社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

yukataka

文字の大きさ
11 / 40

第十一話「王都の陰謀、交錯する思惑」

しおりを挟む
「王室御用達……本気なんですか?」
 アナスタシア王女が帰った後、俺はアレクに確認した。
「ああ、本気だろうな」
 アレクが、腕を組む。
「アナスタシア殿下は、見た目は子供っぽいが、芯は強い。決めたことは、必ずやり遂げる」
「でも、王室御用達なんて、俺には荷が重すぎます」
「そう言うな。これは大チャンスだ」
 アレクが、窓の外を見た。
「王室御用達になれば、信頼が一気に高まる。保守派の貴族たちも、文句を言いにくくなる」
「保守派……」
「ああ。連中は、平民の成り上がりを嫌う。だが、王女の推薦となれば、表立っては反対できない」
「でも、裏では……」
「裏では、何でもやってくるだろうな」
 アレクが、苦笑する。
「覚悟しとけ。これから、もっと厳しくなる」

 夕方。
 ダミアンの屋敷を訪ねた。
 王都の貴族街にある、立派な邸宅。
「ようこそ、ケン君」
 ダミアンが、書斎で迎えてくれた。
「旅は、無事だったか?」
「いえ、襲撃されました」
「やはりか」
 ダミアンの表情が、険しくなる。
「黄昏の会だな」
「やっぱり……」
「ああ。彼らの動きを、調査していた」
 ダミアンが、分厚いファイルを開く。
「黄昏の会――正式名称『黄昏の使徒団』。約百年前に結成された秘密結社だ」
「百年も……」
「ああ。目的は、『古き秩序の維持』」
「古き秩序?」
「貴族支配体制の維持、魔法技術の独占、そして――」
 ダミアンが、一枚の羊皮紙を取り出した。
「古代魔法文明の復活」
「古代魔法文明……?」
「千年前、この大陸には高度な魔法文明が栄えていた。だが、ある日突然、滅んだ」
「なぜ?」
「わからない。記録が、ほとんど残っていない」
 ダミアンが、古い地図を広げる。
「ただ、遺跡だけが残っている。そこには、現代では失われた技術が眠っているらしい」
「それを、黄昏の会が……」
「ああ。彼らは、古代の技術を独占し、権力を維持しようとしている」
「でも、それと俺のパンと、何の関係が?」
「君のパンは、革新だ」
 ダミアンが、真剣な目で言った。
「革新は、人々に希望を与える。希望は、変化を生む。変化は、既存の秩序を壊す」
「だから、潰される……」
「その通りだ。君は、気づかないうちに、この国の権力構造に挑戦している」
 その言葉が、重く胸に響く。
「どうすれば……」
「戦うしかない」
 ダミアンが、立ち上がった。
「だが、君は一人じゃない。私がいる。アレクがいる。そして――」
 ノックの音。
「入れ」
 扉が開き、一人の男が入ってきた。
 三十代半ば。厳つい顔に、傷跡。軍人のような雰囲気。
「紹介しよう。彼は、ロイド・ハートウェル。王国騎士団の副団長だ」
「初めまして。ケン・サトウです」
「……ふん」
 ロイドは、俺を値踏みするように見た。
「こんなひょろい若造が、黄昏の会を刺激してるのか」
「ロイド、失礼だぞ」
「事実を言ったまでだ」
 ロイドが、腕を組む。
「だが、度胸は認める。よくここまで生き延びた」
「ありがとう……ございます?」
「ダミアン殿下、本当にこいつを守るんですか?」
「ああ。国王陛下の命令だ」
「……了解しました」
 ロイドが、渋々という感じで頷く。
「では、護衛をつけます。常時三名」
「そんなに……」
「必要だ。お前、自分がどれだけ狙われてるか、わかってないだろ」
 ロイドが、一枚の紙を突きつけてきた。
「これを見ろ」
 そこには、俺の似顔絵と――
「懸賞金……金貨十枚!?」
「ああ。闇の市場で、お前の首に値がついてる」
「そんな……」
「もう、のんびりパンを焼いてる場合じゃねえんだよ」
 ロイドが、鋭い目で俺を見た。
「覚悟を決めろ。戦うか、逃げるか」
「……戦います」
「はっ、即答か」
「守りたいものがありますから」
「守りたいもの、ね」
 ロイドが、珍しく笑った。
「いい目してるじゃねえか。気に入った」

 翌日。
 王宮での試食会が開かれることになった。
「緊張するな……」
 俺は、新しく仕立ててもらった礼服を着て、王宮の門をくぐる。
 護衛のロイド配下の騎士三名が、ついてきている。
「こんな厳重な警備、必要なんですか?」
「当たり前だ」
 騎士の一人が答える。
「保守派の貴族たちが、何をしてくるかわからん」
「暗殺とか……」
「最悪の場合はな」
 背筋が凍る。
 でも、引き返せない。
「大丈夫。私たちがいるから」
 もう一人の騎士――若い女性騎士が、励ましてくれる。
「あなたは、パンを焼くことだけ考えて」
「……はい」
 王宮の中は、信じられないほど豪華だった。
 大理石の床、壁画、シャンデリア。
 前世の宮殿を思い出す。
「こちらです」
 案内されたのは、広間。
 そこには、すでに多くの貴族たちが集まっていた。
 華やかなドレスに、宝石。
 場違いな感じがする。
「ケン君!」
 ダミアンが、手を振ってくれた。
「こっちだ」
 彼の隣には、アレクもいる。
「緊張してるな」
「バレバレですか?」
「ああ。だが、自信を持て。お前のパンは、最高だ」
 アレクの言葉に、少し落ち着く。
 その時――
 ファンファーレが鳴り響いた。
「国王陛下、ご入場!」
 全員が、膝をつく。
 俺も慌てて膝をつく。
 重厚な足音。
 そして――
「面を上げよ」
 低く、威厳のある声。
 顔を上げると、そこには――
 四十代くらいの男性。立派な髭に、王冠。
 国王エドワルド三世。
「本日は、興味深い試食会と聞いている」
「はい、陛下」
 アナスタシア王女が、前に出た。
「辺境の村から、素晴らしいパンが献上されました」
「ほう。どれほどのものか、楽しみだ」
 国王が、玉座に座る。
「では、始めよ」

 俺は、用意したパンを並べた。
 プレミアムライン五種類。
 スタンダードライン三種類。
「まず、こちらのプレーンパンから」
 国王に、一つ差し出す。
 国王は、それを手に取り――
 一口。
 沈黙。
 周囲の貴族たちが、固唾を呑んで見守る。
「……美味い」
 国王が、目を見開いた。
「こんなに柔らかく、香り高いパンは初めてだ」
「ありがとうございます」
「次も、食べさせろ」
 次々と、パンを試食する国王。
 その表情は、明らかに満足している。
「素晴らしい。これは、確かに御用達にふさわしい」
 その瞬間――
「お待ちください、陛下!」
 一人の老貴族が、立ち上がった。
「私は、これに反対します」
「反対? 理由は?」
「この若者は、素性が怪しい。突然現れ、得体の知れない魔法を使う」
「発酵魔法だ」
 ダミアンが、割って入る。
「革新的だが、危険なものではない」
「それは、あなたの見解でしょう」
 老貴族が、睨みつける。
「私は、この者が王家を騙そうとしていると考えます」
「騙す? 馬鹿を言うな」
 アレクが、立ち上がった。
「このパンは、私の商会が品質を保証する」
「商会が保証? 笑止千万!」
 別の貴族も、立ち上がる。
「所詮は金儲けではないか!」
「そうだ、そうだ!」
 保守派の貴族たちが、口々に非難し始める。
「静まれ!」
 国王の一喝。
 広間が、静まり返る。
「余は、この者のパンを認める。それで十分ではないか」
「しかし、陛下!」
「もう一度言わせるな」
 国王の目が、鋭く光る。
「余の判断に、異を唱えるか?」
「……いえ、滅相もございません」
 老貴族たちは、渋々座った。
 だが、その目には明らかな敵意が宿っている。
「ケン・サトウ」
「はい!」
「そなたのパンを、王室御用達とする。これより、王宮への定期納入を命じる」
「ありがとうございます!」
 俺は、深く頭を下げた。
 やった――
 だが、喜びよりも、不安が大きかった。
 保守派の貴族たちの視線が、刺すように痛い。

 試食会が終わり、控室に戻ると――
「ケン! 無事でよかった!」
 アナスタシア王女が、駆け込んできた。
「殿下……」
「ごめんなさい。あんなに反対されるとは思わなかった」
「いえ、仕方ありません」
「でも、父上が認めてくれた! これで大丈夫よ!」
 アナスタシアは、本当に嬉しそうだ。
 だが――
「殿下」
 ダミアンが、真剣な顔で言った。
「これから、もっと厳しくなります」
「わかってるわ」
 アナスタシアの表情が、凛とする。
「でも、私は諦めない。ケンのパンは、本物よ」
「ありがとうございます……」
「それより、ケン」
 ダミアンが、俺を見た。
「今夜、私の屋敷に来てくれ。重要な話がある」
「重要な話?」
「ああ。黄昏の会について、新たな情報が入った」

 その夜。
 ダミアンの書斎に、主要メンバーが集まった。
 アレク、ロイド、そして――
「グスタフさん!?」
「よう、ケン」
 グスタフが、にやりと笑う。
「驚いたか?」
「どうして、ここに……」
「ダミアン殿下に呼ばれたんだ」
「グスタフは、元王国騎士団の精鋭だ」
 ダミアンが説明する。
「彼の経験と知識が、必要だ」
「でも、村は……」
「リーゼとエミリアがいる。大丈夫だ」
 グスタフが、肩を竦める。
「それより、話を聞け。重要だ」
「……はい」
 ダミアンが、一枚の古文書を取り出した。
「これは、百年前の記録だ」
 羊皮紙には、古い文字で何かが書かれている。
「黄昏の会の創設者――彼は、古代魔法文明の研究者だった」
「研究者……?」
「ああ。そして、ある発見をした」
 ダミアンの声が、低くなる。
「古代文明が滅んだ原因――それは、『禁忌の魔法』だった」
「禁忌の魔法?」
「生命を操る魔法だ」
 その言葉に、俺は息を呑んだ。
「生命を操る……?」
「ああ。作物の成長、家畜の繁殖、人間の能力向上。あらゆる生命を、意のままに操る技術」
「それって……」
「そうだ。お前の発酵魔法と、本質的に同じだ」
 ダミアンが、俺を見た。
「ケン、お前の発酵魔法は、古代魔法文明の遺産かもしれない」
「まさか……」
「だから、黄昏の会は興味を持っている」
 ロイドが、険しい顔で言った。
「お前を研究対象にしたがってる」
「研究……対象?」
「ああ。生け捕りにして、魔法を解析する。それが、連中の狙いだ」
「そんな……」
「だから、守る必要がある」
 グスタフが、俺の肩を叩いた。
「お前は、もう狙われてる。逃げ場はない」
「……わかりました」
 俺は、拳を握った。
「なら、戦います。徹底的に」
「その意気だ」
 ダミアンが、微笑む。
「では、作戦を立てよう」

 深夜まで、議論が続いた。
 黄昏の会の拠点、メンバー、動き。
 すべてを分析し、対策を練る。
「まず、ケンの身辺警護を強化する」
「次に、ベルガルド村の防衛体制を整える」
「そして、王都での情報収集」
 一つ一つ、確認していく。
「最後に――」
 ダミアンが、地図を広げた。
「ここだ」
 地図の北部に、×印。
「古代遺跡『暁の塔』。黄昏の会の本拠地と思われる」
「ここに、乗り込むんですか?」
「いや、まだ早い」
 ロイドが首を振る。
「戦力が足りない。もっと準備が必要だ」
「……わかりました」
 時計を見ると、もう午前二時。
「今日は、これで解散だ」
 ダミアンが、立ち上がった。
「ケン、宿に護衛をつける。絶対に一人で行動するな」
「はい」

 宿に戻る道。
 グスタフが、隣を歩いている。
「グスタフさん、ありがとうございます」
「何がだ?」
「こんなに、俺のために」
「当たり前だろ」
 グスタフが、ぶっきらぼうに言う。
「お前は、村の希望だ。それに――」
「それに?」
「……家族だからな」
 その言葉に、胸が熱くなった。
「グスタフさん……」
「照れくさいことを言わせるな」
 二人で笑う。
 月が、雲の間から顔を出した。
 明日も、戦いは続く。
 でも、一人じゃない。
 仲間がいる――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!

ひより のどか
ファンタジー
ねぇたまと、妹と、もふもふな家族と幸せに暮らしていたフィリー。そんな日常が崩れ去った。 一見、まだ小さな子どもたち。実は国が支配したがる程の大きな力を持っていて? 主人公フィリーは、実は違う世界で生きた記憶を持っていて?前世の記憶を活かして魔法の世界で代活躍? 「ねぇたまたちは、ぼくがまもりゅのら!」 『わふっ』 もふもふな家族も一緒にたくましく楽しく生きてくぞ!

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!

さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語 会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?

中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた

Mr.Six
ファンタジー
 仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。  訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。 「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」  そう開き直り、この世界を探求することに――

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

処理中です...