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エピローグ
しおりを挟むエピローグ
「樹さん、ちゃんと決めてきた?」
「えぇ、もちろんですよ」
この日も、仕事帰りに樹の屋敷にお邪魔をしていた。最近では、この屋敷から出勤をすることもあり、少しずつ菊菜の荷物が増えていっている。半同棲のようになってしまっているので、菊菜は自宅に帰ろうとはするがいつも樹に引き止められてしまうのだ。
そして、今日はずっと楽しみにしていたある事をする日だった。
それは、出会った頃に菊菜が約束した事を実行する日になっていた。
「何千種類もあるのに、選ぶのは大変だったよー」
「私も久しぶりに図鑑をずっと見ていました」
「どんなのを選んでくれたのかたのしみだなぁ」
今日は相手にピッタリの薔薇の品種をお互いに決めて披露する日になっていた。
菊菜が言い出した事だったけれど、いろいろな出来事があり遅くなってしまった。
それに、実際にその薔薇を取り寄せるとなるとかなり大変で時間がかかってしまったのだ。
「じゃあ、私からね。私が選んだのはこの花です!」
薄手の手袋をして紙袋から取り出したのは、緑色の薔薇のブーケだった。小ぶりで、少し黄色が入った薔薇を選んだのだ。植物の名前が入った樹なので緑系の薔薇にはしたかったが、向日葵を大切にしている事から黄色もはずせなかった。
なので、その薔薇を選んだのだ。
「これは………エクレールですね。綺麗な花です。私に似合いますか?」
「とっても似合うっ!」
「ありがとうございます。嬉しいです」
菊菜から花束を受け取った樹は嬉しそうにしながら、そう言って笑う。
やはりスーツを着込んで、花束を持つ彼の姿は惚れ惚れするほどにかっこいいものだった。樹には緑がよく似合う、と菊菜は改めて思った。
「それでは、私の番ですね。私があなたに選んだのは……こちらの薔薇です」
そう言って樹が隠していた場所から取り出したのは、中大輪で、鮮やかなオレンジ色の薔薇の花束だった。しかもかなり大きなブーケになっており、菊菜は驚いてその花を見つめた。
すると、手を出そうとしない菊菜を見て、樹は微笑みながら「大丈夫ですよ」と言って、菊菜の手を取りブーケを手に触れた。
手袋をしているとはいえど、大きな花束であれば手以外の肌に触れてしまうと思って、躊躇っていたが樹はそれをわかっていてあえてブーケに手を導いた。
「い、樹さん………!」
「大丈夫です。周りの花は私が作った造花。ですが、真ん中の数本だけ本物を入れました。香りがとてもいいので、あなたに感じてほしかったのです」
「私のためにこんなにたくさん造花を作ってくれたんですか?」
「もちろんですよ」
菊菜は恐る恐るはじの花に触れる。もちろん手袋を取ってだ。だが、薔薇は枯れる事なく綺麗なままで菊菜は思わず笑みがこぼれる。
「わぁ……!南国の果物みたいな甘い香りがする」
「そうなんです。とてもいい香りなんですよ。………そして、この薔薇の名前は『リクホタル』と言います」
「…………ホタル………」
樹は菊菜の事を蛍のようだと言ってくれた。その名前がついた薔薇の名前。確かに私にピッタリかもしれないと菊菜は微笑んだ。
「いつか素手でも花を触れるようになれるように、私も頑張ります」
「うん!期待してるね」
樹は今の大学の仕事をしつつ、医療メーカーと共に花枯病のための薬などを開発する手伝いをしていた。今考えているのは、花枯病の人が草花を触れるようなクリームを作る事だという。持続時間が長くないのが問題のようで、苦戦しているようだが、きっと彼なら成功すると菊菜は信じていた。
「完成したら、1番に使わせてね」
「もちろんですよ。だから、それまでは私で我慢していてください」
菊菜の手を取り、そう言って手を繋ぎ、菊菜を引き寄せると樹は花束と共に菊菜を抱きしめてキスをした。
梅雨も明け、初夏の太陽がガラス越しに2人を照らしている。
この屋敷でも向日葵を育てよう。
そんな話もしている。
少しずつ花達と向き合い、前を向いて行こうとしている。
2人なら大丈夫。菊菜はそう思い、彼と薔薇の香りに包まれながら微笑んだ。
おしまい
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