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2.招かれざる客
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「一体、何をしに来たんだ」
今年の夏は、昨年よりも一段と暑い。
そう感じるのは、たんに厳しい暑さが続くからだけではないだろう。
このバークロッド公爵邸に、ある人物が押しかけてきているせいだ。
「ここ最近、雨の日がなかったような……」
私は、窓辺に立つと小さく呟いた。
雲ひとつない天気だ。
どうでもいいことを考えてしまうのは、年のせいだろうか?
いや、まだ三十九歳。年齢のせいにするには早い。
三大公爵家の一角を担うバークロッド公爵家の当主が弱気でどうする。
私、ルーバン・モリス・バークロッドは自分を鼓舞した。
バークロッドの名に恥じない生き方をしてきた。
若くして爵位を継ぎ、妻のオリビアと共にリオン王国の要として、また王国の盾として、その責務を全うしてきた。
だが……。
三年前に廃嫡し、市井へと放逐した長男が、何食わぬ顔で屋敷の門を叩いている。
これは本当に現実なのか?
どうして戻って来た。
そもそも屋敷にさも当たり前に来る精神が分からない。
「放逐された意味を理解できていないのか……?」
あの子は利発だった。学問にも武芸にも秀でていた。
だが反骨心が強く、反抗的だった。
反抗期に入った頃は「そういう年頃」と、考えていた。
私の時は時代が時代だった。反抗期などしている場合ではなく、まさに国難の時代だ。
家庭教師に対する態度はすこぶる悪かったが、それも優秀すぎる息子ゆえの反応だと思っていた。
妻はそのつど叱りつけていたが、私は「まあ、いいじゃないか」と大目に見ていた。
普通に反抗期を迎えられる息子に少し羨ましい気持ちもあったのかもしれない。
「これは平和の証拠だ」などと悠長に考えていた。
だが、それがいけなかったのかもしれない。
妻は「制御不能な獣のような子」と、息子を評していた。
「優秀だけれど、手に負えない」とも言っていた。
「能力はあっても中身は小さな子供のまま」だとも。
なるほど、今になって妻の言葉は正しかったのだと理解できた。
私は、窓から下を見る。
ここは、玄関から斜め上にある執務室の窓だ。玄関に居座って梃子でも動かないでいる息子を想像してしまう。大木が邪魔をして、ここからでは息子の姿は見えない。
「この木もそろそろ切ってしまうべきだな」
大きくなりすぎた木。
今まで特に気にしなかった。
使用人達からの苦情はなかったせいか、放置していた。
「ダメだな」
やはりこうして窓から屋敷の外を見ると視界の邪魔になっている。
この下にいるであろう息子の様子がまったく分からない。
私がそんな風に考えていたころ、肝心の長男はというと――
「……おせ~な。何時まで待たせんだよ」
久しぶりに見る屋敷の扉に向かって悪態をつく男が一人。
黒髪に黄金の瞳。スラリとした長身の稀に見る美貌の持ち主だ。
俳優やモデルだと言われたらすんなり信じてしまうだろう。それほどまでに美しい男だが、どこか軽薄でガラが悪かった。男が立っている場所、そこが公爵家の玄関ドアの前だからだろうか。この男の正体を知らない者が見れば不審者として通報されていてもおかしくなかっただろう。
男の名前は、セオドラ。
バークロッド公爵家の元嫡男。
私の息子――長男だ。
嘗て、社交界を賑わせていた貴公子の面影はそこにはなかった。
今年の夏は、昨年よりも一段と暑い。
そう感じるのは、たんに厳しい暑さが続くからだけではないだろう。
このバークロッド公爵邸に、ある人物が押しかけてきているせいだ。
「ここ最近、雨の日がなかったような……」
私は、窓辺に立つと小さく呟いた。
雲ひとつない天気だ。
どうでもいいことを考えてしまうのは、年のせいだろうか?
いや、まだ三十九歳。年齢のせいにするには早い。
三大公爵家の一角を担うバークロッド公爵家の当主が弱気でどうする。
私、ルーバン・モリス・バークロッドは自分を鼓舞した。
バークロッドの名に恥じない生き方をしてきた。
若くして爵位を継ぎ、妻のオリビアと共にリオン王国の要として、また王国の盾として、その責務を全うしてきた。
だが……。
三年前に廃嫡し、市井へと放逐した長男が、何食わぬ顔で屋敷の門を叩いている。
これは本当に現実なのか?
どうして戻って来た。
そもそも屋敷にさも当たり前に来る精神が分からない。
「放逐された意味を理解できていないのか……?」
あの子は利発だった。学問にも武芸にも秀でていた。
だが反骨心が強く、反抗的だった。
反抗期に入った頃は「そういう年頃」と、考えていた。
私の時は時代が時代だった。反抗期などしている場合ではなく、まさに国難の時代だ。
家庭教師に対する態度はすこぶる悪かったが、それも優秀すぎる息子ゆえの反応だと思っていた。
妻はそのつど叱りつけていたが、私は「まあ、いいじゃないか」と大目に見ていた。
普通に反抗期を迎えられる息子に少し羨ましい気持ちもあったのかもしれない。
「これは平和の証拠だ」などと悠長に考えていた。
だが、それがいけなかったのかもしれない。
妻は「制御不能な獣のような子」と、息子を評していた。
「優秀だけれど、手に負えない」とも言っていた。
「能力はあっても中身は小さな子供のまま」だとも。
なるほど、今になって妻の言葉は正しかったのだと理解できた。
私は、窓から下を見る。
ここは、玄関から斜め上にある執務室の窓だ。玄関に居座って梃子でも動かないでいる息子を想像してしまう。大木が邪魔をして、ここからでは息子の姿は見えない。
「この木もそろそろ切ってしまうべきだな」
大きくなりすぎた木。
今まで特に気にしなかった。
使用人達からの苦情はなかったせいか、放置していた。
「ダメだな」
やはりこうして窓から屋敷の外を見ると視界の邪魔になっている。
この下にいるであろう息子の様子がまったく分からない。
私がそんな風に考えていたころ、肝心の長男はというと――
「……おせ~な。何時まで待たせんだよ」
久しぶりに見る屋敷の扉に向かって悪態をつく男が一人。
黒髪に黄金の瞳。スラリとした長身の稀に見る美貌の持ち主だ。
俳優やモデルだと言われたらすんなり信じてしまうだろう。それほどまでに美しい男だが、どこか軽薄でガラが悪かった。男が立っている場所、そこが公爵家の玄関ドアの前だからだろうか。この男の正体を知らない者が見れば不審者として通報されていてもおかしくなかっただろう。
男の名前は、セオドラ。
バークロッド公爵家の元嫡男。
私の息子――長男だ。
嘗て、社交界を賑わせていた貴公子の面影はそこにはなかった。
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