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好きな人がいます。
「好き」だと言ったら、その人は、「俺も」と応えてくれました。
けれど、私の「好き」と彼の「好き」には、大きな差があるようで。
たぶん、ほんの少しの差なんです。
私と彼は同じ人ではない。ただそれだけの差。
けれど、私は彼が好きだから、その差がひどく大きく見えて、
時々、無性に泣きたくなるんです。
日差しが強くなり、夏の訪れを感じさせた。
蝉の声は日に日に大きくなり、外に出るだけで汗ばむ。
里美は、少し離れた席で、楽しそうに笑っている男女のグループをぼんやり眺めていた。
そっと、里美の肩に手がかかる。顔を動かすと、優子が笑いながら言った。
「なんで、あいつらは高2にもなって、児童小説の話で盛り上がってるの?しかも、だいぶ前の」
「なんか久しぶりに読んだら面白かったんだって。東也くんが広めたらしいよ」
「へ~。そう。『東也くん』ね~。それで、その彼女さんも進められたのかしら?」
「…お前はたぶん好きじゃないだろうからって」
そう言いながら、里美は、視線をグループ、否、東也に戻した。
「あらら。それは、ずいぶんな言い方だね」
苦笑を浮かべながら、優子も東也のいるグループに視線を向ける。
「私だって、読むのにな」
「そしたら話題も増えるのに、…ね?」
優子の少しからかいを含んだ言葉に、里美は素直に頷いた。
自分があの輪の中に入りたいとは思わない。彼らは、どちらかというとクラスを引っ張っていく側の人間。そして里美は地味なわけではないけれど、自ら動くことはほとんどない。言わば、引っ張られていく側の人間だ。
だから、あの輪の中に入った所で、東也と話ができる筈もなく、きっと、居心地が悪いだけだろう。そして、東也やその友だちも居心地の悪さを感じるだけ。
けれど、あんなに楽しそうな顔を見られるなら、苦手だろうと東也が好きなものをもっとよく知りたいのが里美の本音だ。
「あちゃ~」
しばらく前方を見ていた優子が、呆れたような声を出す。
何かうれしかったことがあったのか、満面の笑みを浮かべ、東也に抱きつく女の子。長い髪に、きれいな顔立ち。足は細く、スタイルがいい。
東也は小さくため息をつきながらも、その手を振り払おうとはしない。
優子が、親指を立て、あちらに向ける。
「いいの?」
「友だちだし」
はっきりと応えた筈の言葉は弱々しく優子に届いた。
「いい」か「悪い」の二択なら、「悪い」に決まっている。好きな男が、別の女に抱きつかれているのだ。
けれど、きっと、そこには恋愛感情などない。
それがわかっているからこそ、何も言えないし、何もできない。
嫉妬すらしてはいけない気がした。
「私の前くらい、素直にやきもちやいたら?どうせ本人の前じゃ、妬けないんだから」
「…だって、口に出したら、東也くんの前でも言っちゃう気がするもん」
里美は、机の上に腕を乗せ、顔を押し付けた。少しでも気を許したら泣いてしまうそうだったから。
不意に、髪が撫でられる。
優子の手だった。身長の大きい優子の手は大きい。
「言っちゃえばいいじゃん。あんた、彼女でしょう?」
「違うの」
「は?」
「彼女なんだけど、なんか違うの」
「違うって何が?」
「上手く言えないんだけど、…東也くんと私とは、考えているものが違うの」
「そりゃ、当たり前でしょう?同じ人間じゃないんだから」
「でも、嫌なんだもん」
「…」
「私が好きだって思うくらい、東也くんにも好きだって思ってほしいんだもん。私がしたいって思うことを、東也くんも同じようにしたいって思ってほしいんだもん」
「…そっか」
「わがままだって、わかってるんだよ?無理だって知ってる。けれどね。そう思うの。…バカでしょ?」
里美は首を傾げて、優子を見た。優子は優しく笑って、首を横に振る。
「バカじゃないよ。みんなそう思ってる」
「…うん」
「でもね、言葉にしなきゃ、なにも伝わらないんだよ?だって、同じ人間じゃないんだから」
「うん」
「好き」だと言ったら、その人は、「俺も」と応えてくれました。
けれど、私の「好き」と彼の「好き」には、大きな差があるようで。
たぶん、ほんの少しの差なんです。
私と彼は同じ人ではない。ただそれだけの差。
けれど、私は彼が好きだから、その差がひどく大きく見えて、
時々、無性に泣きたくなるんです。
日差しが強くなり、夏の訪れを感じさせた。
蝉の声は日に日に大きくなり、外に出るだけで汗ばむ。
里美は、少し離れた席で、楽しそうに笑っている男女のグループをぼんやり眺めていた。
そっと、里美の肩に手がかかる。顔を動かすと、優子が笑いながら言った。
「なんで、あいつらは高2にもなって、児童小説の話で盛り上がってるの?しかも、だいぶ前の」
「なんか久しぶりに読んだら面白かったんだって。東也くんが広めたらしいよ」
「へ~。そう。『東也くん』ね~。それで、その彼女さんも進められたのかしら?」
「…お前はたぶん好きじゃないだろうからって」
そう言いながら、里美は、視線をグループ、否、東也に戻した。
「あらら。それは、ずいぶんな言い方だね」
苦笑を浮かべながら、優子も東也のいるグループに視線を向ける。
「私だって、読むのにな」
「そしたら話題も増えるのに、…ね?」
優子の少しからかいを含んだ言葉に、里美は素直に頷いた。
自分があの輪の中に入りたいとは思わない。彼らは、どちらかというとクラスを引っ張っていく側の人間。そして里美は地味なわけではないけれど、自ら動くことはほとんどない。言わば、引っ張られていく側の人間だ。
だから、あの輪の中に入った所で、東也と話ができる筈もなく、きっと、居心地が悪いだけだろう。そして、東也やその友だちも居心地の悪さを感じるだけ。
けれど、あんなに楽しそうな顔を見られるなら、苦手だろうと東也が好きなものをもっとよく知りたいのが里美の本音だ。
「あちゃ~」
しばらく前方を見ていた優子が、呆れたような声を出す。
何かうれしかったことがあったのか、満面の笑みを浮かべ、東也に抱きつく女の子。長い髪に、きれいな顔立ち。足は細く、スタイルがいい。
東也は小さくため息をつきながらも、その手を振り払おうとはしない。
優子が、親指を立て、あちらに向ける。
「いいの?」
「友だちだし」
はっきりと応えた筈の言葉は弱々しく優子に届いた。
「いい」か「悪い」の二択なら、「悪い」に決まっている。好きな男が、別の女に抱きつかれているのだ。
けれど、きっと、そこには恋愛感情などない。
それがわかっているからこそ、何も言えないし、何もできない。
嫉妬すらしてはいけない気がした。
「私の前くらい、素直にやきもちやいたら?どうせ本人の前じゃ、妬けないんだから」
「…だって、口に出したら、東也くんの前でも言っちゃう気がするもん」
里美は、机の上に腕を乗せ、顔を押し付けた。少しでも気を許したら泣いてしまうそうだったから。
不意に、髪が撫でられる。
優子の手だった。身長の大きい優子の手は大きい。
「言っちゃえばいいじゃん。あんた、彼女でしょう?」
「違うの」
「は?」
「彼女なんだけど、なんか違うの」
「違うって何が?」
「上手く言えないんだけど、…東也くんと私とは、考えているものが違うの」
「そりゃ、当たり前でしょう?同じ人間じゃないんだから」
「でも、嫌なんだもん」
「…」
「私が好きだって思うくらい、東也くんにも好きだって思ってほしいんだもん。私がしたいって思うことを、東也くんも同じようにしたいって思ってほしいんだもん」
「…そっか」
「わがままだって、わかってるんだよ?無理だって知ってる。けれどね。そう思うの。…バカでしょ?」
里美は首を傾げて、優子を見た。優子は優しく笑って、首を横に振る。
「バカじゃないよ。みんなそう思ってる」
「…うん」
「でもね、言葉にしなきゃ、なにも伝わらないんだよ?だって、同じ人間じゃないんだから」
「うん」
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