8 / 23
8.王太子妃の価値
しおりを挟む
反論する余地もないほどの証拠を揃えて王太子の愛人の実家を潰した。親を初め、親族の殆どが強制労働者となった。最初は死罪だったのを王太子妃の温情で生き永らえている。
『この国の人的資源を有効活用する必要があります。廃材とはいえ、使い方次第では価値が生まれましょう』
王太子妃の言葉に反発する者は勿論いた。
『自分の娘が側妃になる、孫が次期国王だと風聴して他の貴族や商人たちから賄賂や袖の下を受け取らせて甘い汁を吸った者が生かされるなどおかしい』
『今後、同じような輩が出ないようにするためにも厳罰に処すべきでしょう』
『見せしめの意味でも死刑にするべきです』
そんな重鎮達に対し、王太子妃は冷静だった。
『見せしめも込めて労働を課すべきでしょう。貴族として生まれ育った彼らが過酷な仕事に従事してどこまで生き永らえるかの耐久テストとでも考えれば良いのです。今後の参考にもなりますし……人は時に死ぬよりも生き続ける方が辛い事もあるのですから』
『なるほど……』
王太子妃の考えに多くの者は賛同し、処刑は免れたが、強制労働に従事することになった。彼らは死ぬまで鉱山で酷使される運命だ。彼らの子孫まで。
王太子夫妻は婚姻したとはいえ、未だに寝室が別だ。
それは此処に居る者達は全員知っている。だが誰もその事に触れない。触れてはならないタブーなのだ。王太子夫婦の仲が悪いのかと言えばそうではないらしい。意外な事に王太子は正妃であるテレサ王太子妃を尊重していた。重鎮たちの中には王太子妃が年若く王太子の食指が働かなかっただけと見ている者が大半だ。なにしろ、あの愛人を選んだんだ。王太子の女の好みは推して知るべしだった。
「五、六年経てば王太子殿下も妃殿下に興味を持つようになる」
「父上……」
「そんな、顔をするな!お二人には子を作って貰うのは決定事項なのだ!!今は妃殿下も幼い身だが、婚姻以降は食事が進んでいる。年上がお好みの王太子殿下のことだ、直ぐにテレサ様の良さが分かるはずだ」
「年取ればいいってものではないでしょう。王太子妃に愛人のように王太子を甘えさせてダメ男にしてしまうような真似はできませんよ」
「……何故、そこを突くんだ……お前は」
「本当の事でしょうに。まぁ、公務は王太子妃が率先してくれているお陰で業務自体は以前とは比べ物にならないほどスムーズですがね」
「聡明なお方だ……国王陛下の病状が宜しくないことも察している」
「実の息子は只の風邪だと思っているのとでは雲泥の差ですね」
「…………回復の見込みはない。お前も心しておけ」
父である宰相の言葉は何かあれば王太子妃を支えろという意味だろう。肝心の王太子は国王陛下の病はそれ程深刻ではないと思い込んでいる。王家に忠誠を誓っている臣下達は、そんな王太子に不安を感じているのだ。国の頂点に立つ人間がそれじゃ駄目だろうと。だからこそ父は私に忠告をしたのだと思う。次期宰相として王国を支えるのであれば、王太子を傀儡にしておいた方が都合がいい。それを分かっていながら父上は未だに王太子を切る事ができないままだ。国王陛下に対する忠誠心がそうさせるのかは、きっと誰にも分からないだろう。実際のところ、王太子妃は思いのほかに優秀だ。実質的な為政者としてこれほどの適任者はいない。
王太子の愛人を側妃に据えるために一族を罪人として処罰した件もそうだが、恐らく、第一王子となるであろう庶子が万が一にでも国王に即位する事態が起きた場合を想定して厄介な外戚を排除したのだろう。王太子と愛人の傍に侍って甘い汁を吸っていた連中も一掃された。その功績を認めれば確かに王太子妃を重用するのは当然のことだった。
『この国の人的資源を有効活用する必要があります。廃材とはいえ、使い方次第では価値が生まれましょう』
王太子妃の言葉に反発する者は勿論いた。
『自分の娘が側妃になる、孫が次期国王だと風聴して他の貴族や商人たちから賄賂や袖の下を受け取らせて甘い汁を吸った者が生かされるなどおかしい』
『今後、同じような輩が出ないようにするためにも厳罰に処すべきでしょう』
『見せしめの意味でも死刑にするべきです』
そんな重鎮達に対し、王太子妃は冷静だった。
『見せしめも込めて労働を課すべきでしょう。貴族として生まれ育った彼らが過酷な仕事に従事してどこまで生き永らえるかの耐久テストとでも考えれば良いのです。今後の参考にもなりますし……人は時に死ぬよりも生き続ける方が辛い事もあるのですから』
『なるほど……』
王太子妃の考えに多くの者は賛同し、処刑は免れたが、強制労働に従事することになった。彼らは死ぬまで鉱山で酷使される運命だ。彼らの子孫まで。
王太子夫妻は婚姻したとはいえ、未だに寝室が別だ。
それは此処に居る者達は全員知っている。だが誰もその事に触れない。触れてはならないタブーなのだ。王太子夫婦の仲が悪いのかと言えばそうではないらしい。意外な事に王太子は正妃であるテレサ王太子妃を尊重していた。重鎮たちの中には王太子妃が年若く王太子の食指が働かなかっただけと見ている者が大半だ。なにしろ、あの愛人を選んだんだ。王太子の女の好みは推して知るべしだった。
「五、六年経てば王太子殿下も妃殿下に興味を持つようになる」
「父上……」
「そんな、顔をするな!お二人には子を作って貰うのは決定事項なのだ!!今は妃殿下も幼い身だが、婚姻以降は食事が進んでいる。年上がお好みの王太子殿下のことだ、直ぐにテレサ様の良さが分かるはずだ」
「年取ればいいってものではないでしょう。王太子妃に愛人のように王太子を甘えさせてダメ男にしてしまうような真似はできませんよ」
「……何故、そこを突くんだ……お前は」
「本当の事でしょうに。まぁ、公務は王太子妃が率先してくれているお陰で業務自体は以前とは比べ物にならないほどスムーズですがね」
「聡明なお方だ……国王陛下の病状が宜しくないことも察している」
「実の息子は只の風邪だと思っているのとでは雲泥の差ですね」
「…………回復の見込みはない。お前も心しておけ」
父である宰相の言葉は何かあれば王太子妃を支えろという意味だろう。肝心の王太子は国王陛下の病はそれ程深刻ではないと思い込んでいる。王家に忠誠を誓っている臣下達は、そんな王太子に不安を感じているのだ。国の頂点に立つ人間がそれじゃ駄目だろうと。だからこそ父は私に忠告をしたのだと思う。次期宰相として王国を支えるのであれば、王太子を傀儡にしておいた方が都合がいい。それを分かっていながら父上は未だに王太子を切る事ができないままだ。国王陛下に対する忠誠心がそうさせるのかは、きっと誰にも分からないだろう。実際のところ、王太子妃は思いのほかに優秀だ。実質的な為政者としてこれほどの適任者はいない。
王太子の愛人を側妃に据えるために一族を罪人として処罰した件もそうだが、恐らく、第一王子となるであろう庶子が万が一にでも国王に即位する事態が起きた場合を想定して厄介な外戚を排除したのだろう。王太子と愛人の傍に侍って甘い汁を吸っていた連中も一掃された。その功績を認めれば確かに王太子妃を重用するのは当然のことだった。
79
あなたにおすすめの小説
政略結婚の意味、理解してますか。
章槻雅希
ファンタジー
エスタファドル伯爵家の令嬢マグノリアは王命でオルガサン侯爵家嫡男ペルデルと結婚する。ダメな貴族の見本のようなオルガサン侯爵家立て直しが表向きの理由である。しかし、命を下した国王の狙いはオルガサン家の取り潰しだった。
マグノリアは仄かな恋心を封印し、政略結婚をする。裏のある結婚生活に楽しみを見出しながら。
全21話完結・予約投稿済み。
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『pixiv』・自サイトに重複投稿。
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
今、私は幸せなの。ほっといて
青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。
卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。
そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。
「今、私は幸せなの。ほっといて」
小説家になろうにも投稿しています。
お飾り妻は天井裏から覗いています。
七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。
何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?
恋を再び
Rj
恋愛
政略結婚した妻のヘザーから恋人と一緒になりたいからと離婚を切りだされたリオ。妻に政略結婚の相手以外の感情はもっていないが離婚するのは面倒くさい。幼馴染みに妻へのあてつけにと押しつけられた偽の恋人役のカレンと出会い、リオは二度と人を好きにならないと捨てた心をとりもどしていく。
本編十二話+番外編三話。
当然だったのかもしれない~問わず語り~
章槻雅希
ファンタジー
学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。
そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇?
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。
【完結】私との結婚は不本意だと結婚式の日に言ってきた夫ですが…人が変わりましたか?
まりぃべる
ファンタジー
「お前とは家の為に仕方なく結婚するが、俺にとったら不本意だ。俺には好きな人がいる。」と結婚式で言われた。そして公の場以外では好きにしていいと言われたはずなのだけれど、いつの間にか、大切にされるお話。
☆現実でも似たような名前、言葉、単語、意味合いなどがありますが、作者の世界観ですので全く関係ありません。
☆緩い世界観です。そのように見ていただけると幸いです。
☆まだなかなか上手く表現が出来ず、成長出来なくて稚拙な文章ではあるとは思いますが、広い心で読んでいただけると幸いです。
☆ざまぁ(?)は無いです。作者の世界観です。暇つぶしにでも読んでもらえると嬉しいです。
☆全23話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
☆感想ありがとうございます。ゆっくりですが、返信させていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる