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第14話八年前~ジークフリードside~
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――後日
「どこの美丈夫かと思えば最近出世なさったユリウス殿下の騎士ではありませんか。あら?おかしいですわね、護衛対象はシュゼット側妃様のはずでは?」
人好きのする笑顔で話しかけてこられたのは噂好きの伯爵夫人だった。
一見、気さくな態度の伯爵夫人ではあるが、見掛け通りの人物ではない。
「シュゼット様の命で暫くユリウス様の護衛をさせていただくことになりました」
「あら、そうなのですね。ユリウス殿下はその美貌を謳われたシュゼット側妃様によく似た顔立ち故にシャイン公爵家の姫君に見初められたと専らの評判ですわ。かの姫君との婚約によって立太子なさるなんて、流石はシュゼット側妃様の御子様。羨ましい限りですわ」
金髪碧眼のユリウス様は眉目秀麗な王子である。
この伯爵夫人のように顔の良さで公爵令嬢と婚約したと思っている輩も多い。馬鹿げた話だ。二人の婚約は政略だというのに。
「ユリウス様は文武両道のお方。アダマント王国男子の嗜みとして、剣術の他に馬上槍も既に修めております」
「まあ!まるで騎士のようですね。ブリリアント姫を守る麗しい王子騎士とは、ユリウス殿下にピッタリですわ。近衛の正装姿の殿下を是非見てみたいものです」
「伯爵夫人、ユリウス様は『王太子殿下』です。近衛の正装を着る機会はありません」
「ふふっ。そう言えばそうでしたわね。残念ですわ」
暗に王太子ではなく騎士になれ、と言いたいのだろうか。
王宮にあってこれだけの悪意にユリウス様は晒されているかと思うと胸が痛む。
「ところで、本日はどのような御用件でしょうか?まさか、私に話し掛ける為だけに呼び止めた訳ではございますまい」
「ああ、そうでした!実は、非常に面白い話を耳にしたのです。なんでも、ユリウス殿下がシャイン公爵令嬢主催の音楽会を途中退場なさったとか。殿下の無作法に対して国王陛下が直接公爵家に謝罪なさったお陰で婚約を継続してもらえたと専らの噂ですわ。ユリウス殿下は公爵家の後ろ盾を欲していらっしゃらないとも聞きますし……もしや殿下は王太子の位を退かれるのではないかと社交界でも話題になっておりますわよ」
「……」
「どうされたのです?トリヨン殿が黙り込むなんて珍しいですわ。その様子では噂は本当なのかしら?」
「……いえ、そのようなことはございません。失礼ながら、根拠のない憶測を口にするのは如何なものでしょうか?伯爵夫人の品位を損ねる振る舞いかと思われますが」
「あら、怖い!そうでしたわ、トリヨン殿はシュゼット側妃様方の忠実な家臣ですものね。主人の不利益となるような事を軽々しく口にはできませんものね。ふふっ。分かりますわ。ユリウス殿下が無事に御即位なさると宜しいですね。その時を楽しみにしておりますわ」
「はい、勿論でございます」
「それを聞いて安心致しました。では、私はこれで失礼させていただきますわ」
伯爵夫人は嘲笑いながら去っていく。
正式に王太子になられたユリウス様であったが、ああいう輩が減る気配はない。
「ジークフリード、どうかしたのですか?」
「シュゼット様」
「さっきから、怖い顔をしているわ。何かあったのではないの?」
「大丈夫です。シュゼット様が心配なさる事はなにもありません」
「また、私やユリウスの事で誰かに何かを言われたのではなくて?」
「大したことではありません」
「本当に?」
「はい」
「なら……いいのだけど。ごめんなさいね。私達親子のせいで、貴男にまで苦労をかけてしまって……」
「そのような事はございません。私が望んで傍にいさせていただいているのです」
「……ジークフリード。ありがとう」
儚げに微笑むシュゼット様。
御子息のユリウス様が王宮に移られてから笑顔が消えていた。非常に仲の良い親子を引き離すとは王妃殿下も酷な事をなさる。御自身に御子がないという理由でユリウス様を猶子になされた。国王陛下の御命令とは聞いてはいるが、この話は王妃殿下も一枚かんでいるに違いない。
そこまでして権力にしがみつくとは。賢妃と名高い方でもやはり俗物的だと感じてしまうのは欲のないシュゼット様の傍にいるからだろうか。
「それよりも、シュゼット様。また、モントール伯爵がいらっしゃっていたのですか?」
「ええ……皆に迷惑をかけてしまったわ」
「そのような事はっ!」
「いいのよ。本当のことですもの。アランったら、また借金を背負ってしまったらしいの」
「それは……女性問題の件でしょうか?」
「いいえ、そちらではないわ。お友達に誘われて断れなかったようなの。賭け事をしてしまったらしくて」
賭博か。
シュゼット様の実弟であるモントール伯爵には困ったものだ。
「分かりました。こちらで何とかしてみましょう」
「本当にごめんなさいね……ジークフリード」
シュゼット様に悲しい顔は似合わない。
いつか本当の笑顔を取り戻していただきたいと思っているのだが、先は長そうだ。
しかし、モントール伯爵の行動は目に余る。彼がユリウス様の足を引っ張り、シュゼット様を悲しませる要因。なんとか手を打たねば。そうでなければ何れ取り返しのつかない事をしでかすに決まっている。
「どこの美丈夫かと思えば最近出世なさったユリウス殿下の騎士ではありませんか。あら?おかしいですわね、護衛対象はシュゼット側妃様のはずでは?」
人好きのする笑顔で話しかけてこられたのは噂好きの伯爵夫人だった。
一見、気さくな態度の伯爵夫人ではあるが、見掛け通りの人物ではない。
「シュゼット様の命で暫くユリウス様の護衛をさせていただくことになりました」
「あら、そうなのですね。ユリウス殿下はその美貌を謳われたシュゼット側妃様によく似た顔立ち故にシャイン公爵家の姫君に見初められたと専らの評判ですわ。かの姫君との婚約によって立太子なさるなんて、流石はシュゼット側妃様の御子様。羨ましい限りですわ」
金髪碧眼のユリウス様は眉目秀麗な王子である。
この伯爵夫人のように顔の良さで公爵令嬢と婚約したと思っている輩も多い。馬鹿げた話だ。二人の婚約は政略だというのに。
「ユリウス様は文武両道のお方。アダマント王国男子の嗜みとして、剣術の他に馬上槍も既に修めております」
「まあ!まるで騎士のようですね。ブリリアント姫を守る麗しい王子騎士とは、ユリウス殿下にピッタリですわ。近衛の正装姿の殿下を是非見てみたいものです」
「伯爵夫人、ユリウス様は『王太子殿下』です。近衛の正装を着る機会はありません」
「ふふっ。そう言えばそうでしたわね。残念ですわ」
暗に王太子ではなく騎士になれ、と言いたいのだろうか。
王宮にあってこれだけの悪意にユリウス様は晒されているかと思うと胸が痛む。
「ところで、本日はどのような御用件でしょうか?まさか、私に話し掛ける為だけに呼び止めた訳ではございますまい」
「ああ、そうでした!実は、非常に面白い話を耳にしたのです。なんでも、ユリウス殿下がシャイン公爵令嬢主催の音楽会を途中退場なさったとか。殿下の無作法に対して国王陛下が直接公爵家に謝罪なさったお陰で婚約を継続してもらえたと専らの噂ですわ。ユリウス殿下は公爵家の後ろ盾を欲していらっしゃらないとも聞きますし……もしや殿下は王太子の位を退かれるのではないかと社交界でも話題になっておりますわよ」
「……」
「どうされたのです?トリヨン殿が黙り込むなんて珍しいですわ。その様子では噂は本当なのかしら?」
「……いえ、そのようなことはございません。失礼ながら、根拠のない憶測を口にするのは如何なものでしょうか?伯爵夫人の品位を損ねる振る舞いかと思われますが」
「あら、怖い!そうでしたわ、トリヨン殿はシュゼット側妃様方の忠実な家臣ですものね。主人の不利益となるような事を軽々しく口にはできませんものね。ふふっ。分かりますわ。ユリウス殿下が無事に御即位なさると宜しいですね。その時を楽しみにしておりますわ」
「はい、勿論でございます」
「それを聞いて安心致しました。では、私はこれで失礼させていただきますわ」
伯爵夫人は嘲笑いながら去っていく。
正式に王太子になられたユリウス様であったが、ああいう輩が減る気配はない。
「ジークフリード、どうかしたのですか?」
「シュゼット様」
「さっきから、怖い顔をしているわ。何かあったのではないの?」
「大丈夫です。シュゼット様が心配なさる事はなにもありません」
「また、私やユリウスの事で誰かに何かを言われたのではなくて?」
「大したことではありません」
「本当に?」
「はい」
「なら……いいのだけど。ごめんなさいね。私達親子のせいで、貴男にまで苦労をかけてしまって……」
「そのような事はございません。私が望んで傍にいさせていただいているのです」
「……ジークフリード。ありがとう」
儚げに微笑むシュゼット様。
御子息のユリウス様が王宮に移られてから笑顔が消えていた。非常に仲の良い親子を引き離すとは王妃殿下も酷な事をなさる。御自身に御子がないという理由でユリウス様を猶子になされた。国王陛下の御命令とは聞いてはいるが、この話は王妃殿下も一枚かんでいるに違いない。
そこまでして権力にしがみつくとは。賢妃と名高い方でもやはり俗物的だと感じてしまうのは欲のないシュゼット様の傍にいるからだろうか。
「それよりも、シュゼット様。また、モントール伯爵がいらっしゃっていたのですか?」
「ええ……皆に迷惑をかけてしまったわ」
「そのような事はっ!」
「いいのよ。本当のことですもの。アランったら、また借金を背負ってしまったらしいの」
「それは……女性問題の件でしょうか?」
「いいえ、そちらではないわ。お友達に誘われて断れなかったようなの。賭け事をしてしまったらしくて」
賭博か。
シュゼット様の実弟であるモントール伯爵には困ったものだ。
「分かりました。こちらで何とかしてみましょう」
「本当にごめんなさいね……ジークフリード」
シュゼット様に悲しい顔は似合わない。
いつか本当の笑顔を取り戻していただきたいと思っているのだが、先は長そうだ。
しかし、モントール伯爵の行動は目に余る。彼がユリウス様の足を引っ張り、シュゼット様を悲しませる要因。なんとか手を打たねば。そうでなければ何れ取り返しのつかない事をしでかすに決まっている。
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