3 / 9
三話
しおりを挟む
翌日も期待に胸を膨らませ、景子はまた同じ時間にその場所へ向かった。
車道を挟んだ向かい側で彼が来るのを待ち、青信号をニ回見送った。そして赤信号になったところで、彼が姿を見せた。
おそらく彼の会社はこの辺りなのだろう、という景子の読みは当たったようだ。
彼は今日も手ぶらで何処ということもない場所を見ながら、信号待ちをしていた。
景子の胸は高鳴った。
長身の男性の陰に隠れて、彼を盗み見する。
信号が青に変わると景子は姿勢を正してゆっくりと歩き始めた。こちらに向かって歩いて来る彼の位置に合わせて微調整しながら……。
彼との距離が三メートル程になった時、目が合った。
少し驚いたように眉を上げてから景子が会釈すると、彼も同じ表情で会釈した。勿論景子は演技だが、彼は本当に驚いている様子で、一瞬立ち止まったように思えた。
三日連続で同じ人物と顔を合わせているのだから、そうなるのも当然だろう。
そして翌日。少し進展があった。
いつもの横断歩道の向こう側にいる彼が景子に気付き、じっとこちらを見てしばらく目を合わせたままでいた。距離はあるが、景子は視力がいいので間違いない。
恥ずかしさから景子のほうが目を逸らした。
信号が青に変わり歩き始める。いい頃合いを見て彼に目を遣ると視線が絡まり、また会釈を交わす。
景子は胸を弾ませて店に戻った。
「広ちゃん! 何か今日はちょっといい感じだった……と思う」
何となくそんな感じがしたのだ。少なくとも、自分に対して悪い印象は持っていないように思えた。
「そっか。良かったじゃん。何か……廊下で好きな人とすれ違った中学生みたいだけどね」
からかうように、広美が軽く笑った。
人見知りのわりに、彼氏がいない時期が殆どないのは、やはり広美が言った、内面から溢れだす何かのせいなのだろうか。
数は多くはないが、それなりにいい恋愛はしてきた、と景子は思う。結婚を意識した相手もいた。けれど、一目惚れは今回が初めてだった。
マネキンにジャケットを着せていると、景子はふと気付いた。
――明日休みじゃん。
折角少し進展したところだったのに、と残念で仕方がなかった。
仕事は休みだが、彼に会えないわけではない。明日いつもの時間にあの場所へ行ってみようか、と考えが浮かんだが、すぐに打ち消した。
――クールな女はそんなことしないか。
車道を挟んだ向かい側で彼が来るのを待ち、青信号をニ回見送った。そして赤信号になったところで、彼が姿を見せた。
おそらく彼の会社はこの辺りなのだろう、という景子の読みは当たったようだ。
彼は今日も手ぶらで何処ということもない場所を見ながら、信号待ちをしていた。
景子の胸は高鳴った。
長身の男性の陰に隠れて、彼を盗み見する。
信号が青に変わると景子は姿勢を正してゆっくりと歩き始めた。こちらに向かって歩いて来る彼の位置に合わせて微調整しながら……。
彼との距離が三メートル程になった時、目が合った。
少し驚いたように眉を上げてから景子が会釈すると、彼も同じ表情で会釈した。勿論景子は演技だが、彼は本当に驚いている様子で、一瞬立ち止まったように思えた。
三日連続で同じ人物と顔を合わせているのだから、そうなるのも当然だろう。
そして翌日。少し進展があった。
いつもの横断歩道の向こう側にいる彼が景子に気付き、じっとこちらを見てしばらく目を合わせたままでいた。距離はあるが、景子は視力がいいので間違いない。
恥ずかしさから景子のほうが目を逸らした。
信号が青に変わり歩き始める。いい頃合いを見て彼に目を遣ると視線が絡まり、また会釈を交わす。
景子は胸を弾ませて店に戻った。
「広ちゃん! 何か今日はちょっといい感じだった……と思う」
何となくそんな感じがしたのだ。少なくとも、自分に対して悪い印象は持っていないように思えた。
「そっか。良かったじゃん。何か……廊下で好きな人とすれ違った中学生みたいだけどね」
からかうように、広美が軽く笑った。
人見知りのわりに、彼氏がいない時期が殆どないのは、やはり広美が言った、内面から溢れだす何かのせいなのだろうか。
数は多くはないが、それなりにいい恋愛はしてきた、と景子は思う。結婚を意識した相手もいた。けれど、一目惚れは今回が初めてだった。
マネキンにジャケットを着せていると、景子はふと気付いた。
――明日休みじゃん。
折角少し進展したところだったのに、と残念で仕方がなかった。
仕事は休みだが、彼に会えないわけではない。明日いつもの時間にあの場所へ行ってみようか、と考えが浮かんだが、すぐに打ち消した。
――クールな女はそんなことしないか。
0
あなたにおすすめの小説
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
『さよなら、彼に依存していた私―30日間の失恋回復ストーリー』
月下花音
恋愛
別れた日から30日。毎日、少しずつ「本当の私」に出会っていく
「嫌いになりたくないから、別れよう」
2年間付き合った彼氏・優也にそう告げられた日、私の世界は色を失った。
コーヒーは苦く、鏡に映る自分は知らない女で、スマホの通知音に心臓が跳ねる。
彼の好きだったチョコミントを避け、彼の痕跡が残る部屋で、ただ泣いていた。
でも、私は決めた。30日間で、私を取り戻す。
Day 1、苦いコーヒーを飲み干した。
Day 5、スマホを遠ざけた。
Day 7、彼のSNSを削除した。
Day 9、部屋の模様替えをした。
Day 13、彼のための香りを捨て、私の香りを選んだ。
Day 17、自分のために、花を買った。
Day 22、長い髪を切り、新しいスマホに変えた。
Day 29、新しい出会いを、恐れずに楽しめた。
Day 30、ストロベリーアイスを食べながら、心から笑っていた。
小さな「さよなら」を積み重ねるたび、私は変わっていく。
「彼に依存していた私」から、「私自身でいられる私」へ。
これは、失恋から立ち直る物語ではありません。
誰かのために生きていた女性が、自分のために生きることを選ぶ物語です。
【全31話完結】こころの30日間を追体験してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる