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鷲掴み
しおりを挟む女達の脳内を占拠した悪魔の食い物。甘い物への渇望は、女の思考を低下させ、妄想の世界へ囚われる。こうなってしまってはちょっとやそっとの福利厚生では現実に引き戻す事は出来ず、何時迄も尾を引く事になる。
「仕方無い」
歓声の中、俺は折れる。朝食後、風呂場の二階に籠ると雑木紙にボールペンで必要素材を書いて行く。今回は焼き菓子でとスポンジケーキのイメージが付いてしまったのでレシピは決まっているが、どうしても足りない素材がある。
卵だ。出来ればヤモリでは無く鳥卵が良い。白身の無い卵ではメレンゲが作れないからだ。
海竜の皮鎧に着替えると、ソレが手に入るであろう場所へと《転移》した。
「あら。門を通らず来たのね、夫もまだ仕事の時間なのに、いけない人」
成る可く中間を挟みたく無いが、外堀を埋める必要があり知り合いの門戸を叩く。メイドと共に現れたゴモラン夫人は突然の訪問にも関わらず笑顔をくれて屋敷に招いてくれた。
「んっ、あんっ、それで…、私にっは、橋渡しを、……なのねっああっ!」
サロンに敷かれたマットの上で、俺に跨り腰を振るゴモラン夫人トリエーレ。そしてマットに四つん這いの姿で伸びるアイツを受け止めるメイド達。あまり時間を取れない事を知って女達は快楽を貪った。
「この手紙を父の元へ。彼処も借りがありますからね。弟が力を貸してくれる事でしょう」
手紙を受け取り、夫人が用意したゾーイ車に乗るとジョービリン家へと向かう。馭者により開けられたドアから降り、門を守る守衛に手紙を託して待つ事暫し。玄関のドアを開けるメイドと共に現れたのは以前鳥を買い付けて来たデュセルであった。
「暫くです」
「うむ。外に居ては堅苦しい挨拶をせねばならん。早く此方へ来られたし」
堅苦しい台詞で急かされて客間へと通された。席に着くと直ぐにメイドがお茶を淹れてくれる。茶菓子はナッツ系の木の実だ。
「久しいな恩人殿」
手紙を一読したデュセルがナッツを鷲掴みにして口を開く。鷲掴みにして一つずつ食うのが彼のスタイルなのだろう。イゼッタの爺さんもモリモリ食ってたし、遠慮してはダメな気がして俺もナッツを握り込んだ。
「名前で良いよ。今回は此方からの頼みなんだ。どうか一つ」
「うむ、姉上からの手紙は読ませてもらった。卵が欲しいと言うのだな?」
「料理にどうしても使いたくてね。ヤモリの卵では代用が効かないのでつまらないお願いに上がったと言う次第なんだ」
「親鳥よりは手に入れ易いだろうが、今はハーク王が御座す故、当家が直接買い付けに…とははならんのだ」
「手間ですな」
「抑アレは王族専用だからな。とにかく今から一筆認める。それを持って城に向かうが良い」
「感謝します」
「今尚友と学び語り合える。この貴重な時間を齎してくれた方に礼を尽くせる。私は果報者だ」
ナッツをボリボリ認められた手紙を持って、ジョービリン邸を出、ゴモラン家のゾーイ車に乗り込むと、マントを纏ったデュセルが同乗して来た。
「あ、マント」
「問題無い。此処に私の予備がある。私の顔が無いと城で困りそうだからな」
それ割と助かる。赤い裏地の白マントを羽織り、ゾーイ車は城へと向かった。
城の敷地から城内へは徒歩での移動である。余程の事態か足を悪くして無い限り、この場の移動は徒歩なのだそうだ。前回はよく見る機会が無かったが、敷地内には王族の別邸等があり、平民が暮らす街の中に高級な村がある。そんな感じ。
「有事の際には公侯が住まう事となる。今は手入れの者しか居らんがな。あの門の前で待つ。静かにな」
お高そうな全身甲冑に槍を持つ二人の衛兵は俺達が門前に立っても微動だにせず、静かに口を開く。
「私はジョービリン家、時期当主デュセル・ジョービリンである。ブルラン殿への手紙を持参した。取次を願いたい」
「デュセル様、取次承りました。して、其方は?」
俺、名乗るの?
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