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後編
しおりを挟む貴族の令嬢を味方につけた私は、周囲の根回しもあり、ローズマリーが近くに来られないように気を配ってくれました。いつの間にか学園全体の女子生徒の間で協力体制が引かれていたのです。お陰でローズマリーに煩わされる事なく快適な学園生活を送らさせてもらっております。
何だかんだと一年が過ぎ、私が三年、ローズマリーが二年に進学した頃、事件が起こりました。
――特別クラスの開設――
一体、なにが始まるのかと思ったところ、ある一人の生徒のための『一人クラス』が出来上がったのです。
勿論、対象者はローズマリー。
なにをしたのか怖くて聞けませんが、恐らく、貴族令嬢の逆鱗に触れたのかもしれません。もしくは、問題児過ぎて学園側が対応を求められる事態に陥ったとかでしょうか?そっちの方が近いのかもしれません。
一般階級の生徒からドン引きされ、女子生徒から冷たい目と共に無視されているというのに、義妹はタフでした。神経が異様に図太かった。
この異例の措置を喜んでいたのです。
どこに喜ぶ要素があるのかと思ったところ、流石、ローズマリーです。
他と違いました。
「漸く、私が素晴らしい生徒だという事を学園が認めたのね。随分遅かったけど、仕方ないわ。許してあげる。やっぱり、特別な私には特別な扱いを受けるのは当たり前なのよ!この教室は広々としていていいわ。下等な人達と一緒だと落ち着かないのよね。後、これで寮も一人部屋ならいう事はないわ。でも、まあ、それはおいおい考えてくれているはずだわ」
『特別な人間故の特別扱い』と脳内変換されていたのです。
ある意味で間違ってはいませんが、特別扱いは悪い意味での特別です。
その事が分かっていない。
ここまで図々しいと、本当に病気ではないかと疑ってしまいます。
この特別クラスを気に入ったローズマリーは、今までと打って変わって大人しくなったのです。
まあ、今までが酷すぎましたが。
寮内でも奇声をあげる事も無く、怒声が響き渡る事もないそうです。
持ち物の強奪事件は未だに起きていますが、それでも以前と比べると格段と減っているそうです。
女子生徒の間では、
「特別扱いに彼女自身が満足しているからでは?」
という意見で一致していました。
教師たちは頭を押さえたり、胃を押さえたりする人が多かったので、ローズマリーを相手にする事がどれほど大変なのかを改めて実感できたほどです。
冷静に諭した事でしょう。
理論然と、どうしてしてはいけないのかを話した事でしょう。
その都度、反発され、注意すればヒステリックに叫ばれていた事は間違いありません。
教師たちも限界に達した故の措置なのでは?と思いました。
ローズマリーをまともに相手にしていたら病みます。
よく持ちこたえていると、内心感心していたほどなのですから。
私には無理です。出来ません。教職というのも大変なのだとしみじみと感じました。
特別クラスの窓の鉄格子があるのも、ドアの外からしか鍵がかからないのも、きっとそのせいでしょう。ローズマリーの様子をこっそり見に行ったことがありますが、あれは動物園の猛獣の扱いと同じでした。
今まで学園中の皆に気を遣わせて申し訳ないです。
なにかお礼をしなければと考えていた頃、父から手紙が届きました。
嫌な予感がしたものの、読まない訳にはいかず、仕方なく手紙を読むと、内容からしてヤバい以外の言葉が思いつきません。
とても父の手には負えない事態でした。
その数日後に、父と義母が離婚し、義母はローズマリーを連れていなくなり、学園に平穏が戻ってきたのです。
一方で、泣き暮らす父を面倒に思い『療養』の名目で地方の別荘に送ることが親族会議で決定しました。のどかな田園風景を眺めていればそのうち気鬱も治る、と意見が一致したのです。未成年の私は、成人するまで叔母夫婦が後見人になってくれることも決まり、後顧の憂いなく収まりました。
数週間後、王家から公式発表がありました。
国王陛下のご落胤の存在と、その母親の死が伝えられたのです。
ご落胤は金髪に緑の目をした大層美しい少女で、さる皇帝に嫁いでいきました。
庶子の王女には破格の待遇だと囁かれておりますが、あの国の後宮に入ったら最後生きて外には出られないと陰で言われているのですが……。嫁ぎ先を決めたのが誰なのかは問いません。
女を怒らせたら恐ろしいという事です。
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