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九話
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「次の旅行の行き先も決めて楽しみにしてたのに……。家買おうねって言って色んな計画も立ててたのに……。倫君、どういうつもりだったの?」
「それは……」
倫也は言葉を詰まらせ、再び視線を落とした。
「プロポーズしてくれた時『ずっと傍にいる。大切にする』って約束してくれたよね? あの言葉は、五年経ったら無効になるの?」
麻里絵の声には、悲しみと困惑が入り交じっていた。
「そんな訳ないだろ!」
顔を上げ、倫也は力強く否定した。
「今もその気持ちは変わってないよ。あの時見せてくれた麻里絵の笑顔も鮮明に覚えてる。正確には『ずっと傍にいたい』って言ったんだよ」
ほんの一瞬、倫也の表情が緩んだ。けれど、すぐに影がさした。
「ずっと傍にいたいと思う気持ちは、本当に変わってない。ただ、頭の片隅には麻里絵があの時言った言葉がずっと残ってたんだ。麻里絵はまだ三條場さんのことを諦めきれてないんじゃないかって。でもそれを口にすると、今の幸せが壊れてしまいそうで怖くて聞けなかったんだ。時間が解決してくれると思ってた。ただひたすらその時を待ってたんだ」
麻里絵は目を見開いた。
「五年も?」
その間、倫也はどれほどの葛藤を抱えていたのだろう。
「いや、付き合った時からだから七年かな。幸せ過ぎて忘れそうになってた時もあったよ。もう大丈夫だろうって思いかけてた時に、三條場さんから電話があったんだ。俺は強い人間じゃないから……心から愛した人に別れを告げられるくらいなら、自分から身を引いたほうが心の傷が浅くて済むと思ったんだ」
その言葉に、麻里絵はハッとした。
倫也は今まであまり自分のことは話さなかったけれど、出会った時、倫也も失恋の痛手を負っていた。
「それが倫君の気持ち?」
麻里絵は倫也の顔を覗き込んだ。
「そうだよ」
小さく頷きながら、倫也は静かに答えた。
何から伝えようか、と麻里絵は考えていた。
ずっと寄り添って愛情を注ぎ続けてくれていた倫也を、これ程悩ませていたことが、切なくて苦しかった。
「倫君と付き合ったばかりの時は、まだ彼のことが忘れられなかったのは本当。でも結婚を決めたのは、倫君が好きだったからだよ。倫君を心から好きになったから」
倫也は黙って聞いていた。
「彼ね、まだ離婚はしてなかったの。奥さんに話すらしてなかったみたいで、聞いてホッとした。地位も名誉も何もかも捨てて、私を待ってた訳じゃないの」
麻里絵は苦笑いしながら続ける。
「どっちに転んでも大丈夫なように、保険かけてたんだと思うんだ。何か現実的……ってしらけちゃった。『いつか必ず迎えにいくから』って言ったあの頃の彼の情熱は、跡形もなく消え去ってた」
倫也は複雑な表情を浮かべていた。
「それは……」
倫也は言葉を詰まらせ、再び視線を落とした。
「プロポーズしてくれた時『ずっと傍にいる。大切にする』って約束してくれたよね? あの言葉は、五年経ったら無効になるの?」
麻里絵の声には、悲しみと困惑が入り交じっていた。
「そんな訳ないだろ!」
顔を上げ、倫也は力強く否定した。
「今もその気持ちは変わってないよ。あの時見せてくれた麻里絵の笑顔も鮮明に覚えてる。正確には『ずっと傍にいたい』って言ったんだよ」
ほんの一瞬、倫也の表情が緩んだ。けれど、すぐに影がさした。
「ずっと傍にいたいと思う気持ちは、本当に変わってない。ただ、頭の片隅には麻里絵があの時言った言葉がずっと残ってたんだ。麻里絵はまだ三條場さんのことを諦めきれてないんじゃないかって。でもそれを口にすると、今の幸せが壊れてしまいそうで怖くて聞けなかったんだ。時間が解決してくれると思ってた。ただひたすらその時を待ってたんだ」
麻里絵は目を見開いた。
「五年も?」
その間、倫也はどれほどの葛藤を抱えていたのだろう。
「いや、付き合った時からだから七年かな。幸せ過ぎて忘れそうになってた時もあったよ。もう大丈夫だろうって思いかけてた時に、三條場さんから電話があったんだ。俺は強い人間じゃないから……心から愛した人に別れを告げられるくらいなら、自分から身を引いたほうが心の傷が浅くて済むと思ったんだ」
その言葉に、麻里絵はハッとした。
倫也は今まであまり自分のことは話さなかったけれど、出会った時、倫也も失恋の痛手を負っていた。
「それが倫君の気持ち?」
麻里絵は倫也の顔を覗き込んだ。
「そうだよ」
小さく頷きながら、倫也は静かに答えた。
何から伝えようか、と麻里絵は考えていた。
ずっと寄り添って愛情を注ぎ続けてくれていた倫也を、これ程悩ませていたことが、切なくて苦しかった。
「倫君と付き合ったばかりの時は、まだ彼のことが忘れられなかったのは本当。でも結婚を決めたのは、倫君が好きだったからだよ。倫君を心から好きになったから」
倫也は黙って聞いていた。
「彼ね、まだ離婚はしてなかったの。奥さんに話すらしてなかったみたいで、聞いてホッとした。地位も名誉も何もかも捨てて、私を待ってた訳じゃないの」
麻里絵は苦笑いしながら続ける。
「どっちに転んでも大丈夫なように、保険かけてたんだと思うんだ。何か現実的……ってしらけちゃった。『いつか必ず迎えにいくから』って言ったあの頃の彼の情熱は、跡形もなく消え去ってた」
倫也は複雑な表情を浮かべていた。
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