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第12話 騎士の頭痛の種4
しおりを挟む「シルヴィア様……私の唯一の人。お許しください。貴女を諦める事がどうしてもできない……」
「私も……私もよ。トリスタン。お願い……私を離さないで……傍にいて……貴男が居てくれるなら何もいらないわ」
「ですが……シルヴィア様は帝国の皇太子妃になられるお方……それに引き換え私はしがない騎士でしかない……」
この男、世界中の騎士に土下座して謝れ。
世間一般に常識ある騎士は貴様のような真似はせん!
というより、この男は元々シルヴィア公女の騎士だ。騎士の身でありながら主人に懸想するとは何事か!
「帝国の皇太子が何だというの!!!」
「……シルヴィア様」
「貴男の方がずっと素敵よ! 私は皇太子なんかと結婚なんてしたくなかった! お父様達が無理矢理決めてきたのよ! 私は嫌だとあれほど言ったのに」
美しい花嫁が涙ながらに男に訴えかける。花嫁の言葉に、男はみるみる悔しそうに顔を歪ませた。
それほどまでに嫌な結婚だったのか。知らなかった。だが、それなら断ればいいだろう。 帝国は強要はしていない。縁談の話を振っただけだ。狂喜乱舞で喜んだのはバレッタ公国だ。
「私と共に来てるれくれますか?」
「何処までもついて行くわ」
「国を捨てる事になります」
「構わないわ。例え世界中を敵に回しても貴男について行く!」
二人は熱い口づけを交わし、手に手を取って神殿から走り去った。
公女、貴女のような女性を皇太子妃と迎え入れなくて幸いです。仮に皇太子妃になったとしても不貞の子供を懐妊する恐れがありますから。その場合、問答無用で相手の男共々首をはねなければなりません。あなた方の薄汚い血でこの帝国の大地が汚れなかった事だけは感謝しましょう。と、心の中で感謝を捧げた。
沈黙が神殿を襲っている中で、拍手の音が響いた。
拍手をしているのは皇太子殿下。
「いやはや、バレッタ公国は実に素晴らしい公女を我が帝国に寄こしてくださった。『愛があれば何もいらない』、皇族に生まれ育った私には到底言えないセリフです。何しろ、私の身は国家に捧げていますからね。公女のような勇気ある行動は起こせません」
目の前で花嫁に逃げられた男の言葉ではない。
為政者としての真っ当な言葉であった。
ただし、画策した張本人でなければ私も素直に同意できたでしょう。
これが皇太子殿下のマッチポンプだと気づく者は誰もいない。
俄かに騒がしくなった神殿で、私は花嫁が消えた入口の扉を見つめた。
今はいいだろう。
二人揃って恋愛に酔っている。
相手の男は貴族とはいえ名ばかりの貴族だ。殆ど平民同然の暮らしをしてきた苦労人だ。愛する女性を妻にし、平民として慎ましやかに暮らしていけるタイプだ。だが、貴女は違う。
バレッタ公国の公女として、蝶よ花よと育てられた王族が市井の暮らしに耐えられる訳がない。着替えひとつ満足に出来ないお姫様に何ができる? 料理は? 掃除は? 買い物は? 一ヶ月も持たないだろう。
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