【完結】徒花の王妃

つくも茄子

文字の大きさ
19 / 23

19.共和国大使side

しおりを挟む
「立派になった。見違えたよ。兄であるゲオルギーの後ろをついてまわった腕白坊主が亡き兄の遺志を引き継いで祖国に革命を成し遂げるまでになるとは……感慨無量だ」
 
「……そんな……私はそんな立派な人間ではありませんよ。後ろを一切振り返らずに走り続けてきたというのに今の私は祖国の現状に怯え、足踏みばかりしているのですから……。我々がやってきたことは間違っていたのか、我々はどうすればよかったのか……それを自問自答する毎日です」

 こんな自嘲する言葉を国の連中が聞けば耳を疑うだろう。兄の友人だから、ここが祖国ではないせいか自然と弱音を吐くことができた。子爵は静かに首を横に振って言った。

「……いや、それは間違いじゃないさ。誰だって不安を抱えながら生きているんだ。君も私も……この国の国民達でさえ。君は自分の信じる道を走り続けただけだよ」

 そう言ってくれた彼の言葉には妙な安心感があり不思議と心にすとんと落ちてきた。今まで誰にも話したことのない自分の思いを彼は受け止めてくれたのだ。それから暫く沈黙が続いた。お互いに何を話せばいいかわからなかったのだ。だがしばらくして先に彼が口を開いた。

「……君はこれからどうするつもりなんだ?」
 
「……国に……共和国に戻ります。恐らく、近いうちに帝国が共和国人の国外退去を命じる筈でしょうから……」
 
「それなら帝国に残らないか?君一人なら私の伝手で亡命も可能だ」

 それは願ってもいない提案だった。正直言うとその選択肢が自分にとって一番良いように思えた。だが……それに首を縦に振る訳にはいかなかった。

「いえ、お気持ちは嬉しいのですが遠慮しておきます。……祖国の人々を見捨てるわけにはいきません」
 
「君が命を賭ける価値が今の共和国にあるのかい?」
 
「……一人だけ逃げる事はできません。逃げるに私は血を流し過ぎました。兄や多くの仲間たちを犠牲にして手にいれた『差別なき祖国』……それが只の夢物語だったとしても……先のない国だとしても……逃げる事はもう許されないんです……」
 
「そうか……君の決意は固いようだね」

 その問いに小さく俯いて返事をするしかなかった。
 すると子爵は大きく息を吐き背筋を伸ばしてから再び口を開く。
 
「ではこれは独り言なのだが聞いてくれ」

 そうして子爵は静かに語り始めた。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

政略結婚の意味、理解してますか。

章槻雅希
ファンタジー
エスタファドル伯爵家の令嬢マグノリアは王命でオルガサン侯爵家嫡男ペルデルと結婚する。ダメな貴族の見本のようなオルガサン侯爵家立て直しが表向きの理由である。しかし、命を下した国王の狙いはオルガサン家の取り潰しだった。 マグノリアは仄かな恋心を封印し、政略結婚をする。裏のある結婚生活に楽しみを見出しながら。 全21話完結・予約投稿済み。 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『pixiv』・自サイトに重複投稿。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

お飾り妻は天井裏から覗いています。

七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。 何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

恋を再び

Rj
恋愛
政略結婚した妻のヘザーから恋人と一緒になりたいからと離婚を切りだされたリオ。妻に政略結婚の相手以外の感情はもっていないが離婚するのは面倒くさい。幼馴染みに妻へのあてつけにと押しつけられた偽の恋人役のカレンと出会い、リオは二度と人を好きにならないと捨てた心をとりもどしていく。 本編十二話+番外編三話。

当然だったのかもしれない~問わず語り~

章槻雅希
ファンタジー
 学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。  そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇? 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。

【完結】私との結婚は不本意だと結婚式の日に言ってきた夫ですが…人が変わりましたか?

まりぃべる
ファンタジー
「お前とは家の為に仕方なく結婚するが、俺にとったら不本意だ。俺には好きな人がいる。」と結婚式で言われた。そして公の場以外では好きにしていいと言われたはずなのだけれど、いつの間にか、大切にされるお話。 ☆現実でも似たような名前、言葉、単語、意味合いなどがありますが、作者の世界観ですので全く関係ありません。 ☆緩い世界観です。そのように見ていただけると幸いです。 ☆まだなかなか上手く表現が出来ず、成長出来なくて稚拙な文章ではあるとは思いますが、広い心で読んでいただけると幸いです。 ☆ざまぁ(?)は無いです。作者の世界観です。暇つぶしにでも読んでもらえると嬉しいです。 ☆全23話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 ☆感想ありがとうございます。ゆっくりですが、返信させていただきます。

処理中です...