1 / 31
プロローグ「死と転生──冴えない青年、異世界に立つ」
しおりを挟む
「俺の人生なんて、どうせ大したものじゃなかった。」
神谷蓮、22歳。
都内の三流大学に通う、どこにでもいる冴えない大学生。
深夜0時を回ったコンビニエンスストアで、蓮は最後の客を見送った。
「お疲れ様でした」
自動ドアが閉まる音。
店内には蛍光灯の無機質な光だけが残る。
「はぁ……今日も疲れたな」
レジを締め、バックヤードでタイムカードを押す。
時給1,100円、週4日のシフト。生活費を稼ぐだけで精一杯の日々。
「明日は9時から講義か……」
スマホでスケジュールを確認する。
経済学、英語、選択科目の心理学。どれも興味が持てず、ただ単位を取るためだけに通っている。
「就活、どうしよう」
もうすぐ三年生も終わる。
周りの友人たちは、もう企業研究を始めている。インターンシップに参加している奴もいる。
だけど蓮には、やりたいことが見つからなかった。
「普通に就職して、普通に働いて、普通に生きていくんだろうな」
特別な才能もない。
特別な努力もしてこなかった。
ただ流されるように、日々を過ごしてきた。
「……まあ、こんなもんだよな」
蓮はコンビニの制服を脱ぎ、自分のジャケットを羽織った。
外に出ると、冬の冷たい風が頬を刺す。
12月の夜、街灯が寂しく道を照らしている。
「寒っ……」
アパートまでは徒歩15分。
この時間の住宅街は、ほとんど人通りがない。
歩きながら、蓮はスマホを取り出した。
SNSのタイムラインを流し見る。
大学の同期が投稿した写真。
彼女との記念日ディナー。仲間との飲み会。卒業旅行で行ったハワイ。
「いいよな、みんな……」
羨ましさと、少しの嫉妬。
それでも、蓮は画面を閉じることができなかった。
「俺も、誰かと……」
そう思いかけて、すぐに頭を振った。
「無理だろ。俺なんかが」
自己肯定感の低さは、蓮の一番の弱点だった。
高校時代、意を決して告白した相手にはあっさりと振られた。
大学でも、何度か気になる女性はいたが、話しかける勇気すら出なかった。
「ま、一人でも生きていけるし」
そう自分に言い聞かせて、蓮は交差点に差し掛かった。
信号は青。
左右を確認して、横断歩道を渡ろうとした──その時。
キィィィィッ──!!!
突然の急ブレーキの音が夜を引き裂いた。
「え……?」
蓮が振り向くと同時に、猛スピードで突っ込んでくる車のヘッドライトが視界を埋め尽くした。
「うわっ──!」
避ける暇もなかった。
次の瞬間、激しい衝撃が全身を襲った。
体が宙に浮く。
視界が回転する。
そして──
ドサッ。
地面に叩きつけられた衝撃で、意識が途切れた。
暗闇。
何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。
「……ここは、どこだ」
蓮の意識は、真っ暗な空間の中に浮かんでいた。
体があるのかないのかもわからない。
ただ、自分という存在だけが、ぼんやりと残っている。
「あの車に……轢かれたのか」
記憶が蘇る。
急ブレーキの音。
ヘッドライト。
衝撃。
「ああ……死んだんだな、俺」
不思議と恐怖はなかった。
悲しみも、怒りも、後悔も──何もかもが、どこか遠くにある感覚。
「22年か。短かったな」
人生を振り返る。
幼少期、普通の家庭に生まれ、普通に育った。
学校では目立たず、かといっていじめられるわけでもなく。
部活は帰宅部。趣味はゲームとアニメ。
「特別なことは……何もなかったな」
誰かに強く愛されたわけでもない。
何かを成し遂げたわけでもない。
世界に何かを残したわけでもない。
「こんな人生、意味あったのかな……」
寂しさが、じわりと心に広がった。
もっと誰かと深く繋がりたかった。
もっと何かに情熱を注ぎたかった。
もっと──生きたかった。
「やり直せるなら……」
そう思った瞬間──
──目を覚ましなさい、転生者よ。
声が響いた。
優しく、それでいて厳かな声。
女性の声。
「誰だ……?」
蓮は周囲を見回した。
だが、暗闇は変わらない。
「こんなところで終わるには、あなたは若すぎます」
声が、また響く。
暗闇の中に、一筋の光が差し込んだ。
眩しさに目を細めると──
そこには、白く輝く美しい女性が立っていた。
「な……」
蓮は息を呑んだ。
長い銀髪が、まるで絹のように流れている。
透き通るような白い肌。
そして、深い青色の瞳は、まるで海のように神秘的だった。
全身から放たれる光は神々しく、見ているだけで心が洗われるような感覚がある。
「私は、この世界の調停者──女神アルテミア」
女神。
その言葉が、蓮の頭の中で反芻される。
「め、女神……? マジで……?」
「はい。そして、あなたは神谷蓮。先ほど、交通事故で命を落としました」
あっさりと告げられる死の事実。
蓮は混乱しながらも、それを受け入れようとした。
「俺、死んだのか……」
「ええ。とても不運な事故でした」
女神は優しく微笑んだ。
「だけど、あなたには新しい運命が用意されています」
「新しい……運命?」
「そう。私は、選ばれし魂を別の世界へと導く役割を担っています」
女神は手を広げた。
すると、蓮の周囲に映像が浮かび上がった。
草原、森、山、海──そして、中世ヨーロッパを思わせる街並み。
空を飛ぶドラゴン。魔法を使う人々。剣を持った騎士たち。
「これは……」
「異世界です。剣と魔法が存在する、あなたの世界とは異なる世界」
蓮の心臓が高鳴った。
「異世界転生……!?」
まさか、あのライトノベルやアニメで見たような展開が──
「そうです。あなたには、この世界で新しい人生を歩む権利があります」
女神は蓮の前に進み出た。
「神谷蓮。あなたは元の世界では、自分の価値を見出せずにいました」
「うっ……」
図星を突かれ、蓮は言葉に詰まった。
「だけど、それはあなたが弱いからではありません。ただ、あなたの才能を活かせる場所がなかっただけです」
「才能……俺に?」
「ええ。あなたには、他者を支える力があります」
女神は優しく微笑んだ。
「この新しい世界で、その力を存分に発揮してください」
「他者を支える……」
蓮は自分の手を見た。
今まで、誰かのために何かをしたことがあっただろうか。
いつも自分のことばかり考えて、誰かを本気で助けようとしたことが──
「あなたは優しい人です。ただ、それを表に出す機会がなかっただけ」
女神の言葉が、蓮の心に染み込んでいく。
「さあ、神谷蓮。新しい世界で、あなたの物語を紡ぎなさい」
女神は手を差し出した。
蓮は迷った。
本当に、俺なんかが異世界で──
だが、同時に思った。
もう一度、生きるチャンスがもらえるなら。
今度こそ、後悔のないように。
「……わかりました」
蓮は女神の手を取った。
その瞬間、温かい光が全身を包み込んだ。
「一つだけ、伝えておきます」
女神の声が、遠くなっていく。
「あなたに授けるスキルは──"支援強化"」
「支援強化……?」
「仲間の能力を強化し、支える力です。攻撃スキルでも、防御スキルでもありません」
「え、ちょっと待って……」
蓮は焦った。
異世界転生といえば、チート能力をもらって無双するのが定番じゃないのか。
攻撃も防御もできないスキルなんて──
「最初は戸惑うでしょう。周囲から理解されないかもしれません」
女神は静かに微笑んだ。
「だけど、あなたならきっと、その力の真価に気づくでしょう」
「真価って……」
「それは、あなた自身で見つけてください」
女神の姿が、光の中に溶けていく。
「では──行ってらっしゃい、神谷蓮」
──どうか、その力で、多くの人を救ってください。
次の瞬間、蓮の体は強烈な浮遊感に包まれた。
まるでジェットコースターに乗っているような感覚。
だが、恐怖よりも期待の方が大きかった。
「新しい人生……か」
光が眩しくなっていく。
そして──
──ドサッ。
草の上に倒れ込む感触。
「痛っ……!」
蓮は顔を上げた。
青い空。
白い雲。
見渡す限りの緑の草原。
「マジで……異世界に来ちゃったのか……」
蓮は立ち上がり、周囲を見回した。
遠くには山々が連なり、森が広がっている。
聞こえてくるのは、鳥のさえずりと風の音だけ。
「すげえ……本当に異世界だ……」
興奮と不安が入り混じる。
蓮は自分の体を確認した。
手足は動く。呼吸もできる。服装は、元の世界で着ていたジャケットとジーンズのまま。
「本当に生きてる……生き返ったんだ」
不思議な感覚だった。
死んだはずなのに、今、確かに生きている。
「よし、まずは状況を確認しないと」
蓮は深呼吸をして、落ち着こうとした。
その時──
──ピロリン!
頭の中に、電子音のような音が響いた。
「な、何だ……!?」
視界の端に、半透明のウィンドウが浮かび上がる。
【ステータス】
名前:神谷蓮
年齢:22歳
レベル:1
職業:支援術師
HP:100/100
MP:50/50
スキル:支援強化 Lv.1
「おお……RPGみたいなステータスが……!」
蓮は興奮した。
まるでゲームの世界に入り込んだような感覚。
「支援強化……詳細を見てみよう」
スキルの部分に意識を集中すると、説明が表示された。
【支援強化 Lv.1】
・仲間の能力を一時的に強化する支援魔法
・強化倍率:全ステータス1.5倍
・持続時間:10分
・対象:視界内の味方一人
・消費MP:10
「……え、これだけ?」
蓮は愕然とした。
攻撃魔法も、剣術も、防御スキルもない。
ただ仲間を強くするだけのスキル。
「しかも仲間がいないと意味ないじゃん……」
一人では何の役にも立たない能力。
「女神様、もうちょっとマシなスキルくれても……」
文句を言いかけたが、すぐに気を取り直した。
「いや、待てよ。仲間がいれば強いってことだろ?」
前向きに考えようとする蓮。
「まずは街を探さないと。それから冒険者ギルドにでも登録して、パーティを組めば──」
その時、遠くから声が聞こえた。
「助けて──!!」
女性の悲鳴。
蓮は反射的に声のする方向を見た。
森の方から、何かが近づいてくる。
小さな緑色の影──いや、複数の影。
「あれって……ゴブリン!?」
ファンタジー作品でお馴染みの魔物。
小柄だが凶暴で、集団で襲ってくる。
その数、5匹。
そして、その後ろから必死に逃げてくる人影──
銀色の鎧を身にまとった、美しい少女。
金色の髪が風になびき、青い瞳が恐怖と焦りに染まっている。
手には剣を持っているが、鎧のあちこちに傷があり、疲労困憊している様子。
「誰か……助けて……!」
少女は蓮に気づき、助けを求めるように手を伸ばした。
「やばい……!」
蓮の体が動いた。
考えるより先に、足が動いていた。
「こっちだ──!!」
蓮は少女に向かって走り出した。
心臓が激しく打っている。
怖い。正直、すごく怖い。
だけど──
「放っておけるか!」
蓮は叫んだ。
ゴブリンたちが距離を詰めてくる。
錆びた短剣を振りかざし、獰猛な表情で少女に襲いかかろうとしている。
「くそっ、俺に何ができる……!」
攻撃スキルはない。
武器もない。
戦った経験もない。
だけど──
「支援強化……!」
蓮は本能的に叫んでいた。
その瞬間、少女の体が淡い黄金色の光に包まれた。
「え……? この力は……」
少女は驚いたように自分の体を見た。
体が軽い。力が漲る。疲労が嘘のように消えていく。
「まさか──支援魔法!?」
彼女は蓮を一瞬見てから、剣を構え直した。
そして──
──一瞬で、ゴブリン一匹の首を刎ねた。
「はやっ……!」
蓮は目を見張った。
少女の動きが、先ほどとは比べ物にならないほど速く、鋭い。
まるで別人のように、次々とゴブリンを斬り伏せていく。
「はあっ!」
横薙ぎの一閃で、二匹のゴブリンが同時に倒れる。
残りは2匹。
ゴブリンたちは恐怖に駆られ、逃げようとした。
「逃がしません!」
少女は地を蹴り、瞬時に距離を詰めた。
そして、最後の2匹も一瞬で仕留めた。
あっという間に、5匹のゴブリンは全滅した。
「はぁ……はぁ……」
少女は剣を下ろし、蓮の方を振り向いた。
金色の髪が汗で肌に張り付き、青い瞳が蓮を真っ直ぐ見つめている。
「あなたが……今の支援魔法を?」
「あ、ああ……」
蓮は頷いた。
少女は険しい表情を緩め、小さく微笑んだ。
「助かりました。心から礼を言います」
彼女は蓮の前まで歩いてきて、姿勢を正した。
「私はアリシア。王国騎士団第三部隊所属の騎士です」
「あ、俺は神谷蓮……えっと、冒険者、かな。まだ登録もしてないんだけど」
「神谷……変わった名前ですね」
アリシアは首を傾げた。
「それより、あなたの支援魔法……あれほどの効果を持つ術は初めて見ました」
「そ、そうなの?」
「ええ。通常の支援魔法は、せいぜい1.2倍程度の強化が限界です。でも、あなたの魔法は──おそらく1.5倍以上」
アリシアは驚きの表情を浮かべた。
「おかげで、あのゴブリンたちを一瞬で倒せました。本当に、命の恩人です」
「いや、そんな大したことは……」
蓮は照れくさそうに頭をかいた。
「もしよければ、近くの街までご一緒しませんか? きちんとお礼もしたいですし」
「あ、ああ……じゃあ、お願いします」
蓮は安堵の息を吐いた。
異世界に来て、いきなり美少女騎士と出会い、命を救った。
「まあ、悪くないスタートかもな……」
そう思いながら、蓮はアリシアと共に歩き出した。
青い空が広がる草原を、二人は並んで進んでいく。
風が心地よく吹き抜け、遠くで鳥たちが鳴いている。
新しい世界での、新しい物語が──今、始まった。
神谷蓮、22歳。
都内の三流大学に通う、どこにでもいる冴えない大学生。
深夜0時を回ったコンビニエンスストアで、蓮は最後の客を見送った。
「お疲れ様でした」
自動ドアが閉まる音。
店内には蛍光灯の無機質な光だけが残る。
「はぁ……今日も疲れたな」
レジを締め、バックヤードでタイムカードを押す。
時給1,100円、週4日のシフト。生活費を稼ぐだけで精一杯の日々。
「明日は9時から講義か……」
スマホでスケジュールを確認する。
経済学、英語、選択科目の心理学。どれも興味が持てず、ただ単位を取るためだけに通っている。
「就活、どうしよう」
もうすぐ三年生も終わる。
周りの友人たちは、もう企業研究を始めている。インターンシップに参加している奴もいる。
だけど蓮には、やりたいことが見つからなかった。
「普通に就職して、普通に働いて、普通に生きていくんだろうな」
特別な才能もない。
特別な努力もしてこなかった。
ただ流されるように、日々を過ごしてきた。
「……まあ、こんなもんだよな」
蓮はコンビニの制服を脱ぎ、自分のジャケットを羽織った。
外に出ると、冬の冷たい風が頬を刺す。
12月の夜、街灯が寂しく道を照らしている。
「寒っ……」
アパートまでは徒歩15分。
この時間の住宅街は、ほとんど人通りがない。
歩きながら、蓮はスマホを取り出した。
SNSのタイムラインを流し見る。
大学の同期が投稿した写真。
彼女との記念日ディナー。仲間との飲み会。卒業旅行で行ったハワイ。
「いいよな、みんな……」
羨ましさと、少しの嫉妬。
それでも、蓮は画面を閉じることができなかった。
「俺も、誰かと……」
そう思いかけて、すぐに頭を振った。
「無理だろ。俺なんかが」
自己肯定感の低さは、蓮の一番の弱点だった。
高校時代、意を決して告白した相手にはあっさりと振られた。
大学でも、何度か気になる女性はいたが、話しかける勇気すら出なかった。
「ま、一人でも生きていけるし」
そう自分に言い聞かせて、蓮は交差点に差し掛かった。
信号は青。
左右を確認して、横断歩道を渡ろうとした──その時。
キィィィィッ──!!!
突然の急ブレーキの音が夜を引き裂いた。
「え……?」
蓮が振り向くと同時に、猛スピードで突っ込んでくる車のヘッドライトが視界を埋め尽くした。
「うわっ──!」
避ける暇もなかった。
次の瞬間、激しい衝撃が全身を襲った。
体が宙に浮く。
視界が回転する。
そして──
ドサッ。
地面に叩きつけられた衝撃で、意識が途切れた。
暗闇。
何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。
「……ここは、どこだ」
蓮の意識は、真っ暗な空間の中に浮かんでいた。
体があるのかないのかもわからない。
ただ、自分という存在だけが、ぼんやりと残っている。
「あの車に……轢かれたのか」
記憶が蘇る。
急ブレーキの音。
ヘッドライト。
衝撃。
「ああ……死んだんだな、俺」
不思議と恐怖はなかった。
悲しみも、怒りも、後悔も──何もかもが、どこか遠くにある感覚。
「22年か。短かったな」
人生を振り返る。
幼少期、普通の家庭に生まれ、普通に育った。
学校では目立たず、かといっていじめられるわけでもなく。
部活は帰宅部。趣味はゲームとアニメ。
「特別なことは……何もなかったな」
誰かに強く愛されたわけでもない。
何かを成し遂げたわけでもない。
世界に何かを残したわけでもない。
「こんな人生、意味あったのかな……」
寂しさが、じわりと心に広がった。
もっと誰かと深く繋がりたかった。
もっと何かに情熱を注ぎたかった。
もっと──生きたかった。
「やり直せるなら……」
そう思った瞬間──
──目を覚ましなさい、転生者よ。
声が響いた。
優しく、それでいて厳かな声。
女性の声。
「誰だ……?」
蓮は周囲を見回した。
だが、暗闇は変わらない。
「こんなところで終わるには、あなたは若すぎます」
声が、また響く。
暗闇の中に、一筋の光が差し込んだ。
眩しさに目を細めると──
そこには、白く輝く美しい女性が立っていた。
「な……」
蓮は息を呑んだ。
長い銀髪が、まるで絹のように流れている。
透き通るような白い肌。
そして、深い青色の瞳は、まるで海のように神秘的だった。
全身から放たれる光は神々しく、見ているだけで心が洗われるような感覚がある。
「私は、この世界の調停者──女神アルテミア」
女神。
その言葉が、蓮の頭の中で反芻される。
「め、女神……? マジで……?」
「はい。そして、あなたは神谷蓮。先ほど、交通事故で命を落としました」
あっさりと告げられる死の事実。
蓮は混乱しながらも、それを受け入れようとした。
「俺、死んだのか……」
「ええ。とても不運な事故でした」
女神は優しく微笑んだ。
「だけど、あなたには新しい運命が用意されています」
「新しい……運命?」
「そう。私は、選ばれし魂を別の世界へと導く役割を担っています」
女神は手を広げた。
すると、蓮の周囲に映像が浮かび上がった。
草原、森、山、海──そして、中世ヨーロッパを思わせる街並み。
空を飛ぶドラゴン。魔法を使う人々。剣を持った騎士たち。
「これは……」
「異世界です。剣と魔法が存在する、あなたの世界とは異なる世界」
蓮の心臓が高鳴った。
「異世界転生……!?」
まさか、あのライトノベルやアニメで見たような展開が──
「そうです。あなたには、この世界で新しい人生を歩む権利があります」
女神は蓮の前に進み出た。
「神谷蓮。あなたは元の世界では、自分の価値を見出せずにいました」
「うっ……」
図星を突かれ、蓮は言葉に詰まった。
「だけど、それはあなたが弱いからではありません。ただ、あなたの才能を活かせる場所がなかっただけです」
「才能……俺に?」
「ええ。あなたには、他者を支える力があります」
女神は優しく微笑んだ。
「この新しい世界で、その力を存分に発揮してください」
「他者を支える……」
蓮は自分の手を見た。
今まで、誰かのために何かをしたことがあっただろうか。
いつも自分のことばかり考えて、誰かを本気で助けようとしたことが──
「あなたは優しい人です。ただ、それを表に出す機会がなかっただけ」
女神の言葉が、蓮の心に染み込んでいく。
「さあ、神谷蓮。新しい世界で、あなたの物語を紡ぎなさい」
女神は手を差し出した。
蓮は迷った。
本当に、俺なんかが異世界で──
だが、同時に思った。
もう一度、生きるチャンスがもらえるなら。
今度こそ、後悔のないように。
「……わかりました」
蓮は女神の手を取った。
その瞬間、温かい光が全身を包み込んだ。
「一つだけ、伝えておきます」
女神の声が、遠くなっていく。
「あなたに授けるスキルは──"支援強化"」
「支援強化……?」
「仲間の能力を強化し、支える力です。攻撃スキルでも、防御スキルでもありません」
「え、ちょっと待って……」
蓮は焦った。
異世界転生といえば、チート能力をもらって無双するのが定番じゃないのか。
攻撃も防御もできないスキルなんて──
「最初は戸惑うでしょう。周囲から理解されないかもしれません」
女神は静かに微笑んだ。
「だけど、あなたならきっと、その力の真価に気づくでしょう」
「真価って……」
「それは、あなた自身で見つけてください」
女神の姿が、光の中に溶けていく。
「では──行ってらっしゃい、神谷蓮」
──どうか、その力で、多くの人を救ってください。
次の瞬間、蓮の体は強烈な浮遊感に包まれた。
まるでジェットコースターに乗っているような感覚。
だが、恐怖よりも期待の方が大きかった。
「新しい人生……か」
光が眩しくなっていく。
そして──
──ドサッ。
草の上に倒れ込む感触。
「痛っ……!」
蓮は顔を上げた。
青い空。
白い雲。
見渡す限りの緑の草原。
「マジで……異世界に来ちゃったのか……」
蓮は立ち上がり、周囲を見回した。
遠くには山々が連なり、森が広がっている。
聞こえてくるのは、鳥のさえずりと風の音だけ。
「すげえ……本当に異世界だ……」
興奮と不安が入り混じる。
蓮は自分の体を確認した。
手足は動く。呼吸もできる。服装は、元の世界で着ていたジャケットとジーンズのまま。
「本当に生きてる……生き返ったんだ」
不思議な感覚だった。
死んだはずなのに、今、確かに生きている。
「よし、まずは状況を確認しないと」
蓮は深呼吸をして、落ち着こうとした。
その時──
──ピロリン!
頭の中に、電子音のような音が響いた。
「な、何だ……!?」
視界の端に、半透明のウィンドウが浮かび上がる。
【ステータス】
名前:神谷蓮
年齢:22歳
レベル:1
職業:支援術師
HP:100/100
MP:50/50
スキル:支援強化 Lv.1
「おお……RPGみたいなステータスが……!」
蓮は興奮した。
まるでゲームの世界に入り込んだような感覚。
「支援強化……詳細を見てみよう」
スキルの部分に意識を集中すると、説明が表示された。
【支援強化 Lv.1】
・仲間の能力を一時的に強化する支援魔法
・強化倍率:全ステータス1.5倍
・持続時間:10分
・対象:視界内の味方一人
・消費MP:10
「……え、これだけ?」
蓮は愕然とした。
攻撃魔法も、剣術も、防御スキルもない。
ただ仲間を強くするだけのスキル。
「しかも仲間がいないと意味ないじゃん……」
一人では何の役にも立たない能力。
「女神様、もうちょっとマシなスキルくれても……」
文句を言いかけたが、すぐに気を取り直した。
「いや、待てよ。仲間がいれば強いってことだろ?」
前向きに考えようとする蓮。
「まずは街を探さないと。それから冒険者ギルドにでも登録して、パーティを組めば──」
その時、遠くから声が聞こえた。
「助けて──!!」
女性の悲鳴。
蓮は反射的に声のする方向を見た。
森の方から、何かが近づいてくる。
小さな緑色の影──いや、複数の影。
「あれって……ゴブリン!?」
ファンタジー作品でお馴染みの魔物。
小柄だが凶暴で、集団で襲ってくる。
その数、5匹。
そして、その後ろから必死に逃げてくる人影──
銀色の鎧を身にまとった、美しい少女。
金色の髪が風になびき、青い瞳が恐怖と焦りに染まっている。
手には剣を持っているが、鎧のあちこちに傷があり、疲労困憊している様子。
「誰か……助けて……!」
少女は蓮に気づき、助けを求めるように手を伸ばした。
「やばい……!」
蓮の体が動いた。
考えるより先に、足が動いていた。
「こっちだ──!!」
蓮は少女に向かって走り出した。
心臓が激しく打っている。
怖い。正直、すごく怖い。
だけど──
「放っておけるか!」
蓮は叫んだ。
ゴブリンたちが距離を詰めてくる。
錆びた短剣を振りかざし、獰猛な表情で少女に襲いかかろうとしている。
「くそっ、俺に何ができる……!」
攻撃スキルはない。
武器もない。
戦った経験もない。
だけど──
「支援強化……!」
蓮は本能的に叫んでいた。
その瞬間、少女の体が淡い黄金色の光に包まれた。
「え……? この力は……」
少女は驚いたように自分の体を見た。
体が軽い。力が漲る。疲労が嘘のように消えていく。
「まさか──支援魔法!?」
彼女は蓮を一瞬見てから、剣を構え直した。
そして──
──一瞬で、ゴブリン一匹の首を刎ねた。
「はやっ……!」
蓮は目を見張った。
少女の動きが、先ほどとは比べ物にならないほど速く、鋭い。
まるで別人のように、次々とゴブリンを斬り伏せていく。
「はあっ!」
横薙ぎの一閃で、二匹のゴブリンが同時に倒れる。
残りは2匹。
ゴブリンたちは恐怖に駆られ、逃げようとした。
「逃がしません!」
少女は地を蹴り、瞬時に距離を詰めた。
そして、最後の2匹も一瞬で仕留めた。
あっという間に、5匹のゴブリンは全滅した。
「はぁ……はぁ……」
少女は剣を下ろし、蓮の方を振り向いた。
金色の髪が汗で肌に張り付き、青い瞳が蓮を真っ直ぐ見つめている。
「あなたが……今の支援魔法を?」
「あ、ああ……」
蓮は頷いた。
少女は険しい表情を緩め、小さく微笑んだ。
「助かりました。心から礼を言います」
彼女は蓮の前まで歩いてきて、姿勢を正した。
「私はアリシア。王国騎士団第三部隊所属の騎士です」
「あ、俺は神谷蓮……えっと、冒険者、かな。まだ登録もしてないんだけど」
「神谷……変わった名前ですね」
アリシアは首を傾げた。
「それより、あなたの支援魔法……あれほどの効果を持つ術は初めて見ました」
「そ、そうなの?」
「ええ。通常の支援魔法は、せいぜい1.2倍程度の強化が限界です。でも、あなたの魔法は──おそらく1.5倍以上」
アリシアは驚きの表情を浮かべた。
「おかげで、あのゴブリンたちを一瞬で倒せました。本当に、命の恩人です」
「いや、そんな大したことは……」
蓮は照れくさそうに頭をかいた。
「もしよければ、近くの街までご一緒しませんか? きちんとお礼もしたいですし」
「あ、ああ……じゃあ、お願いします」
蓮は安堵の息を吐いた。
異世界に来て、いきなり美少女騎士と出会い、命を救った。
「まあ、悪くないスタートかもな……」
そう思いながら、蓮はアリシアと共に歩き出した。
青い空が広がる草原を、二人は並んで進んでいく。
風が心地よく吹き抜け、遠くで鳥たちが鳴いている。
新しい世界での、新しい物語が──今、始まった。
3
あなたにおすすめの小説
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます
内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」
――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。
カクヨムにて先行連載中です!
(https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)
異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。
残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。
一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。
そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。
そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。
異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。
やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。
さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。
そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。
話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。
説明口調から対話形式を増加。
伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など)
別視点内容の追加。
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。
2021/06/27 無事に完結しました。
2021/09/10 後日談の追加を開始
2022/02/18 後日談完結しました。
2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる