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番外編・2
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「いつになったらやってくるのだ⁉︎」
いつまで経ってもエイナルが来ない。
イーサンは勢いよく立ち上がって思わず叫んでしまった。
「待たせるのか? この私を待たせていいと思っているのか⁉︎」
そう口に出してみたものの、それも仕方がないかとだんだんと悲しくなってきた。
「……まあ、前領主の息子だから爵位を継げただけだからな。別に私個人には何の功績もないのだからな。舐められても仕方がないよなあ……」
がっくりと肩を落としてイーサンはソファに座り直した。魔術師がここで待てというのだから、大人しく従うべきだろう。
――下手に指示に従わなかったら、何をされるかわからないから怖いしな。
イーサンは背筋を伸ばして姿勢を正すと、そのまま大人しくエイナルがやってくるのをじっと待ち続けた。
「おや、まだいらしたのですか?」
すっかり日も暮れかけた頃、ようやくエイナルが執務室にやってきた。
彼は書類の束を抱えてよろよろと歩きながら執務机に向かっていく。
「いやあ、そういえばいらしていたのですよね。すっかり忘れていましたよ」
エイナルは書類の束をどさっと机の上に置いてから、イーサンをチラリと盗み見る。
一瞬だけ視線があった。しかし、彼はすぐに書類の束に視線を落としてペンを手に取った。
「…………わ、忘れてた?」
「お約束もなしにお訪ねになられましてもね。こっちにだって予定ってのがあるのですから」
「い、いくら約束がなかったからとはいえ、私が訪ねてきたら普通は忘れないだろう?」
「ああ、出ましたねえ。お貴族さまお得意の、相手が自分に合わせて当たり前って理論。さすが辺境伯家の方はレベルが違いますね」
エイナルの言葉にはいちいち棘がある。どうしてこんな態度を取られるのかイーサンには理解ができない。
ソフィアは否定していたが、やはり愛人なのではないかと疑ってしまう。
「ま、ちゃんと待てができるだけきちんと躾はされているようですかねえ。……ああ、それとも勝手に帰る勇気もありませんでしたか?」
「……っそ、んなことは、ないぞ?」
「ほう、図星ですか。聞きしに勝るヘタレっぷりですねえ」
エイナルは書類にペンを走らせながら口を動かしている。イーサンのことをまともに相手にする気はないようだ。
こんなことは今までになかったと憤慨するが、最近はよくあることなのかもしれないとすぐに思い直した。
――父が亡くなってからずっとこんな調子だな。誰も私の相手をろくにしてくれない。
「……………………まただんまりですか? いい加減にしてくださいよ。こっちは仕事が山積みなのですから」
「わ、私にだってやることはあるが、わざわざ足を運んだのだ。そこには感謝してもらいたい!」
イーサンがそう発言すると、エイナルのペンが止まった。彼は丁寧に机の上にペンを置くと、真面目な顔をしてイーサンを見つめてくる。
「わざわざ足をお運び頂いてありがとうございます。お話があるのでしたらお呼び出し頂ければ私の方から出向きましたのに……、これで満足ですか?」
最後にニッコリとエイナルが微笑む。その笑顔の迫力に、イーサンは何も言えなくなる。
「無視をされたり、適当にあしらわれるというのがどれだけ傷つくかおわかりになりましたか? またソフィア様を蔑ろに扱ったりしたらもっと怒りますからね」
そう言われて、エイナルの振る舞いが、イーサンがソフィアに対してしていた態度だと気付かされる。
「……っだ、だからって……。この扱いは不敬すぎやしないか?」
「私はここではお客様なものでございまして、少し調子に乗ってしまいました。きっと辺境伯さまは身をもって体験しないとおわかりにならないだろうなという私なりの気遣いだったのですが……。余計なお世話でしたか?」
笑顔が怖い。
やはり魔術師という者は自分が特別な存在なのだという意識が強いように思う。
――事実、ソフィアやエイナル殿は手をかざしただけで怪我を治せるのだから特別なのだが……。だからってこの扱いは納得いかない。ほぼ初対面のはずなのだが?
「…………私の至らなさを思い知らせてくれて、感謝する」
不満に思ってはいても、エイナルに向かってそれを伝える勇気はイーサンにはなかった。
いつまで経ってもエイナルが来ない。
イーサンは勢いよく立ち上がって思わず叫んでしまった。
「待たせるのか? この私を待たせていいと思っているのか⁉︎」
そう口に出してみたものの、それも仕方がないかとだんだんと悲しくなってきた。
「……まあ、前領主の息子だから爵位を継げただけだからな。別に私個人には何の功績もないのだからな。舐められても仕方がないよなあ……」
がっくりと肩を落としてイーサンはソファに座り直した。魔術師がここで待てというのだから、大人しく従うべきだろう。
――下手に指示に従わなかったら、何をされるかわからないから怖いしな。
イーサンは背筋を伸ばして姿勢を正すと、そのまま大人しくエイナルがやってくるのをじっと待ち続けた。
「おや、まだいらしたのですか?」
すっかり日も暮れかけた頃、ようやくエイナルが執務室にやってきた。
彼は書類の束を抱えてよろよろと歩きながら執務机に向かっていく。
「いやあ、そういえばいらしていたのですよね。すっかり忘れていましたよ」
エイナルは書類の束をどさっと机の上に置いてから、イーサンをチラリと盗み見る。
一瞬だけ視線があった。しかし、彼はすぐに書類の束に視線を落としてペンを手に取った。
「…………わ、忘れてた?」
「お約束もなしにお訪ねになられましてもね。こっちにだって予定ってのがあるのですから」
「い、いくら約束がなかったからとはいえ、私が訪ねてきたら普通は忘れないだろう?」
「ああ、出ましたねえ。お貴族さまお得意の、相手が自分に合わせて当たり前って理論。さすが辺境伯家の方はレベルが違いますね」
エイナルの言葉にはいちいち棘がある。どうしてこんな態度を取られるのかイーサンには理解ができない。
ソフィアは否定していたが、やはり愛人なのではないかと疑ってしまう。
「ま、ちゃんと待てができるだけきちんと躾はされているようですかねえ。……ああ、それとも勝手に帰る勇気もありませんでしたか?」
「……っそ、んなことは、ないぞ?」
「ほう、図星ですか。聞きしに勝るヘタレっぷりですねえ」
エイナルは書類にペンを走らせながら口を動かしている。イーサンのことをまともに相手にする気はないようだ。
こんなことは今までになかったと憤慨するが、最近はよくあることなのかもしれないとすぐに思い直した。
――父が亡くなってからずっとこんな調子だな。誰も私の相手をろくにしてくれない。
「……………………まただんまりですか? いい加減にしてくださいよ。こっちは仕事が山積みなのですから」
「わ、私にだってやることはあるが、わざわざ足を運んだのだ。そこには感謝してもらいたい!」
イーサンがそう発言すると、エイナルのペンが止まった。彼は丁寧に机の上にペンを置くと、真面目な顔をしてイーサンを見つめてくる。
「わざわざ足をお運び頂いてありがとうございます。お話があるのでしたらお呼び出し頂ければ私の方から出向きましたのに……、これで満足ですか?」
最後にニッコリとエイナルが微笑む。その笑顔の迫力に、イーサンは何も言えなくなる。
「無視をされたり、適当にあしらわれるというのがどれだけ傷つくかおわかりになりましたか? またソフィア様を蔑ろに扱ったりしたらもっと怒りますからね」
そう言われて、エイナルの振る舞いが、イーサンがソフィアに対してしていた態度だと気付かされる。
「……っだ、だからって……。この扱いは不敬すぎやしないか?」
「私はここではお客様なものでございまして、少し調子に乗ってしまいました。きっと辺境伯さまは身をもって体験しないとおわかりにならないだろうなという私なりの気遣いだったのですが……。余計なお世話でしたか?」
笑顔が怖い。
やはり魔術師という者は自分が特別な存在なのだという意識が強いように思う。
――事実、ソフィアやエイナル殿は手をかざしただけで怪我を治せるのだから特別なのだが……。だからってこの扱いは納得いかない。ほぼ初対面のはずなのだが?
「…………私の至らなさを思い知らせてくれて、感謝する」
不満に思ってはいても、エイナルに向かってそれを伝える勇気はイーサンにはなかった。
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