恋愛の醍醐味

凛子

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 そうして、ジュンとの生活が始まった。

 朝は優しいキスで起こしてくれる。そのまま抱きかかえられ、ダイニングテーブルまで運んでくれる。仕事には手作り弁当を持たせてくれるし、仕事中も程よいタイミングで『頑張って』のメールが送られてくる。帰宅すると夕食が準備されていて、眠くなったらベッドで添い寝してくれる。仕事の愚痴も聞いてくれ、適度に共感もしてくれる。そして最後は『頑張れ』と励ましてくれた。
 オチのない萌々香のつまらない話も、ジュンはいつまででも笑顔で聞き、余計なことは一切言わなかった。当然喧嘩になんてなるはずもない。

 こんな幸せな日々が、永遠に続けばいい――萌々香はそう願った。

 ジュンは萌々香の理想の恋人像そのものだった。全て萌々香の希望通りにプログラムされたAIロボットなのだから、当然といえば当然なのだけれど……。

 しかし半月ほど経った頃、心境の変化が訪れた。

 その日、会社で上司に理不尽なことを言われ、萌々香はむしゃくしゃしていた。家に帰れば、いつものようにジュンが優しく慰めてくれるのはわかっていたが、萌々香はそんなことを望んではいなかった。


「ただいま」
「おかえり、萌々香。今日は会社でどんなことがあった?」
「うん……色々」
「じゃあ、ゆっくり話を聞くから、僕の前に座って」

 ジュンが手招きしている。

「いいよ。そういうんじゃないから」
「え? 話を聞かなくてもいいの?」

 普段なら心地好いと感じるジュンのあっさりとした口調が、何故か事務的で、義務的で、感情のない冷たい声に聞こえ、萌々香は無性に腹が立った。

「イライラするのよ!」
「じゃあ、君が好きなスイーツでも食べに行こう」
「今はそういう気分じゃないの!」
「でも、イライラする時は……」
「もういいから、放っておいてよ!」

 萌々香は両手で力一杯ジュンの胸を押して突き放した。

「本当に放っておいてもいいの? 君が困っているのに、そんなこと出来ないよ」

 ああ、そうだった。
 女の『放っておいて』は、本心ではないと心得てほしい、と希望リストに入れたことを思い出した。そうプログラムされているのだろう。
 これは、ただの八つ当たりだ。そうわかっていてやっている萌々香は、案外冷静だったりする。女は時にこういう行動に出ることがあるのだ。相手がどこまで受け止めてくれるかで、器の大きさや愛情の深さを測ってみたくなったりする。
 だがそれは、受け止めてくれる相手に限る。
 ジュンは対応に困っているのか、何のリアクションも示さない。


「やっぱり、AIロボットの彼氏なんかじゃ無理なんだよ!」

 萌々香がそう口にした時だった――


「プログラムヲ シュウリョウ シマス」

 機械的な声がジュンの口から発せられ、ジュンはそのまま動かなくなってしまった。

 萌々香は慌ててカスタマーセンターへ連絡した。

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