32 / 51
32
しおりを挟む
「信じていたいし、信じてもらいたいと思う!」
イーサンがカツカツと靴音を鳴らし、勢いよくソフィアに近付いてきた。彼はソフィアの両肩に手を置いて力強く言い切る。その迫力に圧倒されて、ソフィアは目を丸くしてしまう。
「信じられる自分でありたいし、信じてもらえる自分でいたいのだ」
そこまで話すと、イーサンは途端に不安そうな顔になる。目を泳がせてそわそわしはじめた。彼はどうやら、ソフィアの反応を待っているらしい。
「………………わ、私の言いたいことは、うまく伝わっているだろうか?」
「――っもう! こういうところですぐに自信をなくされる方だから、いまいち信頼に値しないのですけれど」
ソフィアはイーサンのおでこを指ではじいた。
こんなに情けなくても、自分の考えを伝えてくるようになっただけまだマシだ。意見を伝える前に勝手に諦めて落ち込まれるよりもいい。
ソフィアは文句を言いたくなる気持ちをぐっとこらえて、イーサンの頬を両手で優しく包み込んだ。
「言わんとしていることはちゃんと伝わってきましたわ。ですから、しゃんとなさってくださいませ。最近のイーサン様はとてもよくやっておられると私は思いますわよ」
ソフィアがそう言うと、イーサンは安堵した顔をして手を離した。おでこをさすりながら、照れ臭そうに笑っている。その態度にイラッとしたソフィアは意地悪く笑った。
「とはいえ、信頼を得たいとおっしゃるなら精進してくださいませね。私のあなたに対する信用はマイナスなのですから」
ソフィアの言葉にイーサンの顔色が再び曇る。
「そ、そうか。裏切られたと思われないよう努力しよう」
「そうなさるのがよろしいかと思いますわ。私も信頼に値する働きができるよう頑張りますから」
「…………いや、君はもう少し力を抜いた方が良いと思う。今日の振る舞いを見ているだけでも疲れたぞ」
「まあ、私に何か問題がございましたか?」
ソフィアは優しく包み込んでいた手に力を入れて、イーサンの頬をぎゅっと挟み込んだ。
「……あ、あんな風に一人一人に時間をかけて対応せずともいいじゃないか。いや、別に話すことがいけないとは思わないのだが、あれじゃ君の身体の方が心配になる」
もっと他にやりようがあるのではないか、とイーサンはぶつぶつと独り言のように話を続ける。
「まあまあ、ご心配いただきありがとうございます。ですが、仏頂面で立っているだけの方よりはマシだと思いますけれどね」
ダラダラと話が続きそうなので、ソフィアはイーサンの頬を摘みあげて話を打ち切らせた。すると、彼は痛みに顔を歪ませながらも、なぜか声を上げて笑いだした。
「あははは! うん、君は力が入りすぎているから、私に対する態度くらいリラックスしても良いと思うぞ」
「………………………………はあ? あんまりふざけたことを言っているとぶっ飛ばしますわよ」
ソフィアがイーサンの言葉に青筋を立てて睨みつけると、彼は笑顔をしまって言い訳を始めた。
「……いや、あのな。ほら、頑張ってくれているのはわかるのだが、やはりどうしても心配になるというか……。もっと気楽にしてほしくて言った冗談というか……」
「もう結構ですわ! 休憩は必要ございませんわね。次は私が診察の手伝いをしているところをお見せいたします」
さあ行きましょう、とソフィアはイーサンから手を離して応接室の扉を開けた。彼は前のめりになりながら慌てて部屋を飛びだして行く。
イーサンがカツカツと靴音を鳴らし、勢いよくソフィアに近付いてきた。彼はソフィアの両肩に手を置いて力強く言い切る。その迫力に圧倒されて、ソフィアは目を丸くしてしまう。
「信じられる自分でありたいし、信じてもらえる自分でいたいのだ」
そこまで話すと、イーサンは途端に不安そうな顔になる。目を泳がせてそわそわしはじめた。彼はどうやら、ソフィアの反応を待っているらしい。
「………………わ、私の言いたいことは、うまく伝わっているだろうか?」
「――っもう! こういうところですぐに自信をなくされる方だから、いまいち信頼に値しないのですけれど」
ソフィアはイーサンのおでこを指ではじいた。
こんなに情けなくても、自分の考えを伝えてくるようになっただけまだマシだ。意見を伝える前に勝手に諦めて落ち込まれるよりもいい。
ソフィアは文句を言いたくなる気持ちをぐっとこらえて、イーサンの頬を両手で優しく包み込んだ。
「言わんとしていることはちゃんと伝わってきましたわ。ですから、しゃんとなさってくださいませ。最近のイーサン様はとてもよくやっておられると私は思いますわよ」
ソフィアがそう言うと、イーサンは安堵した顔をして手を離した。おでこをさすりながら、照れ臭そうに笑っている。その態度にイラッとしたソフィアは意地悪く笑った。
「とはいえ、信頼を得たいとおっしゃるなら精進してくださいませね。私のあなたに対する信用はマイナスなのですから」
ソフィアの言葉にイーサンの顔色が再び曇る。
「そ、そうか。裏切られたと思われないよう努力しよう」
「そうなさるのがよろしいかと思いますわ。私も信頼に値する働きができるよう頑張りますから」
「…………いや、君はもう少し力を抜いた方が良いと思う。今日の振る舞いを見ているだけでも疲れたぞ」
「まあ、私に何か問題がございましたか?」
ソフィアは優しく包み込んでいた手に力を入れて、イーサンの頬をぎゅっと挟み込んだ。
「……あ、あんな風に一人一人に時間をかけて対応せずともいいじゃないか。いや、別に話すことがいけないとは思わないのだが、あれじゃ君の身体の方が心配になる」
もっと他にやりようがあるのではないか、とイーサンはぶつぶつと独り言のように話を続ける。
「まあまあ、ご心配いただきありがとうございます。ですが、仏頂面で立っているだけの方よりはマシだと思いますけれどね」
ダラダラと話が続きそうなので、ソフィアはイーサンの頬を摘みあげて話を打ち切らせた。すると、彼は痛みに顔を歪ませながらも、なぜか声を上げて笑いだした。
「あははは! うん、君は力が入りすぎているから、私に対する態度くらいリラックスしても良いと思うぞ」
「………………………………はあ? あんまりふざけたことを言っているとぶっ飛ばしますわよ」
ソフィアがイーサンの言葉に青筋を立てて睨みつけると、彼は笑顔をしまって言い訳を始めた。
「……いや、あのな。ほら、頑張ってくれているのはわかるのだが、やはりどうしても心配になるというか……。もっと気楽にしてほしくて言った冗談というか……」
「もう結構ですわ! 休憩は必要ございませんわね。次は私が診察の手伝いをしているところをお見せいたします」
さあ行きましょう、とソフィアはイーサンから手を離して応接室の扉を開けた。彼は前のめりになりながら慌てて部屋を飛びだして行く。
12
あなたにおすすめの小説
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
何も決めなかった王国は、静かに席を失う』
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。
だが――
彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。
ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。
婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。
制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく――
けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。
一方、帝国は違った。
完璧ではなくとも、期限内に返事をする。
責任を分け、判断を止めない。
その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。
王国は滅びない。
だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。
――そして迎える、最後の選択。
これは、
剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。
何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。
『めでたしめでたし』の、その後で
ゆきな
恋愛
シャロン・ブーケ伯爵令嬢は社交界デビューの際、ブレント王子に見初められた。
手にキスをされ、一晩中彼とダンスを楽しんだシャロンは、すっかり有頂天だった。
まるで、おとぎ話のお姫様になったような気分だったのである。
しかし、踊り疲れた彼女がブレント王子に導かれるままにやって来たのは、彼の寝室だった。
ブレント王子はお気に入りの娘を見つけるとベッドに誘い込み、飽きたら多額の持参金をもたせて、適当な男の元へと嫁がせることを繰り返していたのだ。
そんなこととは知らなかったシャロンは恐怖のあまり固まってしまったものの、なんとか彼の手を振り切って逃げ帰ってくる。
しかし彼女を迎えた継母と異母妹の態度は冷たかった。
継母はブレント王子の悪癖を知りつつ、持参金目当てにシャロンを王子の元へと送り出していたのである。
それなのに何故逃げ帰ってきたのかと、継母はシャロンを責めた上、役立たずと罵って、その日から彼女を使用人同然にこき使うようになった。
シャロンはそんな苦境の中でも挫けることなく、耐えていた。
そんなある日、ようやくシャロンを愛してくれる青年、スタンリー・クーパー伯爵と出会う。
彼女はスタンリーを心の支えに、辛い毎日を懸命に生きたが、異母妹はシャロンの幸せを許さなかった。
彼女は、どうにかして2人の仲を引き裂こうと企んでいた。
2人の間の障害はそればかりではなかった。
なんとブレント王子は、いまだにシャロンを諦めていなかったのだ。
彼女の身も心も手に入れたい欲求にかられたブレント王子は、彼女を力づくで自分のものにしようと企んでいたのである。
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
「無理をするな」と言うだけで何もしなかったあなたへ。今の私は、大公家の公子に大切にされています
葵 すみれ
恋愛
「無理をするな」と言いながら、仕事も責任も全部私に押しつけてきた婚約者。
倒れた私にかけたのは、労りではなく「失望した」の一言でした。
実家からも見限られ、すべてを失った私を拾い上げてくれたのは、黙って手を差し伸べてくれた、黒髪の騎士──
実は、大公家の第三公子でした。
もう言葉だけの優しさはいりません。
私は今、本当に無理をしなくていい場所で、大切にされています。
※他サイトにも掲載しています
『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』
ふわふわ
恋愛
婚約者である王太子アルベルトから、一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。
だが彼女は、涙も復讐も選ばなかった。
「婚約は、役目でしたもの。終わったのなら、それで結構ですわ」
王宮を去ったエレノアは、領地に戻り、
干渉しない・依存しない・無理をしない
ただそれだけを軸に、静かに領地運営を始める。
一方、王となったアルベルトもまた、
彼女に頼らないことを選び、
「一人の判断に依存しない国」を作るための統治に身を投じていた。
復縁もしない。
恋にすがらない。
それでも、二人の選択は確かに国を安定へと導いていく。
これは、
交わらないことを選んだ二人が、
それぞれの場所で“続けられる世界”を完成させる物語。
派手なざまぁも、甘い溺愛もない。
けれど、静かに積み重なる判断と選択が、
やがて「誰にも壊せない秩序」へと変わっていく――。
婚約破棄から始まる、
大人のための静かなざまぁ恋愛ファンタジー
愛する義兄に憎まれています
ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。
義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。
許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。
2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。
ふわっと設定でサクっと終わります。
他サイトにも投稿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる