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3.長男side
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ここだけ時間が止まってやがる。
三年ぶりに帰って来た実家は、昔とまったく変わらねぇ。
俺の記憶のままの姿を残していやがった。
巨大で古びた建物。
伝統と格式を備えた彫刻の数々。
入口の門から玄関までの風景すら一ミリの変化もない場所だ。
「ちょっとは変えろよな。面白味のねぇ家だぜ」
あまりにも変わらないままの屋敷とその周辺に、悪態をついちまう。
「ん?あの木。……あれ、まだあったのか」
大きな大木が庭に立っている。
俺がまだガキだった頃に、よく登ってたっけな。
「懐かしいな」
この木は、俺の成長をずっと見てきたんだ。
そういや、この木によじ登ってベンジャミンが降りられなくなったことがあったけな。
ベンジャミンは二つ下の弟だ。
小さい頃は俺の後をよく付いて回っていたもんだぜ。兄様、兄様、って言ってな。
意外と登りやすい大木だが、調子にのって上に上にといけば下まで降りるのは大変だった。登るのは簡単だが降りるのは難しいの典型例ってやつだな。
俺ですらそうだったんだ。
どんくさいベンジャミンなら、なおさらだ。
アイツは、降りられねぇって泣きだしやがって。そのせいで、大人達に見つかっちまった。あの時は、ババアにこっぴどく叱られたっけ。ベンジャミンはなかなか泣き止まねぇし、ババアは説教がなげぇし。散々だったぜ。
ポタ。
夏の強い日差しが降り注ぐ中、俺の額に汗が流れ落ちた。
木陰にいてもこの暑さ。
夏真っ盛りの八月は、さすがにきついな。
俺は額から流れる汗を腕でぬぐう。
クソッ!
さっさと中に入れろよな!
取り次ぎが遅いせぇでこのザマだ。
しかたねぇ……。
屋敷のドアを叩くのも億劫だ。
手っ取り早くドアを足で蹴り飛ばしてやるか。
その瞬間、屋敷のドアが開いた。
中から出てきたのは厳めしい顔つきの執事長のブレイクだった。
「これはこれは。なんとも、おめずらしい訪問者がいらっしゃっていると聞き及んで確認に来たのですが、本当にあなた様でしたか。随分とお久しぶりでございます」
ブレイクの奴。相変わらず、くそ真面目な面をしてやがる。
「久しぶり?はッ!よく言うぜ。俺がこの屋敷から出て行った時、お前は見送りにも来やがらなかったじゃねぇか!」
「そうでございましたかね。あいにく、この歳になりますと物覚えが悪くなってしまって、昔のことはよく覚えておりません」
「まあ、いいぜ。……で、ババアは?」
「ババア?はて?どなた様のことを仰っていらっしゃるのですか?」
「はぁ!?何言ってやがるんだよ」
「とう屋敷に〝ババア〟という名前の方はいらっしゃいませんが。どなたかとお間違えではないでしょうか?」
「……ここの。公爵夫人のことだよ」
「奥様なら、今日は外出をなさっておいでです」
「あ?外出?どうせ観劇か茶会だろ。あいかわらずだぜ。ま、ババアがいないのは良いことだ」
正直ホッとした。
ババアは、うるせぇからな。
「家に入るな」とか言い出しそうだぜ。
要件を言う前に門前払いだったろうよ。
「で?父上は?いるんだろ?」
この時間帯はだいたい執務室で仕事をしているはずだ。
今も変わってねぇだろうからな。
「ま、公爵家の当主だからな。いるか。相変わらず忙しく書類と睨めっこしてんのか?」
「……旦那様に何かご用ですか?」
「用があるから来てんじゃねぇか」
「さようですか」
「分かったら早く家に入れろ。こっちは汗だくなんだ。さっさと涼まなきゃ、熱中症になっちまうぜ」
キンキンに冷えたエールでも飲みてぇ。
いや、この家じゃあ無理か。
夜ならともかく、昼間っからエールを飲めるわけがねぇよな。ま、このさいだ。水でもいい。
俺は機嫌よくそんなことを考えていた。
冷ややかな視線を向けてくるブレイクに気付かずに。
「それはできません」
三年ぶりに帰って来た実家は、昔とまったく変わらねぇ。
俺の記憶のままの姿を残していやがった。
巨大で古びた建物。
伝統と格式を備えた彫刻の数々。
入口の門から玄関までの風景すら一ミリの変化もない場所だ。
「ちょっとは変えろよな。面白味のねぇ家だぜ」
あまりにも変わらないままの屋敷とその周辺に、悪態をついちまう。
「ん?あの木。……あれ、まだあったのか」
大きな大木が庭に立っている。
俺がまだガキだった頃に、よく登ってたっけな。
「懐かしいな」
この木は、俺の成長をずっと見てきたんだ。
そういや、この木によじ登ってベンジャミンが降りられなくなったことがあったけな。
ベンジャミンは二つ下の弟だ。
小さい頃は俺の後をよく付いて回っていたもんだぜ。兄様、兄様、って言ってな。
意外と登りやすい大木だが、調子にのって上に上にといけば下まで降りるのは大変だった。登るのは簡単だが降りるのは難しいの典型例ってやつだな。
俺ですらそうだったんだ。
どんくさいベンジャミンなら、なおさらだ。
アイツは、降りられねぇって泣きだしやがって。そのせいで、大人達に見つかっちまった。あの時は、ババアにこっぴどく叱られたっけ。ベンジャミンはなかなか泣き止まねぇし、ババアは説教がなげぇし。散々だったぜ。
ポタ。
夏の強い日差しが降り注ぐ中、俺の額に汗が流れ落ちた。
木陰にいてもこの暑さ。
夏真っ盛りの八月は、さすがにきついな。
俺は額から流れる汗を腕でぬぐう。
クソッ!
さっさと中に入れろよな!
取り次ぎが遅いせぇでこのザマだ。
しかたねぇ……。
屋敷のドアを叩くのも億劫だ。
手っ取り早くドアを足で蹴り飛ばしてやるか。
その瞬間、屋敷のドアが開いた。
中から出てきたのは厳めしい顔つきの執事長のブレイクだった。
「これはこれは。なんとも、おめずらしい訪問者がいらっしゃっていると聞き及んで確認に来たのですが、本当にあなた様でしたか。随分とお久しぶりでございます」
ブレイクの奴。相変わらず、くそ真面目な面をしてやがる。
「久しぶり?はッ!よく言うぜ。俺がこの屋敷から出て行った時、お前は見送りにも来やがらなかったじゃねぇか!」
「そうでございましたかね。あいにく、この歳になりますと物覚えが悪くなってしまって、昔のことはよく覚えておりません」
「まあ、いいぜ。……で、ババアは?」
「ババア?はて?どなた様のことを仰っていらっしゃるのですか?」
「はぁ!?何言ってやがるんだよ」
「とう屋敷に〝ババア〟という名前の方はいらっしゃいませんが。どなたかとお間違えではないでしょうか?」
「……ここの。公爵夫人のことだよ」
「奥様なら、今日は外出をなさっておいでです」
「あ?外出?どうせ観劇か茶会だろ。あいかわらずだぜ。ま、ババアがいないのは良いことだ」
正直ホッとした。
ババアは、うるせぇからな。
「家に入るな」とか言い出しそうだぜ。
要件を言う前に門前払いだったろうよ。
「で?父上は?いるんだろ?」
この時間帯はだいたい執務室で仕事をしているはずだ。
今も変わってねぇだろうからな。
「ま、公爵家の当主だからな。いるか。相変わらず忙しく書類と睨めっこしてんのか?」
「……旦那様に何かご用ですか?」
「用があるから来てんじゃねぇか」
「さようですか」
「分かったら早く家に入れろ。こっちは汗だくなんだ。さっさと涼まなきゃ、熱中症になっちまうぜ」
キンキンに冷えたエールでも飲みてぇ。
いや、この家じゃあ無理か。
夜ならともかく、昼間っからエールを飲めるわけがねぇよな。ま、このさいだ。水でもいい。
俺は機嫌よくそんなことを考えていた。
冷ややかな視線を向けてくるブレイクに気付かずに。
「それはできません」
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