああああ、私のここでの行動はエラさんには報告しないでください! お願いしますう」
ルイースはその場に崩れ落ちてしまった。彼女がエラと言ったので、ソフィアは手を叩いた。
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