【完結】ある二人の皇女

つくも茄子

文字の大きさ
9 / 10

ある女教皇の想い

しおりを挟む

「教皇様、女帝陛下が崩御なさったと知らせが入りました」
「そうですか。直ちに喪の準備に取り掛かりなさい」
「はい」

沙羅叔母上が亡くなった。
叔母は最後まで私の処遇を迷っていたけれど、神殿入りは叔母のせいではない。私自身が誰の元にも嫁がないと決めていた事なのだから。

私の父である皇帝は、正妃である母以外にも大勢の妃が後宮にいた。皇女でもあった母を大切にされていたけれど、父の心は常に母以外の女性の上にあったのも確かだった。
父と母の婚姻は政略である。
帝国のため、皇室のための婚姻。
母が父の元に嫁いだ時、父はまだ大公家の息子の身分であったけれど側妾がいた。
次期皇帝と謳われていたものの、母を正妃に迎えた事で父は漸く立太子出来た。そういった諸々の事もあり、母は父に大事に扱われていた。
正式に皇太子となった父の元には大勢の妃が迎え入れられたと聞いている。
後宮の主は母であけれど、権勢高かったのは梅賀妃だった。
梅賀妃は元々父の婚約者であったが、婚約期間に祖国が滅びてしまったため、婚約は白紙になったらしい。ただ、父は梅賀妃を大変愛していたので、亡国の王女になってしまった梅賀を側妾として帝国に留め置かれたのだ。
梅賀妃は、当代一の美貌と誉れ高い上に、詩人でもあったらしく、今でもその詩は読み継がれている。
父が梅賀妃を殊の外寵愛する事に苦言を呈する貴族も少なからずいたけれど、亡国に王女であり、後ろ盾もない妃など脅威とはみなされなかった。その境遇を見れば同情するに十分だった事もあるだろう。
世間も、相思相愛の皇子と亡国の姫君に起こった悲劇に同情していた位だ。


正妃であり皇女でもあった母は、皇宮の事も後宮の事も父以上に詳しかったのだろう。梅賀妃を特別扱いする父の態度を咎めることなく鷹揚にしていた。幼かった私は、夫婦とはそういったものだと勝手に思っていたほどに。

梅賀妃は私が幼い頃に亡くなった。
無惨な最後だった。

嘗ての民衆から凌辱の限りを尽くされ、躯を晒しものにされた。

けれど、その状況を作り上げたのが母であるを知ったのは直ぐのこと。母は決して鷹揚でもなければ心の広い女性ではないのだと初めて知った。
怒りの憎しみも「良妻賢母の正妃」という仮面で綺麗に覆い隠していた事を知った。
穏やかに微笑みながら女の戦いに身を投じていた事を。

私は母が怖かった。
母の重すぎる愛は、父と私たち姉弟に向けられていたのだから。

我が子の安全を守るためには、自分の息子と妹の息子の入れ替えを図る程に。
止める事は出来なかった。
異母弟が同母弟になったことを誰にも言えなかった。

言った処で、誰が信じてくれただろう。
母は、正妃として完璧だった。
疑う者など誰もいない。
私が口を閉じている間に、異母弟は謀反の罪を着せられて亡くなり、同母弟は狂って死んだ。
叔母上は何も言わないけれど、真実を知っているような気がする。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームは始まらない

まる
ファンタジー
きっとターゲットが王族、高位貴族なら物語ははじまらないのではないのかなと。 基本的にヒロインの子が心の中の独り言を垂れ流してるかんじで言葉使いは乱れていますのでご注意ください。 世界観もなにもふんわりふわふわですのである程度はそういうものとして軽く流しながら読んでいただければ良いなと。 ちょっとだめだなと感じたらそっと閉じてくださいませm(_ _)m

姉から全て奪う妹

明日井 真
ファンタジー
「お姉様!!酷いのよ!!マリーが私の物を奪っていくの!!」 可愛い顔をした悪魔みたいな妹が私に泣きすがってくる。 だから私はこう言うのよ。 「あら、それって貴女が私にしたのと同じじゃない?」 *カテゴリー不明のためファンタジーにお邪魔いたします。

お后たちの宮廷革命

章槻雅希
ファンタジー
今は亡き前皇帝・現皇帝、そして現皇太子。 帝国では3代続けて夜会での婚約破棄劇場が開催された。 勿論、ピンク頭(物理的にも中身的にも)の毒婦とそれに誑かされた盆暗男たちによる、冤罪の断罪茶番劇はすぐに破綻する。 そして、3代続いた茶番劇に憂いを抱いた帝国上層部は思い切った政策転換を行なうことを決めたのだ。 盆暗男にゃ任せておけねぇ! 先代皇帝・現皇帝・現皇太子の代わりに政務に携わる皇太后・皇后・皇太子妃候補はついに宮廷革命に乗り出したのである。 勢いで書いたので、設定にも全体的にも甘いところがかなりあります。歴史や政治を調べてもいません。真面目に書こうとすれば色々ツッコミどころは満載だと思いますので、軽い気持ちでお読みください。 完結予約投稿済み、全8話。毎日2回更新。 小説家になろう・pixivにも投稿。

魅了魔法の正しい使い方

章槻雅希
ファンタジー
公爵令嬢のジュリエンヌは年の離れた妹を見て、自分との扱いの差に愕然とした。家族との交流も薄く、厳しい教育を課される自分。一方妹は我が儘を許され常に母の傍にいて甘やかされている。自分は愛されていないのではないか。そう不安に思うジュリエンヌ。そして、妹が溺愛されるのはもしかしたら魅了魔法が関係しているのではと思いついたジュリエンヌは筆頭魔術師に相談する。すると──。

カウントダウンは止められない

ファンタジー
2年間の「白い結婚」の後、アリスから離婚を突きつけられたアルノー。 一週間後、屋敷を後にするが……。 ※小説になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

押し付けられた仕事、してもいいものでしょうか

章槻雅希
ファンタジー
以前書いた『押し付けられた仕事はいたしません』の別バージョンみたいな感じ。 仕事を押し付けようとする王太子に、婚約者の令嬢が周りの力を借りて抵抗する話。 会話は殆どない、地の文ばかり。 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。

逆行転生って胎児から!?

章槻雅希
ファンタジー
冤罪によって処刑されたログス公爵令嬢シャンセ。母の命と引き換えに生まれた彼女は冷遇され、その膨大な魔力を国のために有効に利用する目的で王太子の婚約者として王家に縛られていた。家族に冷遇され王家に酷使された彼女は言われるままに動くマリオネットと化していた。 そんな彼女を疎んだ王太子による冤罪で彼女は処刑されたのだが、気づけば時を遡っていた。 そう、胎児にまで。 別の連載ものを書いてる最中にふと思いついて書いた1時間クオリティ。 長編予定にしていたけど、プロローグ的な部分を書いているつもりで、これだけでも短編として成り立つかなと、一先ずショートショートで投稿。長編化するなら、後半の国王・王妃とのあれこれは無くなる予定。

【完結】妃が毒を盛っている。

井上 佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。 王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。 側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。 いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。 貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった―― 見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。 「エルメンヒルデか……。」 「はい。お側に寄っても?」 「ああ、おいで。」 彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。 この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……? ※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!! ※妖精王チートですので細かいことは気にしない。 ※隣国の王子はテンプレですよね。 ※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り ※最後のほうにざまぁがあるようなないような ※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい) ※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中 ※完結保証……保障と保証がわからない! 2022.11.26 18:30 完結しました。 お付き合いいただきありがとうございました!

処理中です...