【完結】皇太子殿下!あなたの思い描く「理想の女性」はこの世にはいません!

つくも茄子

文字の大きさ
13 / 20

第13話 公国大使の頭痛の種1

しおりを挟む

 まるで嵐のように去って行く二人を見送ってしまった。重苦しい空気とは対照的な帝国の皇太子殿下の言葉に誰も口を挟めなかった。
 そして、皇太子殿下の言葉で神殿に居る全員がこの異常事態を理解した。顔面蒼白で一言も喋れない状態のバレッタ公国側は兎も角、ガリア帝国側は俄かに騒がしくなる。

 ガリア帝国の重鎮の一人が顔を真っ赤にさせて立ち上がると、怒鳴った。

「こいつらを捕らえろ!!!」

 そこから先は悪夢としか言いようがない。
 神殿に居たバレッタ公国の人間は一人残らず拘束された。
 
「貴様たち、我が帝国を侮辱してタダですむと思っているのか!!」
 
「国同士の婚姻を何だと思っているんだ! 馬鹿にするのも体外に知ろ!!」

「今すぐ国ごと滅ぼしてやってもいいんだぞ!!」

 帝国の大臣達からの怒鳴り声。
 突然の事態にガリア帝国側も冷静さをなくしている。彼らが怒り狂うのも当然だ。こんな一方的に帝国に恥をかかせる行為をしたのだ。この場で切り捨てられても文句は言えない。

 最悪、戦争が起こるのではないだろうか。その可能性は高い。戦えば確実にバレッタ公国は負ける。そもそも国力からして桁違いなのだ。話にならないだろう。

 激昂する大臣達を宥めようとしているのは女性は奥方だろうか? 若い男も必死に抑え込もうとしている。彼は息子か? それとも部下か? いずれにしても無理だろう。この婚姻を推し進めてきた大臣達からしたら顔に泥を塗られたようなものだ。口汚く罵られるのに耐えるしかない。

 一通りの罵詈雑言を浴びせられた後、我々バレッタ公国人は帝国の貴族牢に入れられた。




 
 

「……花嫁に逃げられた間抜けな帝国が悪いんじゃないか」

「そうだ……俺達は悪くない」

「なんで……こんな目にあわないといけないんだ」

 貴族牢での軟禁。
 拷問まがいの尋問が始まると思いきや、神殿の時と打って変わって静かな毎日だった。最初は恐怖に震えていた者達も次第に帝国側の愚痴を言うようになっていた。目の前で繰り広げられた自国の公女を止めることもできずに、ただただ唖然と見ている事しかできなかった我々に責任がないとは言えない。そもそも、結婚式に逃げ出す花嫁など前代未聞だ。平民ですらそんな非常識なマネはしないだろう。
 
「なんで今なんだよ。何も、結婚式の日にやらかさなくてもいいだろうに……」

「本当に。逃げ出すならもう少し早くして欲しかった。そうすれば下の妹君の誰かが代わりに嫁げたんだ」
 
 全くだ。
 まさかこんな形で結婚式をぶち壊されるなんて誰も想像しなかっただろう。

「あいつ……シルヴィア様の専属の護衛だった奴だろう?」

「ああ、シルヴィア様と密かに噂になってた男だ」

「そうなのか?」

「女官達が噂してたのを聞いた事がある。もっともその時は只の噂だと思ってたんだが……事実だったとはな」

 どうやら、結婚式当日に乗り込んできた男は元々シルヴィア様とは特別な間柄だったらしい。まぁ、あんなものを見せられたのだ。二人は前々から深い仲だったんだろう。そうでなければ神殿に飛び込んで花嫁を攫って行くような真似はできない。戦争の発端が王族の色恋沙汰になるのかと思うと、笑えない。安っぽい喜劇舞台を見ているようだと苦笑した。
 

 
 ガリア帝国皇太子との婚姻。
 
 降ってわいたような幸運に浮かれたのがいけなかったのか?
 大国の皇太子との正式な縁組。それも「正妃」として嫁ぐ。公国にとってこの婚姻はまたとない千載一遇のチャンスだった。それというのも、バレッタ公国は農業と畜産の国であったからだ。最近では海産物の国としても活動している。大陸の「食」を支えていると豪語できる公国だが、その分軍事力には乏しかった。どれだけ乏しいのかというと、まず戦争が起これば防戦一方。いや、防戦も難しかった。貿易相手国はそれで足元を見る国も多く、何度悔しい思いをした事か。

 この婚姻は帝国の後ろ盾を得たという大きな意味があった。

 虎の威を借りる狐、ではないが諸外国の横柄な態度を改めさせることができる上に貿易も有利に動けると皆が狂喜乱舞した。民衆も帝国との婚姻を歓迎した。バレッタ公国の未来はバラ色だと信じて疑わなかった。
 
 
 そのはずだったのに――


 何故だ。
 結婚式の最中に仕出かさなくてもいいだろう。
 婚姻後に護衛を愛人にするとかではいけなかったのか?
 正妃に愛人などは問題ではあるが『世継ぎ』を産んで夫婦で愛人を囲うのはよくある話だ。帝国と公国との話し合い次第で可能になる場合もある。妻が不貞を働いていても表沙汰にはしない。夫側にも面子というものがある。こういう色恋沙汰は内々で処理するのが常識だろう。

 にも拘らず公の場で「不貞行為アリ」の発言をされてしまうと言い訳もできない。しかも、不貞を働いた本人達は出奔した。頭が痛い。


 ガリア帝国との婚姻は破談。

 事はそれだけでは済まない。

 公国を思えばあんな身勝手な行動はとれない筈だ。私にはシルヴィア様の考えが分からない。

 シルヴィア様も年頃の女性、恋に浮かれるのも分からないではない。だが、シルヴィア様は王族なのだ。王族として生まれてきた以上はその責務を果たさなければならない。国のための政略結婚など当たり前の事だ。それを理解していなかったとは……。あのような方が王族であった事は公国の悲劇に他ならない。



しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

元平民の義妹は私の婚約者を狙っている

カレイ
恋愛
 伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。  最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。 「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。  そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。  そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

悪女と呼ばれた令嬢は、親友の幸せのために婚約者を捨てた

由香
恋愛
婚約者である王太子を、親友のために手放した令嬢リュシエンヌ。 彼女はすべての非難を一身に受け、「悪女」と呼ばれる道を選ぶ。 真実を語らぬまま、親友である騎士カイルとも距離を置き、 ただ一人、守るべきものを守り抜いた。 それは、愛する人の未来のための選択。 誤解と孤独の果てで、彼女が手にした本当の結末とは――。 悪女と呼ばれた令嬢が、自ら選び取る静かな幸福の物語。

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...