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第11話 騎士の頭痛の種3
しおりを挟む「シルヴィア様、愛しています!貴女様さえてくだされば他に何も望みません!!」
「トリスタン!」
目の前で抱きしめ合う男女。
その光景を見ながら驚く……ことは無かった。寧ろ、「ああ、やっぱり」としか感じなかった。ただただ驚きに固まっている列席者達とは違って私は落ち着いていた。
まるで今流行りの恋愛小説を舞台にした光景を繰り広げられ、相手の女性が今日の主役である花嫁であったとしても。花嫁を強く抱きしめている男が花婿の皇太子殿下でない別の男であっても。驚きはしない。
それもそのはず。
全ては優雅に微笑んでいる皇太子殿下の仕業に他ないからだった。
半年前のあの日、バレッタ公国に密入国した時から計画を立てていたのだろう。繰り広げられる芝居を眺めながら過去に思いを馳せた。
『どこの女性ですか?』
『あ?』
『でん……旦那様のお目当ての女性です』
『あれ? 言わなかったか?』
『聞いていません』
『すまんすまん。そう怒るな。折角の美女が台無しだぞ。相手はバレッタ公国の公女、シルヴィアだ。数日前に母上からシルヴィア公女との婚姻を半年後に命じられたからな』
『……は? それは一体……?』
結婚相手の顔を拝みにきたという事だろうか?
だが……何故?
『俺は公女と結婚したくない!だからシルヴィア公女には出奔してもらう!』
『は? 出奔? 公女が……ですか?』
『ああ、駆け落ちという名目だな!』
『……もしや、その……公女を誘拐なさるおつもりですか?』
『はぁ!? それは犯罪じゃねぇか! さっきから駆け落ちしてもらうって言ってんだろ?』
これ以上にないムチャクチャな理論を言われた。とりあえず、分かった事は皇太子殿下は公女との婚姻を阻止するためにバレッタ公国に向かっている。その方法が公女を「駆け落ち」させる事らしい。
だが、問題がある。
『旦那様、駆け落ちは一人ではできない事はご存知ですか? 通常は“恋人”という存在が不可欠だという事を』
『何言ってんだ。当たり前だろう』
どうやら相手が必要な事は理解しているようだ。
しかし、公女をどうやって「駆け落ち」させる気なんだ?
相手の男はどうするんだ?
その前に、どうやって公女に会う?
分からない。
滅茶苦茶の事を言い出した皇太子殿下に私はもう何も言わなかった。
どう考えても私の手に負えない。
『俺の仕入れた情報じゃ、シルヴィア公女は噂通り美人のようだ。だが、頭の中身は随分と可愛らしいタイプらしい。ちょっと仕込めばすぐに餌に食いつくぞ。ああ、いっそのこと結婚式に盛大にやらかすよう誘導するのも面白いかもな! ババア共が腰抜かすぜ! ククッ。そうなれば公国も只ではすまない。小国が大国に逆らばどうなるか身をもって知る事になるだろう。周辺国家にも良い薬になるだろうぜ。ハハハハハ』
高笑いする殿下を止めなかった私も共犯だろう。
まさか……。
まさか、皇太子殿下の作戦がこうも上手くいくとは思いもしなかった!
あんな現実味のない作戦だったというのに!
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