女神に嫌われた俺に与えられたスキルは《逃げる》だった。

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初めから居なかった

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 わざと焦らして街道を外れたら駆け寄って攻める。森までノコノコ着いて来たら待ち伏せ部隊が左右から追加で攻め立てる。
まあそんな所だろう。
彼処も此方も焦りは無い。彼処は数を揃えて自信満々、此方は火力で自信満々だ。
半ば眠りながら前の荷車に着いて行く。森の入口迄はまだ掛かりそうだ。

「お茶でも淹れましょう」

テイカが荷車の後部に竈を置いて薪を焚べる。焚き付けあるのにナイフをチラつかせて薪を削って行くと、後ろの馬鹿共はあからさまに動揺していた。面白いがあまり刺激するな、笑っちゃうだろ。火を起こして白煙が上がると、今度は前の馬鹿共に動揺が起きる。煙いから止めなさい。
皆でお茶を飲み、ゆったりとした平和な時間を過ごして居ると、少しずつ低木が生え始め、辺りが俄に暗くなって行く。森の入口に差し掛かったようだ。
イゼッタは杖の手入れをする振りをして、テイカは竈を片付けた。王女は毛布で仮眠して、メイドは…特に何もしてないな。

 平和終了。
左右からロープが張られ俺達の荷車を足止めしようとする。前後しか動けないならそれで充分だろうな。
急加速で急上昇して森の木々の遥か上空へ。そしてアホみたいな量の水の塊が落ちて行く。
範囲はざっと直径三百ハーン、水嵩は十ハーン程だろうか?風の抵抗で散り散りになる事も無く、そのままの形で木々を薙ぎ倒し、地面に居る物を圧迫し、流れた。
ほんの数秒で直径三百ハーンの更地が出来上がった。生きている人は周辺から消えた。ホルストも荷車も消えた。

商隊なんて初めから居なかったんだ。
のんびりし過ぎた遅れを取り戻すべく、加速して帰路に着いた。

「メリクヒャーの仕業?」

「だな。カロさんは俺達の為ならちゃんと情報を売れる人だ」

「裏切り者とバレない為の工作…と言う事なのですね?」

「近い内に迎えに行こう」

「またしたくなった?」

「そうだな」

「今はコレで紛らわせて下さい」

テイカがそっと乳首を差し出して来たので口に含む。ばぶ。

「テイカずるい!」

「申し訳ありませんイゼッタ様。これがあたしの職業なのです」

皆からばぶらせてもらい家に辿り着いた。
荷降ろしして夕飯と風呂を済ませたら今夜は早目に寝てしまおうと思っていたのに寝たのは深夜だった。


  「おはようございます」
耳元で囁かれ、ゾワゾワした気分で目を覚ます。
皆は既に起きていて、朝食の支度で動いているのが下の階から聞こえていた。

今日はまた遠出するんだった。身嗜みを整えて居間に降り、皆で朝食を摂る。
今日の予定は、俺はお出掛け。皆はお留守番だ。
イゼッタとテイカは買って来た窓を各部屋に取り付けてもらう。必ず余るので無理に使い切らないよう厳命した。荷車にも付けたいが防水処理の為の木のモンスターが居ないので後回しだ。
メイドと王女は家事と庭の手入れに従事してもらう。
買ったばかりの防具にマント。ナイフを腰に、背中に背負子、肩には色々詰めたカバンを引っ提げて、久しぶりのフル装備。
送る言葉を背に受けて、それでは一狩り行ってきます。

今日の獲物はベッドの材料になる、洗わないととんでもない事になる毛むくじゃらのアイツだ。
ただでさえ治まらないカチカチのコイツがあの効果を得たらと思うと恐怖耐性のある俺ですら恐ろしく感じる。
目標は二匹。前回はイゼッタの魔法で一撃だったが今回は俺一人。気合いを入れて飛んで行く。

上空五百ハーンから見ても判る灰色のもじゃもじゃが、草原に点々と群れて多分草を食んでいる。
ナイフを構え、隼の如く急降下して、もじゃもじゃの中に突っ込んだ。
もじゃもじゃの中にはほっそい犬みたいな野獣が入っている。上手い事首を落とさないと断末魔の叫びで仲間を散らしてしまうのだが、ゴーラナイフ程度の切れ味ではスパッとは行かず、やはり蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。
取り敢えず一匹は取れたので木の上の方に押し込んでキープする。あと一匹狩れるまで帰れません。
蜘蛛の子を散らしたとは言え、あのもじゃもじゃはそう簡単に隠れきれない。直ぐに見付けて特攻すると、断末魔の叫びと共に一匹ゲットした。

前回は毛を毟ってシーツに詰めたが今日は持って来て無いので、背負子に二匹を布帯で縛って持ち帰る。
風の抵抗がヤバすぎる!やっぱりシーツ持って来れば良かった…。一旦地面に降り…ない!もじゃもじゃの中に身体を隠し、更に高度を上げた。

めっちゃ寒い!!上空一万ハーン。空気も薄いので抵抗も低い。凍傷にならない速度で飛んで帰った。
久しぶりに、死ぬかと思った。
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