8 / 40
第八話「帰還、そして新たな仲間」
しおりを挟む
「ケンさん、お帰りなさい!」
村の入口で、エミリアが真っ先に駆け寄ってきた。
「ただいま、エミリア」
俺は、馬車から降りて彼女の頭を撫でる。
「寂しかった……」
「ごめんな。でも、ちゃんと強くなって帰ってきたよ」
「本当ですか?」
「ああ。もう簡単には負けない」
その時、後ろから別の声が聞こえた。
「ケン!」
リーゼだ。
彼女は走ってきて――そして、俺の胸に飛び込んできた。
「お帰り……心配したんだから……」
「ただいま、リーゼ」
リーゼの体が、小刻みに震えている。
泣いているのかもしれない。
「ごめん。心配かけて」
「うん……でも、無事で良かった……」
しばらくそうしていると、グスタフが苦笑しながら近づいてきた。
「おいおい、いつまでくっついてるんだ」
「あ……!」
リーゼが慌てて離れる。顔が真っ赤だ。
「ご、ごめん……つい……」
「いや、いいよ。俺も嬉しいし」
「ケン……」
リーゼの目が、潤んでいる。
ああ、やっぱり帰ってきて良かった。
ここが、俺の居場所なんだ――
「ケン君!」
ハインリヒ村長が、息を切らせて走ってきた。
「お帰り。無事で何よりだ」
「ただいまです、村長」
「修行は、順調だったか?」
「はい。セラさんに、みっちり鍛えられました」
「それは良かった。だが――」
ハインリヒの表情が、曇る。
「実は、困ったことになっている」
「困ったこと?」
「ああ。王都から、監査官が来ているんだ」
「監査官?」
「食糧監査官と名乗っている。パン工房を調査したいと」
嫌な予感がした。
「まさか、バルトロメオが……?」
「おそらくな。だが、相手は王都の貴族だ。断ることはできない」
「今、どこに?」
「工房にいる。リーゼとエミリアが対応してくれているが……」
「行きましょう!」
俺たちは、工房へと急いだ。
工房に着くと、見慣れない馬車が止まっていた。
質素だが、品のある造り。王家の紋章が入っている。
「本当に、王都から……」
中に入ると、一人の青年が立っていた。
年は二十代前半。銀髪に青い瞳。細身だが、品格がある。
そして、その目は――鋭く、知的だ。
「あ、ケンさん!」
エミリアが、安堵の表情で駆け寄ってくる。
「この人が、監査官の……」
「ダミアン・フォン・レーヴェンシュタインだ」
青年が、こちらを向いた。
「君が、ケン・サトウか?」
「はい。そうですが」
「噂は聞いている。辺境の村で、革新的なパンを作っている若者だと」
ダミアンの声は、落ち着いている。
威圧感はない。むしろ、好奇心に満ちている。
「調査に来たと聞きましたが……」
「ああ。王都で、君のパンが話題になってな」
ダミアンが、テーブルの上のパンを指差す。
「蒼銀商会が、『前例のない品質のパン』として売り出している。貴族たちの間で、大人気だ」
「それは……嬉しいですが」
「だが、問題もある」
ダミアンの表情が、真剣になる。
「保守派の貴族たちが、これを快く思っていない」
「なぜですか?」
「伝統を乱すから、だそうだ」
ダミアンが、肩をすくめる。
「彼らは、変化を嫌う。特に、平民が成功することをな」
「……つまり、俺たちを潰しに来たんですか?」
「いや、違う」
ダミアンは、首を振った。
「私は、君たちの味方だ」
「味方……?」
「ああ。私は、国王陛下の命で、新しい食糧政策を研究している」
ダミアンが、懐から書類を取り出した。
「この国は、長年飢饉に悩まされている。収穫の不安定さ、保存技術の未熟さ。それらを解決する方法を、探っているんだ」
「それと、俺たちのパンが……?」
「君のパンは、保存性が高い。そして、少量で栄養価が高い。これは、飢饉対策に使える」
ダミアンの目が、輝く。
「だから、調査に来た。君の製法を学び、国全体に広げたい」
「……本気ですか?」
「ああ。嘘は言わない」
ダミアンは、真っ直ぐ俺を見た。
「ケン・サトウ。君の技術を、国のために使わせてほしい」
その真摯な眼差しに、俺は驚いた。
敵だと思っていた。
でも、彼は違う。
「……条件があります」
「言ってみろ」
「俺たちの村を、守ってください」
「守る?」
「隣村の地主、バルトロメオが、俺たちを潰そうとしている。王都に手を回して、妨害工作をしている」
「ああ、その話も聞いている」
ダミアンが、苦い顔をする。
「バルトロメオは、保守派貴族とつながっている。厄介な相手だ」
「だからこそ、力を貸してほしい」
「……わかった」
ダミアンが、頷いた。
「君たちを守る。その代わり、製法を教えてくれ」
「いいでしょう。ただし、一つだけ」
「何だ?」
「製法は無償で教えます。でも、それを使う人たちには、ちゃんとした訓練を受けてもらいたい」
「訓練?」
「ええ。パン作りは、技術だけじゃない。心が大事なんです。食べる人のことを想いながら作る。それがないと、本当に美味しいパンにはならない」
ダミアンは、しばらく黙っていた。
やがて、小さく笑った。
「面白いことを言うな、君は」
「笑いますか?」
「いや、感心している。君は、ただの商人じゃない」
ダミアンが、手を差し出してきた。
「いい取引だ。契約成立としよう」
「……ありがとうございます」
俺は、その手を握った。
意外な展開だった。
でも、悪くない。
むしろ、これは大きなチャンスだ。
その日の午後。
ダミアンと一緒に、パン作りの実演をすることになった。
「まず、小麦粉をこうして……」
「ふむ」
ダミアンは、真剣にメモを取っている。
「水の温度は、季節によって変える必要があります」
「なるほど。理にかなっている」
「そして、ここからが重要です」
俺は、手を生地にかざす。
「発酵魔法――【イースト・ブルーム】」
生地が、ゆっくりと膨らみ始める。
「これは……!」
ダミアンの目が、見開かれた。
「発酵魔法だと? そんな魔法、聞いたことがない!」
「俺にも、よくわからないんです。転生した時から、使えました」
「転生……?」
「ああ、別世界から来たんです」
ダミアンは、しばらく呆然としていた。
「……君は、本当に不思議な人物だな」
「よく言われます」
「だが、これは素晴らしい。この魔法があれば、パンの生産性が飛躍的に上がる」
「でも、この魔法は俺にしか使えません」
「そうなのか……」
ダミアンが、残念そうな顔をする。
「ただ、エミリアも似たような力を持っています」
「エミリア?」
「はい!」
エミリアが、元気よく手を挙げる。
「わたしも、発酵を促進できるんです!」
「見せてくれるか?」
「はい!」
エミリアが、手を生地にかざす。
淡い光が、生地を包む。
「……驚いた。本当だ」
ダミアンが、感嘆の声を上げる。
「君たち二人は、この国の宝だ」
「宝だなんて……」
「いや、本当だ。君たちがいれば、この国の食糧問題は解決できる」
ダミアンの目が、真剣だ。
「ケン・サトウ。君に、正式な依頼をしたい」
「依頼?」
「王都に来てほしい。そして、王立パン職人養成学校を作りたい」
「学校……!」
「ああ。君が校長だ。そこで、全国からパン職人を育成する」
それは、壮大な構想だった。
「でも、俺、まだ村を離れられません」
「わかっている。今すぐとは言わない。まずは、この村でモデルケースを作ってくれ」
「モデルケース?」
「ああ。貧しい辺境の村が、パン作りで豊かになる。その成功例を、国全体に示すんだ」
ダミアンが、握りこぶしを作る。
「それができれば、保守派の貴族たちも黙る」
「……わかりました。やってみます」
「期待している」
ダミアンが、微笑んだ。
その笑顔は、純粋だった。
この人は、本当に国を良くしたいと思っているんだ。
「あの、ダミアンさん」
リーゼが、恐る恐る声をかける。
「何だ?」
「あなたって、もしかして……貴族の方ですよね?」
「ああ。レーヴェンシュタイン公爵家の三男坊だ」
「公爵……!」
村人たちが、ざわめく。
公爵といえば、王族に次ぐ地位だ。
「そんな偉い方が、なんでこんな辺境に……」
「偉くなんてない。ただの研究者だ」
ダミアンが、肩をすくめる。
「私は、長男でも次男でもない。家督を継ぐ必要もない。だから、好きなことができる」
「好きなこと……?」
「ああ。国を豊かにすること。人々を幸せにすること。それが、私の夢だ」
その言葉に、俺は共感した。
この人も、俺と同じだ。
純粋に、誰かを幸せにしたいと思っている。
「ダミアンさん、一緒にやりましょう」
「ああ。よろしく頼む、ケン」
こうして、新たな仲間ができた。
それは、将来の大きな力になる――まだ知らないけれど。
夕方。
ダミアンは、村を出ていった。
「また来る。進捗を確認しに」
「お待ちしています」
「それと――」
ダミアンが、振り返った。
「バルトロメオのことは、私が処理する。もう君たちを邪魔させない」
「本当ですか!?」
「ああ。約束だ」
そう言って、馬車に乗り込む。
馬車は、夕日の中を走り去っていった。
「やったね、ケン!」
リーゼが、嬉しそうに笑う。
「これで、安心だね!」
「ああ。でも、まだ油断はできない」
「わかってるよ。でも、今日は喜ぼうよ!」
「そうだな」
俺も、笑顔になる。
確かに、今日はいい日だった。
新しい仲間ができて、未来が見えてきた。
「ケンさん、今日はパーティーしましょう!」
エミリアが、提案する。
「パーティー?」
「はい! ケンさんの帰還と、新しい仲間ができたお祝いです!」
「いいね、それ!」
リーゼも賛成する。
「じゃあ、村のみんなを呼ぼう!」
「おう、賛成だ」
グスタフも、珍しく乗り気だ。
「久しぶりに、盛大にやるか」
その夜。
村の広場で、大きな焚き火が燃えている。
焼きたてのパン、猟で獲れた肉、野菜のスープ。
質素だけど、温かい食事が並ぶ。
「乾杯!」
「乾杯!」
みんなで、木のカップを掲げる。
「ケン、お前のおかげで、この村は変わったよ」
老人が、目を細める。
「ありがとうな」
「いえ、みんなのおかげです」
「謙虚だねえ。だから、みんなに好かれるんだよ」
「そうそう! ケンは、この村の英雄だ!」
若者たちが、口々に言う。
照れくさい。
でも、嬉しい。
こんな温かい場所が、俺にはある。
「ケン」
リーゼが、隣に座ってきた。
「ん?」
「あのね……」
リーゼが、俺の手を握る。
「ありがとう。あたしの人生を、変えてくれて」
「俺は、何もしてないよ」
「そんなことない。ケンが来なかったら、あたし、今頃……」
リーゼの目が、潤む。
「でも、今は幸せ。毎日が楽しい」
「……俺も」
俺は、リーゼの手を握り返した。
「俺も、幸せだよ。みんなと一緒にいると」
「ケン……」
二人の間に、静かな時間が流れる。
焚き火が、パチパチと音を立てる。
夜空には、満天の星。
この瞬間が、永遠に続けばいいのに――
そう、思った。
村の入口で、エミリアが真っ先に駆け寄ってきた。
「ただいま、エミリア」
俺は、馬車から降りて彼女の頭を撫でる。
「寂しかった……」
「ごめんな。でも、ちゃんと強くなって帰ってきたよ」
「本当ですか?」
「ああ。もう簡単には負けない」
その時、後ろから別の声が聞こえた。
「ケン!」
リーゼだ。
彼女は走ってきて――そして、俺の胸に飛び込んできた。
「お帰り……心配したんだから……」
「ただいま、リーゼ」
リーゼの体が、小刻みに震えている。
泣いているのかもしれない。
「ごめん。心配かけて」
「うん……でも、無事で良かった……」
しばらくそうしていると、グスタフが苦笑しながら近づいてきた。
「おいおい、いつまでくっついてるんだ」
「あ……!」
リーゼが慌てて離れる。顔が真っ赤だ。
「ご、ごめん……つい……」
「いや、いいよ。俺も嬉しいし」
「ケン……」
リーゼの目が、潤んでいる。
ああ、やっぱり帰ってきて良かった。
ここが、俺の居場所なんだ――
「ケン君!」
ハインリヒ村長が、息を切らせて走ってきた。
「お帰り。無事で何よりだ」
「ただいまです、村長」
「修行は、順調だったか?」
「はい。セラさんに、みっちり鍛えられました」
「それは良かった。だが――」
ハインリヒの表情が、曇る。
「実は、困ったことになっている」
「困ったこと?」
「ああ。王都から、監査官が来ているんだ」
「監査官?」
「食糧監査官と名乗っている。パン工房を調査したいと」
嫌な予感がした。
「まさか、バルトロメオが……?」
「おそらくな。だが、相手は王都の貴族だ。断ることはできない」
「今、どこに?」
「工房にいる。リーゼとエミリアが対応してくれているが……」
「行きましょう!」
俺たちは、工房へと急いだ。
工房に着くと、見慣れない馬車が止まっていた。
質素だが、品のある造り。王家の紋章が入っている。
「本当に、王都から……」
中に入ると、一人の青年が立っていた。
年は二十代前半。銀髪に青い瞳。細身だが、品格がある。
そして、その目は――鋭く、知的だ。
「あ、ケンさん!」
エミリアが、安堵の表情で駆け寄ってくる。
「この人が、監査官の……」
「ダミアン・フォン・レーヴェンシュタインだ」
青年が、こちらを向いた。
「君が、ケン・サトウか?」
「はい。そうですが」
「噂は聞いている。辺境の村で、革新的なパンを作っている若者だと」
ダミアンの声は、落ち着いている。
威圧感はない。むしろ、好奇心に満ちている。
「調査に来たと聞きましたが……」
「ああ。王都で、君のパンが話題になってな」
ダミアンが、テーブルの上のパンを指差す。
「蒼銀商会が、『前例のない品質のパン』として売り出している。貴族たちの間で、大人気だ」
「それは……嬉しいですが」
「だが、問題もある」
ダミアンの表情が、真剣になる。
「保守派の貴族たちが、これを快く思っていない」
「なぜですか?」
「伝統を乱すから、だそうだ」
ダミアンが、肩をすくめる。
「彼らは、変化を嫌う。特に、平民が成功することをな」
「……つまり、俺たちを潰しに来たんですか?」
「いや、違う」
ダミアンは、首を振った。
「私は、君たちの味方だ」
「味方……?」
「ああ。私は、国王陛下の命で、新しい食糧政策を研究している」
ダミアンが、懐から書類を取り出した。
「この国は、長年飢饉に悩まされている。収穫の不安定さ、保存技術の未熟さ。それらを解決する方法を、探っているんだ」
「それと、俺たちのパンが……?」
「君のパンは、保存性が高い。そして、少量で栄養価が高い。これは、飢饉対策に使える」
ダミアンの目が、輝く。
「だから、調査に来た。君の製法を学び、国全体に広げたい」
「……本気ですか?」
「ああ。嘘は言わない」
ダミアンは、真っ直ぐ俺を見た。
「ケン・サトウ。君の技術を、国のために使わせてほしい」
その真摯な眼差しに、俺は驚いた。
敵だと思っていた。
でも、彼は違う。
「……条件があります」
「言ってみろ」
「俺たちの村を、守ってください」
「守る?」
「隣村の地主、バルトロメオが、俺たちを潰そうとしている。王都に手を回して、妨害工作をしている」
「ああ、その話も聞いている」
ダミアンが、苦い顔をする。
「バルトロメオは、保守派貴族とつながっている。厄介な相手だ」
「だからこそ、力を貸してほしい」
「……わかった」
ダミアンが、頷いた。
「君たちを守る。その代わり、製法を教えてくれ」
「いいでしょう。ただし、一つだけ」
「何だ?」
「製法は無償で教えます。でも、それを使う人たちには、ちゃんとした訓練を受けてもらいたい」
「訓練?」
「ええ。パン作りは、技術だけじゃない。心が大事なんです。食べる人のことを想いながら作る。それがないと、本当に美味しいパンにはならない」
ダミアンは、しばらく黙っていた。
やがて、小さく笑った。
「面白いことを言うな、君は」
「笑いますか?」
「いや、感心している。君は、ただの商人じゃない」
ダミアンが、手を差し出してきた。
「いい取引だ。契約成立としよう」
「……ありがとうございます」
俺は、その手を握った。
意外な展開だった。
でも、悪くない。
むしろ、これは大きなチャンスだ。
その日の午後。
ダミアンと一緒に、パン作りの実演をすることになった。
「まず、小麦粉をこうして……」
「ふむ」
ダミアンは、真剣にメモを取っている。
「水の温度は、季節によって変える必要があります」
「なるほど。理にかなっている」
「そして、ここからが重要です」
俺は、手を生地にかざす。
「発酵魔法――【イースト・ブルーム】」
生地が、ゆっくりと膨らみ始める。
「これは……!」
ダミアンの目が、見開かれた。
「発酵魔法だと? そんな魔法、聞いたことがない!」
「俺にも、よくわからないんです。転生した時から、使えました」
「転生……?」
「ああ、別世界から来たんです」
ダミアンは、しばらく呆然としていた。
「……君は、本当に不思議な人物だな」
「よく言われます」
「だが、これは素晴らしい。この魔法があれば、パンの生産性が飛躍的に上がる」
「でも、この魔法は俺にしか使えません」
「そうなのか……」
ダミアンが、残念そうな顔をする。
「ただ、エミリアも似たような力を持っています」
「エミリア?」
「はい!」
エミリアが、元気よく手を挙げる。
「わたしも、発酵を促進できるんです!」
「見せてくれるか?」
「はい!」
エミリアが、手を生地にかざす。
淡い光が、生地を包む。
「……驚いた。本当だ」
ダミアンが、感嘆の声を上げる。
「君たち二人は、この国の宝だ」
「宝だなんて……」
「いや、本当だ。君たちがいれば、この国の食糧問題は解決できる」
ダミアンの目が、真剣だ。
「ケン・サトウ。君に、正式な依頼をしたい」
「依頼?」
「王都に来てほしい。そして、王立パン職人養成学校を作りたい」
「学校……!」
「ああ。君が校長だ。そこで、全国からパン職人を育成する」
それは、壮大な構想だった。
「でも、俺、まだ村を離れられません」
「わかっている。今すぐとは言わない。まずは、この村でモデルケースを作ってくれ」
「モデルケース?」
「ああ。貧しい辺境の村が、パン作りで豊かになる。その成功例を、国全体に示すんだ」
ダミアンが、握りこぶしを作る。
「それができれば、保守派の貴族たちも黙る」
「……わかりました。やってみます」
「期待している」
ダミアンが、微笑んだ。
その笑顔は、純粋だった。
この人は、本当に国を良くしたいと思っているんだ。
「あの、ダミアンさん」
リーゼが、恐る恐る声をかける。
「何だ?」
「あなたって、もしかして……貴族の方ですよね?」
「ああ。レーヴェンシュタイン公爵家の三男坊だ」
「公爵……!」
村人たちが、ざわめく。
公爵といえば、王族に次ぐ地位だ。
「そんな偉い方が、なんでこんな辺境に……」
「偉くなんてない。ただの研究者だ」
ダミアンが、肩をすくめる。
「私は、長男でも次男でもない。家督を継ぐ必要もない。だから、好きなことができる」
「好きなこと……?」
「ああ。国を豊かにすること。人々を幸せにすること。それが、私の夢だ」
その言葉に、俺は共感した。
この人も、俺と同じだ。
純粋に、誰かを幸せにしたいと思っている。
「ダミアンさん、一緒にやりましょう」
「ああ。よろしく頼む、ケン」
こうして、新たな仲間ができた。
それは、将来の大きな力になる――まだ知らないけれど。
夕方。
ダミアンは、村を出ていった。
「また来る。進捗を確認しに」
「お待ちしています」
「それと――」
ダミアンが、振り返った。
「バルトロメオのことは、私が処理する。もう君たちを邪魔させない」
「本当ですか!?」
「ああ。約束だ」
そう言って、馬車に乗り込む。
馬車は、夕日の中を走り去っていった。
「やったね、ケン!」
リーゼが、嬉しそうに笑う。
「これで、安心だね!」
「ああ。でも、まだ油断はできない」
「わかってるよ。でも、今日は喜ぼうよ!」
「そうだな」
俺も、笑顔になる。
確かに、今日はいい日だった。
新しい仲間ができて、未来が見えてきた。
「ケンさん、今日はパーティーしましょう!」
エミリアが、提案する。
「パーティー?」
「はい! ケンさんの帰還と、新しい仲間ができたお祝いです!」
「いいね、それ!」
リーゼも賛成する。
「じゃあ、村のみんなを呼ぼう!」
「おう、賛成だ」
グスタフも、珍しく乗り気だ。
「久しぶりに、盛大にやるか」
その夜。
村の広場で、大きな焚き火が燃えている。
焼きたてのパン、猟で獲れた肉、野菜のスープ。
質素だけど、温かい食事が並ぶ。
「乾杯!」
「乾杯!」
みんなで、木のカップを掲げる。
「ケン、お前のおかげで、この村は変わったよ」
老人が、目を細める。
「ありがとうな」
「いえ、みんなのおかげです」
「謙虚だねえ。だから、みんなに好かれるんだよ」
「そうそう! ケンは、この村の英雄だ!」
若者たちが、口々に言う。
照れくさい。
でも、嬉しい。
こんな温かい場所が、俺にはある。
「ケン」
リーゼが、隣に座ってきた。
「ん?」
「あのね……」
リーゼが、俺の手を握る。
「ありがとう。あたしの人生を、変えてくれて」
「俺は、何もしてないよ」
「そんなことない。ケンが来なかったら、あたし、今頃……」
リーゼの目が、潤む。
「でも、今は幸せ。毎日が楽しい」
「……俺も」
俺は、リーゼの手を握り返した。
「俺も、幸せだよ。みんなと一緒にいると」
「ケン……」
二人の間に、静かな時間が流れる。
焚き火が、パチパチと音を立てる。
夜空には、満天の星。
この瞬間が、永遠に続けばいいのに――
そう、思った。
67
あなたにおすすめの小説
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!
ひより のどか
ファンタジー
ねぇたまと、妹と、もふもふな家族と幸せに暮らしていたフィリー。そんな日常が崩れ去った。
一見、まだ小さな子どもたち。実は国が支配したがる程の大きな力を持っていて?
主人公フィリーは、実は違う世界で生きた記憶を持っていて?前世の記憶を活かして魔法の世界で代活躍?
「ねぇたまたちは、ぼくがまもりゅのら!」
『わふっ』
もふもふな家族も一緒にたくましく楽しく生きてくぞ!
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!
さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語
会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?
中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた
Mr.Six
ファンタジー
仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。
訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。
「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」
そう開き直り、この世界を探求することに――
元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる